ナタリー PowerPush - Jazztronik

活動10年の集大成 アルバム「JTK」誕生

人がふと惹かれるものが“ポップ”なんじゃないかな

——アルバムを作る際にファンの反応を意識することはありますか?

そうですね。やっぱりインディーズで作った1stアルバム(「numero uno」)は僕の趣味なんですよ。その時点ではリスナーの顔は見えていないわけだから。でもやっぱり10年間続けてこられたというのは、ファンの人がいて、そうやって応援してくれてCD買ってくれてライブ見に来てくれたっていうのが大前提なわけで。それがなかったら、もうぜんぜん違うものになっていたかもしれない。でもファンのことばっかり考えてしまって自分が楽しめなかったら意味がないですから。自分が「やったぞ」って思えたものを「これ聴いてください」って渡せないっていうのは一番不幸なことなので、そういうアルバムにはしたくないっていう、そこはまあバランスですね。

——好き勝手やってるように見えるんだけど、絶妙なバランス感覚をキープしているという。野崎さんの中で“Jazztronik”の基準はなんですか?

やっぱりある程度「Jazztronik=ポップなもの」っていう感覚はありますね。あと目標のひとつとして「歌モノとなりうるインスト」っていうのがあるんです。

——それは例えばどういったものですか?

歌はないけどすごく覚えてる曲って意外とたくさんありますよね。作りがコアであろうがなんであろうが、すごくポップに感じられるもの。僕の“ポップ”の解釈はそういうところであって、人がふと惹かれるものが“ポップ”なんじゃないかなって思うんです。極端な話、ドラムだけでわかる曲もあるじゃないですか。例えば「ドンドンパン、ドンドンパン」でわかるでしょ? 「あ、『We Will Rock You』だ」って。

——(笑)なるほど。

あれはちょっと早いもん勝ちみたいなところがありますけど、でもやっぱりああいうのってすごいなって思うんです。ジャズとかパンクとかにもそういう曲はすごくあるし、ホントにギターのワンフレーズのループだけなのにすごくポップな曲もたくさんある。いわゆるJ-POPというポップスのとらえ方だけではなくて、その人が「おっ」と興味を惹かれるポップさっていうのは常に持っていたいなと考えてますね。

Jazztronik写真

——その“ポップ”というキーワードは10年間ブレてないですか?

いや、最初はなかったですね。それが出てきたのはポニーキャニオンでやるようになってからかもしれないです。

——わりと最近ですね(笑)。

うん(笑)。徳間時代に最後に発表したアルバム(「en:Code」)では、自分がやりたいものをボーンと出して、そこである程度1回満足したんです。それでレーベルも変わったし、ぜんぜん違うことやろうというときにそういうキーワードが出てきましたね。子供ジャケの3部作(「Love Tribe」「Beauty - Flow」「Grand Blue」)はすごくポップに聞こえるんですけど、そうではないところも出したいなっていうのが「JTK」ですね。

——先程おっしゃっていた、青山BLUEでいろんなジャンルのクロスオーバーを浴びた原体験から、コアな部分は地続きのようですね。

そうそう。あのときいろんなものに惹かれた感覚が、僕が持ってるポップさなんです。何も知らない10代の少年が「なんだこれ」って惹かれるような部分が音楽には必要なんじゃないかなっていうのは思ってますね。

これからのJazztronik

——10周年を経て、これから先の目標はありますか?

Jazztronikが最終的にどんなものになってるかとかはよくわかんないんですけど、僕が目指したいところは、クインシー・ジョーンズだったり、ミシェル・ルグランだったり、ああいう他を超越した技術とセンスを持っていて、どのジャンルを扱ってもその人のものにしてしまうアレンジ能力とか作曲能力とか、やっぱりああいう音楽家になりたいですよね。クラブミュージックというジャンルは、僕の音楽の中のホントに一部分だし、Jazztronikとして今後どの要素を引っ張ってくるかはまだわからないですけど、どんなジャンルであれ「この人にしか頼めない」と言われる音楽家にはなりたいですよね。

——パブリックイメージ的には、野崎さんはすごくクールで、どんなことも飄々とこなしている印象がありますけど、実際のところはどうなんでしょうか。

どうなんですかね。まあ大変なこともたくさんあるんですけど、それは大変って思ってしまったらおしまいだと思っていて。もちろん寝不足でかったるいなー、スタジオ行きたくねーな、とかはあるしね。それこそアルバム制作の最後のほうになると、まったく寝ないで1週間とか2週間とか続くんですよ。ずっと付いててくれてたスタジオのアシスタント君なんて、アルバムが完成した日に吐血して入院しましたからね(笑)。

——笑いごとじゃないですよね(笑)。

ホントにね、いろんなことがあるんですけど、僕自身よりも周りの人のほうが大変だと思いますよ。

——自分が好きなことに没頭している時間は早く過ぎますからね。

そうなんですよ。たぶんね、担当ディレクターの人はちょっと死を感じたと思います。

スタッフ:(苦笑)。

でも僕が辛そうな感じで「大変大変」みたいになってるといけないと思うんですよ。これは僕が大学を卒業してすぐに一緒に仕事をやらせてもらってた葉加瀬太郎さんの影響が大きいですね。太郎さんの現場っていうのがひたすら明るい現場なんですよ。社会人として初めて見たのがその現場だったというのは、僕にとって一番でかいですね。僕も誰かと一緒にやる人にはそういうムードを提供したいし。ま、眠すぎてクラブでDJやってて明け方不機嫌ってことはありますけどね(笑)。

Jazztronik写真

10th Anniversary Album『JTK』2008年12月17日発売 / 2940円(税込) / PCCA-02799 / Knife Edge

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CD収録曲
  1. Oneness
  2. Click Clock
  3. Black Dragon
  4. L.E.A.P.
  5. Peche Mignon(Album Mix)
  6. Real Clothes(Album Mix)
  7. 情熱
  8. For You
  9. Room #204
  10. ユメノツヅキ
  11. Hayabusa
  12. Reminiscing
  13. JTK
プロフィール

Jazztronik(じゃずとろにっく)

サウンドプロデューサー、リミキサー、DJなど、多方面で活躍する野崎良太のプロジェクト。1998年より活動を開始し、2003年にアルバム「Horizon」でメジャーデビュー。ジャンルにとらわれない自由な音楽性で各界から注目を集める。

また、葉加瀬太郎、Mondo Grosso、m-flo、TRF、ゴスペラーズ、中島美嘉といったアーティストとのコラボレーションも数多く実現し、国内のみならず海外からも高く評価されている。

2008年12月17日に、活動10周年を記念したニューアルバム「JTK」をリリース。本作では小泉今日子、JUJU、安田寿之、武田真治、為岡そのみ、有坂美香(Reggae Disco Rockers)らをゲストに迎えている。