楽曲やライブなどを通じてリスナーの生活に潤いを与えてくれるアーティストやクリエイターは、普段どのようなことを考えながら音楽活動を行っているのだろう。日本音楽著作権協会(JASRAC)との共同企画となる本連載では、さまざまなアーティストに創作の喜びや苦悩、秘訣などを聞きつつ、音楽活動を支える経済面に対する意識についても聞いていく。第3回はバスジャックライブや無人島ライブなど、オリジナリティあふれる活動を続け、株式会社会社じゃないもん会長の顔も持つ眉村ちあきが登場。「世界のトップスターになりたい」と言うものの「お金持ちになりたいわけじゃない」と語る彼女が音楽家として本当にやりたいこととは。
取材・文 / 森朋之撮影 / 大槻志穂
プロフィール
眉村ちあき(マユムラチアキ)
アイドル、シンガーソングライター、トラックメイカー、実業家。“弾き語りトラックメイカーアイドル”を自称している。2016年に眉村ちあき名義でソロ活動を開始。2017年に株式会社会社じゃないもんを設立し、現在は取締役会長を務めている。2019年にTOY'S FACTORYからメジャーデビュー。2023年5月にアルバム「SAI」をリリースし、同月から全国ツアー「CHIAKI MAYUMURA Tour “一切合SAI”」を開催中。11月24日に神奈川・横浜BAYSIS、12月8日に東京・恵比寿ザ・ガーデンホールで追加公演を行う。
すぐにテイラー・スウィフトみたいになる予定だった
──まずは株式会社会社じゃないもんの取締役会長への就任、おめでとうございます(参照:眉村ちあき、株式会社会社じゃないもんの取締役会長に就任)。
ありがとうございます! 最近アーティストの方でも社長をやる人が増えてきて珍しくなくなったので会長になることを思いついたんですけど、実は3年ほど前に音楽ナタリーの取材を受けたときに「3年後くらいに会長として生きていこうと思います」と話していたみたいで(参照:アーティストの音楽履歴書 第19回 眉村ちあきのルーツをたどる)。ファンの方に「眉村さん、有言実行じゃん」と言われて、「あ、ホントだ」って思いました(笑)。
──会社じゃないもんの設立は、眉村ちあきさんが音楽活動を始めた翌年の2017年です。どうして会社を作ろうと思ったんですか?
音楽活動で貯めたお金が25万円くらいあったから、何か面白いことに使いたかったんです。ミュージックビデオを作るとかホームページを立ち上げるのは普通じゃないですか。そしたら知り合いのおじさん(編集部注:ライブハウス「阿佐ヶ谷家劇場」を運営する石阪勝久氏)が「会社作れば?」と言ってきて、「それだ!」って。とりあえず会社を作って、そのおじさんに取締役になってもらったのが始まりです。あと、経理とかに時間を取られて、「曲を作るどころじゃないじゃん! マジ本末転倒だよ!」という日々が続いていて、1人で活動することに限界を感じていたんですよ。ライブの物販も自分でやっていたんですけど、お客さんが増えてくるとお金の計算も適当になってきて、「来てくれてありがとう」ってお礼を言う余裕もなくなるので、これは手伝ってくれる人が必要だなと。今はたくさんの人たちが手伝ってくれているので、本当にありがたいですね。
──最初は本当に1人だけで活動していたんですね。
はい。例えばグッズのTシャツを作るときも、作ってくれそうな会社に「こんにちは。Tシャツ作りたいんですけど、どうしたらいいですか」って自分でメールを送っていました。「これくらいのデザインだったら、これくらいの費用や期間でできるはず」というのがちょっとはわかるので、役には立ってると思いますけどね。何も知らない頃にだまされたこともあって。自分のバイト代が吸い取られただけだからよかったですよ。お客さんを呼べるようになったあとにだまされていたら、ファンの皆さんのお金を取られるところだったので。
──なるほど。当時から音楽を仕事にしたいと思っていたんですよね?
