音楽生活50周年! “日本の歌手”石川さゆりが歌い、挑戦し続ける理由

石川さゆりは1973年3月25日に「かくれんぼ」で歌手デビューし、2023年には活動50周年を迎える。このアニバーサリーイヤーに向けて、石川はアルバムを連続リリースすることを発表。その第1弾として、5月18日にコラボレーションアルバム「X -Cross Ⅳ-」をリリースした。

「X -Cross Ⅳ-」は日本のさまざまなミュージシャンを制作陣に迎えた「X -Cross-」シリーズの第4弾。加藤登紀子、阿木燿子、宇崎竜童、亀田誠治、布袋寅泰、神津善行、村田陽一、斎藤ネコ、いしわたり淳治、若草恵、松本峰明、東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦とNARGOが楽曲制作で参加し、各アートワークは東京藝術大学美術学部より、クリエイティブディレクター・箭内道彦の研究室に所属する学生たちが制作した。音楽ナタリーでは本作の発売を記念し、石川にインタビュー。「X -Cross Ⅳ-」制作エピソードだけでなく、これまでの活動を振り返りつつ、歌手活動を続けていくための姿勢を語ってもらった。また特集後半では、アルバム「X -Cross Ⅳ-」参加アーティストから届いたコメントを紹介する。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 須田卓馬

50周年、学生さんも一緒に盛り上げてくれませんか?

──このたびはデビュー50周年おめでとうございます。今年は周年記念アルバムを複数リリースされるとのことでしたが、その第1弾は豪華アーティストとのコラボレーションで毎回話題を作ってきた「X -Cross-」シリーズの4作目です。今回も素晴らしい作品に仕上がりました。

ありがとうございます。(CDのパッケージを手にして)このジャケットも素敵でしょう? 「X -Cross-」は「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦さんから始まって、2枚目は天野喜孝さん、3枚目はEl Bochoさんがジャケットのイラストを描いてくださって。今回は初めてプロじゃない方、東京藝術大学美術学部の箭内道彦さんの研究室に所属している、学生さんたちとコラボさせていただいたんです。

「X -Cross Ⅳ-」ジャケット

「X -Cross Ⅳ-」ジャケット

──これはどういう出会いだったんでしょうか?

コロナ禍がきっかけでした。大学の試験は受かったけど学校に行けない、アルバイトにも行けない、田舎にも帰れない、友達もできない……という大学生の皆さんのニュースを聞いて、「こんなに悲しいことはないな」と思って。何か自分にできることはないか考えたときに、「そうだ、石川さゆりの50周年を、学生の皆さんのアートで一緒に盛り上げていけたらうれしいな」って。それで箭内さんに相談して、研究室の学生さんたちとリモートミーティングで何度も話し合いをしながら、みんなで作品を作ったんです。しかもジャケットだけじゃなく、50周年のロゴも考えていただいたり、周年企画全体を通してコラボできたらいいなって。「さ金ちゃん」というオリジナルキャラクターも映像で動かしてもらいましたよ。そこに私の「よいしょ、よいしょ」って声を乗せてね(笑)。学生の皆さんがイメージする世界や若いエネルギーに触れることができて、すごく楽しみながら50周年の企画を進めております。

石川さゆり

スカパラの皆さんもびっくりするぐらい攻めてます

──楽曲も豪華なアーティストの皆さんが参加されています。

シングルとしてもリリースさせていただいた「残雪」では加藤登紀子さん、「虹が見えるでしょう」では東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦さんとNARGOさん、そしてアルバム用に制作した楽曲では布袋寅泰さん、亀田誠治さん、阿木燿子さん、宇崎竜童さん、神津善行さんとご一緒させていただきました。

──スカパラの皆さんとは長いお付き合いになりますね。

最初は1995年に発表したアルバム「二十世紀の名曲たち 第5集」で、小林旭さんの「自動車ショー歌」のカバーで演奏してくださったんです。それから同じ年に彼らが「グランプリ」というアルバムを作ったときに、「じゃあ私、歌うわね」って「真赤な太陽」にボーカルで参加したり。あとは2010年に奥田民生さんと一緒に作った「Baby Baby」でもご一緒しましたね(参照:石川さゆり with 奥田民生|モータウン&サーフィン!キュートな作品「Baby Baby」完成)。今回の「虹が見えるでしょう」は、とにかく谷中さんの書いた詞とNARGOさんの作ったメロディが心地よくて、今まで以上にコラボの醍醐味を思いっきり感じました。そして何が違うって、テンポが速い(笑)。いつも自分が歌っている曲の3倍速くらいですもんね。スピーディな曲をたくさん作ってきた彼らですら「うわっ、速っ!」と言ってました。村田陽一さんのアレンジもすごくカッコよくて。

──ここまでテンポを速くしようというのは、話し合いで決められたんですか?

