ナタリー PowerPush - 石野卓球
熱海発→クラブ行き 6年ぶりのソロ作でパーティクルーズ出航
8月18日にリリースされた「CRUISE」は、石野卓球にとって実に6年ぶりとなるオリジナルソロ作品。コンパクトなミニアルバムという体裁をとっているが、そこには彼がDJという目線からさまざまな出演イベントで体験してきたパーティの楽しさが反映されており、かつ過去作品とはひと味違った見晴らしの良さも感じさせてくれる。
ナタリーでは今回、石野卓球にロングインタビューを敢行。この作品についての話を訊くとともに、8月28日に横浜アリーナで開催される屋内レイヴ「WIRE10」について、さらには彼が考えるパーティの楽しみ方や、ミックスCDの存在意義などについてたっぷりと語ってもらった。
取材・文/橋本尚平 撮影/中西求
iPodで聴くリスナーが圧倒的に多いから意識しないと
──6年ぶりのソロアルバムとはいえ、その間も卓球さんはDJを精力的にやっていましたし、電気グルーヴやInKなどでの活動もあったので、あまり久々という印象はありませんでした。
そうなんですよね。
──このタイミングでソロアルバムを作ろうと思ったのはなぜですか?
電気でアルバム3枚出してひと段落したからですね。最初は2枚出した時点でソロやろうかなと思ってたんだけど、年が明けたら電気が結成20周年だって言われて、おあずけを食らった感じになっちゃって(笑)。
──ということは電気が「YELLOW」を発売した段階で、ソロでやりたいことのイメージが頭の中にあったんですか?
いや、具体的にはなかったんだけど。前のソロを作り終わってからもずっと継続して、8小節のループみたいな、曲のスケッチみたいなものを空いた時間にいっぱい作り貯めてたんですね。で、それをアルバムにしようかと、年が明けたぐらいから本腰を入れたフリをしはじめて。
──フリを(笑)。
うん。そうやってなんだかんだしてたら6月ぐらいになっちゃってて、「これ以上フリだけをしてるわけにはいかない!」ってケツに火が付いて(笑)。
──この6年間にやっていたソロ以外の活動で、今回のソロ作品に反映された部分は何かありますか?
電気を結構長くやってたんで、ふざけグセがついちゃって、それを抜くのが結構大変で(笑)。今回は歌モノを入れるつもりはなかったのに、トラックを作っててもどうしても歌を考えてしまうとか。
──ああ、やっぱり歌モノを入れないっていうのは意識してたんですか。今までほとんどのソロアルバムには、短いフレーズのループではあっても歌モノも収録されてましたよね。
電気グルーヴが今回の活動でやっていたのがどちらかというとポップスだったので、そういうのは今回のソロでは最初から除外してたんですよ。かと言って、すごくDJツール的で「ミックスされて初めて真価がわかる」みたいなクラブトラックでもなく、それ以外の何かを作ろうって考えてたんです。
──確かにその絶妙なバランスは感じました。
でも装飾しすぎると伝わりづらくなるし、加減が難しいんだよね。最初に作ってたデモから余計なものをどんどん削ぎ落してたら、最終的に枝も何もない幹だけになっちゃって(笑)。これじゃあまりにも無愛想すぎるし、果たしてそれを自分が聴きたいかっていったら聴きたくない(笑)。で、そっからまた作り直すっていう感じだったの。
──なるほど。もちろん大音量で聴けばカッコイイと思いますけど、単に機能的なトラックというわけではないから、イヤホンで小さな音で聴いても楽しめそうなアルバムですよね。
やっぱ前提としてメジャーレーベルから出るっていうのがあるしね。クラブでかけて聴かれることも想定してるけど、それ以上にiPhoneとかiPodで聴かれる場合が圧倒的に多いんで、そういうリスナーは最初から意識してます。だからDJツールみたいなものにするつもりはなかった。
「高いからCD買わない」って思われるのはもったいない
──前回が「TITLE #1」「TITLE #2+#3」という大作だっただけに今回ミニアルバムというのが意外だったんですが、最初からこのサイズのものを作ろうと思って作業を始めたんですか?
