ナタリー PowerPush - K
「音楽人生の旅」の現在地点
Kのニューアルバム「On My Journey」が6月4日にリリースされる。昨年6月に発表されたミニアルバム「641」は2年間の兵役期間を経て制作された復帰1作目だったが、今作には2009年発売の3rdアルバム「Traveling Song」以降に彼がしたためてきた楽曲の数々を多数収録。兵役期間を含むこの5年間の集大成と言えるような、バラエティに富んだ1枚に仕上がっている。
最近では乃木坂46のメンバーとMCを務めるYouTubeの番組「ソニレコ!暇つぶしTV」でのひょうきんな一面でも注目を集めるK。今回のインタビューではアルバムに込められた思いや多彩なアーティストとのコラボレーションから生まれた楽曲について、たっぷり話を聞いた。
取材・文 / 西廣智一
未熟さって恥ずかしいことではないのかもしれない
──ひさしぶりのフルアルバムとなる「On My Journey」について、Kさんはどのような内容にしたいと考えていましたか?
オリジナルフルアルバムとしては5年ぶりなんですけど、兵役で活動休止してた期間も含めて5年間ずっと曲は書いていたんで、そのまとめというか5年分の思いをアウトプットできる場所にしたいなと。とは言ってもそれこそ6、7年前に作った曲もあれば最近書いた曲もあって、今聴くと未熟さを感じる部分もあったんです。でも、実は未熟さって恥ずかしいことではないのかもしれないな、と今は思ってます。ビリー・ジョエルのアルバム「Piano Man」の中に「Somewhere Along The Line」という全然有名ではない曲があるんですけど、僕はあの曲が大好きで。旅の途中をつづった内容なんですけど、音楽をやっていくにあたっても「何かの途中」というものを表現するのは大事なんじゃないかなと思ったんです。改めてこの曲に救われた気がしました。
──なるほど。でもアルバムを通して聴いてみると、非常に完成度の高い作品だと思いましたよ。
ありがとうございます。曲のタイプはバラバラだけど、レコーディングエンジニアを1人に絞ったり、レコーディングはなるべく同じスタジオを使ったり、ボーカル録りを短期間で済ませたりして、統一感が出るように工夫してみたんです。
「何かの途中」というテーマ
──アルバムには「On My Journey」という楽曲がありますが、アルバムタイトルはこの曲から取ったものなんでしょうか?
「On My Journey」っていう言葉自体はその曲の歌詞を書いてるときに出てきた言葉で。もともと「何かの途中」というテーマについてスタッフとずっと話をしていて、そのテーマにピッタリな言葉はないかなと考えてたんです。それで「On My Journey」という言葉はこのアルバムのテーマにふさわしいなと思って、スタッフと相談してアルバムタイトルにしたんです。でも「何かの途中」というテーマがなかったら、この言葉自体出てこなかったかもしれないですね。
──「On My Journey」という楽曲自体も音楽を続けていくこと、曲を書いていくことをつづっていますが、その経験自体を「旅の途中」と例えてるわけですよね。
そうですね。あとは僕が日本を拠点に音楽活動をする意味だったり……それは言ってみれば日韓の架け橋になりたいなと思ってるからなんですけど。でもそれを日本語で直接的に表現するとすごく照れくさくなっちゃうんで、こうやって英詞でカッコつけて逃げようかなと思ってるんですけどね(笑)。
──この曲の歌い出しの「I'm writing a song」という一節と、アルバムラストナンバー「Note」の最後のフレーズ「Yes, I am the writer of my life!!」を見たときに、ストーリーが1つつながった気がしました。
アーティストとして曲を書いて人生観や自分がやりたいことを表現していくのって、ある意味旅みたいなものだなと思って。「On My Journey」のアンサーソングとまではいかないんですけど、そういう気持ちで「Note」を書いたら「On My Journey」とうまくつながって。オープニングとラストの曲がこの2曲に決まったことで、ある程度アルバムの流れは見えたというか。逆にどんな曲が入ってもブレない、しっかりした軸ができたと思いました。
アナログレコードのA面B面を意識した構成
──ちなみに今回の制作でほかにこだわったポイントはありますか?
なるべく5分を超えない楽曲を作るのがテーマの1つにあって。去年発表した「641」というミニアルバムのときに8分を超える楽曲(「ハラボジの手紙」)を作ったんで、そういう長い曲を作るのはもうやめようと。2曲目の「誓い ~Waiting For Love~」もそうなんですけど、最初は5分を超える王道の展開を持つ楽曲だったのを「このパートはカットしよう」と手を加えることで4分のシンプルな楽曲に仕上げたんです。こういう作業は新鮮で楽しかったですよ。
──アルバムには14曲収録されていて、いろんなタイプの楽曲が詰まっているけどすごく流れがきれいな作品集だと思いました。
僕、最近アナログレコードにすごいハマっていて。A面B面ってこれ、すごく素晴らしい分け方だなあと思っていて、今回のアルバムだったら7曲目までをA面、8曲目からをB面と解釈してくれたらめちゃめちゃうれしいですね。
──実際に7曲目「You Make My Day」と8曲目「Seeds Of Love」で流れが切り替わる感じもありますしね。
そうなんですよ。僕はボリュームのあるアルバムをCDで聴くときに集中力が切れて途中で止めちゃうことが多くて、そのポイントがだいたい7、8曲目なんですよね。今回のアルバムでは7曲目に向けて楽器の数や音数を少しずつ減らしていって、8曲目でまた復活するというスタンスを取ったんです。だから7曲目と8曲目の曲間は、ほかの曲間よりほんのちょっとだけ長く空けたんです、マスタリングのときに。アナログ盤をA面からB面にひっくり返したり、カセットテープをA面からB面に切り替えたりするインターバルのような感じなんです。
収録曲
- On My Journey
- 誓い ~Waiting For Love~
- イケナイDRIVE
- Shout Of Delight
- dear...
- ターミナル
- You Make My Day
- Seeds Of Love
- 反省ゼロ
- Happy Birthday
- Christmas Time Again
- 2gether again
- Believe In Magic
- Note
K(ケイ)
1983年11月16日生まれ、韓国・ソウル出身の男性シンガーソングライター。地元ソウルの教会で続けていたピアノライブが話題となり、2005年3月にシングル「over...」で日本デビューを果たす。同年リリースしたシングル「Only Human」はテレビドラマ「1リットルの涙」の主題歌に採用され、スマッシュヒットを記録。2010年11月30日には自身初となる日本武道館での単独ライブが実現した。同年12月に初のベストアルバム「K-BEST」をリリースし、その後兵役のため2年間の活動休止に入る。2012年10月に兵役を終え、音楽活動を再開。2013年に復帰作となるミニアルバム「641」を発表した。2014年6月4日、フルアルバムとしては約5年ぶりとなる新作「On My Journey」をリリースする。