ももいろクローバーZの佐々木彩夏が総合プロデューサーを務める浪江女子発組合が1stアルバム「花咲む」をリリースした。
浪江女子発組合は「浪江発の風に乗せて、あなたに届きますように」をキャッチフレーズに掲げ、福島・双葉郡浪江町を中心に活動しているアイドルグループ。2019年11月に浪江町で行われた「復興なみえ町十日市祭」にてお披露目された。佐々木は“ピンクプレイングプロデューサー”、PPPという肩書きでメンバーとしても活動。メンバー構成は佐々木のほか、同じくスターダストプロモーションのアイドルセクション「STARDUST PLANET」に所属するAMEFURASSHIの愛来、市川優月、小島はな、鈴木萌花、B.O.L.Tの内藤るな、高井千帆、元Awww!の播磨かなの8人からなる。
「花咲む」はグループとしての花を咲かせ、浪江女子発組合が全国各地へ笑顔を届けたい、たくさんの人の笑顔を咲かせたいというメンバーの思いが込められた作品。浪江町の行事などをテーマにした楽曲全11曲が収められている。音楽ナタリーではメンバー全員へのインタビューを行い、浪江町やこのグループでの活動に対する思い、アルバム収録曲の聴きどころなどを語ってもらった。また特集の後半には、佐々木プロデューサーが各メンバーの魅力を語るコーナーも掲載する。
取材・文 / 近藤隼人撮影 / 梁瀬玉実
最初の1年はあまり距離が縮まらなかった
──まず、PPPである佐々木さんから浪江女子発組合の結成の経緯について簡単に紹介してもらえますか?
佐々木彩夏 ももクロが毎年恒例のライブ「春の一大事」を開催するにあたり、協力してくださる自治体の皆さんを募集したところ、たくさん応募いただいた中で、浪江町、楢葉町、広野町の皆さんと一緒に福島のJヴィレッジでライブをやらせていただくことなったのが交流の始まりです(「春の一大事」は2020年4月に開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2022年4月に延期)。浪江町の役場の方から「『春の一大事』とは別にもっと交流ができませんか?」というお誘いをいただいたのを受け、事務所の後輩を集めてもう1つグループを結成して、ももクロではできない活動ができたらいいなとマネージャーさんと話して結成に至ります。
──佐々木さんが総合プロデューサーを務めることもそのときから決まっていたんですか?
佐々木 グループを結成することになったとき、誰にメンバーとして入ってもらうか、どんな衣装や楽曲にするか、どういう活動をやっていくのかを決める打ち合わせに、私も自然な流れで参加させてもらうようになって。それで「プレイングプロデューサー」という肩書きを付けてもらうことになったんです。
──佐々木さんはこれまで自身のソロコンサートやソロアルバムをセルフプロデュースしてきましたが、グループを手がけることにももともと意欲があったんでしょうか?
佐々木 うーん、自分のことで精一杯ですし、新しいグループを作るのが夢だったというわけではないんですけど、自分の意見が活動に反映されることにやりがいは感じますね。後輩たちと一緒に活動するのも楽しいですし、みんなのいいお手本になれたらなと思っています。
──後輩の皆さんにとって佐々木さんは憧れの存在ですよね。同じグループのメンバーに誘われてかなりドキドキしたんじゃないですか? 2年近く一緒に活動してきて今はもう慣れたかもしれないですが……。
市川優月 いやいやいやいや!
播磨かな 今もです! 一生慣れないです(笑)。
愛来 最初はやっぱり不安でした。ライブでバックダンサーとしてお世話になったことはあるけど、同じ立場になってパフォーマンスしたり、一緒に活動したりしたことはなかったので。
高井千帆 あーりん……当時はあーりんさんと呼んでいたんですけど(笑)、あーりんが同じグループで活動してプロデュースしてくださると聞いたときは、どういうことだろうと驚きました。バックダンサーやオープニングアクトとしてご一緒させていただくだけでもありがたいことだったのに、さらに距離が近付くということで……一緒にレッスンをやるのかなとか、考えれば考えるほど現実味がなさすぎて。町を盛り上げるという活動も初めてでしたし、どっちかと言うと楽しみというより、不安というか、自分に何ができるだろうという思いが最初はありました。
佐々木 ももクロと後輩という形で共演するときは別々にレッスンして、現場のリハーサルから合わせることが多かったんです。楽屋も違うし、裏でずっと一緒にいることはなくて。7、8年前からの先輩後輩という関係が定着しすぎちゃってたので、浪江女子発組合の活動を始めたときはやっぱり変な感じでした(笑)。
──今はさん付けせずに、メンバーみんな「あーりん」と呼んでいるんですか?