めっちゃ思ってました。世界のトップスターになって、セレブの仲間入りをするつもりで音楽活動を始めたので(笑)。最初に思い描いていたのは、ボーカルの学校に通って、みんなの前で歌った瞬間から問い合わせが止まらなくなるっていう……。
──「すごい歌だ! 誰だ、この子は!?」みたいな?
そうそう。天才がいる!って(笑)。レコード会社からバンバン電話がかかってきて、「まあ、入ってもいいよ」って感じでデビューして、すぐにテイラー・スウィフトみたいになる予定だったんですけど、そうならなくて。「あれ? 想像と違うな」と思いました。
誰もやってないことはワクワクする
──その後、個性的な楽曲とライブ活動で注目されていきます。バスジャックライブ、無人島での自主企画ライブなども開催しましたが、誰もやっていないことに挑戦するのはどうでした?(参照:眉村ちあきの新宿バスジャック、現場には“共演NG”シバノソウの姿も)
大変だと思ったことはなくて、ワクワクしてましたね。誰もやったことがないことをやりたかったし、周りのスタッフも同じような人ばかりだったので。私、赤字になってもそれを補填するイベントをやればいいと思っていて、それは昔も今も変わらないですね。やりたい企画をスタッフに伝えたときに「それは赤字になりますね」と言われると、「私がUber Eatsで働くからやらせて」って言います。「いやいや、眉村さんは曲を作ってください」って返されますけど(笑)。
──(笑)。眉村さんのユニークな活動は、「誰もやってないことをやりたい」という気持ちが強いんでしょうか?
それもあると思います。ほかの人と同じことをやっても面白くないし、もしすでにやってる人がいたら私なら元祖のほうを見ると思うので。スタッフさんと会話をしていると、「こういうところでライブやったら楽しそうだな」とか、アイデアはどんどん出てくるんですよ。連想ゲームじゃないけど、例えば「お風呂場って声が響くよね。ああいう感じでライブやりたい」と言ったら、「銭湯を貸し切りにするのはどうですか?」と提案してくれたり。だからこそ、思いついたアイデアはとりあえず言うようにしています。実現できるかどうかはさておき。
──眉村さんの発想を面白がってくれるチームなんですね。眉村さんの企画はとても感性豊かなものですが、一方でそれを広めるための合理的な思考もありますよね。例えばテレビ東京のバラエティ番組「ゴッドタン」に初出演して注目されるであろう日に、YouTubeにMVをアップするとか。
そういうことを考えるのも好きですね。でも、事前にちゃんと準備しているわけではなくて、ライブやテレビ出演のときに急いで解禁できる情報を用意することも多くて(笑)。「みんなが注目してるときに、何か発信しないともったいない」というか。つい先走ってファンのみんなに「次はこれをやります」と言っちゃいがちなんですよ。だからよくスタッフに「早まるな」って注意されます。
メジャーってこんなことするんだ!?
──「ゴッドタン」への出演がきっかけで2019年5月にアルバム「めじゃめじゃもんじゃ」でメジャーデビューしました。メジャーレーベルに所属したことで、活動の幅は広がりましたか?
「今まで自分で掘ってきた場所じゃないところにも届いてるな」という感覚はすごくあります。「どこで私のファンになったんだろう?」と思うことも多いし、メジャーレーベルは発信のパワーが違うなと。あとMV撮影の現場に人がいっぱいいるんですよ! 「大丈夫」のMVを撮ったとき、部屋のセットを作ってくれたんです。「メジャーって、こんなことするんだ!?」ってびっくりしました。前回のツアーのファイナルのときに「ピザ窯から登場したい」と言ったら、本当にでっかいピザ窯を用意してくれたし。すごいですよね。
──楽曲制作に関してはどうですか?
