ステージ上での突然の宣言
祐 7月4日の1周年ワンマンは、もともと違う会場でやる予定だったんです。だけど急遽、そこが会場側の都合で使えなくなって。それが開催2週間前の出来事でした。そんなタイミングで言われてももうチケットも手売りしちゃってるし、空いてる会場あるのかなと思いつつ、周りの関係者に電話しまくったんです。そしたら、たまたま渋谷クアトロが7月4日だけ空いていて、「もしかしたら、この会場でやる運命だったのかも」とそのとき思いました。それまでメンバーにとってライブは自分たちのフラストレーションを発散する場所だったと思うんです。そんな中、1周年ワンマンのパフォーマンスはこれまでとまったく質感の違うもので、すごくよかった。もともとバラバラだった4人の足並みがそろい、心が通じ合う瞬間を目の当たりにしたんですから。ライブを観終わったあと、その場から動けなくなるくらいでした。
菜月 しかもライブが終わったあと、祐さんが私たちにハグしてきたんですよ! そんなこと普段はしないので、うれしかったです!(笑) ファンも含めて1つのチームになって成し遂げた感じがありました。ステージに立つまでは1周年という実感が湧かなかったし、ただ1年経っただけじゃんと思っていたんです。自分でもわからないんですけど、ただ気持ちいいライブができたという感覚でもなくて。ライブ映像を観返したら、私の顔が無表情だったんです。喜びの笑みでもないし、泣いてるわけでもないし、とにかく無だった。
──昇天してるみたいな。
菜月 いや違うんですよ。快楽とか、頭がぶっ飛んでる感じとも違う。もはや神様が迎えに来たみたいな。
エレナ もう死んでるみたいな(笑)。
菜月 本当にそんな感覚になった。
祐 それだけ1周年ワンマンはメンバーにとっても特別な時間だったんだと思います。ただ、そんな天国みたいだった場所に、1つだけもやがかかってたんです。最高のライブをしてくれたし、本当にあの日にしかできないパフォーマンスをしてくれてたのになぜか、もやがあった。それは、このチケットをソールドアウトできなかったということでした。
華希 そう! それがずっと引っかかっていたんです。それで、アンコールのときに言ったんです。「年内にもう一度、この渋谷クアトロでワンマンをやる」って。
祐 ステージ上で勝手に言い始めたんですよ。そんな簡単に渋谷クアトロは押さえられないのに(笑)。
ミーア 「社長お願いします!」ってね。
祐 「やりたいです」じゃないんですよ、「やる!」みたいな。そのあとファンの方たちにも「必ず渋谷クアトロでやってください」と言われて、もうこれはいよいよ引っ込みがつかないなと。僕も「お金を積んででも必ず渋谷クアトロを押さえます」と約束をしてしまって、本当にどうしようかと思ったんですけど、今回も運よく1日だけ空きがあって、もう一度やらせていただけることになりました。
──ステージ上で宣言することは、メンバー間で事前に話し合っていたんですか?
華希 いえ、私がいきなり言いました。心のどこかでピースが1つ欠けている状態というか、何かが足りないなと思ったんです。宣言したあとにメンバーの顔を見たら、みんなもうなずいていたから、やっぱり同じ気持ちだったんだなって。
菜月 たぶんあのとき、みんな同じ気持ちだったよね。
「次、がんばろう」じゃ済まない
──改めて、どんな思いで11月のワンマンに臨みますか?
菜月 今までは目の前のことにばかり集中してたけど、やっぱりもっと先に行きたいし、行けないと納得できない。これまでは「勝手に見てくれ」みたいな、わかる人だけがわかればいいと思って歌っていました。だけど、もうそういう考えじゃない。明らかにこれまでのワンマンとは違うし、何より覚悟を持って臨むつもりです。
エレナ 1周年ライブが終わったあと、みんなと「楽しかったね」って話したけど、その日を振り返ったときに「いや、このままじゃ満足できない。絶対埋めてやるからな」って思ったんです。渋谷クアトロに置いてきた自分の気持ちを取りに行くつもりでいます。ライブが終わったあの日の夜に抱いた気持ちのまま、今日まで生きてきた。マジで腹をくくったというか……私は11月のワンマンを埋められなかったら、死ぬぐらいの気持ちです。
ミーア 切腹?
