音楽ナタリー Power Push - 石崎ひゅーい×蒼井優×松居大悟鼎談

映画でタッグを組んだ3人が再び集結 惹かれ合う3つの個性

「ひゅーい、呼吸だぞ」

──映画の話に戻すと、石崎さんは演技してみていかがでした?

映画「アズミ・ハルコは行方不明」のワンシーン。 ©2015映画「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

石崎 最初、距離感とか全然わからなくてどういう感じでやればいいんだろうって思ってたときに、松居くんがメールで「ひゅーい、呼吸だぞ」っていう、素敵な言葉をくれて。「なるほど、呼吸か」って思って、その言葉を頭に入れながらやってたらすごい楽しい撮影になりました。

松居 たぶん「迷惑をかけちゃいけない」っていうのがあって、ひゅーいは最初構えすぎていて、めっちゃ自分の中でいろいろ作ってたんですよ。曽我像とか、このセリフはこう言わなきゃいけないとか。そうじゃなくて、特に映画って役者がお芝居をして、それをスタッフが撮るっていうみんなで作る作業だから、「みんなと呼吸しろ」っていう意味で送ったんだと思います。

──なるほど。

蒼井 でもさ、スタッフさんも含めて同世代の人が多くて、そういった意味でもひゅーいくんにとってよかったよね。これが例えば山田洋次監督の現場だったらね? 松居組ってもちろんみんなプロフェッショナルなんだけど、サークルみたいな雰囲気もあるし。

松居 そうね、楽しくやるっていうのは大事にしてる。

蒼井 気持ちがなければやれないくらい過酷なスケジュールだったけど、現場の空気もすごくよかったもんね。

松居 うん、絶対ピリッとしないっていうのは意識した。

女性は30歳前に第2思春期がくる

──「アズミ・ハルコは行方不明」では主人公・安曇春子の20代後半の日常を通して、いつまでも若くはないことをはじめ、さまざまな現実がのしかかってきている様子が生々しく描かれていますよね。蒼井さんと松居監督は現在30歳、石崎さんは32歳ですが、皆さん20代後半を振り返ってみてどう過ごしてました?

松居 僕は初監督作品の「アフロ田中」が25歳のときで、「アズミ・ハルコ」を撮ってるときが29歳だったので、わりと普通にがんばってたなという感じですかね。20代前半は舞台やって、後半は映像をやってました。

蒼井 私、女友達とよく話してたのは、女性の27~29歳あたりっていうのは第2思春期がくるねっていう。

松居 へえ。30歳前に?

蒼井 そう。30歳を目前にすると、結婚とか出産とか考えてなくても自分の現実が本能的にわかるっていうか。周りもそういう空気作ってくるっていうのもあるんだけど。

松居 友達が結婚したりとかするもんね。

蒼井優

蒼井 そうなったときに何をするかって言うと、1回振り返るっていうのをやり始めるんだよね。自分のこれまでを、反省してもしょうがないとわかっていても反省したりとか、本当に思春期みたいな。しかも10代のように何か発散したりバカやったりっていうのが許される年齢ではないってのも自分でわかってるから、ここ(お腹の中)だけでぐにゅぐにゅする思春期っていうのが来るよねっていう話を女友達としてて。それが抜けられるのが、29歳の人もいれば30歳の人もいて、私は29歳になるかならないかくらいのときに抜けられたんだけど。

松居 ずっとぐにょぐにょしてるの? 1人で悩むっていうこと?

蒼井 そう。1人でソファ座ってこう(口開けて天井見る)。周りから見たらただ口開けてるだけなんだけど、お腹の中では「ずおおお」っていろんなことが渦巻いてて。だから安曇春子の「消えたい」って気持ちもすごくわかるし。別に死にたいわけじゃないよ? いろいろなかったことにしてくれないかなって。

──原作者の山内マリコさんも「この小説は、できるだけ早く、自分の中にちょっとでも20代の気分が残っているうちに書かなくてはと思った」とコメントしてますよね。

松居 同じ感情なのかもしれない。

蒼井 10代の多感さとはまた違う多感さが20代後半の女性には来るんだよね。映画監督って男性が多くて、意外とそこが描かれてない気がする。だから山内マリコさんはさすがだと思ったし、この映画のプロデューサーも同い年の女性なんですけど、この作品を引っ張ってきたのはすごいと思う。

──石崎さんの20代後半は?

石崎 僕何やってたかなあ……。1人で酒飲んでましたねえ。最近みんなと仲良くなって、みんなで酒飲んでます(笑)。

松居 1人がみんなになっただけじゃん(笑)。

蒼井 あはは(笑)。私、なるほどなと思ったのが、ひゅーいくんが映画のチームに入って「みんなでモノ作るのってすごい楽しいね」って言ってくれたときに、基本的にシンガーソングライターって1人で曲作って、歌詞書いてっていう、孤独な作業なんだなって。私たちは仕事って言ったらいっぱい人がいるのが当たり前だから。

石崎 そう。すごい楽しいなって。ずーっと撮影してたいと思ったもん。

蒼井 ミュージシャンがそれ言っちゃダメだから(笑)。

──石崎さんは今後も役者活動をしたいと思いますか?

石崎 でも今言ったことと矛盾しちゃうんですけど、あんまりそれは考えてなくて。映画の撮影が終わったあとに1、2日で5曲くらいできたんですね。そうやって映画を経験したことで心が動かされて自然とぶわっと曲が生まれたときに「あ、自分は歌手なんだな」って思ったっていうか。それはもちろん演技をやることに否定的な意味ではなくて、タイミングが合えばやりたいと思うんですけど、自分はそういう人間なんだなって再認識しましたね。

20代後半からその先に行く力をくれる

──映画の観どころも教えていただけますか?

