音楽ナタリー Power Push - カフカ
憧れの街「東京」での生活、ここで生きていく決意
暗い自分も踊れる曲があってもいい
──アルバムの中で、最初にできた曲はどれなんですか?
1曲目の「She’s like Sofia Coppola」ですね。この曲には“ギターロックバンドが生まれたときに上げた産声”みたいなイメージがあったんです。最初にできた曲だったし、産声ならやっぱり1曲目にしようと思って。前作(「Rebirth」)ではエレクトロサウンドを取り入れたり、いろんなアプローチを試したんですが、今回はそれも抜きにして「丸裸の状態で、何も考えずに音を鳴らしたらどうなるか?」という考えでやっていたので。
──「She’s like Sofia Coppola」にはシューゲイザーのテイストも入っていますが、これもルーツの1つなんですか?
そうですね。ギターロックもシューゲイザーも好きなので。これはまさにソフィア・コッポラの映画のサウンドトラックのようなイメージなんです、自分の中では。「Lost in Translation」の“外国の人から見える東京”の感じみたいな。疾走感と浮遊感が両方ある曲にしたかったんですよね、これは。
──2曲目の「Night Circus」はダンスミュージックの要素が反映されたナンバーです。前作「Rebirth」のモードを引き継いだ曲だと思います。
曲を作っていく中で、これまでに培った技術や知識も無視しちゃいけないなって思うようになって。バランスですよね、そこは。初期衝動と今持っている技術をミックスしたいとも思ったし。だからシーケンスとかもけっこう入ってるんです。
──「Night Circus」はアルバムの中でも特にカラフルですよね。
カラフルなんだけど、いなたい感じもあると思うんです。それはたぶん歌が生々しいからだと思うんだけど、そういう部分も感じてもらえたらいいなって。あと、自分の中にはいろんな人がいて、その中には“踊りたい自分”もいるんですよ。こういうバンドをやってると暗い人間だと思われがちなんだけど、別にそれだけではなくて、明るい部分もあるので(笑)。「Night Circus」は“暗い自分が踊れる曲”というイメージもあるんです。パーティみたいな雰囲気で、お酒を飲んでみんなで騒ぐだけではなくて、嫌いな自分、暗い自分を受け入れた上で踊れる場所を作りたいなって。俺が聴いてきたダンスミュージックは、決して明るいものばかりではないし。
──初期のNew Orderなんてものすごく暗いですからね。
そう。でも、なぜか踊れるじゃないですか。今はハッピーな曲じゃないと受け入れられない感じもあるけど、ダメな自分を認めた上で一緒に踊れる曲があってもいいのな、と。俺がこの曲を作った意味は、そこにあると思います。
スタバに入るのもいまだに勇気がいる
──「ニンゲンフシン」もこのアルバムを象徴する曲の1つだと思います。タイトルが「ニンゲンフシン」なのに、サウンドはファンキーでダンサブルっていう。
ブラックミュージックはもともと好きで、そういうテイストも取り入れてみたいなと思ってたんです。自分が好きで聴いてきた音楽が、こういう形で出てくるのもいいことだと思うんですよね。縦(ノリ)もあるし、横(ノリ)もあるし、いろんなノリ方ができたほうが楽しいんじゃないかなって。歌詞については……人間不信ですからね、自分自身が。誰も受け入れられないし、信じられなくなって。この曲はまさにそういうときの気持ちなんですよ。だからこそ、なるべく明るいサウンドに乗せようと思ったんですよね。そうじゃないとバランスが取れないというか、ただの悪口みたいな感じになってしまうので。今考えてみると、周りが信じられなかったのは自分のせいでしかないんですけどね。周りの人たちは何も変わってなくて、すべては自分の気の持ちようだったのかなって。
──「ティファニーで晩餐を」は、他人をうらやみ、見栄を張ってしまう心理がテーマです。資料のセルフライナーノーツにある「『王様のブランチ』は好きでよく見るけど、スタバの新作をチェックした所で結局緊張して頼めない」という一節も、カネコさんらしいな、と。
ははは(笑)。スタバに入るのも、いまだに勇気がいりますからね。「王様のブランチ」とかで東京の最先端のカルチャーを見るのは好きなんですけど、根が田舎者なのか、やっぱり憧れている部分があるんです。おしゃれスポットみたいな場所に行ったとしても、「俺なんかがこんなところにいていいのか?」と思ってしまうし、そういうところに慣れたくないという気持ちもあるんですよね。この曲も憧れと現実の間で戸惑ってる感じなので。
──東京でバンドをやってるって、どういう気分なんですか?
