ナタリー PowerPush - Jazztronik

活動10年の集大成 アルバム「JTK」誕生

なんでもかんでもフィーチャリングするっていうのは好きじゃない

——ニューアルバム「JTK」では、今回もボーカルを含めさまざまなゲストアーティストが参加していますね。小泉今日子さんが歌っている「Click Clock」は、小泉さんのボーカルスタイルにあわせて作曲したんでしょうか?

もともとストリングスを入れたミニマルテクノっぽいインストを作ってたんですけど、あるとき「こういうのに日本語を乗せたらおもしろいかな」と思ってメロディを付けてみたんですね。でもなかなかどんな声が合うのかが浮かばなくて。オケのイメージに勝つ声を考えているうちに、いちばんしっくりきたのが小泉さんの声だったんですよ。この曲は、オケだけ聴くともう別の曲なんです。あの存在感のある声が入ったとたんに、あの人の世界観になっちゃうんですよ。それがすごいなと思いましたね。

——ほかの参加アーティストに関しても、やはり曲にあわせたオファーを?

そうですね。僕は「その人が歌ってくれるから意味がある」っていう場合しか頼まないようにしてるんです。なんでもかんでもフィーチャリングするっていうのはそんなに好きじゃない。有坂美香(Reggae Disco Rockers)さんやJUJUさんも曲のイメージからオファーしました。

——小泉さんとJUJUさんの2曲は、安田寿之さんがアレンジに参加されてますよね。これは2人で同時に作業を進めたんですか?

僕が作り上げたトラックに、あとで安田さんが色づけをしてくれた感じですね。どちらの曲もそうです。

——この2曲は特に、今までのJazztronik作品と違った方向性が打ち出されているというか、良い化学変化が起きている印象がありますね。

それはやっぱり安田さんの個性が強いんですよね。安田さんが入れてくれたちょっとピコピコした音を抜くと、思いっきり今までどおりのJazztronikなんですよ。僕としてもそこに違う要素を入れたくて、それで安田さんにお願いした感じです。

——「L.E.A.P.」に参加されている武田真治さんは、もともとミュージシャンとして接点があったんですか?

武田さんは今年の頭に放送された「未来講師めぐる」というドラマの打ち上げが初対面です。僕はこのドラマの音楽をやっていて、武田さんは役者で。このドラマの打ち上げ会場で、急遽僕と武田さんがセッションすることになったんですよ。そのとき一緒にやって「あ、武田さんすごいサックス吹くんだな」と思って(笑)。

——ドラマの面白おかしいキャラとは全然違う(笑)。

それで今年7月にリリースしたミニアルバム「Repro」の「MEGURU」っていう曲で武田さんに吹いてもらったんです。武田さんの独特な吹き方っていうのがすごい好きで。今回もすごく忙しい中でやって下さいました。

この「バラバラ感」こそがJazztronik

Jazztronik写真

——アルバム全体を見ると、かなりバラエティに富んでますよね。これは始めからそういうバランスで考えてたんですか?

「Jazztronikが持っているものってなんだろう?」と考えたときに、やっぱりありとあらゆる音楽をやっていくのがJazztronikだなと。だからすごく言葉的には変なんですけど、その「バラバラ感」にはすごく気を遣って作りましたね。

——歌モノとインストのバランスも含めて?

そうですね、それも半々くらいになるといいなと思って。

——1曲目の「Oneness」はガチガチのフロア向けサウンドなのに、終盤12曲目の「Reminiscing」は王道的なジャズバラードという、それぞれが別のアーティストの楽曲といっても不思議ではないぐらいの違いがありますよね。ここまで振れ幅のあるアルバムはそうそうない気がします。

うん。僕の中ではね、バラバラながらも流れができてるなと思ってたんですけど……でも最後まで聴くと、最初の方とか忘れてるんですよね(笑)。

——このバラバラな流れがあって、最終的にさまざまなジャンルが融合されたタイトル曲「JTK」で締めるのがJazztronikらしいなと思って。このアルバムを締めるのはこの曲しかない、という感じですか?

まさに。この曲が最近、僕のテーマ曲のようになっていて。テーマ曲と言っても、目立ったメロディがあるとかではないんですけど。この中には僕がもともとやりたかったものがすべて詰まっているんです。ジャズだったりテクノだったりハウスだったり、ブレイクビーツだったり。これは10年前には表現できなかったものですね。

——さっきスタッフさんに「野崎さんはレコーディング作業を、マスタリングの段階ギリギリまで作業をやってる」という話を聞いたんですけど。

いつもそうなんですよ。なんでそれがもっと計画的にできないのかなと。とうとうマスタリングエンジニアの人に「長く続けたいんだったらもっとちゃんと計画的にやったほうがいいよ」って言われて。田中さんっていう、日本で一番リスペクトされてるエンジニアさんのひとりなんですけど、彼はいろんなことをアドバイスしてくれるんです。けど……田中さんがとうとう言ってましたね。「また朝まで!!」みたいな(笑)。もっとよくなるんじゃないかとギリギリまで考えてしまうんです。単純に欲張りですね。

——今回のために作った曲の中に、アルバムから漏れてしまったものもありますか?

5曲くらいあります。いや、5曲どころじゃないかな……。それは完全にクラブトラックなんですよ。ビートと効果音のみ、とかそんな勢いのものもあるし。そういう振り切れた曲は来年まとめて出そうかと思って。

——「JTK」というアルバムは、これが理想型ということですよね。

そうですそうです。ホントここまで「できた!」と思えたアルバムは初めてかもしれないですね。ファンの人たちにもきっと楽しんでもらえるだろうし、僕自身も楽しめるって意味で。うん。アウトテイクも出したいけれど、こっちはシカトしてもらっていいんです。僕の趣味なので(笑)。趣味だけど好きな人もいるかなーみたいな。

10th Anniversary Album『JTK』2008年12月17日発売 / 2940円(税込) / PCCA-02799 / Knife Edge

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CD収録曲
  1. Oneness
  2. Click Clock
  3. Black Dragon
  4. L.E.A.P.
  5. Peche Mignon(Album Mix)
  6. Real Clothes(Album Mix)
  7. 情熱
  8. For You
  9. Room #204
  10. ユメノツヅキ
  11. Hayabusa
  12. Reminiscing
  13. JTK
プロフィール

Jazztronik(じゃずとろにっく)

サウンドプロデューサー、リミキサー、DJなど、多方面で活躍する野崎良太のプロジェクト。1998年より活動を開始し、2003年にアルバム「Horizon」でメジャーデビュー。ジャンルにとらわれない自由な音楽性で各界から注目を集める。

また、葉加瀬太郎、Mondo Grosso、m-flo、TRF、ゴスペラーズ、中島美嘉といったアーティストとのコラボレーションも数多く実現し、国内のみならず海外からも高く評価されている。

2008年12月17日に、活動10周年を記念したニューアルバム「JTK」をリリース。本作では小泉今日子、JUJU、安田寿之、武田真治、為岡そのみ、有坂美香(Reggae Disco Rockers)らをゲストに迎えている。