花譜が2ndアルバム「魔法」を11月25日にリリースした。
2018年10月からYouTubeやInstagramを中心に活動し、バーチャルシンガーとしてオリジナル曲やカバー曲をコンスタントに発表し続けている花譜。今年10月にはバーチャル空間に作られた会場・PANDORAを舞台に、計27曲を届ける集大成的なライブ「不可解弐Q1」を展開した。「魔法」には「不可解弐Q1」で初めて披露された新曲「まほう」「メルの黄昏」「帰り路」といった楽曲を含む15曲が収められている。アルバムの発売を記念し、音楽ナタリーでは花譜へのメールインタビューを実施。今作で描かれている「音楽は魔法」というキーワードをもとに、花譜の音楽観や今作に込められた彼女自身の思いを紐解いていく。
取材・文 / 倉嶌孝彦
たくさんの才能や愛が詰まった「不可解弐Q1」
──10月にバーチャルの会場を舞台としたライブ「不可解弐Q1」が行われました(参照:花譜、バーチャル空間から歌への思い届けた2ndワンマン「花譜を観測してくれてありがとう」)。観客が目の前にいないバーチャルライブを開催した感想をお願いします。
きっと皆さんは自分の部屋だったりお風呂だったり、もしかしたら屋外とか、いろんなところで観てくれて、それが配信ライブのいいところだと思っていて。今回は会場がバーチャル空間にある「PANDORA」というライブハウスだったんですが、バーチャルだから会場の熱気とか、興奮に包まれた状態ではないので、すごく冷静にライブを観れるというか。心の中で「ウワアアア」ってなってもあまり外に出さないんだろうな、みたいなことを考えてました。私も画面の向こう側は見えないし「みんなは今どんなふうかな」とか、想像しながら歌うのが楽しかったです。
──振り返ってみて「不可解弐Q1」は花譜さんにとってどんなライブでしたか?
楽曲を作ってくれたカンザキさん、バンドメンバーのみなさん、素晴らしい映像を作ってくれたクリエイターのみなさん、ライブに関わってくださったすべての方々の天才たちの轍があちこちで交差しながら絡まりまくって、強いパワーがぶっ通しで惜しみなく放出されていて、たくさんの方の才能や愛が詰まったライブだっていうのを身をもって体感しました。もちろん最初から「絶対にいい歌を歌いたいし、聴いてもらいたい」と思っていましたが、実際にPANDORAのステージを見たとき、その気持ちがもっともっと昂りました。本当に素敵な大好きな歌を歌わせていただいて、みんなにこのライブを見せられるのがすごくうれしかったし、とてもワクワクしました。それと、大好きな方々にゲストとして出演していただけて! 一緒に歌うことができたのも、とてもうれしかったです。
──ライブで歌うことは好きですか? 普段の歌手活動とどういう違いがあると受け止めていますか?
ライブで歌うの、好きです! 普段の歌との違いをあまり考えたことはないですが、歌を受け取ってくれる人たちのイメージというか輪郭が、ライブだとハッキリするというか、聴いてくれる人たちに対する意識が少し強くなっているのかなと思います。あと普段の動画とかCDだったら、途中で止めたり、聴くのをやめたりすることができるけど、ライブはそれが難しいし、ずっと私の歌を聴いてもらうことになるから「飽きたな」って思われたくないとか。そういうことはCDのレコーディングのときは考えないかもしれないです。
──ライブの中では相対性理論「地獄先生」、岡村靖幸「真夜中のサイクリング」、エンドロールではキリンジ「エイリアンズ」といった楽曲のカバーが披露されました。ご自身のシンガーとしてのルーツはどういった音楽にあるのでしょうか?
