音楽ナタリー Power Push - 稲葉浩志
5年半ぶりシングル発表 ソロ活動の意義とは
“型”からはみ出すことは大事
──「羽」の歌詞についても聞かせてください。もともとはどんなテーマで書き始めた歌詞なんですか?
言葉にすると陳腐になっちゃうんですけど、“卒業”みたいなものがテーマというか、この曲の原風景になっているとは思います。卒業して、その先に不安を抱えてるとき、「でももっと広い世界が広がっている」と伝えてあげたいというところから始まったんです。
──それは若い世代に対する気持ちなんですか?
出どころはそうですけど、どの世代でも生活していれば似たような局面はことあるごとにやってきますから。これは自分に対して言ってるようなところもありますね。もしかしたら知らない人だらけのところに行かなくちゃいけないかもしれないし、よくわかりきった風景から違うところに行こうとするときはそれなりに勇気もいるので。
──違う場所に行って新しい人と出会うことは、音楽を続けていく上でも必要ですよね。
必要なんじゃないですか、たぶん。なんでも長くやっていれば、知らず知らず“型”ができてくるし、「そこからはみ出そう」という気持ちを持つことは大事だと思うので。はみ出すことで「自分たちは素晴らしい“型”を作ってきたんだな」ってわかるかもしれないし。まあ、ほっとけばどんどん固まっていきますからね、人は。特に僕みたいなタイプは、そうならないように心がけていないとダメですね。
──“型”のよさもありますけどね。
そうですよね。AC/DCなんて変わらなさがハンパないし、ああいうスタイルでやり続けているバンドはほかにいないですよね。その代わり、そのときどきの旬なプロデューサーを迎えたりするじゃないですか。特に海外のバンドは制作内で占めるプロデューサーのパーセンテージが大きいですからね。ほんのちょっとしたアドバイスだったり、違う切り口があるだけでも、何十年やってるバンドが変わったりする。
──稲葉さんの制作現場でも、そういう試みはありますか?
そうですね。B'zでも、そのときどきによって。僕らは基本的に2人(組)なので、いろんな人と仕事をする機会もありますから。
理にかなったアレンジができた「Symphony #9」
──次に2曲目の「Symphony #9」について。この曲も歌詞のイメージが先ですか?
どうやって作ったかよく思い出せないんですけど(笑)、歌詞の断片があって、サビのフレーズとメロディがおぼろげに出てきたんだと思います。あとは分厚めのサウンドでやりたいということくらいですね、最初は。「Symphony」という言葉がサビにあったので、アレンジする段階でもそれがキーワードになっていて。音のレイヤー、重なりというのは要所要所で意識していたし、そういう意味では理にかなったアレンジメントができたかなって思いますね。
──「相手が悪であろうと 優しくありたいそれが 自分の理想だなんて 微笑んでみせた」という歌詞も印象的でした。“許す”というメッセージも含まれているのかな、と。
メッセージと言うとイメージを限定してしまうところもあるので、好きなように聴いてもらえればいいんですけどね。許すことは美しいし、かけがえのないことだけど、1人の人がそう言っていても成立しないじゃないですか。こちらが許したとしても、相手のほうは何も気付かないで、反省しないで過ぎていくこともあるだろうし。そういう構図、人間関係はどこにでもあると思うんですよね。許すこと、譲ることの美しさもあるし、物悲しさもあるっていう。
──今の世界情勢から歩きスマホなどの個人個人のマナー問題まで、いろんな場面で当てはまる話ですよね、それは。
まあ、後味の悪いことってありますからね。それはもう、僕も皆さんとまったく同じです。
もうちょっと「何がなんでものし上がる」という気持ちが欲しいくらい
──3曲目の「BLEED」は「さらば強くあれ」というフレーズを軸にしたミディアムロックチューン。ゲームソフト「龍が如く 極」のメインテーマソングになっていますが、ゲームの内容ともリンクしているんでしょうか?