エレナ 本当に、それぐらいマジに思ってる。埋められなかったら次には進めないから。
華希 今までのライブも本気で自分と向き合ってきたし、そこに嘘はないけど、それを超えていきたい。言葉にすると難しいですけど、すべてを懸けるってことですかね。いや、本当はこんな軽い言葉で表したくないです。それぐらい強い気持ちでいます。
ミーア 7月の1周年ワンマンからの4カ月の間に、どれだけ進化したのか、私たちがやってきたことを誰が見てもわかるように証明したくて。それがチケットのソールドアウトなんです。とはいえ、大事なのはお客さんの数を増やすことだけじゃなくて、「今日のライブを観てよかった」と思ってもらえるのと同時に、これからのカイジューバイミーに期待してもらえるような1日にすること。
祐 僕は、メンバーが躊躇なく「また渋谷クアトロでやりたい」と言ってくれたことがうれしかったんです。今までだったら「言ってもいいですか?」と確認してきたと思うんですよ。人を巻き込んでも「絶対に私たちをクアトロに立たせろ!」と伝えてきた感じで、遠慮のない、確固たる思いを感じられました。「それだよ」って。宣言した日、終演後に渋谷クアトロの前でライブ中の感情とか、そのときに思ったことを夢中でメンバーと話したんですよ。そしたら、体感的に2、30分だけしゃべっていたつもりが、気付いたら深夜2時ぐらいになっていました。「え、終電ないじゃん!」って。
菜月 気付いたら、時間が経ってましたね。
祐 そのあと「とりあえず移動しよう」という話になり、目的地を決めないまま、人がほとんどいない夜中の渋谷を歩いていたんです。気が付けば、そのときに僕らが一番多くライブをやってきたSHIBUYA CYCLONEやリリイベをやったタワーレコード、プレデビューライブをしたSpotify O-Crestの前を通っていて。
──思いがけず、思い出のスポットを巡っていたと。
祐 あの日の夜に、この1年を振り返ることができた気がしました。そのときに改めて「また渋谷クアトロでワンマンをやりたいです」とメンバーに言われたんですよ。バラバラだった4人が同じ場所を見据えてるように感じて、その日のライブを観て感動した自分の気持ちが、確信に変わった瞬間でした。カイジューバイミーは「今日で終わってもいい」という気持ちで、ずっとライブに挑んで活動してきたんです。そうやって生きてきたグループが初めて同じ夢を持って迎える次のワンマンが、僕も楽しみです。
菜月 ソールドしなかったら、ステージに出たくないです。
祐 1周年ライブで、それまでのカイジューバイミーとしての最高のライブをやれた自負があるし、その日からメンバーのマインドも変わりました。だから、もしかしたらそこでカイジューバイミーの物語は1回終わったのかもと思うことがあります。でも1つだけ、ソールドアウトという忘れものを渋谷クアトロにしてきてるんです。もう一度、同じ会場でライブをやってソールドアウトさせるということが、今の彼女たちなりのこの環境やファンの方に対する感謝の伝え方であり、前回よりもいいライブすることが大前提なうえで、チケットが完売しなければ失敗だと、僕もメンバーも思っています。
エレナ 逃げ場はないし、作る気もない。
菜月 いつもライブの挨拶や特典会で「がんばるからワンマンに来てください」と話すんです。マジで来てほしいと思ってるんだけど、自分たちの訴え方が下手すぎてたぶん気持ちが伝わってない気がする。そもそもこの血判状は、お客さんに「これくらい本気なんだ」という思いをわかってもらいたくて書いたところもあるんです。
華希 目に見えるものをね。
──血判状まで書いてソールドしなかったら「ドンマイ!」では済まないですね。
祐 プロデューサーとして、このグループを続けていくことを正解とするなら、「ドンマイ!」と思いながらやっていく方法はあるかもしれないですけど、4人のことを考えると、今のところ彼女たちのことを説得できる言葉が思いつきそうにないです。