自分で作詞作曲して、打ち込みもやるスタイルは変わってなくて。作りたい曲を作って、入れたい音を入れているだけなんですけど、相談する相手が増えましたね。以前は自分と自分が話し合って決めてたんですけど、スタッフさんに「どう思いますか?」って聞いたり。あと、編曲家の方につないでもらって、「私の引き出しにはないので、お願いします」といろいろ教えてもらうこともあります。一番びっくりしたのは、タイアップですね。初めてタイアップのお話をいただいたときは、「こんなに縛りがあるんだ!?」と思いました。それまでが自由すぎたのもあるんですけど(笑)、「バラードでお願いします」「こういう言葉を入れてほしいです」など、けっこう具体的に指定されて、最初は大変でした。今は超楽しいです(笑)。ハードル走みたいというか、与えられた条件を全部クリアするゲームみたいだなって。
──テーマを与えられることで、新しい曲調も生まれるでしょうし。
そうですね。日本唐揚協会からオファーをいただいて、「KARAAGE WARS」という曲を書き下ろしたことがあって。唐揚げというテーマで曲を作るなんて、お話をいただかない限りそうそうないじゃないですか(笑)。「こういうお仕事もあるんだな」ってめっちゃ勉強になりました。
みんなが私に求めているものは
──それも眉村さんにしかできない活動だと思います。ストリーミングなどでよく聴かれている曲も、すごく個性的ですよね。例えば「顔ドン」もそうだし。
「顔ドン」は「おじさん」という曲がもとになってるんですよ。「おじさん」は年上の男性に恋する女の子のラブソングなんですけど、MVを撮ったときに「こういうシリアスな映像でめちゃくちゃフザけた音が鳴ってたら面白そう」と思って。レコーディングスタジオでいきなり思いついて、「今から新曲を作るから、ちょっと待ってて」ってスタッフに言って、その場で作った曲なんですよ。3、4時間くらいでできました。
──すごい(笑)。先ほど話に出た「大丈夫」も人気曲ですね。
「大丈夫」は「ゴッドタン」の企画で作りました。収録中に作ったので、この曲も全然時間がかかってないですね。時間をかけないで作った曲のほうが人気が出るのかな(笑)。
──即興ソングなんですね。「今生きてる声を聞かせてくれたなら / そのことだけで充分だ」という歌詞にグッと来ます。
収録の前の日、すごく怯えていたんですよ。ゲストの愚痴を聞き、背中を押す1曲を即興で歌う「スナック眉村ちあき」というコーナーを用意していただいたんですけど、めちゃくちゃ心配で。前日に仲良しのライブハウスの人に会ったときに「劇団ひとりさんとか、おぎやはぎさんとかすごい人ばっかりいて、その中で面白いことなんか言えないよ」って超バッド入ってたら、「ちあきが求められているのは面白さじゃなくて歌だから」と言われて。「あ、そうだった」と(笑)。それが歌詞にも反映されているんですよね。「大丈夫」の「周りが求めているものは違う」とか。
──普段の活動で自分に求められるものを意識することもありますか?
ありますね。結局みんなが求めているのは、“私がやりたいことをやってる姿”だと思うんですよ。私のファンの一番の望みは、私が幸せに音楽活動することというか。……ただ、頭ではわかっているんだけど、フェスとかに出ると余計なことを考えちゃいますね。「この曲をやったほうがいいかな」とか「MCで毒を吐いたほうがいいかな」とか。やりたいようにやればいいのに、気になっちゃうこともあります。
──毒舌キャラでやってるわけじゃないよ、と。
そうなんですよ。街で「眉村ちあきだ! MCが面白い人ですよね」って言われることがあるんですけど、私としてはMCを面白くしようと思ってるわけではなくて、曲を聴いてほしいんですよ。まあ、最後は「自分がやりたいことをやろう」ってなるんですけどね。
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目標は小林武史さん! 先週から
2024年3月28日更新