いくつか曲のデモを作っている中で「龍が如く」の話があって。ある程度、こういう曲にしてほしいというリクエストもあったので、そのモチーフの中から選んで「これを完成させよう」という流れでしたね。
──ちなみに稲葉さんは「龍が如く」の世界観をどんなふうに捉えてますか?
今回、初めてゲームをやってみたんですけど、面白かったですね。このシリーズの当初のコンセプトが「女子供にはやらせない」だったらしくて、それも面白いなって思ったし。僕が一番感心したのは(ゲームの舞台となる)街の作りですね。対談(龍が如く盤の特典映像として収録されている、「龍が如く」シリーズ総合監督・名越稔洋とのスペシャル対談)でも話を聞いてるんですけど、ディテールへのこだわりがすごいんですよ。ある意味、変態的なところもあると思うし(笑)、そういうこだわりは尊敬しますね。
──欲と野望が渦巻く男たちのストーリーについてはどうですか?
そこもエンタテインメントですからね。ストーリーもしっかり作り込まれているし、いいなって思います。僕自身はそういうタイプではないんですよ。もうちょっと「何がなんでものし上がる」という気持ちが欲しいくらいで。基本的にそういう部分が欠けてるんですよね。
──音楽シーンで勝ち残るためには、何がなんでも上に行くという気持ちも必要な気がしますが……。
どうなんでしょうね? よく「のし上がる」とか「上に行く」って表現しますけど、時代によっても感覚が違うので。どうなったら「上に行く」ということになるのかも変化してるだろうし、音楽業界の中でも考えはだいぶ変わってきていると思いますけどね。
──稲葉さんご自身はどうですか? これまでのキャリアを考えると、すごく達成感があると思うのですが。
振り返ればそういう気持ちにもなりますけどね。ただ、やればやるほど「もっとこうしたい、ああしたい」ということが出てくるので、それを自分で実行するのが目標ってことですよね。それがあるのは幸せなことだと思います。
──「BLEED」の歌詞にもある通り、「ほんとは誰にも負けたくない」という気持ちも……?
うん、その気持ちもありますね。その思いはあまり外に出ていないように見えるかもしれないですけど。
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- ニューシングル「羽」 / 2016年1月13日発売 / VERMILLION RECORDS
- ニューシングル「羽」
- DVD付初回限定盤 [CD+DVD] / 2400円 / BMCV-4016
- Blu-ray付初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 2400円 / BMCV-4017
- 通常盤 [CD] / 1500円 / BMCV-4018
- ニューシングル「羽」龍が如く盤
- 龍が如く盤 [CD+DVD+Blu-ray] / 3200円 / BMCV-4019
CD収録曲(全仕様共通)
- 羽
- Symphony #9
- BLEED
- 水路
初回限定盤DVD / Blu-ray収録内容
「Koshi Inaba LIVE 2014 ~en-ball~」より
- CAGE FIGHT
- AKATSUKI
- そのswitchを押せ
- なにもないまち
- 絶対(的)
- Salvation
龍が如く盤DVD / Blu-ray収録内容
(※DVDとBlu-rayは同じ収録内容)
- Receive You [Reborn] 「龍が如く 極」ver. MUSIC VIDEO
- 稲葉浩志×名越稔洋「龍が如く」シリーズ総合監督 スペシャル対談
稲葉浩志(イナバコウシ)
B'zのボーカリストとして1988年にデビュー。1989年に「BAD COMMUNICATION」のヒットで注目され、翌1990年に発表した「太陽のKomachi Angel」が初のオリコン週間ランキング1位を記録する。その後現在まですべてのシングルが1位を獲得し、歴代シングル首位獲得数、アーティストトータルセールス数などで歴代1位の記録を更新中。2007年にはその功績が認められ、アメリカのHollywood's RockWalkの殿堂入りという快挙を成し遂げる。ソロとしては1997年に初のアルバム「マグマ」でミリオンセラーを記録。その後数年おきに新作を発表しており、2014年は4年ぶりのアルバム「Singing Bird」をリリースし、東京・ステラボールで10公演のライブを行った。2016年1月13日に約5年半ぶりのシングル「羽」を発売後、全国アリーナツアーを開催する。