石崎ひゅーいインタビュー|必死にもがき苦しんだ先に見つけたもの。それは光り輝くダイヤモンドだった (2/2)

時代がようやく追いついた

──「スノーマン」はストリングスと打ち込みのバランスが絶妙なウインターバラードですね。

「クリスマスソングを作ろう」と思って制作しました。昔トオミさんがソロで音源を出した「Six Raves Render」というアルバムが好きなんですよ。ボコーダーで処理した声が入っているエレクトロサウンドで、ジェイムス・ブレイクみたいな世界観で歌っていて。「あの作品の世界観にしたいです」とトオミさんにお願いしました。

──歌声とサウンドがマッチしてますよね。例えば「僕」の「く」とか「最悪」の「く」の部分は、“ku”じゃなくて、英語の“k”みたい感じで母音を発音せず無声音にすることで浮遊感が生まれていると思います。

そう言われると不思議な塩梅の曲ができたかもしれないですね。

──そのあたりの歌い方は無意識ですか?

サウンドに馴染む歌い方を選んで歌ったらこうなりましたね。

──「Oh My エンジェル!」はモータウンビート調で、遊び心あふれる楽曲ですね。

これは実は昔からあった曲で、デビューした頃に作っていたんです。アルバムの収録曲を並べたときに、ちょっとおちゃらけた要素も欲しいなと思って入れました。

──子供たちの声も入っていて、すごくにぎやかで。

ラフアレンジを当時トオミさんがしてくれていて、「ワーッ」っていう子供の声もそのときから入っていたんですよ。最近YouTubeを観ているとそういうガヤの効果音をよく耳にしますけど、時代がトオミさんに追いついたなと思ってます(笑)。

──確かに(笑)。当時この曲を書いたときはどういうイメージだったか覚えていますか?

何も考えず勢いだけで書いたと思うんですよね。言葉の並べ方や響きの面白さを重視して書いていたと思うんですけど、今こういう書き方をしようとしてもきっと無理だろうなって。

──そう言われると、「バターチキンムーンカーニバル」(2013年リリースの1stアルバム「独立前夜」収録曲)などの初期曲に似た雰囲気がありますね。

そうそう。今はそういう歌詞がなかなか書けなくなっているから、この曲が入っていることでアルバムとしてバランスが取れてるかなと思っています。

4年に一度舞い降りる“夢ソング”

──「サッポロ生ビール黒ラベル」の企画のために書き下ろした「ブラックスター」は、何かを始めるときに背中を押してくれるような、高揚感のあるエレクトロナンバーですね。

ダンスミュージックを取り入れつつ、どうJ-POPに落とし込むかを意識して作りました。

──「ブラックスター」というタイトルはデヴィッド・ボウイのラストアルバムのタイトルでもありますし、石崎さんの「ひゅーい」という名前はボウイの息子のゾウイから取られていますよね。メジャーデビュー曲「第三惑星交響曲」以来ずっと星をテーマに歌ってきた石崎さんにとって、この曲は自身のルーツを見つめ直すことにもなったのかなと思うんですがいかがですか?

その通りだと思います。僕はずっと星のことを歌っていたからこそ、意識的に星をテーマに書くのを封印していた部分もあったので、この話が再び星について書くいいきっかけになったんですよね。「サッポロ生ビール黒ラベル」のキャッチフレーズが「丸くなるな、星になれ。」という素敵な言葉ですけど、そのフレーズを膨らませて歌詞を書きました。

──改めて見つめ直してみて何か発見はありました?

「ブラックスター」を書き終えたときに新鮮な気持ちになりました。星について書くにしてもまだまだいろいろな表現を模索できると思ったし、無理にこのテーマに蓋をしなくてもいいなって。

──不穏なムードが漂う「パラサイト」はアルバムの中でのいいアクセントになっていますね。

そこも全体のバランスですね。最近ようやく打ち込みで曲を作るようになったんです。面白そうなリズムトラックを見つけたら、そこにエレキギターと歌を乗せるやり方で作曲を始めていて、今回はそうやって作った音源をトオミさんに渡してリアレンジしてもらいました。まだまだ勉強不足なので、崎山くんがうちに来たときに教えてもらったりしてます(笑)。

──「ジュノ」は、このアルバムでは珍しいバンドサウンドの曲ですね。Aメロはメロディとポエトリーリーディングの中間というか、両方の要素があって面白い仕上がりになっていて。

このアルバムでは「Oh My エンジェル!」と「ジュノ」くらいだと思うんですけど、バンドサウンドの曲もアルバムに入れたいと思って。これは俗にいう “夢ソング”なんですよ。

──夢ソング?

朝、目が覚めたあとでも夢を覚えてることってあるじゃないですか。寝ぼけたままその覚えている内容を一気にメモして、ほとんどそのままの歌詞なんです。

──へえ! だからポエトリーリーディングっぽいんですね。

論理的に考えてないから言葉が整頓されてない感じがしますよね。ごくまれに、4年に一度のオリンピックくらいのタイミングでこういうことがあるんですよ(笑)。書いた当時住んでいたのが、トラックが抜け道として通るような道路に面したすごくうるさい家だったんです。ぐっすり眠れないからしょっちゅう夢を見ていたんですけど、それが功を奏した1曲ですね。

──面白いですね。トラックの騒音が関係あるのかわからないですが、ギターサウンドもガチャガチャしていますね(笑)。

うっぷんが溜まってる感じがしますよね(笑)。レコーディングは一発録りだったんですけど、ガレージパンクのような音像にしたくてルームリバーブを大きめにかけました。

僕は音楽と結婚している

──アルバムの最後を飾るのが「スワンソング」です。傷付いた白鳥と、その白鳥に自分を投影して世話を続ける澤江弘一さんの姿を追ったドキュメンタリー映画「私は白鳥」の主題歌ですね。

