ロックアイドルグループ・カイジューバイミーが1stアルバム「純白BY ME」発売、バラバラな4人がぶつける剥き出しのマインド

カイジューバイミーが1stアルバム「純白BY ME」をリリースした。

カイジューバイミーはスタンド・バイ・エレナ、スタンド・バイ・菜月、スタンド・バイ・華希、スタンド・バイ・ミーアの4人からなるロックアイドルグループ。昨年12月にプレデビューのお披露目ライブ、2021年7月に正式なデビューライブを行い、熱量の高いパフォーマンスで徐々に話題を集めている。初のCD作品となる「純白BY ME」にはメンバーの感情を表すように剥き出しの言葉でつづった歌詞、繊細かつエッジの効いたサウンド、個性的な4人の歌声が合わさった全12曲が収録されている。

音楽ナタリーではアルバムの発売に合わせ、メンバー4人とプロデューサーのメルクマール祐にインタビュー。収録曲の話に加え、グループ立ち上げの経緯や、アイドルやロックに興味がなかったという彼女たちの活動に対する思いを聞いた。

取材・文 / 近藤隼人 撮影 / 興梠真穂

アイドルなんかやりたくない

──プロデューサーのメルクマール祐さんは、もともとバンドをやられていたんですよね。

メルクマール祐 売れないバンドマンをやってました(笑)。活動しながらアイドル含めほかのアーティストへの楽曲提供もしていました。そんな中、実家にいる母が病気になり、地元に帰って介護を始めて。その間も楽曲提供の話をもらって音楽の仕事は続けていたんですが、母が亡くなってから半年間はボーッとして何もせずに生きていました。そしたらある日、楽曲提供の話を振ってくれていたアイドルのマネージャーから「今面倒を見ているグループに力を貸してほしい」という連絡があって。当時、アイドルに特別興味があったわけじゃないんですけど、彼にすごく助けてもらったので自分に返せるものがあるならと思い、プロデュースという形で関わることになりました。

メルクマール祐

メルクマール祐

──そのグループがカイジューバイミーですか?

 いえ、それはまた別のグループの話です。プロデュースしているうちにアイドルのひたむきな姿に感銘を受け、自分がバンドやり始めたときと同じような感覚になって。イチからグループを作って、一緒に大きいステージに行きたいと思うようになりました。それで自分で事務所を作るところから始めたんです。だから気持ち的には僕もメンバーなんですよ。今度こそ売れてやろうと(笑)。

──カイジューバイミーのメンバーはどういうふうに集めたんですか?

 僕はパンクやメロコアなどのロックが好きなんですけど、いろんなアイドルを調べたらロックっぽい音楽性の人たちがすでにいっぱいいて。その中でホントにロックだと思えるグループにしていくことを考えたときに、逆にロックやアイドルに特別興味がない子にやらせてみたいなと思ったんです。あと声がよくて、我が強い少し痛い感じの子(笑)。そういう子を集めました。メンバーのうち半分は未経験で、それまで音楽に触れてこなかったし、ステージに立ったこともなくて。最初は「アイドルなんかやりたくない」と返されたんですけど、入ってくれたら絶対にやってよかったと思わせる自信があったし、「やりたくねえよ!」というエネルギーが逆にロックだなと考えました。

スタンド・バイ・菜月 最初に話を聞いたときは、闇の企業からのお誘いだと思いました(笑)。祐さんのことを全然知らなかったし。でも、WACKのグループなどを通してアイドルに対する考え方が変わっていた時期で、ちょっと面白そうだなと思ったんです。その一方で、人と一緒に活動したり、人に管理されたりして不自由の身になるのも嫌で、かなり悩んで。結局、お母さんに「やってみたらいいじゃん」と言われて決意しました。

──実際に活動を始めてみていかがでした?

