「さよならエレジー」「虹」「ラストシーン」は三部作
──「虹」や「ラストシーン」のように、映画やドラマの大きなタイアップの話を受けて作るものもありますよね。そのときもどんどん曲ができていく感じでしょうか?
石崎 それに関しては僕が不器用なタイプなので、いろいろ挑戦してやっとたどり着く形が毎回ですね。周り道を一緒にさせちゃって申し訳ないといつも思ってるし、いつも一発で決めたい思いはあるんですけど、1つのタイアップに対していくつも曲を書くことが多くて。僕は登山みたいなものだと思ってるんですけど、一緒に登頂を目指す感じで作ってます。
──「さよならエレジー」や「虹」や「ラストシーン」は、全然違うタイプの曲ではありますが、何かしら連続性のようなものを感じるようにも思います。
菅田 そういう話もしてたよね。3部作だって意識があるんですよ。「エレジー」は起承転結の起というか、若さみたいなところがある。「虹」はそれがだんだん成熟してきた感じで、愛を歌っている。その先の荒廃した中からどうするかが「ラストシーン」だから。言葉も同じようなところを使ってたりするんですけど、何よりも歌ってる僕の見ている景色が間違いなくそうなんですよ。「虹」を歌うときには「エレジー」の景色があるし、「ラストシーン」を歌うときには「虹」と「エレジー」がある。別につなげようと思って作ったわけではないけど。
石崎 物語を書いてるみたいなところはありますね。
菅田 そうですね。こちらのパーソナルなものもあるけど、たしかに脚本、監督、演者みたいな気持ちがその3曲は強いかもね。
お互いの“あいもかわらず”なところ
──こうしていろいろ曲を作ってきたわけですが、「あいもかわらず」はタイアップというよりも、石崎ひゅーいが石崎ひゅーいのために書く曲ですよね。10周年というアニバーサリーに信頼するパートナーを迎えるという。そのことについてはどうでしたか?
石崎 どうだろう……。ある意味、何かのテーマがあるタイアップを書くことよりも難しかったかもしれないですね。だからすごい悩んだわけだし。自分のためというより、2人の関係というか、その歴史や物語のようなものを総括できる表現を探っている感じでしたね。ある種、勝手に自分にそういう使命感みたいなものを課して作ってました。
──先ほど菅田さんが「最終的におじいちゃんになったときにこの曲を歌ってるのが思い浮かぶ」とおっしゃっていましたが、石崎さんにとっても2人の物語を描く曲として着地すべきところに着地した感じがある?
石崎 そうですね。いろいろ紆余曲折あったんですけど、やっぱりタイトルですね。「あいもかわらず」って言葉が浮かんだときに「これだな」って。僕が今求めてるもの、今ここで表現しなくちゃいけないものはこれだなっていうふうに理解できた。そこは見つけられてよかったなって思います。
──ちなみに、石崎さんとしては、デビュー10周年を迎えてどんな感慨がありますか?
菅田 まだ10年なんだね。もっとずっとやってるイメージだった。
石崎 デビューしたての頃は、10周年って、確固たる自信みたいなものに満ちあふれてるのかなって思ってたんです。もっと成熟していて、堂々としてるかと思ったんですけど、全然そうじゃなくて。とにかく今も翻弄されまくってるみたいな感じで。でも、それでも音楽の世界の中で生きていきたいと思う理由は、1つはファンのみんながいてくれて、歌う場所があるということですよね。もう1つはスタッフとか、菅田くん含めて周りの人に恵まれていること。そういう周りの人たちがいるから、10年間、音楽ができているんだなと実感しています。
──最後に聞かせてください。「あいもかわらず」ということで、お互いから見たお互いの変わっていないところって、どうでしょう? まずは菅田さんから見た石崎さんは?
