INUWASI|私たちは有名にならなきゃいけない “ハイブリッドラプター“アイドルが進化を遂げるとき

犬と鷲のハイブリッドラプターを標榜する6人組アイドルグループ・INUWASIが1stフルアルバム「DUTY」をリリースした。

芸能プロダクション・MAPLE INC.に所属するINUWASIは2020年2月、黒い衣装を身にまとい、ハードでラウドなサウンドにシャウトを織り交ぜたライブを武器に獣のような勢いで活動を開始。コロナ禍の中でも試行錯誤しながら前へ進んできたが、デビューから1年9カ月を迎える今のタイミングで衣装も楽曲も大きく進化を遂げた。アルバムにはこれまで楽曲提供を行ってきた辻久カオル、山下智輝に加え、新進気鋭の若手作家dirty magiqや元Aqua TimezのOKP-STARが参加。やわらかな鍵盤のサウンドと壮大なスケール感でアルバムの冒頭を飾るポップチューン「ネバーエンディング」をはじめ、本作に収められる計14曲がグループの新たな魅力を生み出している。

音楽ナタリーではメンバー全員へインタビューを行い、それぞれ過去に悔しい思いをしてきたという6人がINUWASIに加入した経緯、アルバム収録曲の注目ポイント、今後のグループのビジョンなどをじっくりと聞いた。

取材・文 / 西澤裕郎(SW)撮影 / 朝岡英輔

6人がINUWASIにたどり着くまで

──INUWASIという名前からして強烈ですが、まずはどのようなコンセプトのもと活動をスタートさせたグループなのか教えてください。

ライカ INUWASIはそれぞれ過去に悔しい思いをしてきた6人が集まったグループです。ステージデビューしたのが2020年2月9日なんですけど、すぐにコロナ禍になり、うまくいかないこともたくさんあって。最初は黒ずくめの衣装に身を包んで、ポストハードコアというジャンルの音楽をやっていたこともあったので、強いイメージのグループだったんですが、最近はポップな曲もやるようになって幅が広がっている最中です。

──悔しい思いをされたとおっしゃっていましたが、それぞれどんな思いをしてINUWASIにたどり着いたのか教えていただけますか。

がるむ 私はINUWASIに入る前、ライカちゃんと同じグループで活動をしていました。私がちょっと問題児というのもあり、人とうまくなじめなくて、メンバーとあまり仲よくなかったんですよ。メンバーの入れ替えも激しかったし、人生を通して人間関係で悩んでいたことが多くて……ああどうしよう、どうしても暗くなっちゃう(笑)。

一同 大丈夫だよ。

がるむ 自分に問題がいっぱいあって、あまり飛躍できなかったというか。INUWASIでの活動を始めてからはメンバーにも恵まれているし、今こうして取材をしていただけていることも光栄です。この調子で自分自身も大きくなれるよう階段を駆け登っていきたいなと思っています。

ライカ 私は、がるむさんと同じグループにいて、そんな中で人に流されてしまいがちで……真面目にやっていたものの、本気になるところまで到達できないうちにグループが解散になってしまったんです。もうそのままアイドルを辞めようかなと思っていたんですけど、自分のいけるところまでやってみたいと思ってこのグループでの活動を決めました。メンバーが入れ替わらないのってすごく大事なことなんだなと、最近強く思っています。

はのんまゆ 自分も過去に1回アイドルをやっていたんですけど、そのグループもいろいろあって。ついてきてくれていたファンの方もたくさんいたんですが、結局悲しませてしまったうえに解散してしまったんです。正直散々で、これで終わりたくないと思っていたところにこのグループのお話をいただきました。それまでの経験からアイドル事務所を不審な目でしか見ていなくて、最初はちょっと怖かったんですけど、活動1年半でメンバーが1人も抜けないことってあり得るんだと今驚いています。アイドルってメンバーの入れ替えがあるのがもはや普通なのに、INUWASIは誰も抜けないから素直にすごいなって思うし、私自身も元気にやれています。

