ナタリー PowerPush - K
「音楽人生の旅」の現在地点
遊びの延長から生まれたコラボ
──今作には寺岡呼人さんやWAZZ UPに加えて、いしわたり淳治さん、多保孝一さん、TOKO(古内東子)さんといった豪華な布陣が参加しています。
そうですね。普通に楽曲提供をお願いするケースもあれば、遊びの延長から生まれたコラボもあって。多保くんと一緒に作った「Shout Of Delight」の場合はまさに遊びの延長で、彼と飲んでるときに「音でも鳴らしてみようか」と一緒にスタジオに入ったのがきっかけです。今までそういうことって少なかったんですけど、わりとリラックスして曲作りできた気がします。
──その「Shout Of Delight」は肩の力が抜けた、アーシーなロックナンバーに仕上がりましたね。
この曲はビリー・ジョエルがThe Rolling Stonesの曲をカバーしたらどうなるんだろうっていうイメージが起点で。最初はギターリフを作って弾いてみたいんですけどグッとこなくて、じゃあそれをビリー・ジョエル風にピアノで弾いたらどうなるだろうって試して、そこから少しずつ調整して今の形になりました。
──なるほど、それは面白いですね。「Shout Of Delight」みたいな曲がある一方で、デジタル色の強いダンスチューン「イケナイDRIVE」やファンキーな「反省ゼロ」、音数が少ないアコースティック調の「ターミナル」「You Make My Day」みたいな曲もあって。例えばバラード1つ取っても豪華なアレンジから音数の少ないものまでいろんなタイプのバラードが収録されています。
楽器の数や音数の多い少ないって、その曲の隙間に合う楽器や音色を探してはめ込んでいったり、あるいは抜いていったりするパズルみたいな作業だから、すごく楽しいんですよ。でも音数が少ない曲っていうのは録るときの気持ちや自分の置かれた環境が強く反映されやすくて、すごく難しい。「Note」は軍隊に行く前に録っていたんですけど、除隊してから聴き直したらどこか迷いが感じられて。そのへんをフラットにしたくて、改めてボーカルを録り直したんです。
「dear...」がいろんな人との縁を作ってくれた
──そういえば本作には活動休止前最後のシングル「dear...」も収録されています。2010年のベストアルバム「K-BEST」にも入ってましたが、なぜ今回改めて収録することにしたんですか?
「dear...」を入れることは、実はマスタリングの直前に決まったんです。「dear...」は軍隊に行く前に自分のために書いた曲だったんですけど、2年後に戻ってきたときに楽曲が1人で歩き出していて、日本で待っていてくれたファンのみんなを含めたいろんな人との縁を作ってくれたんです。僕はそれがすごくうれしくて……別に大ヒットしたとかタイアップが付いていろんな人に聴いてもらったとかそういうわけでもないのに、初めてのお客さんが多いイベントで歌うと大勢の人たちがリアクションしてくれる楽曲なんです。そういう意味ではすごく不思議な楽曲ですし、言い方はちょっと違うかもしれないけど……困ったら「dear...」っていう感じが自分の中にあるような気がします(笑)。
──曲が1人歩きして、気付いたらKさんの名刺代わりの1曲になっていたんですね。
そうかもしれないですね。そういうこともあって、なんかこう……見捨てるわけにはいかないというか、放っておけないなと思って、ちゃんとアルバムにも入れようと。特に「On My Journey」というタイトルが付いてから、僕の音楽人生の旅には欠かせない1曲だと実感したんで入れることにしたんです。
「いつかやってみたい」と思っていたスタイル
──「dear...」が終わるとジャジーなスローナンバー「ターミナル」でアルバムの流れがガラリと変わります。
実は「ターミナル」の歌詞はもともと遠距離恋愛を歌った歌詞じゃなかったんですよ。この曲は軍隊に行く前に作ったんですけど、最初はわりと「dear...」に似た世界観で。でも活動再開してから僕がやってるラジオのレギュラー番組に、彼氏が遠くへ行ってしまい遠距離恋愛をすることになった女性リスナーからメッセージが届いたんです。彼女的にはすごく悲しいんだけど、その彼氏が鼻歌を歌いながらニコニコして荷物の整理をしてたと。「彼の心境がわからない」という話だったんですけど……僕はなんとなく、その彼はすごく男気がある奴だな、きっと自分が悲しんでる姿を彼女に見せたくなかったんだろうなと解釈したんですよ。そのメッセージを読んだときに心打たれて、これを歌詞にしたいと思って「ターミナル」に反映させたんです。
──兵役での活動休止に対する思いをつづった「dear...」から「ターミナル」という流れで聴くと、「dear...」に対する印象、歌詞のイメージもまた変わってくるんですよね。その曲順の妙技もこのアルバムの素晴らしいポイントだと思いました。そしてアルバム中盤にはTOKOさんが楽曲提供した「You Make My Day」が収録されています。
この曲はこちらからオファーしたものではなくて、TOKOさんのほうから「よかったらぜひ使ってください」とお話がありまして。最初にデモを聴いたときは正直「これ、僕がちゃんと表現できるのかな……」というTOKOさん色が強い楽曲だったんです。で、アレンジをしていくうちにだんだん自分の歌にするための方向が見え始めて、TOKOさんに「ここのメロディ、もうちょっとこういう感じにできませんか?」と相談して今の形になりました。この曲のバックトラックはピアノとストリングスで構成されているんですけど、ずっと「いつかやってみたい」と思っていたスタイルだったのでやっと願いが叶った感じです。
収録曲
- On My Journey
- 誓い ~Waiting For Love~
- イケナイDRIVE
- Shout Of Delight
- dear...
- ターミナル
- You Make My Day
- Seeds Of Love
- 反省ゼロ
- Happy Birthday
- Christmas Time Again
- 2gether again
- Believe In Magic
- Note
K(ケイ)
1983年11月16日生まれ、韓国・ソウル出身の男性シンガーソングライター。地元ソウルの教会で続けていたピアノライブが話題となり、2005年3月にシングル「over...」で日本デビューを果たす。同年リリースしたシングル「Only Human」はテレビドラマ「1リットルの涙」の主題歌に採用され、スマッシュヒットを記録。2010年11月30日には自身初となる日本武道館での単独ライブが実現した。同年12月に初のベストアルバム「K-BEST」をリリースし、その後兵役のため2年間の活動休止に入る。2012年10月に兵役を終え、音楽活動を再開。2013年に復帰作となるミニアルバム「641」を発表した。2014年6月4日、フルアルバムとしては約5年ぶりとなる新作「On My Journey」をリリースする。