音楽ナタリー Power Push - 稲葉浩志

5年半ぶりシングル発表 ソロ活動の意義とは

稲葉浩志(B'z)がニューシングル「羽」をリリースする。2014年5月発表のアルバム「Singing Bird」以来の新作となる本作には、四つ打ちのビートと華やかなストリングス、高崎晃(LOUDNESS)のギターを交えたアンサンブルが印象的な「羽」や、重厚なサウンドメイクを施したミディアムナンバー「Symphony #9」など4曲を収録。ソロアーティストとしてのさらなる深みが感じられる作品に仕上がっている。音楽ナタリーでは稲葉本人にインタビューを実施し、シングル「羽」の制作過程を中心に、ソロ活動の意義、B'zの活動との違いなどについても語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

すごく自然なカタチでソロをやってる

──稲葉さんは2014年5月にソロアルバム「Singing Bird」を発表し、東京・ステラボールで10公演のライブ「Koshi Inaba LIVE 2014 ~en-ball~」を開催しました(参照:稲葉浩志、ステラボール10公演終え「音楽に感謝したい」)。その後、2015年3月にB'zのアルバム「EPIC DAY」、6月にB'zのシングル「RED」がリリースされ、全国ツアー「B'z LIVE-GYM 2015 -EPIC NIGHT-」を行い、11月には「Koshi Inaba LIVE 2014 ~en-ball~」のDVD / Blu-rayを発売。そして今回は約5年半ぶりとなるソロシングル「羽」を発表と、まったく切れ間のない活動が続いていますね。

そうなってますね(笑)。

──アルバム「Singing Bird」以降も、ソロ曲の制作は継続的に行っていたんですか?

今はわりとそういう感じでやってます。アイデアがあって「もうちょっとカタチにしたいな」というときはスタジオに入ったり。ツアーが始まるとスタジオにはあまり入らなくなりますけど、滞在先のホテルで作業することもあるし。

──曲を作ることに対するモチベーションが維持されている、と。

稲葉浩志

今のところはそうですね。すごく疲れてたりすると「何もやりたくない」ということもあると思いますけど、ここしばらくはそんなこともなくて。最近のパターンとしては、普段生活してる中で歌詞を書き溜めておいて、それに曲を付けるということが多いんですよ。まあ、ソロもすごく自然なカタチでやってますね。今回の場合は「だいたいこのあたりでツアーをやりましょう」というスケジュールが見えて、「じゃあ、その前にカタチにしたものをリリースしたい」っていうことになって。特別「さあ、やるぞ!」って区切ってる感じではないんですよね。

──曲を書くことがライフワークになってるんですね。

まあ、カッコよく言うと(笑)。

──今回のシングル「羽」に収録されている4曲は、それぞれサウンドの方向性が違います。1つの作品としてまとめるにあたって、何かテーマはあったんですか?

最初はどちらかというとアルバムを作るようなつもりで作業してたんですけど、やっていく中で「去年(2014年)もアルバムを作ったんだよな」と思って。のべつ幕なしやってると思われるのもイヤだし(笑)、シングルはずっと出してなかったので、それくらいのボリュームでまとめるのも面白いかなと。

──シングルは約5年半ぶりですからね。

ええ。作り終えてみて、4曲入りのシングルでよかったなと思いましたね。僕なりにバランスが取れている4曲だし、どの曲も気に入ってるので。

気分の高揚の仕方はジャンルを問わず共通するところがある

──サウンドメイクに関しても、これまでとは違ったアプローチがありますね。特に表題曲「羽」のダンスビートはかなり新鮮でした。

去年(2014年)の春くらいにはこういう内容の歌詞があったんですけど、そのときは「バラードにするだろうな」と勝手に思っていたんです。それとは別にコード進行とメロディだけの曲があって、この歌詞を当てはめて歌ってみたら「いけるかも」という手応えがあって。そこから試行錯誤しながら、全体の構成を作っていった感じですね。最初はシンプルなギターサウンドの曲を作ろうとしたんだけど、アレンジャーがたまたまシンセのサウンドチェックをしているのを聴いて、「その音、いいね」って話になって。そういう何気ないところから、シンセを使ったりダンスビートのテイストが入ってきたりしました。

──その場の判断でフレキシブルに変化していくというか。

そうですね。ジャンルにこだわっているわけでもないし、ロックにしなくちゃいけないとも思っていなので。やってみてイマイチだったらやめるだけですからね。

──完成した「羽」のアレンジからエレクトロ、EDMなどの要素も感じられますが、そのあたりの音楽は聴きますか?

それだけを一生懸命聴くってことはまずないですけど、例えばそういうジャンルの大きなイベントがあったりするじゃないですか。

──代表的なものだと「ULTRA JAPAN」ですか?