菅田 なんだろうな、いろんなことが変わってるし、いろんな武器も経験も増えてたりするんでしょうけど、一緒にいると、何も変わった感じはしないんです。……あ、ファッションはちょっと変わったよね。
石崎 ファッションは変わった。服には疎かったんですけど、菅田くんと古着屋を回って「これいいよ」って言われたものを全部買うところから始めて。少しずつおしゃれになったというか、自分に合うものを着られるようになってきました。
菅田 好奇心の枯渇感みたいなのはやっぱり変わらない感じがしますね。乾いてるよね。
石崎 乾いてる。
菅田 乾いてんのに湿ってるんだよなあ。なんだろう、ぬれ煎餅みたいな感じかな(笑)。みんな、日々潤いを求めていくじゃないですか。例えばスポンジって、使えば使うほど角も取れて柔らかくなっていく。でも、ずっと角がピンってある状態で、全然しなってない感じがする。そこは変わらないところです。その感じが僕の好きなひゅーいくんのベースって感じです。
──石崎さんから見た菅田さんはどうでしょう。
石崎 変わらないところは、人や物事に対して、知りたいと思う気持ち、背景も含めて知ろうとする欲求が強いところですね。で、それをシェアしてくれるんですよ。簡単に言うと、スタジオで一緒にやってるときに「これのここがいいんだ」とか「こないだ誰かがこういうことをやってて」みたいな話を教えてくれる。そういうのをシェアしてくれるんです。
菅田 話し好きだからね(笑)。
石崎 僕としてはラッキーな気持ちになるんですよ。2人でいろんな活動をしてて、シェアさせてもらってるから、菅田くんの頭の中に入ってる人の温もりだとか、モノのカッコよさとか、そういうものを共有してもらえる。それが途切れることがないのがすごい。アップデートされてるんです。僕はそういうふうにシェアできないタイプなので、そこからヒントをもらったりすることも多い。それは本当にすごいなって思うし、変わってないところですね。
菅田 変な遊びをよく教えるよね。そしたら毎回ハマってくれる。気付いたら僕よりやってたりする。
石崎 そうそう。変なカードゲームとか。爆発的に面白いんですよ。基本、おすすめされたものはすべてやるようにしてます。
──パートナーという言葉もありましたけど、洋服を一緒に買いに行ったり、カードゲームを持ってきて一緒に遊んだりする関係って、学生時代の友達みたいですね。
石崎 そうですね。中学の友達みたいな感じというか。
菅田 小学生かもしれないね。「磯野、野球行こうぜ!」みたいな(笑)。
プロフィール
石崎ひゅーい(イシザキヒューイ)
1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身のシンガーソングライター。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビューを果たす。2013年6月にテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」を、7月に1stフルアルバム「独立前夜」をリリース。2018年3月に初のベストアルバム「Huwie Best」を発表後、全48公演におよぶ全国弾き語りツアーを実施した。2020年11月、菅田将暉へ提供した映画「STAND BY ME ドラえもん 2」の主題歌「虹」が大ヒットを記録する。2021年12月に4thアルバム「ダイヤモンド」をリリース。2022年8月、石崎ひゅーい×菅田将暉名義でコラボ曲「あいもかわらず」を発表した。「アズミ・ハルコは行方不明」や「そらのレストラン」といった映画に出演するなど、俳優としても活躍している。
菅田将暉(スダマサキ)
1993年2月21日生まれ、大阪府出身。2009年に「仮面ライダーW」で連続テレビドラマ初出演にして初主演を飾る。主演を務めた2017年公開作「あゝ、荒野」では第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をはじめとする数々の映画賞に輝いた。主な映画出演作は「溺れるナイフ」「キセキ ーあの日のソビトー」「銀魂」シリーズ、「火花」「帝一の國」「アルキメデスの大戦」「糸」「花束みたいな恋をした」「キネマの神様」「百花」(2022年9月9日公開予定)など。2017年6月に「見たこともない景色」でCDデビュー。2018年3月に石崎ひゅーい提供の「さよならエレジー」を収録した1stアルバム「PLAY」を、2019年7月に盟友の米津玄師が作詞・作曲・プロデュースを手がけた楽曲「まちがいさがし」やあいみょんとのコラボ曲「キスだけで feat. あいみょん」を収めた2ndアルバム「LOVE」をリリース。2020年11月に発表した映画「STAND BY ME ドラえもん 2」の主題歌「虹」は、ストリーミング再生2億回を突破するなど大ヒット曲となった。2022年3月にアルバム「COLLAGE」を発表。6月にはVaundy提供の「惑う糸」を配信リリースした。
菅田将暉|SUDA MASAKI MUSIC OFFICIAL