7. FUNK不肖の息子
[作詞:伊藤蘭 / 作曲・編曲:佐藤準]
──伊藤さんが作詞された曲ですが、「FUNK不肖の息子」というインパクトのあるタイトルが気になっているファンも多いと思います。
これは佐藤準さんの曲が先にできていて、準さんから「ぜひ蘭さんに詞を書いていただきたい」というリクエストがあったんです。しかも、前作「Beside you」に収録されている「愛して恋してManhattan」(作詞・作曲を伊藤蘭、編曲を佐藤準が担当)に出てくる2人が結婚して生まれた子供をイメージして書いてくださいって(笑)。準さんから「ウエスト・サイド・ストーリー」に出てくるような、やんちゃな男の子なんてどうだろうという提案もあって、歌詞を書いてみたらこういう感じになりました。親の思う通りにはいかない男の子の歌で、夢だけは大きいけれども……その前にまず仕事しよっか?という親の目線もありつつ(笑)、本物の愛を探しているからいいか、みたいな。自分で作っておきながらその世界観にちょっと笑ってしまいました。
──「愛して恋してManhattan」とつながっていたんですね。素晴らしい世界観です。
お気に召していただけました? 私が「仮の仮ですけど」ってお渡ししたタイトルがそのまま使われてしまったのが「FUNK不肖の息子」なんです。
──この曲は後半に「聞かせて テンションマックスヤバイ声」から始まるコール&レスポンスのパートが用意されていますね。
そうなんです。準さんがぜひ入れたいということで、ライブを意識して作ってくださいました。
──ラストの「1.2.3.4.5.6.と続いたら……」というフレーズが最高です。
そこは“おまけ”として私がつけ付け足しておいた部分を準さんが使っちゃったんです(笑)。完成したら入っていたので、びっくりしました。
──ソロデビュー以降コンスタントに作詞されていますが、歌詞のストックは溜まりましたか?
それがストックはないんです。本当はコツコツと日々作って、溜まったら形にするのがアーティストなんでしょうけど、私は追い詰められないとできないタイプなので、締め切りがあってやっと(笑)。
──1978年リリースのキャンディーズのラストアルバム「早春譜」では、作詞に加えて作曲もされていましたね。
あのときは渡辺茂樹さん、山田直毅さんといったサポートする方がいてくれたからできたことなんです。相談できる人、協力してくれる人がいれば、またいつかできたらいいなとは思ってますけど。
──キャンディーズは「レッツゴーヤング」などの音楽番組やコンサートで洋楽のカバーをたくさん歌っていましたが、中でもWild Cherryの全米No.1ヒット曲「Play That Funky Music」はバックバンドを務めるMMP(ミュージック・メイツ・プレイヤーズ。渡辺茂樹はキーボード、山田直毅はギターを担当)の演奏と相まって、とてもカッコよかったです。
私、ファンキーな楽曲が大好きなんです。今回も準さんと「『Play That Funky Music』は俺も当時よく聴いたよ」「私も歌ってました」みたいなやりとりをしました(笑)。
8. 明日はもっといい日
[作詞:売野雅勇 / 作曲:IKEZO / 編曲:IKEZO、佐藤準]
──先ほど渋谷の話が出ましたが、こちらは六本木が舞台の曲です。
売野雅勇さんはおしゃれな歌詞が得意と伺っていたのでお願いしたんですけれども、この曲では70年代後半から80年代にかけての描写が素晴らしいですね。特に「バーガーインからカーディナルへ」を入れ込むところがすごいなと思いました。当時、まだ子供だった私たちからしたら、パブ・カーディナル(パリの「ラ・クーポール」をモデルに、1971年に六本木にオープンしたパブ&レストラン。ファッションデザイナーやカメラマンなど数々の著名人に愛された名店)は憧れのお店でしたから。
──「キサナドゥからAREAまで」はかつてあったディスコのことですね。当時を知っている方なら青春時代の思い出がよみがえりますね。「踊ろうよ 明日はもっといい日だよ」というフレーズも素敵です。ちなみに伊藤さんはディスコに行かれたことは?
