木村カエラ「F(U)NTASY」発売&メジャーデビュー20周年記念インタビュー (2/2)

「私にとって歌はすべて」その理由とは

──EP「F(U)NTASY」に収録されている、もう1つの新曲「Twenty」についても聞かせてください。この曲では、最初のお話にもあった通り、「歌がずっと好き」といったことが歌われています。今のカエラさんにとって「歌」とは?

歌は、私の心にある本当の言葉。歌っていると精神が安定するんですよ。一人っ子だったから、あまり自分の意見を言える子ではなくて。だから歌を歌うことが自分の心の叫びになっていたし、うれしいことも悲しいことも、自分の感情を表に出させる歌を歌うとスッキリして。不安定になったり、嫌なことがあったり、イライラしたり、誰ともしゃべりたくなかったりするときは、洗面所にこもって、汗だくになりながら何時間も歌っていました。それが日課だったんです。それがずっと続いている感じですね。

──以前のKen Yokoyamaさんとの対談で、カエラさんは「すごく幸せそうに歌う」とKenさんがおっしゃっていましたが、ただ「歌が好き」なだけではない、それを超えるものがカエラさんにあることを私も感じます(参照:横山健×木村カエラ対談|時代が変わっても燃え続ける2人のロック / パンクスピリット)。

そう、歌は特別ですね。私にとって歌は「すべて」だと思います。Kenさんに言われるまで、そんなに楽しそうに歌ってるって気付いていなかったんですけど、それを言われてリハーサルのときに鏡を見てみたら、すっごい笑ってて(笑)。自分でびっくりしました。でも確かに楽しいもんな、と思って。うまく歌えているときはもう本当に、空を飛んでいるみたい。空間が自分だけの世界みたいになるときがあって、そのときはもう本当に幸せで、その瞬間がすごく好きですね。

木村カエラ

ポジティブはネガティブから始まる

──カエラさんの歌は、みんなを明るいところへと導くものだと思うんです。心の中にある「負」を叫ぶのではなく、ポジティブで明るいことを歌にするのはどうしてですか?

歌詞を書くとき、まずはものすごくネガティブなワードを並べるんですよ。最初は「ネガティブバージョン」なんです。それを「ポジティブバージョン」に変えていったものが私の歌。歌詞が書きやすい曲はポジティブなことをスラスラ書けたりするんですけど、基本メロディを聴くと、ネガティブな言葉が出てきます。「happiness!!!」「Magic Music」とかもそうですよ。最初はすごくネガティブに書いて、それをポジティブに変えるんです。

──そうだったんですね。ネガティブなまま世に出すのではなく、「ポジティブバージョン」へ変換するのは、歌も言霊になるからこそ負を負のまま歌いたくない、といった思いもあるのでしょうか。

そうですね。20代前半の頃は、ネガティブなワードも音に乗るとカッコいいなと思っていた部分があったんですけど、だんだんと、その言葉から自分が影響を受けることに気付きました。カッコいい言葉だったらネガティブなワードを使っちゃうこともあるんですけど、基本的にはなるべくいい言葉を使いたいと思っていますね。どこかに悲しさみたいなものを残したりしつつ。

──「Twenty」も、「満たされないよ」から始まりますもんね。

確かに(笑)。全然満たされてないですもん。満たされないからずっと追求してるし、満たされちゃったらやめると思うので、満たされないことが大事なのかなと思います。この曲のAメロは、ネガティブからポジティブワードへ変えることに苦労した場所で。「(メロディに乗せながら)失敗ばっかりしたっていいじゃん」とか、「失敗」「不安」みたいなネガティブなワードが並んでました。でも結局こうなるんですよね。失敗することにも、不安を抱えることにも、絶対にそこには意味があるという内容の歌詞に変えたいので、それをうまく言葉にする作業でした。

素直に出てこなかった素直な思い

──さらにラップ調の「今だから言える 本当 Wikipediaに乗ってる情報 名前の由来違ってんぞ」は軽やかで、遊びも感じます。

そうですね。完全にふざけました(笑)。「Twenty」に関しては、はっきり言うと、何を書いていいのかわからなくなって、10数通りの歌詞ができあがったんですよ。でも、家族に見せたとき「これ本当に言いたいこと?」って言われて「……違います」みたいな。「カエラが歌いたいことを歌わないとダメだよ」って言われたんです。電気グルーヴさんの周年の歌のミュージックビデオを見ながら、「観てごらん、こんなにふざけてる人たちがいるんだよ。何やってんの、こんな真面目にがんばって」って(笑)。

木村カエラ

──(笑)。

「誰かのために歌うのはいいけど、これはあなたの20周年でしょ」と言われて、そこから「ライブしてるときはどんな気持ちですか?」「20周年を迎えてどうですか?」って、今みたいにインタビュー受けて(笑)。そのあと15分でできたのがこの曲でした。

──10数パターンも作った挙句、ものの15分で!

