indigo la Endが2月17日にニューアルバム「夜行秘密」を発表した。「夏夜のマジック」のバイラルヒットを受けてファン層が拡大する中、結成10周年イヤーの2020年は野外で行われた配信ライブ「ナツヨノマジック」も話題に。コロナ禍の影響でアルバムのリリースタイミングこそ翌年にずれ込んだものの、歌詞とミュージックビデオの連動も印象的な「チューリップ」や、フュージョンに接近した「夜風とハヤブサ」といった配信シングルをコンスタントに発表し、満を持してのアルバム到着となった。
夜を舞台とした映画的な世界観を示し、改めて“バンド”であることを見つめ直したという「夜行秘密」を紐解くべく、音楽ナタリーではメンバー4人にインタビュー。スタンドアローンであり続ける、稀有なバンドの現在に迫った。
またメンバーには、アルバム制作にあたり影響を受けた楽曲やレコーディング期間中に聴いていた楽曲など、「夜行秘密」のリファレンスとなる作品を3曲ずつ選んでもらった。特集の最後にてメンバーのコメント付きで紹介するので、インタビューと合わせて楽しんでほしい。
取材・文 / 金子厚武 撮影 / NORBERTO RUBEN
やりたくないことをやってもしょうがない
──「夜行秘密」というタイトルは昨年1月の東京・中野サンプラザホールでのワンマンで発表されたわけですが(参照:indigo la End、“朱”と“蒼”のコンセプチュアルな2夜でツアーを締めくくる)、僕がこのタイトルから連想したのは2013年に発表された1stフルアルバム「夜に魔法をかけられて」でした。昨年は結成10周年イヤーでもあったし、ひさびさに「夜」という言葉をタイトルに入れたのは、何か特別な思いがあったのかなと。
川谷絵音(Vo, G) タイトルは毎回特に由来があるわけじゃなくて、パッと思い付いたものではあるんですけど、「夜」を付けるとハードルが上がるなというのは思ってました。曲のタイトルではよく使ってるけど、アルバムタイトルでは意外にずっと使ってなくて。タイトルを決めた時点ではまだアルバムは全然できてなかったんですけど、「チューリップ」とかはできていて手応えあったし、なんとなくアルバムもその名に恥じないものができるんじゃないかと思ったんですよ。なのでちょっと大げさな感じのタイトルにしました。
──「夜に魔法をかけられて」を今にアップデートする、とかではない?
川谷 そういう感じは全然ないですね。むしろもう「夜に魔法をかけられて」のことはあんまり覚えてないです(笑)。
長田カーティス(G) 話を聞きながら「あれが1stだったっけ?」って思っちゃった(笑)。
──前作の「濡れゆく私小説」は、海外で日本のシティポップが聴かれている現状を踏まえたうえで改めてシティポップに向き合った作品でしたが、今回は何か方向性のようなものはありましたか?
川谷 今回は曲単位で考えていて、アルバム全体を通して「こういうバランスにしよう」とかはあんまり考えてないです。「夜風とハヤブサ」を作ったときは、「濡れゆく私小説」より純度が高いシティポップをやろう、みたいな思いがあったけど、アルバム全体としては本当に曲ごとに作りましたね。あえて言うなら、今回リード曲以外はストリングスとかをあんまり入れてなくて、わりとバンドで完結させてるというか、やりすぎるのはよくないから、ちょっと余白を残しておきたかった。
──アレンジをミニマムにしておくという感じですかね。
川谷 「夜の恋は」も最初はストリングスを入れようと思ってたんですけど、結局入れなかったし、バンドの美学みたいなものを、制作の後半ではわりと考えていたかもしれないです。バンドっぽいものがあんまりカッコよくないと思っていた時期もあったんですけど、結局バンドがいいなと思ったんですよね。毎週新譜をチェックしてると、日本のアーティストも生音でもどんどん打ち込みっぽい音になってきてるし、ボカロの延長線上にいる人たちって、基本音数多いんですよ。それはそれでいいし、クオリティも高いと思うんですけど、人によっては金太郎飴っぽく聴こえるときもあって、こればっかりだと飽きると思ったりもして。
佐藤栄太郎(Dr) ポップスにおける金字塔のような確立されたリファレンスが1つあるとして、それを10年単位でみんなが忘れた頃に引用して、また若い人に響かせる、みたいな手法ってあるじゃないですか。僕もそれを何度か見てきて、バズってる曲を聴いても「これ〇〇じゃん」と思っちゃうんですよ。狙ってないならいいですけど、それを狙ってやるのは健全じゃないと思うし、そこに音楽的な進歩はないですよね。
