ナタリー PowerPush - IsamU
社会経験が生きたリアルな詞世界 ミステリアスな新鋭に迫る
押し付けがましくなっちゃうのはイヤ
──IsamUさんの曲からは「生きることを愛する」という感情がすごくリアルに伝わってきました。それも大きな特徴のような気がするのですが。
ああ、確かにそうですね。今回のアルバムに入れる曲を改めて聴いていたときに、思いのほか“生きてゆく”っていうフレーズが多いことに気付いて。自分でもこんなに使ってるんだなってちょっとびっくりしたんですよ。それはきっと音楽という夢がありながらも不安で思い悩む日々が続いていて、どうやって自分は生きていこうかなっていうことをずっと考えてたからなのかもしれないですね。
──で、それを大げさに表現するのではなく、ささいな日常の中の感情として描いているからこそ、聴き手は思いっきり共感できるんだと思うんです。
生きていくってことは、ささくれみたいな感情の積み重ねみたいなところがあると思うんですよ。だからそういう小さな感情、普段気にもとめない、人に話すこともないようなところを自分は歌として出していけたらいいなって思うんですよね。まあ、たまに言いすぎちゃうこともあるんですけど。今回のアルバムで言うと、「インソムニア」や「蝙蝠」はちょっと出しすぎちゃった感じが強い曲です(笑)。
──あはは。確かに「蝙蝠」は聴く人によってはかなりグサッと突き刺さりそうな歌詞ですけど、でも“蝙蝠”というファクターを使って描かれているので、絵本を読んでいるような感覚で柔らかく聴けてしまうんですよね。
意識的にそういう書き方をするようにはしてますね。自分の暗い感情とかをそのまま出しちゃうと、聴くほうも重いと思うので。まあそれでもダークな部分が色濃く出た曲だとは自分では思いますけどね。
──僕は「街」という曲がすごく好きで。ここには雑踏の中ですれ違う人、ぶつかって通り過ぎていく人たちにもそれぞれの人生があって、それを思いやる優しさが描かれているんですよね。今日、ここに来るまでに何人もの人とぶつかりましたけど、この曲のおかげで全て許せましたよ(笑)。
あははは(笑)。そういうときの緩和剤になってもらえたらうれしいですね。僕も実際、街中で人とぶつかれば、ここでは話せないような言葉が頭をよぎることもありますからね(笑)。「負けんな!」という曲もそうなんですけど、これは自分への戒めでもあるんですよ。誰かに対して言いたいことがある曲の場合でも、説教臭くなったり、押し付けがましくなっちゃうのはイヤだから、言いたいことを自分のほうへ転換して歌詞を書くことが多いかもしれないですね。
顔出しをしないことはチャンス
──あとはラストの「ハッピーエンド」も印象深かったです。童話なんかではよくハッピーエンドが描かれるわけですけど、俺が知りたいのはその先なんだよっていう歌。この視点がもう最高だなと(笑)。
ハッピーエンドだけがもてはやされていることにすごく違和感を覚えたんですよ。だってシンデレラが王子様と結ばれてハッピーエンドになったところで童話は終わりますけど、もしかしたら王子様のお母様と折り合いが良くなくてシンデレラが思いっきり生電話しちゃうこともあるかもしれないじゃないですか。財宝を持ち帰った桃太郎がその後に散財して、散々な人生を送ることになるとか。
──確かにハッピーエンドの先も人生は続いていくわけですからね。
そうなんですよ。まあでも、これを書いたのは19、20歳のときなんですけど、どんだけひねくれてるんだって今は思いますけどね(笑)。
──あはは。でもこの曲は今のIsamUさんの状況にも当てはまる気はしますよね。ずっと抱いてきたデビューという夢が叶った今は童話でいうところのハッピーエンドなのかもしれないですけど、ここからが本番でもあるわけですから。
まさにそういう意味を込めて入れました。ここで終わりじゃないですからね。いい人生が続くようにがんばろうと思います。
──現時点で思い描いているこの先はどんなものですか?
曲作りを始めてから10年くらい経っているので曲がたくさんあるんですよ。今も継続して作っていますし。なのでまずはどんどんリリースを重ねて、そういう曲たちをたくさんの人に聴いてもらいたいですね。あとは曲提供をさせていただくことで自分の曲を世に出すこともやってみたいですし、今までライブというものをそれほど多くは経験していないので、そこにも挑戦していきたいですね。
──ライブをする際にも顔は出さないんですよね?
そうですね。顔出しをしないっていうのは難しい面もありますが、逆に面白いことができるチャンスでもあると思っていて。ようやくこの場所に立てたので、できることはなんでもやっていきたいなって思ってます。
──ちなみにIsamUさんが勤めている会社の人は、その正体を知っているんですか?
いや知られてはいないですね。積極的に話すことでもないので。幸か不幸かまだ会社の人がIsamUの話をしてきたことはないんですけど、もし話題にのぼったらどういう対応しようかなって今からドキドキしてます(笑)。
IsamU 「Only」
IsamU「100回泣くこと」short ver
- デビューアルバム「I am the same as you」 / 2013/01/16発売 / 1980円 / A-Sketch / AZNT-2
- 1stフルアルバム「I am the same as you」
収録曲
- 負けんな!
- 100回泣くこと
- 代々木公園
- Drive
- インソムニア
- Only
- 街
- 蝙蝠
- 引っ越し
- ハッピーエンド
販売店舗
タワーレコード / TSUTAYA RECORDS / HMV / 山野楽器 / Amazon / 楽天ブックス
IsamU(いさむ)
1985年生まれの男性シンガーソングライター。アーティスト名は「I am the same as you.(似た者同士)」という言葉から作られた造語で、「人と人の距離を縮め、いつでもあなたの傍にいたい」という思いが込められている。2011年にWEAVERの杉本雄治のソロミニアルバム「facing you」に加藤イサム名義で楽曲を提供したことを機にデビューのチャンスをつかみ、2013年1月に満を持してアルバム「I am the same as you」でA-Sketchからデビューを果たす。