そう! 3カ月くらい書き続けていたのにずっとできなくて。カウンセリングを受けたら15分でできました(笑)。「あなたはなんで20年歌を続けてきたんですか?」「いや、好きだからです」「それを書けばいいんですよ」「わかりました!」で、書いたのがこれ(笑)。素直な歌詞を書いたので、少し恥ずかしいんですけど、これでよかったんだろうなって思います。

私=人、人=私

──曲の途中で「Darenitotte………」というフレーズのループがありますよね。20年の中で、自分のために歌うのか、人のためなのか、世間の期待や時代のトレンドに合わせるのか、それとも自分がやりたいことを貫くのか……そういったところでの揺れ動きは常にあったと思うんです。20年を経た今、「誰にとって」という問いについて、どのような答えにたどり着いていますか?

「人のために何かをすることは、自分のためになる」という結論に至りました。「Darenitotte………」を連呼しているときは、「私のためは、人のため」「人のためは、自分のため」っていう考え方が自分の中に大きくありました。そう思うようになってから、すごく楽になりましたね。

──Ken Yokoyamaさんとの対談で「ロックンロールやパンクは必要とされてないんじゃないか」といった話がKenさんからあって、カエラさんが「時代は回る」とおっしゃられるシーンがありましたが、今作は、カエラさんのやりたいサウンドをストレートにやれているEPなんじゃないかと感じました。

原点に戻っている感じがありますね。もともとあった「パンクロックとかバンドが好き」という感覚が、ミックスの方向性も含めて、戻ってきている感じがします。もともとの「好き」は変わってないけど、いろんなことに興味があるので、打ち込みとかの楽曲も好きだし、それをやることに抵抗もなくて。ただ、自分の原点であるバンドというものが、20周年のタイミングでまた熱い感じになってきていますね。

カエラはいつだってカラフル

──「Twenty」のサビには「カラフルな虹架かる空のような 晴れた私でいたいの」「パワフルな虹架かる空のような 前向きな私でいたいの」というフレーズがありますし、「虹」は20周年イヤーのモチーフにもなっています。カエラさんにとって「虹」とは?

もともとカラフルなものがすごく好きで。私は、現実はモノクロで、夢はカラフルだと思っているんですよ。ネガティブな歌詞が最初に出てくるのは現実の私が表に出るからなんですけど、「木村カエラ」であるときはいつもカラフル。「この曲は緑」とか、曲によって単色のイメージがあるんですけど、20周年は、そのすべての色を合わせた「虹」にしました。7色とは限らず、無限に色がある虹のイメージですね。しかも虹は、雨が上がって出るものじゃないですか。つらいことも大変なことも、楽しいことも面白いことも、すべてを乗り越えたときに見えるのが「虹」。そういうメージですね。

──10月26日の武道館公演は、どんなライブにしたいですか。

「Darenitotte………」で言うとすれば、ここはお客さんを一番に考えていますね。とにかく楽しいライブになるといいなと思っています。20年という長い期間、曲を作ってきて、それを聴いてきてくれた人たちがいるので……タイムマシンみたいになると思うんですよ。曲によって思い出がよみがえったり、時空をぶわっと飛び越えたり。そういう時間になるといいなと思っています。

──武道館公演の2日前にはお誕生日を迎えられます。どんなふうに1年を過ごしたいですか?

……健康!

──(笑)。一番大事ですよね。

大事! なるべく健康でいたいよね。でもやっぱり、楽しく生きたいです。

──カエラさんは「老い」というものを自分の中でどういうふうに受け止めていますか。

しょうがない!って思う(笑)。コロナ禍のときに実感したんですけど、歌を歌うことが一番若いままいられるんですよ。顔の筋肉も使うし、舌とか目もすっごく動かすから、一番顔がリフトアップされるんです。コロナの影響で歌わなかった時期に、自分の顔を見て「あれ、なんか歳取った?」と思って。だからみんな、歌を歌おう!

木村カエラ

公演情報

KAELA presents GO!GO!KAELAND 2024 -20years anniversary-

2024年10月26日(土)東京都 日本武道館

プロフィール

木村カエラ(キムラカエラ)

東京都出身の女性シンガー。テレビ番組「saku saku」への出演をきっかけに、2004年6月にシングル「Level 42」でメジャーデビュー。2005年3月発売の3rdシングル「リルラ リルハ」が大ヒットを記録し、一躍全国区の人気を獲得する。2006年には再結成したサディスティック・ミカ・バンドにボーカルとして参加した。2007年6月に初の東京・日本武道館公演を成功させたほか、2009年7月に神奈川・横浜赤レンガパーク野外特設ステージにてデビュー5周年記念ライブを行い、約2万2000人を動員。同年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場し、ヒット曲「Butterfly」を披露した。2013年にはビクターエンタテインメント内にプライベートレーベル・ELAを設立。2019年6月にメジャーデビュー15周年を迎え、デビュー日である6月23日に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)にてアニバーサリー公演を行った。2022年12月に11thアルバム「MAGNETIC」をリリース。2023年にはサバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」の国民プロデューサー代表への就任が発表された。2024年6月にメジャーデビュー20周年を迎え、9月にEP「F(U)NTASY」をリリース。10月には日本武道館でワンマンライブを開催する。