そうそう。イベントの映像を見ると、すごい迫力だなと思って。DJ本人は全然動かなくて、後ろの映像や人だけが動きまくってるという。もちろん自分がアレをやるわけではないですけど、カッコいいなと思うし、興味はありますね。

──ロックバンドのカルチャーとはまったく違いますからね。

違いますね。でも、気分の高揚の仕方というのは、ジャンルを問わず共通するところがあるんじゃないかという気はします。四つ打ちというリズムの形態も昔からあるし、B'zでも何回もやってますからね。「羽」のアレンジも「新しいことをやっている」という気負いはないんですよ。アレンジャーは僕よりもずっと詳しいから、音色とかもわかっていて使ってると思いますけど、僕はその音を聴いて「好き、嫌い」というところで判断してるだけなので。

LOUDNESSファンの稲葉浩志

──このサウンドの中でLOUDNESSの高崎晃さんがギターを弾いているのもすごいですよね。正確な打ち込みのビートとダイナミックなギターのフレーズがぶつかり合うような感覚があって。

この曲を作った段階では、ギターソロを入れるかどうか決まってなかったんです。空白のパートがあって「ここにギターを入れるんだったら、例えば……」というところで出てきたのが高崎さんのお名前だったんですよね。ご存じの通りLOUDNESSはヘビーなサウンドですけど、僕としては最初から「この曲で高崎さんに弾いてもらったら面白いだろうな」と思っていて。高崎さんも非常に快く引き受けてくれました。ソロのパートはお任せしたんですよ。「この部分ですごいギタリストがいきなり登場して、バーッとギターソロを弾く」っていうイメージだけをお話して。

──LOUDNESSはリアルタイムで聴いてました?

聴いてましたね。その前に(LOUDNESS前身バンドの)レイジーっていうバンドがあったじゃないですか。レイジーが解散する直前はああいう(LOUDNESSのような)サウンドになっていて、アイドルばっかり出てる番組でも堂々とロックをやっていたので、僕らの世代のロック好きは興味津々で。解散してLOUDNESSが始まったときは「おー! 来たー!」っていう感じでしたね。あの頃にああいうサウンドをやっていたのは、すごいと思いますよ。

──LOUDNESSの曲をカバーしたことはありますか?

ありますよ。高校の頃、高崎さんのことが大好きでギターをやってる友達がいて、「文化祭に出たい」って言うから、彼のためにバンドを作って、たまたま僕がボーカルをやったんです。それからもずっと聴いてたし、大学でこっち(関東)のほうに出てきてからは、近郊の公演とかも観に行ってましたね。

──かなり熱心なファンだった、と。

だいぶ(笑)。で、たまたま今年の夏に同じイベント(2015年7月7日に大阪・Zepp Nambaで行われた「ROCKROCK 20th ANNIVERSARY LIVE【ROCK BEYOND ROCK】」)に出たんですよね(参照:B'z、LOUDNESSとZepp Nambaで対バン!贔屓のロックバー20周年祝う)。うちの松本(孝弘)さんは以前から高崎さんと知り合いだったんですけど、僕はほとんど追っかけだったんで(笑)、そのあたりの距離感は全然違っていたんですよ。でも、一緒のステージに立ったことが大きな取っ掛かりになって、話をするようになって。ファンだったときのことを考えると、(自分の作品に参加してもらうのは)恐れ多いですけどね。

ニューシングル「羽」 / 2016年1月13日発売 / VERMILLION RECORDS
ニューシングル「羽」
DVD付初回限定盤 [CD+DVD] / 2400円 / BMCV-4016
Blu-ray付初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 2400円 / BMCV-4017
通常盤 [CD] / 1500円 / BMCV-4018
ニューシングル「羽」龍が如く盤
龍が如く盤 [CD+DVD+Blu-ray] / 3200円 / BMCV-4019
CD収録曲(全仕様共通)
  1. Symphony #9
  2. BLEED
  3. 水路
初回限定盤DVD / Blu-ray収録内容

「Koshi Inaba LIVE 2014 ~en-ball~」より

  1. CAGE FIGHT
  2. AKATSUKI
  3. そのswitchを押せ
  4. なにもないまち
  5. 絶対(的)
  6. Salvation
龍が如く盤DVD / Blu-ray収録内容
(※DVDとBlu-rayは同じ収録内容)
  • Receive You [Reborn] 「龍が如く 極」ver. MUSIC VIDEO
  • 稲葉浩志×名越稔洋「龍が如く」シリーズ総合監督 スペシャル対談
稲葉浩志(イナバコウシ)

B'zのボーカリストとして1988年にデビュー。1989年に「BAD COMMUNICATION」のヒットで注目され、翌1990年に発表した「太陽のKomachi Angel」が初のオリコン週間ランキング1位を記録する。その後現在まですべてのシングルが1位を獲得し、歴代シングル首位獲得数、アーティストトータルセールス数などで歴代1位の記録を更新中。2007年にはその功績が認められ、アメリカのHollywood's RockWalkの殿堂入りという快挙を成し遂げる。ソロとしては1997年に初のアルバム「マグマ」でミリオンセラーを記録。その後数年おきに新作を発表しており、2014年は4年ぶりのアルバム「Singing Bird」をリリースし、東京・ステラボールで10公演のライブを行った。2016年1月13日に約5年半ぶりのシングル「羽」を発売後、全国アリーナツアーを開催する。