──ちゃんと更新されていればいいと思うけど、そのまま繰り返すのはあまり意味がないですね。
佐藤 僕らは5年前に作った「夏夜のマジック」が最近になってバイラルヒットをしたわけですけど、ここで「夏夜のマジック」みたいな曲を再生産するんじゃなくて、今どこまでできるか、逆にどこからはできないのか、みたいな現状をコンパイルしていったほうが、また「夏夜のマジック」みたいなヒット曲が生まれると思うんですよ。それが何年かあとなのか、それとも明日なのかはわからないですけど。
川谷 今って音楽の流行り廃りのサイクルが速いし、難しいですよね。最近だとLINE MUSICの再生回数上位の人にプレゼントをあげるみたいな施策をするアーティストも多くて。それを入口にしてちゃんと音楽が聴かれるならそれも間違ってないとは思うし、サブスクだと生のバンドはしょぼく聞こえるときもあるから、打ち込みで緻密に作られた音楽が聴かれるのもわかる。でも、自分がやりたくないことをやってもしょうがないわけで。そこの葛藤もありながら、自分たちのやりたいことをやった結果、こういう作品になったんです。
“バンド”へのこだわり
──昨年はコロナの影響でスタジオに入る回数も制限されていたと思うんですけど、これまで通りスタジオで集まって曲作りをしたわけですよね?
川谷 そうです。だから、結局indigo la Endはずっと“バンド”なんですよ。
──今はバンドでもDTMでデモを作って、それを生演奏に落とし込んでいくことのほうが多いと思うし、去年でその流れはより強まったと思うんですね。それでもインディゴが曲作りを変わらずスタジオで行うのは、そこにこだわりがあるからだと言えますか?
佐藤 僕たちの曲の作り方って、川谷さんがコードと、ある程度のコンセプトを持ってくるんですけど、それが強くあるときと「とりあえず1回やってみよう」というときがあって。後者の作り方のときに、みんなが曲に作用するフレーズを作れるんです。一方でDAWのデモがある場合だと、3人はもっとシンガーソングライターのバックバンドみたいになっていく可能性が高い。僕は自分のバンドの曲がすごく好きで、なんでここまでほかとは違う音の押し引きがあるのかなって考えたときに、この作り方がめちゃめちゃ作用してるのかなって。
川谷 美的計画(川谷がさまざまなボーカリストとコラボするプロジェクト)とか僕のソロは基本打ち込みなので、全部の音を並べて「ここはいらないな」というのがわかるから、それはそれでいいんですけど……このアルバムは自分で聴いて「バンドだな」という感じがするし、こういうアルバムを作ってる人はもうあんまりいないのかもしれないと思ったりもします。
──長田さんのバンドという形態に対するこだわりはどんな部分にありますか?
長田 結局、大きい音を出して演奏するのは楽しい。そこなんですよ。
──10年経っても、その楽しさがずっと続いてる?
長田 ずっと青春なんで(笑)。でも本当に楽しいですよ。曲作りをみんなでやるのも、「こういう感じ」って言われたのに対して、いろいろ試行錯誤して、返して、それを繰り返すのが楽しいから今でも続けてるわけで、それがバンドという形態へのこだわりにつながってるんだと思います。
──DTMでデモを作るとなると、そこが変わってきちゃう?
長田 それだとね……飽きちゃうと思うんですよね。
佐藤 やってみてもいいとは思うんです。そういう作り方をしたら、そういう作り方でしかできない曲ができると思うので。
長田 でもこれからもずっと今のやり方でやってそうな気がする。あと10年、20年したらもっとDTMが進化して、わざわざスタジオに集まるなんてことをしてる人は本当にいなくなるかもしれないですけど、たぶん僕らはそれをやってると思います。
後鳥亮介(B) 2020年は人前で演奏する機会は減っちゃいましたけど、なんだかんだ3人で、新しいアルバムの曲を練習するためにちょこちょこスタジオには入っていて。ちょっと間が空いて、ひさしぶりに音を出すと、やっぱり楽しいんですよ。それに、そのほうが話が早いというか、4人で練習をして、グルーヴを作っていく作業って、言語化できないし、プログラミングもできないわけで。ローテクだけど、努力でなんとかなるというのは人間らしくていいなと思うし、それがバンドの醍醐味なのかなと思います。
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再構築じゃなくて再解釈
2021年2月17日更新