カリヲリ 私は悔しい思いはしていないんですけど、強いて言うならば、学校に通っていたときに階段から突き落とされたり、ロッカーを開けたらジャージャー麺が降ってきたりするようなことはよくあったんです(笑)。あと、教室に机がないとか、そういうちょっと激しいイジリを受けていて。それが嫌だったので、バンドのライブによく行っていました。音楽に触れると心が軽くなることに気付いて学校を辞めて、こういう職業を見つけて。学校から逃げてきたという感じですね。

──ヘビーな学校生活だったんですね。

カリヲリ そういうことがよくある学校だったんですよ。アイドルになりたいと思ってからは、WACKの合宿オーディションに3年ぐらい応募し続けて、2019年に長崎の離島・壱岐島で行われた最終全員面接を受けたんです(参照:波乱のWACK合同オーディション2019は合格、改名、移籍、解散と悲喜こもごもの結果に)。ただ、現地で落ちてしまって……。受かる気で行ってしまったのと、当時アルバイトもしていなかったので、帰りのお金を持っておらず、その離島で野宿した思い出があります。

──いろいろと壮絶ですね……。

イヴ 自分はありきたりの生活をしていたんですが、このままじゃ嫌だな、人間関係を変えたいなという気持ちがあり、一歩踏み出すことを決意しました。もともとアイドルが好きで、歌を通して元気をもらったりと、自分の生きるモチベになっていたので、私も与える側になりたいなと思ったんです。

すずめ 私は昔アイドル活動をしていて、最初は7人グループだったんですけど、いろいろあってメンバーがどんどん抜けていって、最終的に私1人になってしまったんです。そういう大変な時期があって……周りに芸能活動をしている友達が多いんですが、渋谷のスクランブル交差点の大きな看板に友達が映っていたり、そういう姿を見て悔しいなと思って、今がんばっているところです。

自己肯定感がマイナス150万

──1年半、この6人で誰1人欠けることなく続けてこられたのは、6人の相性がよく、コミュニケーションがちゃんと取れているからなんでしょうか?

すずめ みんな精神的に大人だからね(笑)。

ライカ 悔しいことを経験してきたから、人の気持ちがわかるメンバーが多いんです。私はみんなに助けられているというか、このグループが自分にとっての精神科みたいな感じがあります(笑)。

はのんまゆ 6人それぞれに個性があるよね。ファンの方にも「1人ひとりをちゃんと応援したくなる」と言われます。みんなの個性がうまくマッチしてるんだと思います。

がるむ 踏み込んでいいところや、逆にここはダメだろうというところをちゃんとわかっているんです。人としての常識があるというか。私だけ常識がないんですけど……。

──どうして自分だけ常識がないと思うんでしょう?

がるむ 自分はメンタルがシャボン玉のくせに、誰彼構わず噛みついちゃうんですよ。みんな言いたいことを我慢しているのに、私はファンの人にも噛みついちゃって敵を作りやすくて。そういう性格だから、仲よくなれる人もすごく少なくて、実際友達もいないし、精神的には小2の夏で止まってる。でも、ものすごく遅いスピードなんですけど、最近は大人になろうと思っています。まだちゃんと実行できているかわからないですが、思ったことを一旦飲み込もうって。ライブのときも怖い顔をしちゃうんですよね。こっちを観てない人や携帯をいじっている人を見ると、マイクを投げちゃおうかなって気持ちになるんです。

──そういう気持ちになるほど真剣にやってるわけで、だからこそちゃんと観てくれよと思うわけですね。

がるむ でも、振り向かせられない自分に実力がないなとも思うんです。私にもっと魅力があったら、興味がなくても「お!」っと見てくれるかもしれない。自分がまだまだなんだと思います。今は自己肯定感がマイナス150万なので、褒められないとしぼんじゃうんですけど。

──自己肯定感という意味で言うと、ほかの皆さんは高いほうですか?

