iriゆかりのクリエイター5名が振り返るアルバム作品
小林光大(写真家、映像作家)
iriとのエピソード
最初に会ったのは1stアルバム「Groove it」のジャケット撮影時でした。iriにとってあの現場が初めての撮影だったようですが、自分のリクエストに物腰柔らかく、柔軟に応えてくれたのを覚えています。撮影前にいただいた楽曲を聴いたタイミングで、ジャケットのアートワークのロケーションが浮かびました。夕暮れから夜にかけての時間帯に1人佇むiriが見えてきて、その画を起点にいくつかのイメージを作っていきました。ビルが立ち並ぶ摩天楼を背景にした青春群像がテーマでした。
1stアルバム「Groove it」について
「ナイトグルーヴ」のようなキラーチューンと、「brother」のようなパーソナルな側面を持った楽曲が混合しているヒリヒリしたバランスが、1stアルバム然としていて好きです。個人的には「rhythm」が好きで、聴いているとアートワークを作っていたときの記憶がよみがえってきます。自然と口ずさんでしまうような芯のあるメロディと歌詞を書けるiriはすごいなと思うし、こんな声色でしなやかに歌を歌う人はほかにいないなと思います。
自分にとってのiriの存在
「Groove it」のあとも「Watashi」(2017年3月発表)のジャケや「Sparkle」(2020年3月発表)のMVを撮ったりと一緒に作品制作しましたが、一貫して何がクールなのか、本人の中に明確なものがあるように感じました。iriは自分がいいと思うものに対する心の開き方、気持ちの乗せ方がちゃんとある人で、自分がアーティストであることの意識が強く感じられます。「Sparkle」を初めて聴いたとき、冷たい火花の匂い、映像が浮かびました。iriの楽曲は、そういう音楽でしかたどり着けない境地みたいなものを見せてくれる。すごく刺激的な存在です。
iriへのメッセージ
「Groove it」から節目節目でご一緒させていただいてますが、毎回自分にとっても大事なタイミングに重なっているので、勝手に戦友のような気持ちでいます。これからもよろしくお願いします。また蕎麦でも食べましょう!
- 小林光大(コバヤシコウダイ)
- 映像作家 / 写真家。これまでにThe fin.、青葉市子、TAWINGSらのアーティストビジュアルの撮影や、Yogee New Waves、あいみょんらのMVを監督。iriの作品では2016年10月発表の1stアルバム「Groove it」、2017年3月発表の音源集「Watashi」のジャケット写真を撮影したほか、2020年3月発表の「Sparkle」のMVを監督した。
Yaffle(プロデューサー、作曲家、編曲家)
iriとのエピソード
1stアルバム「Groove it」の「rhythm」で初めてご一緒しましたが、僕も音楽の仕事を始めたばかりだったので、お互いまっさらな状態で会ったんですよね。当時のiriちゃんはまだ大学生で、“原石”という感じがしました。最初に「ナイトグルーヴ」と「会いたいわ」のデモを聴かせてもらった時点で、iriちゃんの歌声から発せられる独特なリズム感、パルスに対するいい意味でのズレがすごく印象に残っていて。作品として普通にカッコいいなと思ったし、とにかく特別でした。だから「一緒にこんな曲を作れたら楽しいだろうな」というイメージがすぐ浮かんできました。
2ndアルバム「Juice」について
「Juice」では「Corner」と「Slowly Drive」を一緒に作らせてもらいましたが、iriちゃんとはお互いを尊重しながら曲作りができたと思います。ビートは僕、歌はiriちゃんと、なんとなくそれぞれのやるべきことを同じ温度感で共有できている感覚。曲数を重ねていくうちに最近はお互いが交わる部分が少しずつ多くなってきた気がするけど、基本的にはそのスタンスでずっと走ってきたように思います。あと「Slowly Drive」は、僕の中でiriというアーティストの方向性が決定付けられた象徴的な1曲。世の中にはいろんなアーティストがいると思うけど、iriちゃんはヒットソングを作ることだけを目的としていない、長いスパンでいろんな良質な音楽をやっていきたい人なんだと感じました。
アルバムとしては、「Juice」はアーティストとしてのiriちゃんが確立された作品のように思います。「Groove it」ではデビュー前に自分がストックしていたもので表現できていたはずだけど、「Juice」はデビューしてから作った曲で構成されているから、本当の意味でのスタートだったんじゃないかな。曲を作るうえでのマインドもメジャーデビュー前とは変化していったはずだし、そういう中でアーティストとして1つ旗を立てたような、記念碑的なアルバムなんじゃないかなと思います。
