「反則だ!」と言われても
──では今作のキーである過去のヒット曲をサンプリングするという方向性は、どのように決まっていったんですか?
NOLOV これまでリリースした楽曲……例えば「i&i」(2018年10月発表)や「DON’T WORRY, BE HAPPY」(2019年2月発表)の中にはポップパンクの要素が入っていたんですが、それは自分にとってのルーツなんです。で、そういうふうに自分の中のルーツを引っ張り出してきて作品につなげられるというのは、ヒップホップだからこそだと気付いて、「これは面白え」とめっちゃ興奮したんですよ。「国道9号線」(2020年3月発表)のサウンドも、DOPING PANDAの「thunder」から着想を得てたりして。
──「国道9号線」にはパンキッシュだけどブレイクビーツやエレクトロ的なエッセンスが込められていて、確かにドーパンのサウンドに通じるものがありますね。
NOLOV 「あのミクスチャー感ってJABBAに影響してるよな」と。そういう気付きもあって、今回のアルバムでは自分のルーツを素直に表現しようと思って。カッコつけずに、少年だった俺らは何に痺れて、何にヤられちゃったのか、自分の根っこの部分を思い出そうと。それが俺にとってORANGE RANGEであり、サンボマスターであり、the pillowsであり、スキマスイッチだったよなって。それと同時に、その感覚はシングルではなく、アルバムとして表現しないと絶対に理解してもらえないと思ったんですよね。
──なるほど。あくまで個人的な意見になりますが、メジャー以降のJABBAは迷走していたというか、リリースされる曲にまとまりがなく、散漫な印象がありました。でも今回のアルバムで、これまで別々だった点と点が線になり、さらにそれが面になっていることで、JABBAが表現したかったことを明確に感じました。ヒットソングのサンプリングカバー曲群についても、アルバムにまとめて収録されることでJABBAの意思がしっかり見えるなと。
NOLOV そう言ってもらえてうれしいです。「この選曲は反則だ!」と言う人もいるかも知れないですが。自分のルーツになった音楽だからこそ生半可な気持ちではタッチしていないし、自分が愛を持っている曲なので、胸を張ってサンプリングカバーをお届けできます。
──その一方で、大ネタをサンプリングするということは、同時にそのネタに飲み込まれる危険性も孕んでいると思うんですが。
NOLOV そうですね。だから僕らも何十パターンも作ったし、一時は完全に迷宮入りして……サンプリングも、どのフレーズをどんなふうにエディットするのがJABBAにとっての正解かわからなくなってしまったんです。
BAOBAB MC 最初はサンプリングして、スライスして、エディットしてという組み方で進めていたんですけど、だんだんそこに限界を感じ始めて。で、SUIさんにも参加してもらって向き合い方を変えてみたり。あのときは苦しかったな。
NOLOV SUIさんに、「1回休んだほうがいい」って言われるくらい悩みまくっちゃって(笑)。でも、アドバイス通りにしっかり休んだお陰で、心がリセットされました。で、改めて曲と向き合ったときに「この曲の核はなんだっけ? どういう状況で原曲は作られて、俺は何に対して素晴らしいと感じたんだっけ?」と頭に浮かんできて……「もっとこの曲の中心をつかまなくちゃ」と思ったんです。
──原曲のおいしい部分を単なるサンプリングソースとして選ぶのではなく、原曲の根源を抽出して、それをアウトプットする作業ですね。
BAOBAB MC そうです。フレーズをただ借りてきて、その上にラップで乗って、という話じゃないと、そこでやっと気付きました。
NOLOV とても抽象的な表現になるんですが、曲ごとに自分たちが感動したポイントを洗い出して、そこに真っ向からぶつかるという作業をやり続けた結果、この形になりました。
BAOBAB MC でも、その方向性が見えた瞬間、バラバラに浮いていたものが一気に形になったよね。
NOLOV うん、自分たちでも「なるほど! なるほど!」っていう(笑)。感動的な瞬間だったなあ。
BAOBAB MC 本当に。「苦しんでよかった!」って感じだった(笑)。
カッコよければ正解でしょう
──ちなみに今回サンプリングカバーしたアーティスト以外だと、誰に影響を受けましたか?
NOLOV やっぱりRIP SLYMEとKICK THE CAN CREW、それからBEAT CRUSADERSですね。
──なるほど。ではほかに影響を受けた“青春の音楽”というと?