小さい頃は家族の影響でジャニーズとかAKB48が大好きで、テレビで流れると一緒に歌ってました。小学5年生くらいでHoneyWorksからボカロの世界を知ってネットにどっぷりハマって。その後、映画「君の名は。」で聴いたRADWIMPSの曲がめちゃくちゃ刺さって、そこから邦楽のロックにハマって、今みたいな感じになりました。人から薦めてもらった曲を聴いたり、自分で見つけたり、あと好きなアーティストのインタビューを読んで、その人が好きな音楽を見つけて聴いたり。自分が好きな人の好きな音楽は9割くらい自分も好きになるので、絶対に聴いたほうがいい! それと少しでも気になった音楽があったら絶対に聴きます。音楽との出会いって、まさに一期一会だと思うんです。その機を逃したらもう一生聴かないかもしれないから。だから自分の好きな曲に出会ったときは盛らずに「絶対に運命だ」と思うし、「生涯この曲と添い遂げるわ」って曲がこれからも増えたらうれしいです。
行き場のなかったモヤモヤを抱えられるようになった感
──アルバム「魔法」について伺います。まず「魔法」というアルバムのテーマを聞いたとき、どう思いましたか?
「まほう」という曲の中に出てくる「音楽は魔法」という、とてもいい言葉を高らかに歌わせていただいているんですが、皆さんにとってもこのアルバムが魔法のような存在になってくれたらいいなあと思っています。
──曲によっては作曲家のカンザキイオリさんによるインタビューをもとに作られると聞いたことがあります。その際はどんなインタビューをされるのでしょうか?
活動に対することとか、普段の生活で最近思ったこと、自分の好きな場所とかを聞いていただきました。どう答えたかはあまり覚えていないんです……。すみません。でも「帰り路」という曲はインタビューをもとに作っていただいた曲なのですが、この曲は本当にそのとき話したこと全部が曲になっていると思いました。
──具体的にどういうところですか?
「並木路を聴き込んだ歌で歩く」という歌詞は、好きな場所を聞いていただいたときに「帰り道にイヤホン挿して好きな曲を聴きながら歩くのが好きです!」と答えたのを入れてくださったのだと思います。それだけじゃなくて「色づく街並みの細部に私がいるの」とか「足並みを揃えずに広まる歌は本当の私じゃないかもしれない」とか、「思い悩むときにはもうすでに誰かの生活の一部」とか。本当に全部なので挙げ始めたらキリがないんですけど、私はこの活動を始めて気が付いたらたくさんの方々に歌を聴いていただくようになって。聴いていただくことは本当にうれしいし、好きと言っていただけるのも本当にありがたくて、歌を歌うのも楽しくて大好きで。でもレコーディングのときに自信があって歌っていたとしても、ふと「そんなに褒められる歌なのかな?」とか「うわあ、なんでここ直さなかったんだろう」と思うときもあるんです。それなのに褒めてもらうことに罪悪感があるし、その言葉に寄りかかっている自分もいて。それも嫌で、じゃあどうしたらいいんだよって感じなんですけど、本当に自分の面倒くさいところを全部書き出してカンザキさんに伝えたんです。たぶんぐっちゃぐちゃだったと思うんですけど、カンザキさんがその中から私の伝えたかったことをすくい取って、音楽で吐き出せるようにしてくれました! 本当にすごいです。すごく腑に落ちたというか、行き場のなかったモヤモヤをうまく抱えられるようになったというか……。これがまさしく「音楽は魔法」ということだと思います。
──「魔法」というアルバムの中には「大人」と「子供」の対比がよく出てくると感じました。「帰り路」には「大人になったら何になるんだろう」という一節がありますし、「花女」には「普通の大人になっちゃったんだね?」という呼びかけが入っています。花譜さん自身は「大人になる」ということをどう捉えていますか?
見たり聞いたりしたものが増えていくうちに大人になっていくんじゃないかなと思っています。いくら歳を取っても子供みたいな人もいれば、大人みたいなことを言う小さい子もいるじゃないですか。自分の中の“溝”のようなものを埋めていくうちに大人になる、みたいな。勉強とか映画とか小説とか音楽とか、自分の身に起こったこととか、そこから何か学ぼうなんてことを意識して生きているわけではないけど、経験を積んでやっと埋まる溝があれば、想像でしか埋まらない溝もあって、そのどちらも埋めないとわからないこともあると思うんです。それらが自分の中で解明されたり、「ここは埋めなくていいや!」という選択で自分を形作ったり、組み立て直したりするうちに、気付いたら大人になっている、っていうのが理想です。早く大人になりたい!!!
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誰かと歌うと全身が沸き立つ瞬間がある