石原夏織の7thシングル「Starcast」が11月24日にリリースされる。表題曲のテーマは“心の距離”。石原が敬愛するシンガーソングライター・やなぎなぎが手がけたドラマチックな歌詞が印象的なナンバーだ。音楽ナタリーでは、今作の発表を記念して石原とやなぎの対談を実施。石原の楽曲をともに制作するのは今回が2度目となる2人に、互いに惹かれ合う理由や新曲に込めた思いについて語ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 小財美香子
まるで絵本を読んでいるような
石原夏織 うふふ。
やなぎなぎ ふふふ。
──お二人とも満面の笑みなので、対談開始前から癒されます。今回が初対談とのことですが、お二人の出会いはやなぎさんが作詞を担当された石原さんの楽曲「キミしきる」(2020年発表の2ndアルバム「Water Drop」収録曲)よりも、ずいぶん前にさかのぼるんですね。
石原 そうなんです! やなぎさんと最初にお会いしたのは2012年放送のテレビアニメ「あの夏で待ってる」という作品でした。私はメインキャラクターの1人、谷川柑菜役をやらせていただいたんですが、やなぎさんはエンディングテーマ「ビードロ模様」の作詞と歌を担当されていて。
やなぎ 私のメジャーデビュー曲で、同じアニメ作品に携わらせていただきました。
石原 そこから「凪のあすから」(2013年放送のテレビアニメ。石原は久沼さゆ役、やなぎはエンディングテーマ「アクアテラリウム」ほかを担当)、「色づく世界の明日から」(2018年放送のテレビアニメ。石原は月白瞳美役、やなぎはエンディングテーマ「未明の君と薄明の魔法」を担当)と、同じアニメ作品でご一緒させていただく機会がコンスタントに続いて。そうしているうちに「いつか自分の歌でやなぎさんと何かできたら」とずっと思っていたので、「キミしきる」で作詞していただけたときはすごくうれしかったです。
やなぎ ふふふ。私もめっちゃうれしくて、喜びながら歌詞を書きました(笑)。
石原 本当ですか!? ありがとうございます! 「キミしきる」の歌詞もめちゃめちゃ素敵だったので、今回のシングルを制作する段階になったとき、私から「もし可能だったらやなぎさんに歌詞を書いてもらいたいです!」とお願いして実現しました。
やなぎ 「あの夏で待ってる」のアフレコ現場にお邪魔したときに、初めて(石原)夏織さんの演技を生で見させていただいたんです。夏織さんが演じていた谷川柑菜ちゃんというキャラクターが、けっこう熱く叫ぶシーンがあったんですよね。「バカッ!!」みたいな。
石原 ありました(笑)。いっぱい。
やなぎ その夏織さんの全力度がすごくて、コントロールルームにいたスタッフさんもその瞬間ザワッとしたんです。「すごい!」と。その後一緒に曲を作らせてもらったときも、こちらから何かリクエストをお伝えすると、夏織さんはいつも100%以上のものを返してくださると、ひしひしと感じて。「色づく世界の明日から」で夏織さんが演じた月白瞳美ちゃんのキャラソン「ささやかな光」も私が書かせてもらったんですが、そのときも夏織さんが私の想像以上の力で応えてくれるから、「これはすごいぞ」と思って、さらにいろいろお願いをしちゃったんですけど。
石原 あのレコーディング、すごく楽しかったです!
やなぎ 結果無理を言ってコーラスも録らせてもらったんですけど、夏織さんだからこそぜひやってほしいなと思ったんです。今回の「Starcast」の歌詞は、夏織さんから「“心の距離”を縮めたい」というリクエストをいただいて。初めてお会いしてから約10年、その間ずっと感じていた夏織さんのまっすぐさを、今回は歌詞に込められたらと考えて、夏織さんのパーソナリティから作詞をしていったんです。
石原 えー! そうだったんですね。ありがとうございます。
やなぎ 「キミしきる」のときもそうだったんですが、純粋さ、ひたむきさみたいなものが夏織さんの歌から強く感じられるので、その部分をより引き出せたらいいなという思いで、「Starcast」を書かせていただきました。
石原 うわあ、めちゃめちゃうれしいです。歌詞を読んでいて、きっとやなぎさんは私自身のことを知ったうえで歌詞を考えてくださってるんだろうなと思ってはいたんですけど、そこまで考えていただけていたなんて。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
やなぎ 夏織さんの曲の歌詞を書くのが本当に楽しくて。「夏織さんだったらここをこう歌ってくれるんじゃないかな」とか、「私が書いた言葉以上に、まっすぐ伝えてくれそうだな」と想像しながら書きました。
──石原さんも「大好きなやなぎさんの詞の世界観を歌えて幸せです」というコメントを発表されていました(参照:石原夏織が“心の距離”テーマのシングルリリース、やなぎなぎが作詞担当)。