25歳の頃に数回行きましたけど、踊ったらすぐ疲れちゃうタイプでした(笑)。
9. 春になったら
[作詞・作曲:奥田民生、トータス松本 / 編曲:笹本安詞]
──トータス松本さんはアルバム「My Bouquet」収録の「ああ私ったら!」に続いての参加で、今回は奥田民生さんとの共作です。この歌詞はキャンディーズ「微笑がえし」へのオマージュですね。
詞が届いたとき、「春一番」のイメージで作ってくださったんだなと思っていたら、「Ha Ha」とか「アン・ドゥ・トロア」とか、どこかで聞いたことのあるフレーズがでてきたので、あれっ?と思って。さらに「ガッツ出してみましょうか」「さすらってみましょうか」って、作ってくださったお二人の曲に入っているワードもちゃんと入ってるんですよね(笑)。今回お二人にはコーラスにも参加していただいたんですけれども、歌録りのときに聴いてカッコいいと思いました。奥田さんとトータスさんの声が入ったことで、さらに曲の強度が増した感があります。また面白いのが「春になったら何をしよう 夏の終わりからもう考えています」って、そんな早くから待ってるの!? まだ半年以上あるわよって(笑)。すごく楽しい歌です。
10. ネガフィルムの青空
[作詞:松井五郎 / 作曲:IKEZO / 編曲:岩田賢治]
──「ネガフィルムの青空」はアルバムのラストを飾るにふさわしい、心が浄化されるような美しい曲ですね。
ありがとうございます。これもレコーディング当初、私がうまく歌いこなせなくて、どうしようか悩んでいたんですけど、半音上げてやってみようかと試してみたらしっくり収まりました。アルバム全体におけるこの歌のポジションは最後しかないというぐらい、広がりがある歌になったなと思います。
──特に「選べる道は 続いてゆく このままずっと」から、落ちサビの「白い印画紙 後 どれくらい そこには あの頃の 夢もある」までの流れが圧巻でした。駆け足で全10曲を振り返っていただきましたが、総じて今回のアルバムの手応えはいかがですか?
2ndアルバムは「コロナ禍の状況が長く続く中でも希望を忘れずに生きたい」という気持ちをそれぞれの作家さんが楽曲に込めてくださった印象でしたが、「LEVEL 9.9」はここへ来てより一層その思いが高まった作品になりました。アルバムを通して、音楽を聴いて楽しいとか幸せだなと思う瞬間を存分に味わってほしいですね。
キャンディーズがあったから今の私がいる
──さて、アルバムに続いてデビュー記念日の9月1日には、50周年記念CD5枚組ボックス「The Platinum Collection~50th Anniversary~」がリリースされます。こちらは伊藤さん、藤村美樹さんが企画に参加されていることが話題になっています。選曲に加えて、お二人で対談もされたそうですね。
今回50周年ということでミキさんとの対談企画が実現したんですけれども、改めてキャンディーズの曲を聴きながら、「やっぱりいいよね」って2人で自画自賛してました(笑)。CD5枚の中にシングルA面とB面に加えて、私たちがそれぞれの思い出深い曲やお気に入りの曲を選んだフェイバリット集が3枚入るんですけど、選ぶときもすごく楽しかったですね。いい曲が多すぎて選びきれなかったのが残念なくらい。今回漏れている中にも好きな曲がもちろんあるので。
──8月に始まるツアーには今回も佐藤準(音楽監督、Key)、そうる透(Dr)、是永巧一(G / 8月19日の横浜公演は江渡大悟が出演予定)、笹井BJ克彦(B)、notch(Per)、鈴木正則(Trumpet / 8月26日の仙台公演、9月9日の大阪公演には二宮孝裕が出演予定)、竹野昌邦(Sax)、渡部沙智子(Cho)、高柳千野(Cho)といったそうそうたるミュージシャンの方々が参加されます。
この方たちの中に立って歌えるのは本当にぜいたくだなと思います。リハーサルの時点から、「ああ、いい音だな」と感じながら歌ってるんです。キャンディーズがあったから今の私がいると思っていますし、今回は50周年なので、キャンディーズの曲もこれまでより少し多めに用意しています。
──ファンの皆さんも「あのヒット曲が聴きたい」「でもキャンディーズのアルバム曲も聴きたい」とワクワクされているんじゃないでしょうか。
ときどきそういう意見を垣間見ますけれども、アルバム曲って本当にレコーディングのときしか歌ってないんですよね。ステージで歌っていない曲もたくさんありますし。でも、この長い間にきっとファンの皆さんは過去のアルバムも聴き込んでいらっしゃるわけじゃないですか。だからイントロが流れてきたときに「あっ、この歌!」と思っていただける歌をちょっと混ぜてみようかなと思ってセットリストを作っているところです。
──キャンディーズの楽曲が今でもこれだけ高い人気なのは、リズム、発声、コーラスの美しさを備えた3人だからこそだと思います。
コーラスでも、ユニゾンでも強く印象を残せるし、サウンドが豊かになりますよね。3人の声を生かすような楽曲の作り方をしてくださった当時のスタッフの皆さんのセンスに感謝です。「これをキャンディーズで歌ったらより一層輝く楽曲になるんじゃないか」という周りの方々の情熱が、これだけたくさんの楽曲を残してくれたんだなと思っています。なので今の若い方にもぜひ歌ってほしいし、聴いて楽しんでもらいたいですね。
──記念公演を行う東京国際フォーラム ホールA、そして追加公演の日比谷公園大音楽堂は蘭さんにとってどんな場所ですか?