播磨 はい! あーりんって呼ばせてもらってます! さん付けは禁止なんです。
高井 1人だけ師匠って呼んで、呼び捨てから逃げてるメンバーもいるんですけど(笑)。
内藤るな 私です(笑)。あーりん師匠と呼ばせていただいてます。最初はあーりん師匠さんと呼ぼうと思ってたんですけど、さすがにそれは長いなって(笑)。
──なるほど(笑)。同じグループのメンバーとしての関係性も、少しずつは築けてきました?
愛来 そうですね、最初よりは(笑)。
佐々木 みんなAMEFURASSHIやB.O.L.T、私はももクロの活動があるので、だいたい月1、2回くらいの活動頻度だし、結成してすぐコロナ禍になってしまって。最初の1年は正直、あまり距離が縮まらなかったです(笑)。
市川 3B juniorという直系の妹分グループとして活動していたので、自分たちからはやすやすと話しかけに行かない暗黙のルールみたいなのがあったんですよ。なので、浪江女子発組合として一緒に活動することになったときに、「果たして話しかけに行っていいのか……?」と悩みました。
内藤 一旦メンバー同士で会議してね(笑)。いつ話しかけに行くかを。
市川 LINEを交換したあとも、「メッセージこれで大丈夫かな?」って。
愛来 「一斉に送る!?」って相談したり(笑)。
佐々木 LINEのグループに私を招待していいのかわからなかったみたいで(笑)。私としては全然気兼ねなく話しかけてほしいんですけど、今まで事務所内での交流がたくさんあったわけでもないですし、スタプラ自体、どこからどこまで敬語、みたいなルールがかなりぬるっとしていて。
市川 でも、そのいいゆるさがあるのはももクロさんのおかげだと思います。
佐々木 先輩風を吹かせるのも得意じゃないし、私もどういうふうに接したらいいのか最初は悩んだんですけど、浪江町に行くまでの移動時間を一緒に過ごしたり、レッスンをしたりしているうちにじわじわと距離が縮まってきましたね。
いつもと違った姿を見てもらいたい
──佐々木さんのPPPとしての仕事は、先ほど話に出たように活動の方向性や衣装、楽曲についてのプロデュースがメインですか?
佐々木 はい。浪江町の皆さんのお手伝いをさせていただくというのがグループの一番のコンセプトなので、どんな活動ができるのか、浪江町の役場の方とお話しさせてもらっています。あとは歌割りをスタッフさんと一緒に考えたり、メンバーの生写真をチェックしたりもしています(笑)。
播磨 えー! 生写真も!?
鈴木萌花 知らなかったー。
小島はな だから全部かわいいんだ。
──ビジュアル面に対してのこだわりが強いんでしょうか。
佐々木 そうですね。ジャケット写真や衣装についてはデザインの段階から話し合っています。最初に役場の皆さんと相談したときに、やっぱり奇抜な色やすごく短いスカートはイメージに合わないし、見る人がびっくりしちゃうから清楚な感じがいいですねという話になったんです。それに、浪江町の皆さんに楽しんでいただきたいという気持ちに加えて、普段から応援してくださってるファンの皆さんに、このグループでしか見られないようないつもと違った姿を見てもらいたい、それによってパフォーマンスの幅を広げていきたいという思いもあります。ももクロだったらそれぞれにメンバーカラーがあってカラフルですけど、このグループでは浪江町の花であるコスモスのピンク色で統一したり、スカートを長くしたりして。
──楽曲についてこだわっていることもありますか?
佐々木 コールの入れやすさとかはそんなに考えてなくて、初めてライブを観る方にもわかりやすい音楽を意識していますね。歌詞については浪江町のお祭りや行事をテーマにしたものが多くて、毎回役場の方に確認してもらっています。それでいて、前に向かって歩き出そうという前向きな曲が多いですね。AMEFURASSHIのメンバーは特に普段と違う一面が見えると思います。
──確かにAMEFURASSHIの音楽やビジュアルはクールでスタイリッシュなものが多く、浪江女子発組合とは逆方向に位置していますね。
愛来 真逆ながらも、浪江女子発組合の活動もすごく楽しめています。私自身はカッコいい曲が好きなんですけど、応援してくださってる方はかわいい方向のものも見たいだろうし、いろんな私を見せられるのが楽しいです。もちろん大変さもあるんですけどね。あーりんやB.O.L.Tの2人、播磨がかわいい仕草をしているのに対して、AMEFURASSHIはちょっと……(笑)。
市川 そこに播磨は入れなくていいよ。
播磨 いやいやいや、入れといてください!
鈴木 普段、AMEFURASSHIではカッコいい系のスタイルで活動している中、私は個人的にかわいい衣装も着たいんですよ。浪江女子発組合は衣装がピンクだし、曲も清楚でかわいいから、「私、アイドルだ!」という気持ちになれて楽しいです。
愛来 まるでAMEFURASSHIがアイドルじゃないみたいな言い方(笑)。
市川 そういう意味では、はなが一番ギャップがあるんじゃない?