落ち着かないですよ(笑)。ここ(事務所がある代官山)に来るときもいつも緊張するし。今まではそういう内容の曲を書いたことがなかったんですよね。思ってるけど、なかなか言えなくて。そういう気持ちを曲にできたのはよかったと思います。
──楽曲の幅も広がってるし、歌詞の内容も自由になっているんでしょうね。「bananafish Story」のニューウェイブ感もすごくカッコいいですね。
あ、ホントですか。
──このタイトルはサリンジャーの短編「バナナフィッシュにうってつけの日」に由来しているわけですが、カネコさんにとってはどんな作品なんですか?
「バナナフィッシュにうってつけの日」って結局、謎のままなんですよね。主人公は自殺してしまうんだけど、何回読んでも、なぜ死んだかがわからないんです。答えはいろいろ推測できるんだけど。あと“魚が穴に吸い込まれて、病気にかかって出られなくなる”という話もあって、それが渋谷のセンター街に入っていく人たちと重なるんですよ。センター街のなかで欲望のままに生活しているうちに、出られなくなってしまう人もいるかもと思って。今回のアルバムに入ってる曲はすべて東京の街がテーマで、その街に行くと曲が浮かんでくるみたいなイメージなんですよ。
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- ニューアルバム「Tokyo 9 Stories」2015年9月9日発売 / 2700円 / UK.PROJECT / UKCD-1158 / Amazon.co.jp
- 「Tokyo 9 Stories」
収録曲
- She's like Sofia Coppola
- Night Circus
- サンカショウ
- 残飯処理
- ニンゲンフシン
- 月の裏側
- ティファニーで晩餐を
- bananafish story
- 愛していると言ってくれ
- 東京
カフカ「Tokyo 9 Stories」Release Tour【LIVE 9 CITIES】
- 2015年10月1日(木)
- 新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
カフカ / asobius / CHERRY NADE 169 / phonon / Chic Sick - 2015年10月2日(金)
- 宮城県 enn 2nd
カフカ / asobius / ソライロブランケット / and more - 2015年10月9日(金)
- 香川県 DIME
カフカ / asobius / and more - 2015年10月11日(日)
- 福岡県 graf
カフカ / 空白器官 / SHOT KING PINKs / Living Book / Martens / チューベローズ - 2015年10月12日(月・祝)
- 広島県 HIROSHIMA 4.14
カフカ / asobius / カナタ / mira nemus / 空腹絶倒 - 2015年10月23日(金)
- 北海道 COLONY
カフカ / Vianka / THEサラダ三昧 / and more - 2015年11月12日(木)
- 愛知県 ell. SIZE(ワンマンライブ)
- 2015年11月14日(土)
- 大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE(ワンマンライブ)
- 2015年11月22日(日)
- 東京都 UNIT(ワンマンライブ)
カフカ
2008年東京にて結成。現在はカネココウタ(Vo, G)、ヨシミナオヤ(B)、フジイダイシ(Dr)、ミウラウチュウ(G)の4人編成で活動中。2008年に1stアルバム「Memento.」、2010年に2ndアルバム「cinema」、2011年に3rdアルバム「fantasy」をリリースし、“どこにも存在しない世界の物語”をテーマにした3部作を完成させる。2013年にミウラが加入し「呼吸 -inhale-」「呼吸 -exhale-」という2枚のミニアルバムを発表する。2014年2月に4thアルバム「Rebirth」をリリース。同作はこれまで提示してきたギターロックにエレクトロサウンドを大胆に導入した意欲作で、ミックスは森川裕之(organic stereo)、マスタリングは益子樹(ROVO、DUB SQUAD、ASLN)が手がけている。2015年9月にUK.PROJECTに移籍し、5thアルバム「Tokyo 9 Stories」を発表。10月より全国ツアー「LIVE 9 CITIES」を行う。