菜月 最悪でした(笑)。しばらくは嫌だなと思い続けて、逃げ出した夜もありました。「地元の岐阜に帰ります」とだけ言って。

 ライブの前日に練習に来ず、いなくなっちゃって。

菜月 今思うとホントにごめんなさいという気持ちです。この世界、ほぼずっと苦しいんですよ。華やかできれいに見えるけど、実際にやってみると苦しい。でも、1回自分の中で答えが出てくると、それも必要な苦しみなのかなと思えてくるんです。最近はがんばる理由や、やり甲斐がはっきりとしてきました。

カイジューバイミー。左からスタンド・バイ・エレナ、スタンド・バイ・ミーア、スタンド・バイ・華希、スタンド・バイ・菜月。

カイジューバイミー。左からスタンド・バイ・エレナ、スタンド・バイ・ミーア、スタンド・バイ・華希、スタンド・バイ・菜月。

何をするにも意見が4方向ある

──ほかのメンバーは祐さんからアイドルグループのメンバーに勧誘されたとき、どんな気持ちを抱きました?

スタンド・バイ・ミーア 私はもともと芸能界に興味はあったんですけど、自分のもとに届く話は「配信ライバーをやりませんか?」というお誘いばかりで。そんな中、祐さんだけが「アイドルをやってみませんか?」という話をしてくれて、「めっちゃ面白いじゃん」と思ったんです。その頃は芸能界を諦めかけていた時期だったので、小さい頃から憧れていた世界に入れる最後のチャンスだと思って詳しく話を聞きに行きました。でも、それまで人前で歌ったことがなかったし、アイドル活動の意味もよくわかってなかったんですよ。アイドルって誰に何を求められる存在なんだろうって。正直、メンバーと会ってレッスンを重ねていっても、その意味がわからないままだったんですけど、だんだんと音楽の大切さを感じられるようになっていきました。音楽があるから出会えた人がいっぱいいるし、これからも続けていくことでその答えを明確にしたいと思っています。

──ステージに立ち、実際にお客さんを目の前にすることで見えてきたものがあったと。

ミーア アイドルの存在価値に気付けたというか。アイドルを尊いと思う人がたくさんいて、その理由が人によってさまざまであることを知ったんです。いろんなアーティストや芸能人の方たちのように、私も人の人生に影響を与える存在になりたいと思い始めました。

スタンド・バイ・華希 私はもともと歌とダンスが好きだったので、アイドルに対して拒否反応はなかったんですけど、ロックになじみがなくて。「どうしてこんなに怒鳴るように歌うんだろう」と怖いイメージしかなかったし、最初は「そういう音楽はやりたくないです」と言っていました。でも、祐さんとたくさんお話しするうちに、「このグループで活動していったらどうなるんだろう」と興味が沸いてきたんです。今は完全に気持ちがひっくり返りましたね。ロックというものが何なのか、今もよくわかってないんですけど、以前私がイメージしていたものだけじゃないんだなって。

スタンド・バイ・エレナ 私は前にアイドル活動をしていて。カイジューバイミーとは真逆の王道のグループだったんですけど、いろいろあって解散しちゃったんです。そのときに「アイドルは嘘でできている」「アイドルってこんなもんなんだ」と失望してしまい、「アイドルはもういいかな」と心が折れたんですよ。祐さんとメンバーと出会ったときも「また同じことになるんだろうな」と正直思っていたんですけど、カイジューバイミーでの活動は想像していたものと違って、みんな正面からぶつかってくれるんです。それまでプライベートも含めて正面からまっすぐ向き合ってくれる人が少なかったので、「自分がやりたいことをやれるこの環境なら、逃げずにもう1回本気でやってみたい」と思うようになりました。

──カイジューバイミーのロックな音楽性に対してはどう感じました?

エレナ 椎名林檎さんとかSuperflyさんとか、もともとロックな女性のアーティストさんが私は大好きで。ホントは自分も最初からそっちをやってみたかったんだと思います。アイドルを始めたての頃は、アイドルと言えばかわいらしい曲というイメージがあったんですけど、自分に嘘をついているような気持ちもあって。今は正直な気持ちでステージに立てています。

スタンド・バイ・エレナ

スタンド・バイ・エレナ

──それぞれアイドルやロックに対する考え方が違う中で集まったということですが、メンバー間のチームワークや相性に問題はないんですか?

