K|揺れる音楽へのひたむきな愛情

Kが10月30日に、約1年9カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「Curiosity」を完成させた。

9月に配信リリースされた映画「閉鎖病棟 -それぞれの朝-」の主題歌「光るソラ蒼く」を含む全11曲は、すべてK自身のプロデュース。Kといえばバラードのイメージが強いが、そんな先入観を快く裏切る意欲作である。

新作のリリースを記念して、音楽ナタリーではKにインタビューを実施。音楽家としての彼のこだわりが隅から隅までみっちり詰まった自身7枚目のアルバム「Curiosity」のことを語り尽くしてもらった。

取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 濱田晋

「やってみたい」とときめいたこと

──今回はセルフプロデュースですよね。

前にも一度やって、そのときは「今回はアルバムをセルフプロデュースする」と決めて曲を書いていきましたが、今回は「とにかく自分のやってみたいことをやる」「カッコいい響きのものを作る」というところから動き出して、1曲1曲作っていったらほぼアルバムが完成したので、「これはセルフプロデュースでいいんじゃないか」という話になったんです。だから結果的にこうなった感じで、「Curiosity」(好奇心)というタイトルもあとから付けたんですよ。

K

──制作期間はどれくらいでしたか?

前作のアルバム「Storyteller」をプロデューサーの寺岡呼人さんと一緒に作る中で、「これはぜひ次の作品でやってみたい」とときめいたことがあったので、その制作が終わってすぐに取りかかりました。普段は制作が終わるとしばらくインプット期間を設けるんですが、今回はそういうこともなく。だから約2年間ぐらいずっと曲を作っていて、今年の2、3月にはほとんどの曲が、歌詞以外はできあがってました。歌詞はメロディだけでなく、コーラスワークからアレンジからほぼ家でパッケージとして完成させたうえで書き始めたんです。

──7月にYouTubeで公開された、KさんがDAWソフトのLogicを操作して10分間で1曲作曲する企画「10分作曲チャレンジ」の動画を拝見しましたが、手際がすごく鮮やかですね。

(照れくさそうに)見てくださったんですね。どうしてあれをやったかっていうと……すごくありがたいことなんですけど、僕に“バラードを歌うアーティスト”というイメージを持ってらっしゃる方がほとんどで。だから「今回のファンキーなアルバムは、こうやって自分で打ち込んで作ったものなんですよ」ということを、口で説明するより見てもらったほうが早いと思ったんです。あの企画はシリーズ化したいんですけど、あまりにも大変なので、今は休んでます(笑)。もう少し落ち着いたらまたやりたいと思ってるんですけど。

新たな遊びのようなもの

──先ほど「『Storyteller』の制作でときめいた」とおっしゃっていましたが、具体的にはどういうところに?

僕のルーツにある音楽、自分で聴いて「カッコいいな」と思う音楽は、言葉にリズムがあって、ずっと“揺れている”ものなんです。そういう音楽から何かを得ることが多かったんですね。前からマイケル・ジャクソンやクインシー・ジョーンズ、最近だとチャーリー・プースとかがすごく好きなんですけど、バラードを歌う場面が増えて、なかなかそういった音楽性を表現できなかった部分があるんです。「Storyteller」はまず全曲歌詞をもらい、トラックを作ってハメていくという流れだったんですけど、その中で言葉のリズムが歌詞を支配して、グルーヴも立ちつつストーリーの邪魔にもならないという作品を何曲か作れたんですよ。

──それは曲名でいうと「Louder」とか?

はい。あと「GATE11」もそうですね。詞先なのにそういうことができたのがすごく面白くて、「次はとことん言葉の響きとノリとニュアンスを重視した曲作りをしてみたいな」って。それがときめきの1つでした。僕はそもそも「最初から最後までワクワクする作品を作りたい」という思いが強いんです。今まで何度も、自分の音楽がミュージシャンたちの演奏と混ざってケミストリーが起き、それにワクワクするというようなことはありましたけど、今回目指したのはそれとは違う。最初に抱いたイメージに向かって自分の中で線を引いて、1つひとつ積み重ねて、壊して、また積み重ねて……そういった作業を繰り返しながら、線がブレないように完成させる。そういうワクワクだったんですよ。

K

──行き先を決めずにセッションで作るという試みも過去にはありましたが、今回はできる限り自分でやってみたかったということですね。

そうですね。何が来るかわからないセッションも楽しいんですけど、自己完結型の作業においてはインプットとアウトプットが明快ですから。今回はコーラスの追加部分まですべて本番とほぼ同じように家で録って、それをスタジオで生に差し替える作業をしたんですよ。そうすると、レコーディングすべきものがすべて決まった状態でスタジオに行くので、すごく心に余裕ができて。スタジオで今まで聴こえなかった音が聴こえたり、感じなかったことを感じられたりしました。そのおかげでさらにまた違うアイデアが出てきて、それを家に帰って試して、またスタジオに持っていって……という今までになかった作業が増えましたが、それがめちゃめちゃ楽しかった。自分でドラムを叩いたりとか、新たな遊びのようなものにいろいろチャレンジしました。