やけのはらが語る、井上陽水の魅力と最新シングル「care」|デビュー50周年を目前にしての新境地

陽水さんらしい呼吸や美意識を感じる「care」

──では、最新作となる「care」はどのように聴かれましたか?

非常に単純な感想ですが「いい曲」ですよね。僕が聴いた感触だと、オールディーズなアメリカンポップスのドリーミーさを感じました。陽水さんは小さい頃にそういう曲を聴いてこられたんだと思うし、影響を受けられたとは思うんですが、それをなぞるような曲は今までやってこなかったと思うんですね。そういったタイプの曲を、今このタイミングで出してきたのは、すごく興味深かったです。なぜこのタイミングだったのか、なぜ今までやってなかったのか、伺ってみたいですね。煙に巻かれそうな感じもしますが(笑)。

──歌詞に関してはいかがでしょうか?

やけのはら

陽水さんにしてはちゃんとしてる歌詞と言うか(笑)、メチャクチャな展開ではない。でも、「気をつけて お嬢さん」とか、妙な含みを感じる部分には、陽水さんらしい奥行きを感じますね。普通の言葉を使ってるのに、声と歌い方で意味が広がっていくのが、陽水さんらしいなと。それからカップリングの「MUSIC PLAY」では「ジャスティン ビーバー」「マリリン モンロー」とか、人名を織り込むことでそこをフックにする感じなんかは、陽水さんらしいし、“濃淡”が生まれているなと。

──それはどういった意味ですか?

例えば「東へ西へ」の「床に倒れた老婆が笑う」だったり、曲の中で急に言葉に薄いところと濃いところが出るんですよね。予想通りの展開と、「こう来るのか!」っていう濃淡が陽水さんの作品にあるし、そういった意味の濃淡であったり、歌詞の展開させ方、言葉の押し引きによって、作品が1つのトーンではなく、よりカラフルになると思うし、今回もそういった陽水さんらしい呼吸や美意識を感じましたね。

歌詞がどうかしている「MUSIC PLAY」

──カップリングの「MUSIC PLAY」が、トロピカルハウスっぽいアレンジも含めて、音色は現行のサウンドに準じているので、この2曲の差はすごく面白く感じて。やけのはらさんの「MUSIC PLAY」への感触は?

今までも四つ打ちの曲とかもやられてきてるので、こういうサウンドもやるんだろうとは思いましたね。ただ、アレンジのアプローチに関しては、どれぐらいアレンジャーの方に提示しているのか、どれぐらい任せているのかは、すごく知りたくなりましたね。

──ライトなリスナーからすると「care」のほうがオードソックスで、「MUSIC PLAY」はチャレンジングな感触があったのですが、コアなリスナーからすると、今っぽいものを提示した「MUSIC PLAY」のほうが井上陽水さんらしくて、オールディーズ的な「care」が意外なアプローチだったというのは、非常に面白いです。

ドリーミーな世界という部分では2曲とも繋がってると思います。歌詞は「MUSIC PLAY」のほうがどうかしてますね(笑)。「ピアノくん」とか、すごい言葉の使い方だなと。そして楽器で物語を展開してきた先に「イケメンちゃん」という言葉が来るのも驚きました。これはボーカルのことを示してると思うんですが、ちょっと揶揄するような部分もあったりして、それは陽水さんならではのセンスを感じますね。

──話は変わりますが、やけのはらさんとしてのフェイバリットな井上陽水楽曲を教えてください。

やけのはら

軽く10曲以上は挙がっちゃうんですよね……子供の頃から考えると「リバーサイドホテル」が印象に残ってるし、大人になってよりすごい曲だなと思うようになりましたね。おそらく不倫旅行のような話だと思うんですが、短編小説のように話の進め方や核心の周辺だけを淡々と描き続ける作品性は素晴らしい。それから「少年時代」。個人的には、絵に描いたような田園風景にはほとんど触れたことがないんですが、それでもそういったイメージを想起させるような内容で、直接見ていないのにノスタルジーを感じさせる物語構築力はとてつもないなって。「傘がない」も鋭い内容だと思うし、提供曲をセルフカバーしたアルバム「9.5カラット」や「UNITED COVER」も素晴らしい曲ばかりだし……1曲は選べないですね。

──では、音楽家としてのやけのはらさんに影響を与えている部分はありますか?

アプローチ的に陽水さんのような音楽をやりたいという気持ちはないんですが、一貫してずっと好きという部分では、当然だけど何かしらの影響は受けていると思いますね。これからもずっと聴いていくミュージシャンなんだと思います。

井上陽水「care」
2018年7月25日発売 / ZEN MUSIC
井上陽水「care」

[CD]
1080円 / UPCH-5948

Amazon.co.jp

収録曲
  1. care
  2. MUSIC PLAY
井上陽水「YOSUI BOX Remastered」
2018年12月19日発売 / ZEN MUSIC
井上陽水「YOSUI BOX Remastered」

[CD26枚組+DVD1枚]
70200円 / UPCH-7461

Amazon.co.jp

※LPサイズ豪華ハードケース仕様、LPサイズブックレット付き

「氷の世界」「ハンサムボーイ」などアルバム全25タイトルを9月1日よりダウンロード&ストリーミング配信中!
井上陽水(イノウエヨウスイ)
1948年福岡生まれ。1969年にアンドレ・カンドレ名義でデビューし、1972年には井上陽水としてシングル「人生が二度あれば」で再デビューした。1973年にリリースしたアルバム「氷の世界」は日本初のミリオンセラー作品に。その後「傘がない」「夢の中へ」「いっそセレナーデ」「リバーサイド ホテル」「少年時代」などの名曲を多数発表する。また忌野清志郎や奥田民生など他アーティストとのコラボにも積極的で、PUFFYのデビュー曲「アジアの純真」の作詞をはじめ中森明菜、小泉今日子、安全地帯といったアーティストにも楽曲を提供している。2009年からはNHK「ブラタモリ」に「MAP」「女神」「瞬き」と、3曲のテーマソングを提供。2018年7月には約9年ぶりのニューシングル「care」を発表した。
やけのはら
DJ、ラッパー、トラックメイカー。「FUJI ROCK FESTIVAL」「METAMORPHOSE」「KAIKOO」「RAW LIFE」「Sense of Wonder」「ボロフェスタ」などの数々のイベントや、日本中の多数のパーティに出演。数多くのミックスCDを発表している。またテレビ番組の楽曲制作、中村一義、メレンゲ、イルリメ、サイプレス上野とロベルト吉野などのリミックス、多数のダンスミュージックコンピへの曲提供など、トラックメイカーとしての活動も活発に行なっている。2009年に七尾旅人×やけのはら名義でリリースした「Rollin' Rollin'」が話題になり、2010年には初のラップアルバム「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」を発表。その後Stones Throw15周年記念のオフィシャルミックス「Stones Throw 15 mixed by やけのはら」を手がけ、2012年にはサンプラー&ボーカルを担当している、ハードコアパンクとディスコを合体させたバンドyounGSoundsでアルバム「more than TV」を完成させた。2017年8月にはY.I.M.とのコラボレーションによる7inchシングル「みんなのなつ / だいじょうぶ」を発表している。