ミーア 正直、学校の教室で出会ってたら、この3人とはしゃべってないと思います。

華希 4人とも全然違う種類の人間なんですよ。カイジューバイミーじゃなかったら交わってない4人だし、最初に会ったときからみんな「自分は自分だ!」みたいなタイプだと感じています。それぞれがそれぞれの方向に突っ走っていて、何をするにも意見が4方向ある感じ。

 4グループを同時に見てる感じですね(笑)。

華希 でも、まとまりがなくてバラバラになってしまうんじゃないかという不安は最初からなくて、逆にそこがこのグループの強みだと思っています。ステージに立ったときだけ1つの方向を見ているっていう。それ以外のときは自由です(笑)。

菜月 私は初めてレッスンに行ったとき、「あ、間違えた」と思いました(笑)。今まで関わったことのないような人たちで。でも、自分と違う考えを持っていることが逆に面白いし、それぞれ歩いている道はバラバラなんですけど、向かっている先は一緒です。

なんでスタンド・バイなの?

──カイジューバイミーは「見上げた空は青くなかった」というキャッチコピーを掲げて活動しています。これは「SNSがひとつの居場所として存在し、きれいなものや羨むことばかりが目につきやすい世の中。しかし、その目に映るのは必ずしも綺麗なものばかりではなく、1人ひとりが見上げた空の色は必ずしも青いわけじゃない。そんな時代だからこそできる音楽を届けていきたい」という意味だそうですが、最初からこれを活動テーマにすると決めていたんですか?

 ホントはもっと破壊的なグループにしたかったんですよ。でも、メンバーが集まったときに誰も破壊的じゃなくて。そこで考えたのが「見上げた空は青くなかった」というコンセプトですね。だからほとんど後付けかもしれないです。

──カイジューバイミーというグループ名もかなりインパクトがありますが、これにはどういった由来があるんですか?

 正直言うと、そんなに深い意味はなくて、大好きな映画の「スタンド・バイ・ミー」と、何かワクワクする単語を組み合わせようと考えて決めました。ほかにもグループ名の候補がたくさんあってメンバーとも相談したんですが、僕の中ではカイジューバイミーにしようとほぼほぼ決めていました。賛成するメンバーは誰もいなかったんですけど(笑)。

──メンバーの名前に「スタンド・バイ」と付けたのも、映画の「スタンド・バイ・ミー」が好きだから?

 きっかけはそうですね。あと、結成当初からメンバー間でホントにバチバチしていたし、それぞれ癖も強かったので、名前くらい同じにしておこうかなと(笑)。「今日からみんな兄弟だ」みたいな思いもあって付けました。

──4人はグループ名に対しても、メンバー名に対しても反対だったんですか?

華希 いいとか悪いとかじゃなくて、「カイジューバイミーって何?」って感じでした。

ミーア 不満とかじゃなくて、驚き。ほかにもっとかわいい名前があったので、最初は反対していたんですけど、祐さんの思いを聞いていくうちに納得しました。「怪獣はぶっ壊していく、ワクワクする存在なんだ」って。

スタンド・バイ・ミーア

スタンド・バイ・ミーア

華希 日に日に愛着が湧くんですよ。

 でも、メンバー名に関しては、エレナが電話をかけてきて「スタンド・バイはやめたほうがいいと思います!」とずっと食い下がってきました。僕は基本的に、どうしてそうするのか、ちゃんとわかってもらうまで説明することが大事だと思っているんですが、そのときはもう強引に決めましたね(笑)。

エレナ 私としては意味がわからなかったんですよ(笑)。「なんでスタンド・バイなの? どういうこと!?」って。メンバーを全員同じような名前にするのも意味不明だし。でも、「これでいくから」と言われて、諦めました(笑)。

──今はメンバー名にも愛着が湧いてきました?

エレナ はい。今はもう大丈夫です(笑)。