蒼井 松居が珍しく女子を撮ったことじゃない?

石崎 確かに。松居くんはダメな男ばっかり撮ってた印象あるもんね。けっこう観たことない映画ではあるよね。

松居 うん、理屈では片付けられない感じにしたいっていうのはあった。一瞬先何が起こるかわからないような構成にして。あとはなんだろう……。

蒼井 女子高生、20代前半、20代後半っていう3つ世代の女性が描かれているけど、女性たちにとってその10年間ってすごい濃いと思うんだよね。私もものすごいジェットコースターみたいだったから、そういうのを映画で客観的に観たときに、20代後半からその先に行く力をくれるんじゃないかな。

松居 あ、それいいね! いただきました(笑)。

蒼井 私自分が好きな映画は、スマートに生きられない人を肯定してくれる作品なんだけど、そういう意味ではこの映画では誰一人スマートに生きてないよね。

左から蒼井優、石崎ひゅーい、松居大悟。

松居 そうだね、みんな不器用で。撮影前の打ち合わせで「この映画は人間賛歌です」って話をしていたんです。その人の地元だったり古い記憶だったり、いろいろなことを思い出すと思う。それを肯定することで、さっきの蒼井さんの言葉を借りると、背中を押してくれるような作品になったらいいなと思いますね。

石崎 僕は優ちゃんのあの、地方にいるアラサーの女子感が好きだなあ。

蒼井 あははは(笑)。

──では最後に、皆さんの30代の目標を教えてください。

松居 続けることですかね。20代後半は僕、「売れなきゃ」「有名にならなきゃ」ってガツガツしてたんですけど、それももうなくなって、続けられるようにがんばろうって感じで。そして続けるためにはこの仕事を好きでい続けられるかどうかだと思っていますね。

石崎 僕は自分の人生に飽きないようにしたいなって30代に入って思ってて。面白いことをちゃんと……それは曲作りだったり、こうやって映画に出させてもらったりすることなんですけど、自分で面白いなって思えることを探していかなきゃなと思ってます。

蒼井 私は特にないかなあ。目標を決めると徹底的にそれをやらないと気が済まなくなる自信があるから、持たないほうが私の性分にはあってると思う。まあやっぱり楽しむことかな。自分が楽しいと思うには周りも楽しめてないとそう思えないから、それを含めて自分がちゃんと楽しめてるかかな。でもひゅーいくんの「人生に飽きない」っていい言葉だね。

松居 それいいな、今度使おう(笑)。

INDEX
石崎ひゅーい×蒼井優×松居大悟鼎談
短編映画&MV撮影レポート
石崎ひゅーい ニューアルバム「花瓶の花」 / 2016年5月18日発売 / EPICレコードジャパン
初回限定盤 [CD+DVD] / 4500円 / ESCL-4614~5
通常盤 [CD] / 3200円 / ESCL-4616
CD収録曲
  1. ピーナッツバター
  2. 星をつかまえて
  3. メーデーメーデー
  4. 僕がいるぞ!
  5. トラガリ
  6. カカオ
  7. 花瓶の花
  8. 泣き虫ハッチ
  9. オタマジャクシ
  10. 天国電話
初回限定盤DVD収録内容
  • 第三惑星交響曲(MV)
  • ファンタジックレディオ(MV)
  • 夜間飛行(MV)
  • 僕だけの楽園(MV)
  • ピーナッツバター(MV)
  • 僕がいるぞ!(MV)
  • 花瓶の花(MV)
  • 短編映画「花瓶に花」
石崎ひゅーい(イシザキヒューイ)
石崎ひゅーい

1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身のシンガーソングライター。風変わりな名前は本名で、デヴィッド・ボウイのファンだった彼の母親が、ボウイの息子・ゾーイ(Zowie)をもじってひゅーい(Huwie)と名付けた。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビューし、2013年2月から5月にかけて全国47都道府県を回るライブツアー「全国!ひゅーい博覧会」を実施した。同年6月にテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」を、7月に1stフルアルバム「独立前夜」をリリース。2015年6月には劇団鹿殺しの舞台「彼女の起源」で俳優に挑戦した。2016年5月に2ndフルアルバム「花瓶の花」を発売。同年冬には、松居大悟監督、蒼井優主演の映画「アズミ・ハルコは行方不明」に出演する。

蒼井優(アオイユウ)
蒼井優

1985年生まれ。1999年にミュージカル「アニー」でデビュー。2001年に岩井俊二監督による「リリイ・シュシュのすべて」で映画初出演を果たし、以降「花とアリス」「亀は意外と速く泳ぐ」「ニライカナイからの手紙」など話題の映画に出演する。2006年には映画「フラガール」で第30回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など数々の賞を受賞。その後も「百万円と苦虫女」「ホノカアボーイ」「るろうに剣心」といった映画を始め、ドラマ、舞台、アニメ声優、ナレーションなど幅広く活躍。2016年冬に「百万円と苦虫女」以来約7年ぶりの主演映画「アズミ・ハルコは行方不明」が公開される。

松居大悟(マツイダイゴ)
松居大悟

1985年生まれ。慶應義塾大学入学とともに演劇サークルに入団し、2006年に劇団「ゴジゲン」を結成。2009年にNHKドラマ「ふたつのスピカ」で脚本家デビュー、2012年2月に映画「アフロ田中」で初の長編映画の監督を務める。以降は「自分の事ばかりで情けなくなるよ」「スイートプールサイド」などコンスタントに映画を発表し、「ワンダフルワールドエンド」と「私たちのハァハァ」で第7回TAMA映画賞の最優秀新進監督賞を受賞。またクリープハイプや大森靖子などのミュージックビデオも手がける。2016年冬に監督作「アズミ・ハルコは行方不明」が公開。