自分にとってのiriの存在
僕自身のキャリアはiriちゃんの作品と一体化しているというか。これまで一緒にやらせてもらったアーティストの中でiriちゃんとの付き合いが一番長いんです。そういう意味でも特別な存在ですし、僕にとっては柱のような、常に真ん中にいる人。それに、声質やリズム感を含めiriちゃんみたいな人はほかにいないし、すごく現代的なアーティストだと思います。「カバーは別だけど、基本的には自分の書いた曲だけを歌いたい」と話していたのが印象的で、iriちゃんの書く、ラップともメロディとも取れるトップラインはすごくモダン。誰にも真似できないし、本人も誰かの真似をしているわけじゃない。そういうオリジナリティと時代性が同じ方向を向いているのはすごく稀有なことだと思いますし、すごくカッコいいなと思います。
iriへのメッセージ
iriちゃんの作る音楽は揺るがない。これからもこれまで通り、ただただ素晴らしい曲を作っていってほしいなと。いい曲を作り続けることはなかなか難しいことだけど、iriちゃんはそれができる人だと思います。それに共同制作者である前に、僕はもっとコアな部分でiriちゃんのファンなので、iriちゃんのカッコいい曲を聴きたいです。もちろん作品に呼んでもらえるなら一緒にやりたいし(笑)、実際もっといろんな曲を作りたい気持ちもあるけど、自分はいちファンとして、これからも純粋に新曲楽しみにしてまーす!
- Yaffle(ヤッフル)
- プロデューサー / 作曲家 / 編曲家。小袋成彬とともにクリエイティブカンパニー・TOKA(旧Tokyo Recordings)を設立したメンバーの1人。これまでに小袋、藤井風、SIRUP、adieu(上白石萌歌)、ELAIZA(池田エライザ)らの楽曲のアレンジなどを手がける。iriの作品は2016年10月発表の「rhythm」、2017年2月発表の「Corner」「Slowly Drive」、2018年8月発表の「Only One」、2020年3月発表の「Clear color」、2021年6月発表の「渦」の楽曲制作に携わっている。
Yudai Maruyama(写真家、映像作家)
iriとのエピソード
最初に撮った「Corner」のMVは、自分の中ではけっこう攻めた作品で。ヒップホップ要素を入れたり、繁華街や電車の中で撮ったりしたんですが、iriちゃんは自分の提案に「やりましょう!」と積極的に応えてくれました。編集もすごくシンプルで、ワンカットに近い挑戦的な作品だったんですけど、自分としても気に入っていて、面白い作品になったなと思っています。
3rdアルバム「Shade」について
「Shade」にも入っている「Only One」のMVは、フランスで1週間くらいほとんど寝ずに撮った思い出深い作品です。iriちゃんのパートはパリからちょっと離れたランスという街で撮影したんですが、風情のある街の中でiriちゃんとフランクに会話しながらリップシンクを撮った記憶があります。今でもよく車の中で「Only One」を聴くんですが、フランスでのMV撮影の記憶もよみがえってくるし、あの強いビートを聴いていると自分の中にいろんな感情が込み上げてきます。iriちゃんのリリックや歌声からも“強さ”を感じられるし、個人的にも好きな曲です。
アルバムリード曲「Shade」のMVは、芳賀陽平くんとの共同ディレクションのもと、全編台湾で撮影させてもらいました。曲を聴いたときの第一印象は、「今までのiriちゃんと違う」。これまでのイメージとは一変、ポジティブではない複雑な感情が歌われていたことにグッと心をつかまれましたし、歌詞やサウンドからいろんな物語が浮かび上がってくるような感じがして。聴き手がいろんなふうに解釈できる素敵な曲だと思いました。
自分にとってのiriの存在
「Corner」を撮った2018年から、付き合いが長くなってきましたね。iriちゃんとは毎年何かしら一緒に作品を撮っている気がします。そして新曲を聴かせてもらうたびに、iriちゃんがいろいろなものに挑戦している感じがちゃんと伝わってきて、毎回すごいなと思っていました。
iriへのメッセージ
これからも活躍を見守っていきたいですし、iriちゃんがもっとグローバルな舞台に立つ姿も観てみたい。もっと世界で観たいし、観てもらいたいなと思うアーティストの1人です。また海外でもどこでも撮影しましょう。
- Yudai Maruyama(ユウダイマルヤマ)
