音楽ナタリー PowerPush - 石崎ひゅーい×丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)

舞台「彼女の起源」出演記念対談 未知なる世界で奮闘中

頭の中に“お越しくださる”のを待つ

──「さよなら、東京メリーゴーランド」は石崎さんが書きたくて書いた小説だとすると、普段の作詞は書かなきゃいけないもの、責任感が伴うものなのでは?

石崎 そう……なのかな? タイアップ曲はそうですけど、僕、普段は曲を書く作業って全然しないんで。頭の中に“お越しくださった”ときに「待ってました、ありがとうございます」って感じで書き始めます。

左から、菜月チョビ、石崎ひゅーい。

──歌詞が降りてくるのを待つ、と。

石崎 そうですね。

丸尾 僕も今、執筆しなきゃいけない脚本の本数が多くなってるんで、常に呼び込んでます。外れかもしれないけど、一瞬見えた糸に必死に手を伸ばしてつかまえにいって、「あ、また違った」っていう(笑)。ひゅーいくんはテーマを決めたり歌詞を書くときにワンパターンになっちゃうことってない? 僕はよく「また同じ言葉使ってる」とか悩んじゃうけど。

石崎 ありますあります。でも、本当は気にしなきゃいけないのかもしれないですけど、それはそれでよしとしちゃってます。

──2人の作品の共通点として、例えば今年1月に上演された鹿殺しの舞台「ランドスライドワールド」では、山間の荒びれた村が舞台なのに突然「西遊記」のようなシチュエーションになったり、「ドラゴンクエスト」を彷彿とさせるシーンになったり、X JAPANのパロディバンドが登場しますよね。一方、石崎さんの「シーベルト」ではピエロと政治家とロックンローラーが1つの曲で並列に歌われていて。普通だったら結びつかないものや言葉が1つの作品の中で同居している面白さがあると思うのですがいかがでしょう?

丸尾 僕が話を飛ばすのはかなり意識的ですね。楽をして書くと、振り幅が小さくなっちゃうんですよ。でももっと離れたい、もっと遠いところを描きたいと思ってひねり出してます。小さい世界だけの話では僕らしくないと思うので。

石崎 僕は……何も考えてないですね。何に対しても隔たりを作らない状態で曲を書いてるから、いろんなものが出てくるし、辻褄があってない言葉を使っちゃうし。でも、そのほうがいいんですよね、きっと。自分だけのものができる気がしているというか。

丸尾 歌詞を書くときに煮詰まったりはしない?

石崎 煮詰まることはあまりないです。なぜなら、できないときはできないので、作らないっていう思考回路になります(笑)。

丸尾 うらやましい(笑)。僕も衝動や感覚だけで書きたいんだけど、脚本ってすごく緻密な組み立てが必要なんだよね。ある人は何も考えず“糸をたどっていく”ように書くらしいんだけど、またある人はまず時系列に、何時何分にあれをして、何時何分にこれをするっていうのをめっちゃ考えてから書くらしい。

石崎 それぞれタイプがあるんですね。でも丸尾さん、あまり本とか読まないって言ってましたけど、それであの脚本が書けるのはすごいですよ。きっと感覚では先までわかってるんでしょうね。昨日も僕に「全部見えてるから大丈夫」って言ってたし。

丸尾 うん、まだ最後まで台本できてないけどラストまで見えてるし、この舞台が面白くなるっていうのも見えてるよ。

マザコンで酒飲み

──2人はお互い似てると思うところはありますか?

石崎 丸尾さん、マザコンなんですよ。

丸尾 ははは(笑)。

石崎 だからお母さんや家族がテーマの舞台が多いと思うんですけど。僕も死んだ母親のことを歌ってデビューしたからそこが似てると思います。

左から、丸尾丸一郎、石崎ひゅーい。

──丸尾さんはいかがですか?

丸尾 お酒の飲み方が似てるなと(笑)。多分心の奥底に持ってるものは、消えてしまいたい願望だと思うんですよね。それはやけ酒飲んで「チクショウ!」みたいなネガティブな感情じゃなくて、自分でなくなりたいというか、“ぶくぶくぶく”って浮かんでたいっていうか。

石崎 あーわかります! 僕も酒のバスタブに浮かびたいです。稽古初日のあと、みんなで打ち上げで飲んだんですけど、途中から紹興酒を飲み始めたらありえないくらい酔っ払いましたよね。

丸尾 夕方5時くらいから飲み始めて、9時には完全に酔っ払ってたね。

石崎 2日目、めっちゃ気持ち悪くなって、こんなんじゃいけないと思いました(笑)。もうちょっと稽古が進めば酒を飲む時間もなくなってくるとは思うんですけど。

舞台後にはバンド結成!?

──舞台の本公演が東京と兵庫で終わったあとには、「凱旋LIVE」が東京・TSUTAYA O-WESTと宮城・darwinで開催されます。これはどういったものなんでしょうか?