そうです。スタジオでの制作中、「もっと速いほうがいいね。もうちょっといけるかな?」なんて言いながら。LINEでも「ここの詞いいね」「ここはこんな感じがいいね」とか、いろんなやり取りをしました。「真赤な太陽」や「自動車ショー歌」のときはそこまで過激にならなかったんですけど、今回は谷中さんたちもびっくりするぐらい攻めてます(笑)。あと、それぞれ自由に演奏するパートでも「あっ、今のカッコいい。もう1回やってみよう」「違うほうがいいかな」とか話し合ったり。とってもライブ感のあるレコーディングでした。

──これはステージでもきっと盛り上がるでしょうね。

実は先日「MUSIC FAIR」という番組で、彼らの生音をバックに歌ったんです。すごく楽しかったですよ。

石川さゆり
石川さゆり

裏テーマはアダルト、過去シリーズとはまた違った雰囲気の「X -Cross-」

──布袋寅泰さんとの「本気で愛した」は、布袋さんの泣きのギターを堪能できる壮大なスローバラードです。

最初はピアノで始まって、途中いいところで布袋さんのギターが入ってくるんですよね。布袋さんが想像する石川さゆりを表現してくださいました。彼との出会いは、2019年発表のアルバム「民~Tami~」で、プロデューサーを務めてくださった亀田誠治さんの紹介で「ソーラン節」の演奏にご参加いただいたのが最初ですね。そのご縁で「NHK紅白歌合戦」で「天城越え」を披露した際にギターを弾いてくださったり、お互いのコンサートを観たり。今回のアルバムも「ぜひご一緒してください」と私からお願いしました。

──先ほどお名前の出ました亀田誠治さんも、2018年発表のシングル「花が咲いている」から複数回にわたって石川さんの楽曲に参加しています。「X -Cross Ⅳ-」では「人生かぞえ歌」を作編曲されていますが、この曲は民謡などで古くから伝えられている数え歌の最新版として、「人生100年時代を楽しもう」というコンセプトを掲げた楽曲になっていますね。

演奏いただいたミュージシャンのみんなも、スタジオで「俺、今この年代まで来てる!」とか盛り上がりながらレコーディングしてました(笑)。亀田さんもいろんな音楽に興味を持っていらして、2019年から「日比谷音楽祭」という野外音楽フェスを始められましたよね。そのイベントで“音楽のボーダーレス”について一生懸命おっしゃっていて、私もずっと同じことを考えながら活動してきたので、すごくお話が合うんですよ。作詞していただいた、いしわたり淳治さんも、いい歌詞をたくさん書いていらっしゃいますよね。青森のご出身で、「津軽海峡・冬景色」を発表した年と同じ1977年生まれという不思議なご縁があって。彼のお父さんと電話でお話したこともあるんです(笑)。

石川さゆり

──阿木燿子さん、宇崎竜童さんの黄金コンビによる「琥珀」も聴き応えたっぷりでした。

「X -Cross Ⅳ-」は “X -Cross- アダルト”という裏テーマを掲げていて、大人の方にじっくりと聴いていただける作品にしたかったんです。中でも阿木さん、宇崎さんコンビの「琥珀」はなんとも柔らかく、鋭く、素晴らしい世界が表現されていますね。お二人はこれまで何曲もいい歌をたくさん書いてくださいましたし、過去には宇崎さんと小椋佳さんによる「日本海の詩」「残照恋鏡」、阿木さんと加古隆さんによる「何処へ」という曲も歌わせていただきました。

──なるほど。

加藤登紀子さんはシングル曲「残雪」に加え、このアルバムのための新曲「再会」も提供してくださいました。神津善行さんの「ふる里に帰ろう」は「おじいちゃん、おばあちゃんの待っている故郷に帰ろう」ということで、神津さんや奥様の中村メイコさんのお声も入っていて、すごくあったかくてかわいらしい楽曲になっています。そういう意味でも、今回の「X -Cross-」はいろんな思いがいっぱい詰まっていますね。今までの「X -Cross-」シリーズとも、ちょっとカラーが違うものになったかもしれません。

──今回「琥珀」「残雪」の2曲を編曲された斎藤ネコさんも、石川さんとは長いお付き合いですね。

ネコさんと最初にご一緒したのは1991年に発表した「ウイスキーが、お好きでしょ」ですから、もう30年以上の付き合いになるのかな。

──その斎藤ネコさんは椎名林檎さんと映画「さくらん」の音楽制作やアルバム「平成風俗」でご一緒されて。さらに石川さんもシングル「暗夜の心中立て」で椎名さん、斎藤さんとコラボしていて、深い縁を感じます。

林檎さんとは以前「暗夜の心中立て」「名うての泥棒猫」などを一緒に作りましたね。彼女だけでなく、誰かとコラボするときはただ「よろしくお願いします」で投げてしまうと、“石川さゆりの歌”というイメージに引っ張られてしまい、似たような歌になってしまいそうで。それは避けたいので、「この方にはこのテーマで」というふうにそれぞれお話するんです。林檎さんのときは“不条理”というテーマでお願いしました。さらに「名うての泥棒猫」のデモをいただいた際には「2人で歌うハーモニーが思い浮かんできたから、私1人だけじゃなく、一緒にザ・ピーナッツみたいにやってみない?」とお誘いして、スタジオでハモりを付けたり。そんな感じで作っていきましたね。振り返ってみると、音楽を接点に、面白い形で人と人がつながってるんだなと思います。30代まではあまりわからなかったですけど、40代あたりから空の上から神様が「そろそろこの人を会わせてみるかな?」みたいな感じにご縁を作ってくれているような気がしますね。