- 映像作家 / 写真家。これまでにVaVa、Homecomings、櫻坂46、ROTH BART BARONらのMVのほか、CM作品、また映像作家の芳賀陽平とともにカンテレ・フジテレビ系連続ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」のエンディング映像および主題歌「Presence」のMVなどの監督を手がけている。iriの楽曲では2018年2月発表の「Corner」、8月発表の「Only One」、2019年3月発表の「Shade」、2021年3月発表の「はじまりの日」MV制作に携わる。
TAAR(DJ、プロデューサー)
iriとのエピソード
iriちゃんとは2016年秋頃、メジャーデビュー前に出会って。当時からiriちゃんの歌声には名前が付いていたというか、一度聴いただけで「iriだ」とわかる声を持っていたので、初めて観るお客さんたちが歌声を聴いてハッとする様子、感動している表情を、iriちゃんの背中越しによく見ていました。iriちゃん初の海外公演になったフランスでのライブ(2018年開催の野外音楽フェス「La Magnifique Society」)のときも、ライブ直前から雨が降り出して、唯一屋根のあった僕らのステージにお客さんがどんどん入ってきて。雨宿りのつもりで来た人たちが「いいライブやってる!」と気付いてくれた光景を見て、「天気が味方しているなんて、マンガみたいだな」と思ったのを覚えています。お客さんが10人いるかいないかのハコから今みたいに大きな会場になるまで、ずっとiriちゃんのライブに共通しているのは、気張らないということ。すべて背負ったうえで、でも自分を偽らずに、自分のリズムやグルーヴを大切にしながら舞台に立っているところが素晴らしいなと思います。
4thアルバム「Sparkle」について
アルバムでは「SUMMER END」「Runaway」の2曲を一緒に作らせてもらいました。「SUMMER END」は、心がヒリヒリするようなiriちゃんの感情的な部分と、彼女が持ってる重たいグルーヴを表現したいと思って作った曲。僕の中では満足いく形で作れたと思っていて、この曲ができたからこそ、お互いにいい音楽を作ろうとよりよい関係性になれたと思います。
「Runaway」はiriちゃんと「ライブの中で光る曲があるといいよね」と話してできた曲。「iri Spring Tour 2021」(2021年4月から5月に開催された全国ツアー)でiriちゃんが歌っているのを観て、この曲が生きている!とうれしくなりました。アルバムの中で聴くとサラッとしているけど、ライブの場でこの曲の鼻歌みたいなフックが入ってくると、みんなが盛り上がってくれたり、大きなグルーヴが生まれるんだと感激でした。
アルバムとしては、「Sparkle」は本当に素晴らしい作品だなと思います。初めて音源を聴いたのは移動中だったんですが、15分くらいで家に着くのに、「聴き終わるまでは帰れないな」と。1時間くらいアルバムを流しながら車で走っていて、その間ずっと鳥肌が立っていました(笑)。表題曲は特にiriちゃんとアレンジャーのKan Sanoさんとのキラッと光る化学反応が起きてるなと思うし、「Freaking」もアーティストシップしかない曲。あれほど多彩な曲をアルバム作品として1つにまとめられているのがすごいし、それができるのが歌声に名前が付いているiriちゃんなんだなと思います。
自分にとってのiriの存在
iriちゃんが音楽に向き合う姿勢や情熱。1人のアーティストとしてものすごく尊敬しています。1人の人間としては、礼儀正しくて、優しくて、めちゃくちゃお茶目で、周りにも常に気を配っている、人間が好きな人なんだろうなという印象。生きるうえでの悩み、痛み、弱さも知っていて、同じ気持ちの人に共感したり寄り添えたりする、しっかり人間味がある人だなと感じています。失う悲しみを理解している人じゃないと、何かを得たときの喜びはしっかり感じ取れないし、また逆も然りだと思いますが、iriちゃんはそのどちらの感情もしっかり解像度高く持っているように思います。
iriへのメッセージ
メジャーデビュー5周年、改めておめでとうございます。3年前にiriちゃんに贈った「目まぐるしく変わる景色に振り落とされず、これからもホンモノであり続けて」という言葉(参照:iri「Juice」特集|本人インタビュー&クリエイター証言で紐解く濃密な仕上がりの「Juice」)は、僕の杞憂だったなと思いました。これからもきっとiriちゃんを取り巻く環境は変わっていくと思うけど、お互い素敵なグルーヴで音楽を作り続けましょう。
- TAAR(ター)