映画の公開は今年11月でしたけど、昨年作っていた曲を使っていただきました。コロナ禍で最初は不安とか恐怖があったけど、悪い意味で段々と慣れてきちゃった頃に作った曲ですね。Uber Eatsを使えば家にごはんを運んでもらえるし、LINEやZoomで人とも簡単につながれて、その状況に慣れている自分がすごく嫌になったんですよね。人の温かさみたいなものにちゃんと固執していたいと強く思った時期がすごくあって。

──仕方ないことですけど、配信でのライブも増えましたよね。

そこに慣れるのはちょっと違うという思いが自分の中にあって。そういうことを考えながら人と人の触れ合いを表現した歌ですね。最初は「スワローソング」というタイトルだったんですよ。当初は巣ごもりの生活から飛び立つイメージで書いていたんですけど、映画主題歌のお話をいただいて「スワンソング」にタイトルを変えて、歌詞も少し変えました。

──そうだったんですね。

「スワンソング」って、芸術家の生前最後の作品や曲のことを言うんですよね。それは死ぬ間際の白鳥がもっとも美しい声で鳴くという言い伝えから来ているらしいんですけど。僕はそういうつもりで書いたわけじゃないけど、そういう意味合いでこの歌詞を見るとグッとくるものがあるなと思っていて。

──「つぎはぎだらけの日々を巡り 小さな喜び見つけて 僕にしか聞こえない声で言う 嬉しい 嬉しいって いつかこの欠片を磨いたら ダイヤモンドみたいに輝いて」という、幸せは日常のほんの些細なところにあるんだと気付かせてくれるような歌詞が印象に残りました。この一節に出てくる「ダイヤモンド」はアルバムタイトルにもなっていますね。

「ダイヤモンド」というアルバムタイトルは、この「スワンソング」の歌詞に出てくる「ダイヤモンド」の意味ももちろんあるんですけど、「ゴールデンエイジ」のときから「『ダイヤモンド』っていうタイトルいいね」という話をスタッフ間でしていたんですよ。

CDジャケットデザインのグラフィックの一部

CDジャケットデザインのグラフィックの一部

──では「ゴールデンエイジ」のタイトルが「ダイヤモンド」になっていた可能性もあったんですね。

そうなんです。僕は人の輝きみたいなものをテーマに歌っていたりもするので、石崎ひゅーいを表すのに最適な言葉だなと思って。ただ、「ゴールデンエイジ」のときはまだちょっと早い気がして。あのときは必死にもがいていたからあのタイトルになったんですけど、それから2年半ちょっと経って、僕も変わった部分もあったので今回タイトルに付けました。

──その変化とは?

やっぱりコロナ禍で人と密になれない分、昔よりもさらに音楽と向き合うようになったんですよね。そのときに思ったのが、いつでも音楽がそばにあるんだということでした。制作をしていると頭を抱え込んで「もう嫌だ」と思うときもあるんですけど、それでも僕は音楽と苦楽を共にするんだと思えたんです。それってつまり、音楽と結婚しているようなものだと思う瞬間が何度もあって。そういう自分のマインドとダイヤモンドという言葉がピタッとハマった感じがしたんですよね。あとは、長い間待たせてしまったファンのみんなに対して、僕ができる最上級のプレゼントを贈りたいという気持ちを込めました。

──「ゴールデンエイジ」を発表した頃はどちらかと言うと石崎さん自身の成長にフォーカスしていたけれど、今はもう少し周囲の人たちに目を向けている感じなんですね。

そうですね。だから当時と今では歌に向き合う姿勢が変わっていて。最近はライブがやけに緊張するんですよ。歌を伝えるということはどういうことなのか、そのために自分は何をしなければいけないのかを考えるようになりました。まだまだ模索しながらだし、正直キツイなって思うこともあるんですけど。

──アルバムの初回限定盤に付属するBlu-rayには、9月から11月にかけて行われたアコースティックツアーの中から、東京・浅草花劇場の模様が収録されます。今おっしゃったようなパフォーマンスの変化も収められているということですね。

僕はフロアで自分の歌を聴くことはできないから、どう変わったのかすべてはわからないですけど、みんなが歌の中に入り込めるようなライブを目指したので、少しでもそれが伝わればうれしいです。

──最後に、来年メジャーデビュー10周年を迎えるにあたり、意気込みをお聞かせください。

いろいろと面白いことは考えています。今までやってこなかったことにも挑戦したいし、歌の精度も──作曲するのも、パフォーマンスするのも両方ですけど、そういうところも上げていきたいと思っているので、昔から知ってる人はこれからも変わらず付いてきてほしいし、新しく僕を知ってくれる人たちも一緒に大きな場所に連れて行きたいという思いが強いですね。あとは先日グラミー賞のノミネーションが発表されましたけど(※取材は11月下旬に実施)、みんなの人生の大切な瞬間に、僕の曲が1曲でも“ノミネート”されたらうれしいですね。そのためにこれからも一生懸命がんばっていきます。

石崎ひゅーい

石崎ひゅーい

プロフィール

石崎ひゅーい(イシザキヒューイ)

1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身のシンガーソングライター。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビューを果たす。2013年6月にテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」を、7月に1stフルアルバム「独立前夜」をリリース。2018年3月に初のベストアルバム「Huwie Best」を発表後、全48公演におよぶ全国弾き語りツアーを実施した。2020年11月、菅田将暉へ提供した映画「STAND BY ME ドラえもん 2」の主題歌「虹」が大ヒットを記録する。2021年12月に4thアルバム「ダイヤモンド」をリリース。「アズミ・ハルコは行方不明」や「そらのレストラン」といった映画に出演するなど、俳優としても活躍している。