歌だけでも成り立つようにしたかった

──2ndシングル「境界線 / アイリス」は、両曲タイアップ付きのダブルA面。どちらの曲にも言えることですが、「スクランブル」のイメージで続けて聴くとその振り幅に驚かされます。

そうですよね。「スクランブル」が男性的か中性的なイメージだったとしたら、今回はどちらかというと女性っぽい1枚になったのかなって。でも根本の思いというか、しんどいときにふっと楽になれるような曲を歌っていきたいって気持ちは変わってなくて。「こういうとき、私ならこう言ってほしい」っていうものを歌で届けていきたいんです。

──「境界線」の歌詞はどんなところから生まれたんですか？

イメージしたのは“無償の愛”なんですけど、人と人ってどうしても間に線を引いちゃうじゃないですか？ しんどくてつらいときも、この悩みを打ち明けたら重たいんじゃないかとか、自分の弱さやズルさ見せたら離れていくんじゃないか……って。私も常にそういう怖さを抱えてる人間なんですけど、この曲は、そうやって窒息しそうなときも自分で線引きせず来てほしいし、私からも抱きしめに行きたいっていう気持ちで書いてみました。“音楽”というより、1対1の会話をしてる感じというか。恋人、友人、親子……いろんな関係性の愛とリンクすると思うので、誰かを想像して聴いてもいいし、この曲自体が誰かのそんな気持ちを受け止められたらいいなとも思います。

──アレンジに関しては、そんな歌詞のメッセージを引き立たせるようなシンプルな仕上がりですね。

極端に言うと、この曲は歌だけでも成り立つようにしたかったんです。だから言葉をシンプルに支えてくれるアレンジになって、私もイメージどおりだなって。

自分を見失わず一歩ずつ進んで行こう

──一方の「アイリス」は、包み込むようなバラード「境界線」と好対照なナンバー。キラキラしたサウンドに気分が上がる、ポジティブな世界観ですね。

これは「神戸コレクション / 東京ランウェイ 2013 SPRING / SUMMER」のテーマ曲として書き下ろした楽曲なんですけど、そういうファッションイベントに行くような女の子の等身大をイメージして書いてみました。

──常に最先端の服やメイクで決めて、彼氏ともラブラブな毎日を送ってる……みたいな？

うん、私も最初はそういう想像をしてたんですよ。おしゃれで可愛くて、恋愛も学校やバイトも充実してるっていう。

──なんか完璧なイメージありますよね。

そう。でも、いかんせん自分がそういう人間じゃないので、どうしても嘘くさくなっちゃって（笑）。歌ってて共感できへんもの作ってもしょうがないなって思ったんです。

──なるほど。

私はそうなんですが、人は皆誰しもコンプレックスからくる憧れや向上心が少なからずあるんじゃないかって思って。だから、つい臆病になったり、「私には無理」って躊躇してしまうけど、いつか絶対何かをつかんでやるんだっていう気持ちをテーマに書くことにしたんです。何を求めるかは人それぞれだけど、自分を見失わず一歩ずつ進んでいこうっていうメッセージが同世代の女子に共感してもらえるんじゃないかなって。

──タイトルの「アイリス」はどういう意味ですか？

私、映画が好きでよく観るんですけど、「こういうことを考えてる女の子いなかったっけ？」って、タイトルを映画の登場人物から探すことがあるんです。今回はマネージャーと相談してたら「ホリデイ」という作品が挙がって、その主人公の名前・アイリスから取ってみました。あと“アイリス”は花の名前でもあって、花言葉を調べると「優雅な心」とか「自分に賭けてみる」って出てきたんです。だからそれもぴったりやなって。

とにかく声を覚えてもらいたい

──今回のシングルで新たに泉さんを知るリスナーも増えそうですが、今後、思い描く未来図はありますか？

具体的な目標としては、とにかく声を覚えてもらいたいと強く思っていて。例えば、曲名が出てこなくても街でふっと耳に入ってきて「○○（アーティスト名）の新曲かな？」とか思うことがあるじゃないですか。そんなふうに、声を聴いただけで泉 沙世子だって思ってもらえるようになりたいですね。

──自分の歌声をどのように思っていますか？

よくハスキーって言われるんですけど、私、10代からずっとこの声なんです（笑）。17歳のときにオーディションを受けたら「17（歳）の声出してよ。それじゃ27だよ」って言われたこともあるくらいで、今はようやく声に年齢が追いついてきたのかなって。昔は低くて嫌だった時期もあるんですけど、今はこの声をもっともっと浸透させたいって思うくらい好きですね。