はのんまゆ 自分のことは嫌いじゃないです。

がるむ (はのんまゆが)一番ポジティブ思考かもね。

はのんまゆ 私、あまり病まないんですよ。1回悩むとどん底に落ちるけど、そこからの復活が早くて。寝たら「ああ、いけるわ」という気持ちになっていることが多いです。昔はアンチから批判が来たら、引用RTで晒してケンカを売っちゃうタイプだったんですけど、最近それはよくないなと思うようになって。たまにやっちゃうときもありつつ、かなりマイルドになりました。私も思ったことは口に出して言いたいタイプですが、ケンカ腰にならない程度に留めようとがんばってます。

アイドルを選んだ理由

──「アイドル戦国時代」と呼ばれた時代と比べると、昨年からのコロナ禍の状況も含め、今はアイドル自身がアイドルであることに強い魅力や意味を見出さないと活動を続けていくのは難しいんじゃないかと思います。そんな中で、皆さんはどうしてアイドルになることを選んだんでしょう?

すずめ 以前は、自分は本当に何もできないなと思っていたんですけど、ファンの方に私が歌っていたり踊っている姿を観て感動してもらったり、「INUWASIのライブに行ったことで学校がんばれたよ」と言ってくれたり、最近は人の元気のもとになれてると感じることがあるんです。パフォーマンスで人を涙させたり、心を動かしたりするのってすごく素敵なことで、アイドルはそれができる存在だと思っています。

イヴ 私もすずめと同じようにアイドルが自分の元気の源だったんです。以前は「嫌なことあるけど、この日会えるからがんばろう」と思ってアイドルを追いかけていました。アイドルの存在って本当にすごいなと思うし、自分も人をそういう素敵な気持ちにさせる、たくさんの人の心を動かすアイドルになりたいです。

──過去にオーディションに落ちてきたカリヲリさんも、同じようにアイドルに惹かれ続けてきたんでしょうか?

カリヲリ 私は正直、自分がステージに立って、みんなを元気にさせたいという気持ちはそんなになくて。アイドルさんがステージに立っている姿をファンとして見たときに、ズルいなと思ったのが一番のきっかけなんです。同じ年代の女の子が、きれいな衣装を身にまとって、カッコいい楽曲を歌って、たくさんの人から注目を浴びている。私から見て、アイドルには輝いている印象しかなかったんです。そして、うらやましいという感情とともに、自分は今何をしているんだろうという劣等感が生まれて、アイドルをやりたいという気持ちの原動力になりました。

──INUWASIは結成当初、アイドルらしいアイドルという感じで活動をスタートさせたわけではなかったと思うんですけど、そのことに関しては正直どう感じていたんでしょうか?

すずめ INUWASIで最初の頃にやっていたハードコアのようなジャンルは、それまでの人生で聴いたことがなくて、激しくてちょっとびっくりしました。けど、今は「あれ? これ自分に合っているのかな」ってちょっと思います。

──歌ってみたら、意外と自分の性格と合っていた、と。

すずめ ちょっと新しい自分を見つけちゃいました(笑)。

──攻撃的という意味で言うと、がるむさんは曲調と自分の性格や発信したいものが一致したんじゃないですか?

がるむ 昔、メイドカフェの中のアイドルグループで、かわいいメイド服を着て萌え萌えな曲を踊っていたことがあるんです。そのメイドの経験から、今でも「かわいい声を出して踊って」と言われたらできるんですけど、正直ちょっと違うなという思いがあって。最近の曲はそんなにですが、INUWASIの初期はわりと私がシャウトをする曲が多いんですよ。シャウトは聴く人によって好き嫌いが分かれるものかもしれませんが、がるむのシャウトありきで好きになってくれた人も多いし、褒めてもらえることもけっこうあるので、自分の存在意義をちょっとは見出せたのかなと思っています。