小島 私はAMEFURASSHIだとボーイッシュなビジュアルで活動しているので、浪江女子発組合でピンクの衣装を着ると「私って女の子だったんだ」と再確認できます(笑)。かわいいアイドルとして活動できて楽しいですね。
──そのスイッチの切り替えは自然とできるものなんですか?
小島 いや! 座ってるときに足を開いちゃったりするので、浪江女子発組合のときは女の子らしくするように意識しています。
佐々木 それは普段から気をつけてほしいな(笑)。
愛来 笑い方も普段とは違って、「ふふふ」って笑ったり。
播磨 それは逆に不自然だよ!
──AMEFURASSHIはメンバー全員がそろって2つグループを兼任しているわけですが、なかなかレアなケースですよね。
市川 みんなで気持ちをわかり合えるので安心感がありますね。私はメンバーに助けられがちなタイプなんですけど、浪江女子発組合として活動しているときに不安なこと、AMEFURASSHIで活動しているときに不安なこと。どちらに対してもメンバーに寄り添ってもらえるんです。
アイドルとしての震災との向き合い方
──B.O.L.Tから参加している高井さん、内藤さんは、普段の活動とのギャップを感じることはありますか? B.O.L.Tではメロコアやメロディックパンクを中心とした楽曲が多いですが。
高井 やっぱりコンセプト的に全然違いますし、今までのアイドル活動の中でもここまで清楚で王道なグループを経験したことがなくて。いざロングスカートをひらひらさせる振り付けをやってみると意外と難しいんですけど、王道をやれる喜びがありますね。あと、B.O.L.Tはメンバー間に年齢差がありますが、浪江女子発組合は同世代の子が多いので、レッスンやライブの雰囲気も全然違って、すごく刺激をもらってます。
内藤 師匠のお姿を見ながら、あやなのちゃん(B.O.L.Tの中学1年生メンバー・青山菜花、白浜あや)に教えられるものがあるんじゃないかと思っていろいろと吸収しています。あやなのちゃんはライブのたびに「浪江さんがんばってください!」というLINEをくれるので、毎回それに癒やされてます。
佐々木 かわいいー!
高井 2人も楽屋で「ミライイロの花」を踊ってくれてるよね。
内藤 やっぱり2人もこういうグループに対して憧れがあるみたいですね。
──播磨さんは昨年7月に浪江女子発組合に途中加入しましたが、12月の東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)公演のMCで、普段の明るい様子から一転、「自分がこのステージに立って歌って踊ってることが夢みたいで」と涙していたのが印象的でした(参照:あーりんプロデュース浪江女子発組合、組合員みんなと共有した浪江町への“あいのりきっぷ”)。所属していたAwww!が昨年活動を終了した中、再度アイドルをやれる喜びが大きかったんでしょうか?
播磨 そうですね。それに、あとからグループに入るってこんなに大変なんだと感じて、今までにないくらい緊張したんです。「これが浪江女子発組合だ」というイメージができあがっている中での加入だったので、どうしたらいいんだろうと不安になって。私はこのままでいけばいいのか、それとも別人に変わったほうがいいのか、いろいろ考えたんですけど、あーりんをはじめとするメンバーが今までと同じように接してくれて、「このままでいいんだ」と安心しました。LINE CUBE SHIBUYAではみんなと一緒にファンの方の前で歌って踊ることの幸せを改めて実感して、その喜びと感動で涙が出てきました。
──その結果、播磨さんらしい圧の強いキャラクターは浪江女子発組合のライブでも健在で、グループの中でいいアクセントになってますね。
佐々木 違和感なく入ってきてくれて、みんな3B juniorの頃から一緒に活動していただけのことはあるなと思いました。浪江女子発組合は結成当初、浪江町でのライブしか活動がなかったのもあり、トークで話すことが震災のお話が多くて。私は東北の震災が起きたときはもうももクロとして活動していて、アイドルとしての震災との向き合い方や思いがある程度定まっていたんですけど、年齢が7歳くらい違うと当時の記憶も震災との向き合い方も違うじゃないですか。だからみんなこの活動をするようになって、最初はトークの内容に難しさを感じていたと思うんです。でも、2年やってきて、東京でのイベントの開催やアイドルフェスへの出演が増えてきた中で播磨が入ってきてくれて、ライブでのメンバーのはっちゃけ度合いや勢いがより増したんじゃないかなと思います。播磨はこの間初めて浪江町にも行きましたし、これから震災について話す機会も増えていくと思うので、ここからまたいろいろ感じてくれたらと思います。
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浪江女子発組合で最初に悩んだこと