そうですね。理由は2つあって、まず値段を下げたかったってこと。日本だとフルアルバムは3000円くらいだけど、自分が普段買うのって輸入盤が多いんで、やっぱり国内盤は高いなって感じるんですよ。輸入盤のアルバムだと安ければ1500円くらいで、新譜でもせいぜい2500円ぐらいでしょ。だからミニアルバムにしたんです。収録時間43分くらいあるからフルアルバムと言ってもいいくらいのボリュームなんだけど、ミニアルバムにすると値段が下がるんで。
──安くするための工夫なんですね。
そうそう。ちなみにアルバムにDVDを付けると、Amazonとかだと値下げして売られるじゃないですか。
──ああ、再販制度の対象外になるから。
そうやって安くすることも考えたことあるけど、でも映像作品は値段を下げるために作るもんじゃないから。わざわざ安売りするためにDVDを付けるっていうのも本末転倒でバカバカしいよね。
──(笑)。
もう1個の理由は、全体の収録曲のトーンを統一したかったってこと。フルアルバムを作ろうとするとどうしても途中で、違う側面からのアプローチだったり、変わった要素だったりを入れ込もうと考えちゃうから、それを今回は除外したいなと。最初の段階からバリエーションに富んだものにしたくないと思ってたし、ミニアルバムっていう形態がちょうどいいかなと思って。
──とはいえ、自分にとってこの作品はバリエーションに富んだ内容に感じました。序盤のディープミニマルと終盤の美麗なテクノではだいぶ印象も違いましたし。
いや、ちょっと語弊があったかもしれないけど、例えば途中にインタールードが入ったりとか、1曲だけゲストボーカリストが歌ってたり、BPMがすごく遅い曲が混じってたり、そういう意味でのバリエーションっていうこと。毎週どっかしらでDJをやってるんで、ソロアルバムではDJをやって受けたフィードバックを形にしたいっていうのがあって。そこに歌モノとかBPMが遅いものが混じるのもちょっと違うかなと思って、あまり入れたくなかったんです。
──なるほど、確かに今作の内容がDJ活動の延長線上にあるというのはよくわかります。ですが、かと言ってあまり実際のパーティに直結したものではないような気もしました。
それはやっぱりiPhoneやiPodで聴かれることを前提にしたからですね。「クラブトラック風のポップス」「ポップスっぽいクラブトラック」はよくあるんだけど、クラブでちゃんと機能して、かつiPodでも聴けるものってあまりないんだよね。そこに照準を置いて作るのはすごく難しかったです。
──かなりのレコードコレクターとして知られていますが、そんな卓球さんでもやはりCDは高いと感じているんですね。
うん。やっぱ高いでしょ。買おうかなって思ってるんだけど高いから買うのやめちゃう、っていう人がいるのが一番もったいなく感じるんですよね。違法ダウンロードで音楽を聴く人が増えてるっていうけど、そういう人ってどうせハナから買う気ないだろうし、考えなくていいと思ってるんだけどさ。
──少しの値段の差でそう考えられちゃうとしたら、もったいないですよね。
買ってくれる人にはパッケージとかも込みで手に取ってほしいって考えてるんですよ。なのに、たかだか700円ぐらいの差で「値段が高いから買わない」ってなると残念でしょ。せっかく興味持ってくれた人がいるのに「じゃあもう聴かない」ってなったり、もしくは「これからは違法ダウンロードで聴く」ってなっちゃうともったいないんで。お客さまの立場に立って考えてるんですよ。
DISC 1 収録曲
- Ellen Allien / Our Utopie
- Johnny D. & Butch / Blues Shoes (Butch Mix)
- DJ Tasaka / Gratitude
- Gregor Tresher / Escape To Amsterdam
- 2000 And One / Peking Dub
- Hard Ton / Earthquake
- Ken Ishii / Right Hook (Original Mix)
- Dusty Kid Presents Grooviera / Ya No Puedo Mas
- Takkyu Ishino / 7th Tiger (W10 Mix)
- Alex Bau / Wayne Sidorsky (WIRE-Exclusive Edit)
- Beroshima / All The Time
DISC 2 収録曲
- Roman Flugel / Yokohama Sunrise
- Dominik Eulberg / Adler
- Monika Kruse / Wavedancer (Pig & Dan Remix)
- A.Mochi / Black Out (WIRE10 Mix)
- Jeff Mills / Space Walk
- Hell / Electronic Germany
- Radio Slave / N.I.N.A
- Fumiya Tanaka / they got a moon
- Paul Ritch / Suffolk
- Newdeal / Backbeat reprise
- Eric Sneo / Tanz der Familie (RMX)
石野卓球
(いしのたっきゅう)
1967年生まれのDJ/リミキサー/ミュージシャン。インディーズバンド・人生を経て、1989年にテクノユニット・電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。90年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。ベルリンで行われるテクノ最大の野外フェス「Love Parade」では100万人を前にプレイするなど、数々の偉業を成し遂げている。また、1999年からは日本最大の屋内型レイヴパーティ「WIRE」を主催。毎回1万人以上もの集客で人気を誇る。2006年からは川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成し、リリースやライブなど精力的な活動を行っている。