石崎ひゅーい史上一番シンプル
──ドラマで使われていたり、リリックビデオが公開されたりして、楽曲がリリースされる前からリスナーの反響も大きいですよね。「癒やされた」と言う人もいれば「勇気をもらった」と言う人もいて、聴く人によって捉え方が違うのもこの曲の面白いところだと思います。
そこはがんばりました。アヤメ色の空になぞらえて、夜が朝に変わる、僕たちが今いる大変な世界からいつかきっといつも通りの世界に戻っていくことをサビで表現したいと思って、サビの作り方は全部“喪失”から始まって最終的に光が見えるようにしているんです。なので切り取る部分で感じ方が変わってくるのかなと思いますね。あとやっぱりシンプルなものを作りたいという思いがあって。シンプルって一番大変なんですけど。
──先ほどの「虹」の話とも通じますね。
歌って言葉よりもすごく深いところに届くもので、そこに届けるにはシンプルに勝るのものはないと僕は思っていて。例えば車を運転するときに、いろんな細い裏道を駆使して目的地に速くたどりつくこともできるかもしれないけど、空いている裏道よりも渋滞している国道を通るイメージ(笑)。裏道を使って一番早く到着したとしても周りに誰もいないですよね。でも渋滞している国道でがんばって行けば着いたときに周りに人がいっぱいいて、僕はそっちのほうがいいなって思うようになったんです。そういった意味でシンガーソングライターとしてシンプルなものも突き詰めていくというか。
──歌詞でいうと「大切なものなんてほんとはあまりなかった あなたが少し微笑むくらいでいいんだ」とか「なんだか今日バラエティを見て笑えたよ」など、足元の幸せに目を向けるような表現になっていて。
もともと僕は人の強い部分よりも弱い部分に魅力を感じるんですよね。今までもそういう書き方をしているんですけど、人の弱い部分の感情の揺れみたいなものが、「ドラえもん」の壁を乗り越えたりしながら昔よりは上手に書けるようになったのかなと思います。
──サウンドもすごくシンプルですよね。アコギの弾き語りで始まってピアノやベースが加わり、2番になってからようやくドラムが入るという構成で。
めちゃくちゃシンプルですね。たぶん石崎ひゅーい史上一番シンプルなアレンジなんじゃないかな。例えばストリングスを入れて壮大にしても似合う曲だと思うんですよ。そういう聴かせ方もできると思うんですけど、ポツンと部屋の中に佇んでそこで歌うイメージのほうがこの曲は合うんじゃないかという話をアレンジャーのトオミさんとしました。
──石崎さんの歌い方が、芯のある歌声もあればウィスパー成分の混ざった声もあって、いろいろな表情をしているのも印象的でした。
歌い方は今回けっこうチャレンジしました。いつもは自分の感覚で何テイクか録って選んでもらうんですけど、今回は歌った音源を一度持って帰って自分なりに研究して、いろんな歌い方を試してみましたね。冒頭もいつもだったら弱めに歌っちゃうところを強く歌ってみたり、逆に言葉にあまり引っ張られないというか、感傷的にならないようにしたりとか。僕が物語の主人公になっちゃいけない、僕はストーリーテーラーでいたいと思ったんですよね。そのほうが人の耳とか心の中に入りやすいんじゃないかと思い始めていて、そういうところで試行錯誤しました。
素敵なことはまだまだたくさん転がっている
──コロナ禍になってからのこの1年間、いろいろな出来事があったと思うんですが、改めて振り返ってみてどんな1年でしたか?
最初はどうしてもコロナによる窮屈な生活のせいにして生きていかざるを得なかったんですけど、「アヤメ」を作ったときに考え方次第だなと思ったんですよ。素敵なことって目を凝らしていれば身の回りにまだまだたくさん転がっている気がして、だから今のこの状況にあまり悲観的にはなっていないんです。どんな状況でも曲は生まれるという結論に至ったし、こういう状況だから生まれた表現も僕らはファンの子にプレゼントできるので。あとはただみんなが音楽を聴きやすい、特にライブに来やすい社会に戻れるように祈っています。
──そろそろファンの人たちもアルバムを待ってるんじゃないかと思います。オリジナルフルアルバムを出したのが2016年12月の「アタラズモトオカラズ」なので、4年半ほど前になりますよね。
いい曲もいっぱいできているので、タイミングですかね。当然僕もアルバムを出したいと思っているし、そのときはたぶん来ると思うので、期待して待っていてください。