ナタリー PowerPush - 泉 沙世子
悔しさを原動力に進む「カス」の歌
デビューという夢をつかんだなりの苦悩
──タイトルはとてもインパクトがありますが、どうして「カス」にしたんですか?
この曲をリリースするにあたって「なんでカスなん?」とか「タイトル変えたほうがいいんじゃない?」って言われたりするんですけど、実はそれまで自分では全然普通やと思ってて。むしろ「そんなに言う?」みたいな(笑)。
──そうなんですね。
もともとはただパソコンに途中保存するとき、“こういう曲”って記憶が呼び起こしやすいようなタイトルを付けたのが本決定しただけ。「カス」も人に見せる用じゃなく、ホンマにそんな感じで付けたタイトルだったんです。
──ちなみに「カス」という言葉は「まるで私が根性なしのカスに思える」と自身を卑下する表現として歌詞に登場しますが、現在はいかがでしょう? 現状に対する不満やもどかしさ、焦りはありますか?
本質的にそういう人間だっていうのもあると思うんですけど、この歌詞みたいな気持ちは今のほうが大きいと思いますね。
──へえ、それは意外です。逆かと思った。
デビュー前と状況は違うし、もちろん前進してるんでしょうけど、今はデビューという夢をつかんだなりの苦悩みたいなものがあって。夢を形にしたら今度はその結果を出さないといけないし、その期限も限られてる。ずっとデビューを目指してやって来て、いざそのゾーンに入ったら次はタイムリミットまでのスタートが切られちゃった感覚。なんだか、より現実的になった気がします。私も意外だったんですが、正直デビュー後のほうが危機感が大きいんですよね。
──デビューしてホッとするかと思いきや。
余計アセる!みたいな(笑)。しかも時間が経てば経つほどその気持ちは膨らんでます。でも、そういう意味でいうと「カス」は今リリースできてよかったのかなって。この気持ちはデビュー曲やその直後だとちょっとズレがあったかもしれないし。
「演技やりたい……やりたいなあ……やろ!」って
──「カス」が主題歌になっている映画「ヨコハマ物語」には、なんと泉さんも女優として出演しています。初めて演技の仕事に挑戦したそうですね。
はい。お芝居は……中学の文化祭以来でした(笑)。
──出演が決まったときはどうでしたか?
最初は「主題歌が決まりそう」とだけ聞いて、よかったなーって喜んでたら「出演も決まりそう」って言われて「え!?」みたいな(笑)。まさかすぎて耳を疑いました。しかも街の路上ミュージシャン役みたいな感じだろうと思ってたのに、役名もあるわセリフもあるわで。心境としては「どうしよう!?」以外の何物でもなかったです。
──まあ、そりゃそうですよね(笑)。
でも私、もともと映画が好きで、休みの日は映画館へ行ったりDVDを大量に借りて家で観てるんです。で、撮影の1~2カ月前にある映画を観たときに、「演技やりたい!」って思って。そんなことを思ったのは本当に初めてだったんですけど、特に理由もなく「演技やりたい……やりたいなあ……やろ!」って。
──「ヨコハマ物語」の劇中のライブシーンは、「カス」のPVともリンクした映像になっていますね。
はい。ライブシーンは映画のワンシーンでもあったからカメラがすごく多かったし、お客さんも入ってくれてて。逆にそれ以外の私の表情を切り取ったシーンは、あえて監督とカメラマンさんと私の3人という状況で撮影したんです。この歌って本当に平凡でありふれた感情で、全然ドラマティックでもないし、日常感のある歌だと思うんですよね。1人のシーンではそれが表現したくて。
ほかのことは歌を認められて確立させてから
──今回の映画出演を機に、またお芝居の仕事が来たらどうします?
お話をいただけるのなら、またやってみたいですね。
──もし仮に、女優としての才能が開花して、お芝居が音楽以上に評価されるようなことがあったら?
うーん、その仮定に対して話すの、めっちゃ恥ずかしいですね(笑)。でもたぶん、演技に限らず文を書いたり絵を描いたり、作ることは基本的に好きなんですよ。あと考えることも好き。もともとはその2つって一緒ですよね。1つの頭の中から出たものの量が多かったら本になるし、瞬発力を求めるなら歌かもしれへんっていう。だから演技に限らず、求めてくれる人がいるならいろんな表現はしてみたいなって思いますね。女優になる想像はできないですけど(笑)。
──じゃあもしほかの表現をすることになったら歌はどうしますか? 一旦お休み?
いや、もちろん続けますね。私の場合、道が二股になることはなくて、そこには絶対に歌が通ってると思います。去年からやってる絵の仕事(「泉 沙世子通信(仮)」)や今回の映画も、あくまで歌手の泉 沙世子っていうのがあるから許されるラインだと思っていて。だからほかのことをやるにしても、ちゃんとその間口になってくれる歌を認められて確立させてからじゃないと。ただ、もし絵や演技がしたいって思いが強くなったらそれは同時に歌への向上心も引き上げてくれると思うので、いいことだなと思います。
収録曲
- カス
- グレーゾーン
- カス(instrumental)
- グレーゾーン(instrumental)
泉 沙世子(いずみさよこ)
1988年10月28日、大阪府豊中市生まれのシンガーソングライター。岡山県で育ち、小学生のときに歌手を志す。中学生時代よりオーディションを受け始め、高校卒業後に上京。地道な音楽活動を続け、2012年に開催されたキングレコード創業80周年記念オーディション「Dream Vocal Audition」でグランプリを受賞し、2012年11月にシングル「スクランブル」でメジャーデビューを果たした。2014年1月に4thシングル「カス」をリリース。表題曲「カス」は自身も出演する映画「ヨコハマ物語」の主題歌に採用された。