ナタリー PowerPush - INORAN

デビュー25周年でなお続く「自分探しの旅」

このジャケット写真は他人から見た僕自身

──そんなシンプルなロックサウンドに相反して、アートワークは非常に凝ったものになってます。今回は古平正義さんがアートディレクションを担当していますが、どういうきっかけでお願いすることになったんですか?

INORAN

昨年8月に発売されたヨーロッパツアーのドキュメンタリーDVD「I’M HERE」のジャケットをお願いしたときに、仕上がりに対して「アートディレクターってやっぱりすげえな」と実感して。それから一緒にごはんを食べに行くようになって、「次の作品もお願いできないかな?」という感じで決まったんです。

──INORANさんのほうからアートワークの方向性について何か指示は出したんですか?

ううん、出さないですね。彼の感覚がすごく好きなので。自分のやりたいものを押し付けるっていうか、先に提示しちゃうとその枠を意識し過ぎた作品になることもあるでしょうし、基本的には言わないです。

──でもINORANさんはこれまでご自身でもジャケット写真を撮影してるし、アートワークには強いこだわりを持っている印象があるんですが?

まあときには自分でやったこともありましたけど、今回は古平さんっていう素晴らしいデザイナーがいるわけですし。特にこのジャケット写真は他人から見た僕自身であるわけで、それに僕が勝手に手を入れる必要はないんですよ。

──収録曲「Sakura」のビデオクリップもアートワークの世界観が見事に映像化されているというか。

そうですね。うん、面白いですよね。面白いっていうかすごい。

──不思議な映像で。2つに分かれた画面の中にまったく違う世界の絵が並ぶわけですが、不思議とこの曲に合ってるんですよね。この曲でビデオを撮影したのは、何か理由が?

INORAN

「Somewhere」を作る際に、スタッフと「どの曲をリードトラックにしようか?」と話し合ったら、みんなこの「Sakura」がいいという話になりまして。みんなにCDを聴いてもらって、ビデオも観てもらって、ライブで一緒に共有して、みんなの思いがこの曲に注がれることでどうしてこの曲が選ばれたのか、その本当の意味がわかってくるんじゃないかな。

──わかりました。この「Sakura」という曲はそのタイトルの通りすごく情緒のあるバラードナンバーで、映像の中でも日本の四季を感じさせる場面が登場します。これは歌詞の世界が映像化されたものなんですか?

というよりも……実は最初に古平さんにこの曲を聴かせたとき、まだ「Sakura」というタイトルも付いてないし歌詞もなかったんですけど、古平さんはすでにいくつかのキーワードを挙げていて。僕もそのときは四季を感じさせたいなんて一言も言ってなかったんですけど……気が付いたら自然とこういう方向に導かれて、色付けられた曲なんです。

思いを共有する手段として音楽が必要

──INORANさんは自身のソロ作品だけではなく、最近はOLDCODEXのサウンドプロデュースも手掛けています。プロデュースをする際にこだわっている点、注意している点って何かありますか?

INORAN

音楽に正直であれっていうこと、1つだけですね。それが守れていればブレないし、なんでもやれると思う。例えば周りの人から見たINORAN像というとアルペジオを弾くみたいなイメージがあるかもしれないけど、以前はそれに対して抵抗していた時期もあった。だけど今は周りがどう思おうと自分さえブレなければいいんじゃないかって。もっと言うと、音楽活動を25年以上続けてきていろんな経験を積み重ねてきた結果が今なわけで、その「今」が答えというか生きる指針になってるのかなと思います。

──経験の積み重ねですか。今ふと思ったんですけど、LUNA SEAは初期の頃、かなり音数が多くて緻密なアレンジの楽曲が多かったですよね。そこから25年を経て、INORANさんがソロとしてこの「Somewhere」という作品にたどり着いていることは、非常に面白いなと思うんです。

確かに。でも「Somewhere」っていうくらいだから、ここにたどり着いてまた“どこか”に行っちゃうかもしれないですね(笑)。

──(笑)。

INORAN

“どこか”に行きたいんでしょうね。だって世界中で見たことあるところなんて1%にも満たないと思うし。だから最後の最後までいろんなところを見たい。それがこのタイトルに表現されてるんだと思います。昭和な言い方ですけど、地球の裏側にいるわけですよ、まだ会ったことない人が。

──そうですよね。

ソロやLUNA SEAで海外公演をする機会も増えましたけど、現地のファンに会うとやっぱり感動するんです。だって昔自分たちが作った曲を聴いて、いまだに涙してくれるわけですから。ソロでミラノに行ったときなんて、会場から100kmも離れた場所から来てくれた女の子もいましたからね。そういう出会いがあると、まだまだいろんな場所に会いに行かなきゃって思う。そして、そこで思いを共有する手段として音楽が必要になる。僕はそのための音楽を作っていきたいんです。

ツアー情報
INORAN TOUR 2014 -Somewhere-
  • 2014年4月4日(金)
    大阪府 BIGCAT
  • 2014年4月5日(土)
    愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2014年4月12日(土)
    東京都 LIQUIDROOM ebisu ※ソールドアウト
  • 2014年4月13日(日)
    東京都 LIQUIDROOM ebisu ※追加公演
INORAN(いのらん)

1970年生まれ、神奈川県出身のギタリスト / シンガー。5人組ロックバンドLUNA SEAのギタリストとして、1991年にメジャーデビュー。同バンドの活動と並行して、1997年にはソロアルバム「想」をリリースする。2000年のLUNA SEA終幕後からは本格的にソロ活動をスタートさせ、2002年にはロックユニット・FAKE?を、2005年にはRYUICHI(河村隆一)らとロックバンド・Tourbillonを結成。現在はソロ活動のほか、2010年に“REBOOT”と称して再始動したLUNA SEA、2012年にFEEDERのタカ・ヒロセ、8ottoのMAESON、FEEDERのサポートギタリストとしても活躍するディーン・テディと結成したフォーピースバンド・Muddy Apesと精力的な音楽活動を続けている。2014年3月、ソロとしては1年9カ月年ぶりとなる新作ミニアルバム「Somewhere」をリリース。