丸尾 今回の作品はほぼ全編にわたってバンドの演奏が続いてるから、その舞台をライブハウスでやってみたら面白いんじゃないかなと思って企画しました。舞台みたいにセットとかガチガチに決めるんじゃなくて、もっとゆるくというか、ファジーな部分があってもいいのかなと思ってはいるんですけど、基本的には同じキャストで同じ感じでやれればと思ってますね。

──東京公演にはゲストミュージシャンもいて、ジョニー大蔵大臣さん(水中、それは苦しい)、鳥肌実さん、masatoさん(SuG)という非常に濃い人選ですよね。

左から、石崎ひゅーい、丸尾丸一郎。

丸尾 鳥肌さんはミュージシャンじゃないですけどね。鳥肌さんはもう“鳥肌さんパート”として尺を渡してしまって、好きに演説してもらったらいいかなと(笑)。

石崎 どんな世界になるのか……想像を絶しますね。鳥肌さんとかやばいですよ、何かをぶっ壊しそうですよね。

──舞台と「凱旋LIVE」と、これを完走したら石崎さんにとって大きな経験になるのは間違いないでしょうし、自分の中で何かが変わるかもしれないですよね。

石崎 ですよね。またやりたい!ってなるんですかね。それか燃え尽きてぼうぜんとしてるかもしれない。

丸尾 寂しくなるんじゃない? 舞台って1カ月かけてみんなで作り上げていくから、人のつながりも濃くなるし、家族というか一緒に戦った仲間みたいな感じになるんだよね。だからバンドを組みたくなるかも(笑)。

石崎 確かに、そうなるかもしれないです。

劇団鹿殺しロックオペラ「彼女の起源」2015年6月3日(水)~8日(月)東京都 CBGKシブゲキ!! / 2015年6月11日(木)~14日(日)兵庫県 AI・HALL
「彼女の起源」

<作>丸尾丸一郎

<演出>菜月チョビ

<出演>
菜月チョビ / 石崎ひゅーい / 丸尾丸一郎 / オレノグラフィティ / 山岸門人 / 橘輝 / 傅田うに / piggy(ex. pocketlife) / 辰巳裕二郎(ex. 花団) / and more

ストーリー

幼い頃から父親に監禁して育てられた金子陶子(菜月チョビ)のもとに、ある日1本のカセットテープが差し入れられる。差出人は彼女の弟の金子三樹夫(石崎ひゅーい)。テープを再生すると、そこには陶子の知らない世界の様子を伝える三樹夫の歌が吹き込まれていた。その日から陶子と三樹夫のテープを通じた交流が始まる。だが、しばらくして三樹夫からのテープが途絶えてしまう。

凱旋LIVE「彼女の起源FINAL」

2015年6月16日(火)東京都 TSUTAYA O-WEST
2015年6月18日(木)宮城県 darwin

※東京公演にはジョニー大蔵大臣(水中、それは苦しい)、鳥肌実、masato(SuG)がゲストミュージシャンとして参加。

石崎ひゅーい(イシザキヒューイ)
石崎ひゅーい

1984年3月7日生まれ、茨城県水戸市出身のシンガーソングライター。風変わりな名前は本名で、デヴィッド・ボウイのファンだった彼の母親が、ボウイの息子・ゾーイ(Zowie)をもじってひゅーい(Huwie)と名付けた。高校卒業後、大学で結成したバンドにてオリジナル曲でのライブ活動を本格化させる。その後は音楽プロデューサーの須藤晃との出会いをきっかけにソロシンガーに転向し、精力的なライブ活動を展開。2012年7月、ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビューし、2013年2月から5月にかけて全国47都道府県を回るライブツアー「全国!ひゅーい博覧会」を実施した。同年6月にテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」を、7月に1stフルアルバム「独立前夜」をリリース。2014年4月に、自身の亡き母をテーマにしたコンセプトアルバム「だからカーネーションは好きじゃない」を発表した。2015年6月3日より上演される劇団鹿殺しの舞台「彼女の起源」に出演する。

劇団鹿殺し(ゲキダンシカゴロシ)
劇団鹿殺し

2000年、関西学院大学在学中に菜月チョビと丸尾丸一郎によって旗揚げされた劇団。2005年に活動の拠点を大阪から東京に移し、年間1000回以上の路上パフォーマンスを敢行する。あわせてコンスタントに公演を実施し、2010年発表の「スーパースター」は、第55回岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされた。2013年6月、文化庁新進芸術家海外派遣制度により菜月チョビが海外留学すること、それに伴い1年間の充電期間へ突入することを発表。充電前最後の舞台「無休電車」は東京・大阪ともに全ステージ完売となった。2014年1月にはCoccoを主演に迎え、初プロデュース作品として「ジルゼの事情」を手がける。この公演は演劇界のみならず音楽界でも大きな話題を呼び、同年9月に再演された。2015年6月、菜月チョビの復帰後初出演作として石崎ひゅーいを招いた「彼女の起源」を上演する。