iri|言いたいけど言えない、繊細な心情をつづったラブソング

ESME MORIとの妥協のない共同作業

──iriさんはトラックの方向性をある程度固めてから歌詞を書かれるタイプですよね。今回はいかがでした?

最初にGarageBandで自分の好きなように打ち込んでオケを作っていって、その過程で曲のテーマや歌のイメージが沸いてきたので、メロディと同時に歌詞を乗せていきました。

──トラックのイメージは最初から固まっていたんですか?

今回はちょっと遊びと言ったらあれですけど(笑)、あらかじめイメージを固めずに、あえて自由に音を選んで作っていったんです。これまでは自分で弾き語りした音源をトラックメイカーさんに送ったり、シンプルなオケをもらってそれに歌を乗せていくというやり方だったんですけど、自粛期間中は時間もたくさんあったから、別のアプローチで自由に作ってみようかなと。そしたら新しくて面白いものができるかもしれないと思ったんです

──なるほど。自分でも予想外のものを作りたかったんですね。

そう、だから今回はクリックもあんまり聴かないで自由なテンポで作って、ビートと鍵盤とシンセと直感的に自分の好きな音色を選んで、特にリファレンスもなしに作り始めました。

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──今回、サウンドプロデューサーに「Wonderland」や「24-25」などiriさんの作品に何度も参加されているESME MORIさん(Pistachio Studio)を指名した理由を教えてください。

MORIくんと作るときはいつもいい意味ですごく苦労するというか、お互いに「これでいっか」と一切妥協しないんですよね。もちろんどの曲も基本的にはそうなんですけど、MORIくんとは特に「なんか違うよね」とすごく細かいところまでとにかく詰めるんです。時間がかかってもお互いが納得できるいいものを作ろうというスタンスが当たり前にあるので、今回もMORIくんとやりたいなと。

──MORIさんへの絶対的な信頼があったんですね。

そうですね。それで最初に私が作った超自由なトラックをベースに作ってもらったら、いい意味でわかりやすくてメジャーなサウンドアレンジになったんですよ。それはそれですごくよかったんですけど、私としてはもっとくだけたものを作りたいと思って。

──くだけたものとは?

きれいに整ったトラックではなく、とにかく今まで使ったことのないような音を使いたかったというか。それで「この部分のビートを、もうちょっとこういう感じにして」と電話で細かく話したんですけど、やっぱり会って話せないからそのあたりのニュアンスを共有するのは難しかったですね。

──ちなみにMORIさんに細かくオーダーしたのは具体的にはどの部分だったんですか?

特にビートの音色ですね。ジェイムス・ブレイクっぽい感じの音にしたかったんですけど、私が思う音色とモリくんが思うそれがまったく違って(笑)。一緒にスタジオに入って詰められない分、イメージの共有にけっこう時間がかかりました。なので「ジェイムス・ブレイクの中でも、あのときの、この曲!」と具体的なリクエストを出しながら作っていきました。

──そうだったんですね。ちなみに前回インタビューした際に、ジェイコブ・コリアーやプリンセス・ノキア、Vanjessなどの作品をよく聴かれていて、そこからインスピレーションが湧くことがあると話していました。最近よく聴いている曲はありますか?

あー、自粛期間以降あまり音楽を聴かなくなっちゃったんですよね……。というのも、これまでは仕事に行く途中で新しい音楽を探して聴くことが多くて、最近はそういう時間が本当に減っちゃったから。でもたまに音楽を聴くときは、ゆったりしたリラックスできる曲とか、前から好きだった曲を改めて聴くことが多いかもしれないです。

──わかる気がします……やっぱり生活が一変すると音楽の聴き方も変わりますよね。そう言えば、iriさんが影響を受けたと公言しているアリシア・キーズが10月にアルバムをリリースしたとき「iriさんもアリシアの新作聴いてるのかな」と、ふと思いました。

アリシア、新作出しましたよね! この間「スッキリ」(日本テレビ系)にリモート出演してライブしていたのはびっくりしました。母親から「テレビ! テレビ観て! アリシア出てるよ!」と電話が来て、私も思わず興奮しました(笑)。

楽曲とリンクしたストーリー仕立てのMV

──「言えない」のミュージックビデオは、「Shade」(2019年3月発表の3rdアルバムの表題曲)の制作にも参加していた芳賀陽平さんの監督作品なんですね。

そうなんです。曲のテイストが「Shade」を撮ってもらったときの質感と合うかなと思って、ペタくん(芳賀)にお願いしました。ペタくんとは前に仕事のあと一緒に飲んだりもしたので、わりと話しやすい間柄でもありました。

──MVでは1組のカップルの恋愛模様が描かれています。ストーリーの方向性はどのように固めていったんですか?

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これまでは監督さんにまず曲を聴いてもらって、細かい打ち合わせをあえてせずに監督さんのイメージ通りに撮ってもらうことが多かったんです。ただ「言えない」の場合は、そこにズレがあると曲の伝わり方が変わってきちゃうと思ったので、ペタくんとオンラインで話して「こういう気持ちで書きました」と伝えて。ペタくんもそれに対して「こういうカップルがいて、彼は何歳くらいでどんな人で、彼女はこう思っていて」と戻してくれて、具体的にすり合わせていった感じです。

──ご自身では完成したMVを観ていかがですか?

今回は私のリップシーンもそこまで多くなかったし、メインキャストの2人の演技も直接は見れていなくて。ペタくんから撮影前に「こういう作品になるよ」とは教えてもらってたんですが、実際に俳優さんに役を演じてもらうとどうなるか、そこに自分のシーンが重なるとどうなるのかはまったく想像できなかったんです。できあがった映像を観たら「ああ、ペタくんさすがだな」と思いましたね。

──iriさんが曲に込めたイメージがしっかり表現されていたんですね。

そうですね。これくらいストーリー性を強く打ち出したMVは今まで作ってなかったので、初めての試みではあったんですけど、物語が曲としっかりリンクしていたし、ちゃんと自分の伝えたいことを表現してくれてるなと感じてすごく感動しました。

音源とは一味違うライブを

──12月からはiriさんにとって初となるZeppツアー「Five Zepp Tour 2020」が開催されます。お客さんを入れたライブはひさしぶりですが、どんなツアーにしたいですか?

5、6月にやる予定だったツアーがキャンセルになっちゃったので、とにかくそこでやろうとしていたこと、できなかったことをしっかり果たせたらと思っています。バンドメンバーは配信ライブのときと同じ面々が参加してくれるので、より濃くバンド感を出せたらいいなと思っています。

──配信ライブのときもTwitterに「バンドアレンジのライブ最高!」「だからこそやっぱり生で観たい」というファンからの声が上がっていましたし、皆さんもそれを楽しみにしていると思います。

今までの曲たちがバンドの演奏によって一味違う感じになっていくと思うので、私自身もワクワクしています。あとはトラックがベースの曲をアコースティックな感じで演奏するとか、そういう違う見せ方もできたらいいな。お客さんがフロアにいる、フィジカルを伴うライブができることをすごく楽しみにしています。

ライブ情報

iri Presents "Five Zepp Tour 2020"
  • 2020年12月11日(金)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2020年12月15日(火)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2020年12月16日(水)大阪府 Zepp Namba
  • 2020年12月18日(金)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2020年12月22日(火)東京都 Zepp Tokyo