石原 そうなんです。やなぎさんの歌詞に出てくるワードって、普段は聞くことがない独特な言葉が多くて大好きなんです。それこそ「キミしきる」というタイトルも造語ですし、そのクリエイティブ感も自分の想像のめちゃめちゃ上を行く感じというか。
やなぎ うふふ。ななめ上に(笑)。
石原 やなぎさんの歌詞に出てくる単語1つからいろいろなことを想像できるのが、すごく素敵で。今回の「Starcast」もまるで絵本を読んでいるような気持ちになったんです。歌詞を読んだ人、曲を聴いた人が物語をそれぞれの意味で捉えられるところが、やなぎさんの歌詞の素敵なところだし、私もすごく好きなところです。最初に「1番の歌詞、こんなのどうですか?」と見せていただいたときも、この先がどうなっていくのか楽しみでしょうがなくて。胸が苦しくなる部分もあれば、温かく包まれるようなフレーズがあったり。感動しました。
やなぎ 自分はいつも物語を想像して1本のお話を書くような気持ちで歌詞を書くので、「絵本を読んでいるみたい」とおっしゃっていただけて、すごくうれしいです。「Starcast」も誰かとの“心の距離”を縮めるためのワードをいろいろちりばめながら、ストーリーが進行していく感じで書いていって。石原さんがそれを汲み取って歌ってくださったことが伝わってきました。
天の川もひとっ飛びで越えていける
──「Starcast」で描かれているテーマ“心の距離”とは、それぞれどのように向き合っていきましたか?
石原 そもそも今回のシングルはひさびさのノンタイアップということで、自由度が高いこともあって。私は今までずっとファンの皆さんに「“心の距離”が近いアーティストになりたい」と言ってきたので、そろそろそういう曲を作ってもいいんじゃないかなと。そのうえで最近の状況も考えたときに、家族や友人、大切な人と会いたくても会えないという皆さんのもどかしさを、少しでも和らげたり希望に変えられたらと思ったんです。それでやなぎさんに「“心の距離”を縮める」というテーマを伝えさせていただきました。
やなぎ “心の距離”というのは、夏織さんとファンの方ももちろん、ファンの方同士の気持ちもこの曲で近付くといいなというのも大事なポイントでしたよね。
石原 そうなんです。やなぎさんはその思いをめちゃめちゃ汲んでくださって。あの、このテーマでいきたいとリクエストが来たとき、やなぎさんはどんなふうに歌詞作りをスタートさせたんですか? 私、すごく気になって。
やなぎ 私は普段、本や映画から影響を受けることが多いので、そこからテーマをどうやって広げていこうか考えていくんですけど、今回は夏織さんご本人のイメージもあったので、「“夏の織姫”という名前の夏織さんだったら、天の川もひとっ飛びで越えていけそうだな」という印象から、歌詞のイメージを広げていきました。スケールが大きい話ですけど、「夏織さんなら『ここが一番近道だから』って星の中でも歩いていけそう」という勝手なイメージで(笑)。
石原 すごい! 私のことをそんなふうに見ていてくださったんだなって、うれしいです。
──石原さんのお話にあったように、曲のテーマである“心の距離”はコロナ禍における人々の状況とも重なります。
やなぎ 自分も家族だったり遠く離れている人たちだったりとなかなか会えないので、イメージしやすいテーマでしたし、今だからこそ書ける歌詞だなと思いました。
石原 伝わってきました。「この気持ち、めちゃめちゃわかる!」って。
やなぎ 皆さんに共通する悩みと重なるテーマだから、きっとファンの方にも刺さるんじゃないかなと。
石原 最近はファンの方と交流するイベントもできなくなってしまいましたし、ライブで集まってくださっても皆さんは声が出せないという、コロナ禍以前とは違う状況で。最初はその変化に戸惑う自分もいたんですけど、皆さんがお手紙をくださったり、配信のチャットで感情を伝えてくださるので、そういう言葉にすごく助けられていますね。それこそ、アーティストデビューしたばかりの頃は自分に自信が全然なかったんですけど、リリースイベントとかでファンの皆さんが「めちゃめちゃ楽しみにしてたよ」とか「この曲にたくさん背中を押してもらいました」と言ってくださって。ファンの皆さんや周りのスタッフさんの言葉の力って、すごく大きいなあと。
やなぎ 私も「こんな状況だからライブになかなか行けないけど、気持ちを伝えたいからお手紙にしました」というファンの方がすごく多くて。言葉の力って、こういう苦しいときにこそめちゃくちゃ大きくなるんだなと実感しましたね。もちろん以前から大切なものではあったんですけど、ライブをするときは1公演ずつ、もっと大切に歌いたいという気持ちが強まりました。
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心がズキューンと撃ち落とされて
2021年11月22日更新