JUQI 僕の青春の音楽といえば……ASIAN KUNG-FU GENERATIONですね。小中学生の頃から大好きで聴いてたんですけど、改めて振り返ると、僕はアジカンの音楽の暗さに惹かれていたのかなって。アジカンってメロディやノリが楽しそうな曲でも、どこかに寂しげな影を感じさせる要素があると思うんです。当時の僕にはそれがきっと心地よくて、曲を聴きながら「人生っていいことばかりじゃないけど、それでいいんだ」と心が動かされた瞬間があった。それがアジカンの音楽に夢中になった理由なのかなと思いますし、今の自分の感性にもつながっていると思います。あとアジカンのライミングや言葉遊びのスタイルにも惹かれました。そういう意味ではMr.Childrenにも影響を受けているかもしれません。
BAOBAB MC 思春期のとき、僕の中で絶対的なヒーローだったのはhide(X JAPAN)さんです。X JAPANももちろん好きなんですけど、hideさんがいろいろな音楽をやっていたソロ作品やhide with Spread Beaver、zilchもすごく好きで。テクノにも手を出すし、ヒップホップ勢にリミックスを頼んだりもするけど、X JAPANではX JAPANの音を鳴らすし、hideさんのギター自体が彼の音楽そのものになるというスケールにとにかく痺れました。どんな音楽も自分のものに変換できる姿にとにかくワクワクしたし、昔よりも音楽に詳しくなった今、改めてhideさんの存在のデカさを感じますね。
ROVIN 僕はRed Hot Chili PeppersとSOUL'd OUTですね。最近、SOUL'd OUTの曲を片っ端から聴き直しているんですけど、「俺は完全にDiggy-MO'さんに影響受けてますわ」と気付きました。それはラップの節回しだったり、改めて読むと「どういうこと?」という歌詞もカッコよく聴かせればOK、みたいな部分で。JABBAの「新世界」(2019年6月発表)の冒頭、「ハロハロボンジュールこんにちは」という俺のリリックも、「よく考えたら何言ってんの?」って感じですよね(笑)。それでもカッコよければ正解でしょうという意識は、SOUL'd OUTの影響だと思います。レッチリはやっぱりアンソニー・キーディス(Vo)の絶対的存在感。あの人が持っている、ダメなものを全部アリにしてしまうパワーには憧れるし、とにかく痺れます。あの人間性とスタンス……彼は自分にとってのアイドルですね。
10年後の未来でも
──最後にアルバムを完成させた手応えと、今後のビジョンを教えてください。
ROVIN とにかく13曲が13曲とも大切な曲。そういうアルバムを作ることができて、とにかく最高な気持ちです。曲ごとにテーマが異なるけれど、それぞれがいろいろな人の感情や状況にフィットするんじゃないかなと思いますし、俺みたいな奴にこそ刺さってくれたらうれしいなって思ってます。
BAOBAB MC 僕はマスタリングが終わるまで気が抜けなかったし、最後までずっと“残心”の状態だったんです(笑)。今、やっとその余韻が抜けてきて思うのは、今回奇跡みたいなアルバムができたけど、それを1回きりの奇跡にしないで、今後は2回、3回と繰り返し作っていきたい。それぐらいの力をもっと付けていかなきゃいけないなと、改めて制作を振り返って思います。
JUQI このアルバムは、チームみんなで一緒に120%の力を出し切って作ったので、たくさんの人に伝わってくれたらうれしいです。こういうご時世なので、いつライブで直接今回のアルバム曲を披露できるかわからないですが、世界がいい感じに変わったら、このアルバムを持ってまたみんなに会いに行きたいです。
NOLOV 何事もそうだと思うんですけど、1つのものを1人で作っちゃったら、そこに予想外のことは起きない。でも今回僕らには、メンバーがいて、SUIさんがいて、JABBAチームがいて……1つの作品にたくさんの人が参加することで、テーマがどんどん拡張していって、その結果予想外の音楽ができあがるということに気付きました。アルバムのジャケットでも、核となる部分がだんだんと拡張されていって、広く大きくなっていくというイメージが表現されているんですけど、このアルバムが誰かにとってそんなふうになっていったらいいなと思います。それに、今回自分のルーツとなる音楽にしっかりと向き合ってみたら、青春時代と変わらない感情も、まったく異なる感情も浮かび上がってきました。なので誰かがこのアルバムを10年後に聴いたら、きっと今とは聞こえ方が変わると思うし、このアルバムは10年後でもしっかり楽しめる作品になっていると思うので、今だけじゃなく未来でも聴いてほしいです。ただ、俺はこのアルバムで全部出し切ってしまって……今は曲にしたいことが何もない状態なんです(笑)。でもNAOTOさんに、空っぽになったと相談をしたら、「そんなのしょっちゅうだよ!」とおっしゃっていたので(笑)。また何かが僕らの中に生まれるまで、気長に待とうと思います。