- DJ / プロデューサー。2012年に1stアルバム「abstrkt」をリリース。2015年に盟友YOSAとともに東京・SOUND MUSEUM VISIONによる企画「MODERN DISCO」の“レジデントDJ”に抜擢される。2016年のiriのデビュー以降、数多くのライブでDJ / マニピュレーターを務めてきたほか、2017年2月にiriを客演に迎えた楽曲「Come Together feat. iri」を発表。またiri名義の作品では、2020年3月発表の4thアルバム「Sparkle」収録の「SUMMER END」「Runaway」、2021年3月発表の「はじまりの日」の楽曲制作にも携わる。
KYNE(画家)
iriとのエピソード
インディーズ盤の「会いたいわ / ナイトグルーヴ」(2015年8月発表)のジャケットイラストの依頼をいただいたのが最初の出会いでした。当時「会いたいわ」の弾き語り映像を観せてもらいましたが、声が独特だし歌もすごく上手で素敵だなと思っていました。2015、6年頃、デビュー前のiriちゃんが熊本でライブをする機会があって、そこで初めて生のライブを観たんですが、その頃は本人がサンプラーを使って1人でパフォーマンスしていて。その後2017年にWWWXでのデビュー1周年記念ライブでは、たくさんのお客さんを前に歌っている姿が観られて、すごく感慨深かったですね。それに「会いたいわ / ナイトグルーヴ」で一緒に仕事をした頃は、自分のジャケをきっかけにiriちゃんを知ったという方もけっこういたけれど、今は逆にiriちゃんの絵で僕のことを知ったという方も多い。iriちゃんがどんどん前へと進んでいっているなと感じています。
ベストアルバム「2016-2020」について
自分の中では、オファーいただいた仕事はなんでもかんでも引き受けるのではなく、できれば一定のペースで長くいい関係を築ける方と仕事がしたいと思っていて。いろいろな部分で相乗効果が生まれるiriちゃんとは、これからもご一緒できたらと思っていたので、今回ベスト盤という大事な節目で声をかけてもらえて、すごくうれしかったです。今回のジャケットイラストでは、アーティストとして、そして1人の人間としてのiriちゃんらしさを表現したいと思っていました。インディーズ盤でイラストを描いたときは、まだこれからという段階だったと思うんですけど、それから6年間、どんどん成長していくiriちゃんを観て、僕が感じていた強さや意志みたいなものを出せたんじゃないかなと思います。
ベスト盤の中では、個人的に「SUMMER END」が好きです。初期のアルバムは打ち込み系のダンスミュージックがベースになっていた気がしますが、やっぱりアコースティックな雰囲気や生音の感じがiriちゃんの声には映えるなと思っていて。そういう意味で今回ベスト盤に入っている曲だと、「SUMMER END」が気に入っていますね。テンポもゆっくりめですし、iriちゃんの声と音楽をじっくり聴けるし、ちょっと昔の弾き語りをしていた頃のiriちゃんをなんとなく思い出す部分もあります。
自分にとってのiriの存在
世間的にはクールでカッコいいというイメージだと思うんですが、実際のiriちゃんは飾らない人。地方のライブやフェスでも、現地の人や観客の人と気さくに話していたり、どこでも自然体でいられるところもiriちゃんの魅力の1つだなと思います。
iriへのメッセージ
メジャーデビューからの5年間、お互いいろんなステージを上がってきたと思いますが、これからも変わらずに切磋琢磨できるようないい関係でいられたら。また何かしらで一緒に仕事ができること、楽しみにしています。
- KYNE(キネ)
- 画家。2006年頃に福岡を拠点に活動を開始。1980年代のマンガやレコードからインスピレーションを受け、「ストリートカルチャー×ガール」をコンセプトにした独自のアート作品で注目を浴びる。これまでにadidasやSOPH.といったブランドとコラボレートしているほか、CDジャケットのイラスト、広告デザインなども担当。iriの作品では2015年8月発表のインディーズ盤「会いたいわ / ナイトグルーヴ」、2017年11月発表の5曲入り音源集「life ep」、2021年10月発表のベストアルバム「2016-2020」のジャケットイラストを手がけた。
- iri(イリ)
- 1994年生まれ、神奈川県出身のシンガーソングライター。メジャーデビュー前から「SUMMER SONIC」に出演したり、ドノヴァン・フランケンレイターの来日公演でオープニングアクトに抜擢されるなどして注目を浴びる。2016年8月にアルバム「Groove it」でメジャーデビューを果たし、2018年2月に2ndアルバム「Juice」、2019年3月に3rdアルバム「Shade」、2020年3月に4thアルバム「Sparkle」を発表した。2021年10月にメジャーデビュー5周年記念ベストアルバム「2016-2020」をリリース。同月に全国ツアー「iri 5th Anniversary Live "2016-2021"」を行った。