華希 「次、がんばろう」じゃ済まないので。
菜月 これがダメだったら、本当にその続きが見えない。
エレナ この先は考えてないからね。
──ちなみに現時点でのチケットの売上状況はどうなんですか?(※インタビューは10月上旬に実施)
祐 開催を発表してもうすぐ1カ月になるんですが、今の時点で半分ぐらいですね。ビラ配りとか、チケットを売る手段はたくさんあると思うんですが、このご時世、もしそれによってコロナにかかってしまったらもっと厳しい状況になってくる。そして何よりも今回は、ビラ配りで動員を増やすことをメンバーがよしとしてないんです。
華希 チケットは売れたのに会場が埋まっていないという状況になったら、それは本当の意味でのソールドアウトじゃないと思うんです。
菜月 今欲しいのは、文句のつけようがないソールドアウトだけです。
──1年以上活動してきた中、「自分たちはもっと世間に評価されていいのに」というジレンマを感じることはありますか?
エレナ それはめっちゃありますね。こういうことを言ったらよくないかもしれないけど、対バンやフェスで、ほかのグループのライブのほうがお客さんが多いと「はあ、なんで!? わかんない」って思うことはあります。そういう悔しさはずっと感じてます。
祐 ほかにも魅力的なグループはあって、魅力って競うものじゃないし、1つじゃないから、もちろんよそを否定することはしないです。でも「これで売れなきゃ嘘だよ」とは思います。
菜月 まず、カイジューバイミーは歌がいいじゃないですか。なおかつ、歌っている人たちもカッコいいじゃないですか。「それなのに、なんで?」とは思います。カイジューバイミーは必ずしも、長く続ければ続けるほどカッコよくなっていくグループだとは思っていなくて、私もすぐに飽きちゃう性格だし、ずっと刺激を受けたり衝動に駆られたりしないとダメな人間なんです。でも、ここで朽ち果てることにも納得がいかなくなっちゃったんです。だから前のインタビューでも言ったんですけど、結局毎日が苦しい。自分たちに自信があるのはもちろん、カイジューバイミーをいいと思ってくれている人や、一緒にステージを作ってきてくれた人、そしてみんなで作り上げたもの、そういうのを目の当たりにしたらここで終わるわけにはいかないんです。
祐 彼女たちがこうして成長していく姿を近くで見て、それに携わり続けられていることが、僕は本当にうれしいです。でも最近はそれと同時に、大勢の人の前でライブをやることが彼女たちの夢になってしまうのが、本当は怖いんです。なんだか、カイジューバイミーがカイジューバイミーじゃなくなってしまう気がして。その成長も喜ばしいことなんですけど、カイジューバイミーの場合は、それを成長と言うのかどうか、僕にはわからないです。完成していくほど、何か失っていく気がして。その答えは、11月12日の渋谷クアトロのステージで彼女たちが伝えてくれると思います。こんなにも刹那的で、美しいノンフィクションな4人の生き様を、ぜひ観に来てほしいです。
プロフィール
カイジューバイミー
スタンド・バイ・エレナ、スタンド・バイ・菜月、スタンド・バイ・華希、スタンド・バイ・ミーアの4人からなるロックアイドルグループ。「唯一無二の初期衝動」をテーマに掲げて活動している。2020年12月に東京・TSUTAYA O-Crestにてプレデビューのお披露目ライブ、2021年7月に東京・ヒューリックホール東京で正式なデビューライブを行い、熱量の高いライブパフォーマンスで徐々に話題を集めている。2021年11月に1stフルアルバム「純白BY ME」をリリースした。2022年7月に東京・渋谷CLUB QUATTROでデビュー1周年記念ワンマンライブ「0」を開催。11月12日に同会場で再びワンマンライブを行う。