東京国際フォーラムは初めての会場ですし、ほかの方のコンサートで観に行ったとき、ホールAは本当に大きいなと思ったので、ちょっと怖い気持ちもあります。この日は会場内でキャンディーズの衣装展示もあります。時間が経っているのでさすがに当時のままの状態ではないんですけれども、ぜひご覧になって懐かしんでいただければ。そして、日比谷野音はキャンディーズが解散宣言をした場所でもあるので、2年前に私が1人で立ったときは再び歌の世界の戻ってくることを許してもらえたみたいな特別な瞬間でした。そこにまた立つことができるのもご縁というか、いろんな思いがこみ上げてきます。でも、あのステージも近いうちに改装でなくなってしまうんですよね。
──そうですね。老朽化のため2024年度以降に建て替えられることが発表されました。日比谷野音は1923年7月に開業して今年で100周年。今回の伊藤さんの公演も日比谷野音100周年記念事業の1つです。
そういう大事なポイントに声をかけていただいてうれしいです。日比谷野音は特別な場所なので、またひとつファンの皆さんと記憶に残る場面が刻めたらいいなと思っております。
──最後になりますが、アーティスト伊藤蘭さんのこれからの夢を教えてください。
そうですね。ステージなり、コンサートなり「やりましょうよ」って言われたときに「そうね」って言えるぐらい心身ともに健康を保っていることかな。楽しいほうに進んでいくためには、まず元気でいることですもんね。
──“俳優・伊藤蘭”が演出する“アーティスト・伊藤蘭”のコンサートや音楽劇だったり、伊藤さんのファルセットやハーモニーを存分に発揮できるシンガーとのコラボレーションだったりと、夢は広がるばかりです。
そんなこと言っていただけるなんて恐縮ですけれども、いつかお芝居と歌の融合みたいなことが表現できたら素晴らしいですね。歌のコラボレーションも尻込みせずにやっていくのもいいかもしれない。うん。「どう?」って言われたときに「いいじゃない!」って返せる柔軟さはずっと持ち続けていたいなと思います。
ライブ情報
伊藤 蘭 50th Anniversary Tour ~Started from Candies~
- 2023年8月19日(土)神奈川県 KAAT 神奈川芸術劇場 ホール(※チケット完売)
- 2023年8月26日(土)宮城県 トークネットホール仙台(※チケット販売中)
- 2023年9月2日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA(※チケット販売中)
- 2023年9月7日(木)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール(※チケット販売中)
- 2023年9月9日(土)大阪府 フェスティバルホール(※チケット販売中)
- 2023年9月30日(土)福岡県 キャナルシティ劇場(※チケット販売中)
- 2023年10月21日(土)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
伊藤 蘭 50th Anniversary Tour ~Started from Candies~
日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)公演オフィシャルチケット最速抽選先行予約期間
受付期間:2023年7月18日(火)5:30~8月1日(火)23:59
プロフィール
伊藤蘭(イトウラン)
東京都出身。1973年に田中好子、藤村美樹とともにキャンディーズで歌手デビューし、ランちゃんの愛称で広く親しまれる。「年下の男の子」「春一番」「暑中お見舞い申し上げます」といったヒット曲を発表し、国民的な人気を博した。1978年4月、キャンディーズは解散。その後、1980年公開の映画「ヒポクラテスたち」に主演したことを機に俳優活動を本格的にスタートさせる。以降は映画、ドラマ、舞台とさまざまな作品に出演している。キャンディーズ解散以降、音楽業界からは遠ざかっていたが、2019年5月に1stアルバム「My Bouquet」をリリースしソロデビュー。同年6月に単独ツアーを開催した。2023年7月にソロとしては3枚目のアルバム「LEVEL 9.9」を発表。8月よりデビュー50周年を記念したツアー「伊藤 蘭 50th Anniversary Tour ~Started from Candies~」を行う。