音楽ナタリー Power Push - 八王子P×マーティ・フリードマン「アイマリンプロジェクト ~iMarine Project~」
DEAD or ALIVEなコラボが生んだ最高の「いいじゃん!」
勉強より「いい」と思える感覚
マーティ 八王子さんは打ち込みで音楽を作ってますけど、音楽の理論とかはどこから学んだんですか?
八王子P 実は僕、音楽を習っていた経験も、バンドをやっていたなどの経験もないんです。ホントに音楽のことをほとんど知らない状態からスタートして。だからコード進行とかも勉強したわけじゃなくて、耳コピをしながら「こういう音の重なりが心地よいんだな」って試行錯誤で覚えていった感じですね。
マーティ 素晴らしいですよ。勉強じゃなくて経験で音楽を学んでることが大事。音楽の勉強ができる人って、分析とか説明はできるけどいいかとうか判断できない人たちっていうのがけっこういるんですよ。「こういう音楽が好き」というセンスがあって、それをみんなに好きになってもらうのがアーティストじゃん?
八王子P 僕自身、ちゃんと学んでこなかったからこそ自由な発想ができてる部分があると思ってるんです。でも、最近はちゃんと勉強もするようにしています(笑)。楽器を弾ける人に比べたら作業効率とかも悪かったりするから、そこは克服しなきゃいけないし。ただ自分の自由な発想というか、独学だからこそのよさは失いたくないんですよ。そこは自然と僕の個性にもつながっているのかなと思っていますし。
マーティ 八王子さんは大丈夫。技術とか理論とか歴史とかはあとから学ぶことができますから。ギターの世界でも多いんですよ。とにかく難しいフレーズをマスターして、それが見せたくて仕方がなくなってる人たち。難しいフレーズを弾くのはすごいかもしれないけど、それがいいものかどうか本人でもわかってない。
──マーティさんはご自身のセンスをどうやって磨いてきたんですか?
マーティ 僕も八王子さんと同じである程度独学なんですよ。たまにレッスンとかで理論とかを聞かれることがあるんですけど、適当に答えてました(笑)。
八王子P はははは(笑)。
マーティ でも適当に答えているうちに自分なりの理論が生まれていくんですよ。だから僕の理論はほかの人とまったく違うし、学校で習う理論からはまったく外れたものかもしれない。でも「これ、いいじゃん!」と思うものがどういうものがちゃんと説明できるんです。例えば音楽を作っているとき、ただ演奏してるだけになってるときに生まれてくるフレーズはたいてい捨ててしまいますね。自分が演奏しているフレーズが好きかどうか、常に自問自答しながら曲やフレーズを作っています。
八王子P 音楽を続けているとどんどん深いほうにいってしまう傾向があると思うんです。最初はキャッチーなものが好きだった作り手がリリースを重ねていくうちに音作りがどんどん細かくなっていって難解なものになっていくように。マーティさんのようにJ-POP的なキャッチ—な要素を常に意識しながら技術的、専門的な要素を取り入れていくのは、すごく魅力的なことだと思いました。
音楽の原点はネガティブだった
──八王子さんはジャンルで言うとダンスミュージックの作り手ですが、ロックは聴いてきたんですか?
八王子P もともと高校生の頃は国内のロックを……ELLEGARDENとかBUMP OF CHICKENとかをよく聴いていたんです。でも当時僕の友達でバンドをやっている人がいて、たまたま彼らのバンドの愚痴をたくさん聞くことがあって、バンドは僕には向いていないなと思っていて。音楽に興味を持って曲を作りたいなと思ったとき、僕は1人で音楽をやる道を選んだんです。
──ダンスミュージックを選んだのはなぜだったんですか?
八王子P いろんなバンドの音を聴いていくうちに、僕はどうやらシンセの音、電子音が好きらしいということに気付いて。「クラブミュージックだったら1人で作れるからこっちでやってこう」と思ったんです。僕の音楽の原点ってけっこうネガティブですね(笑)。
マーティ ハハハハ(笑)。でも面白いです。
八王子P VOCALOIDを使って楽曲を発表したのも同じ理由ですね。最初はインスト曲を作ってたんですけど、歌モノに興味を持ったときにボーカルを頼めるようなつながりが当時はなかったから「VOCALOIDを使えば1人でできるからちょうどいいな」って思ったのが最初なんです。
──マーティさんはバンドの経験も豊富にあるわけですから、多人数だからこそのだいご味も味わってきていますよね?
マーティ 僕は性格的にもみんなで一緒にお祝いしたいタイプだしね。成功したら「やったぜー! イエーイ!」ってハイタッチする。そのために音楽をやってるところがあります。あと僕は、自分のセンスをほかの人のセンスに重ねるのが好き。すてきな世界に入れてもらって、僕ができることをちょっと入れる。それでうまくいったときに喜びを分かち合えるのがすごくうれしいんです。
八王子P 僕はようやくここ数年でほかの人と一緒にやってみたいなって思うようになって。だからマーティさんとのコラボもすごくうれしかったし、自分にないものを持ってる人と一緒にやって、新しいものを作るってことが今はすごく楽しいんですよね。
- アイマリンプロジェクト ~iMarine Project~
- クリエイター、そしてユーザーのインスピレーションをもとに「海物語」のメインキャラクターであるマリンちゃんの新しい可能性に挑み、新キャラクター「アイマリンちゃん」およびオリジナル楽曲、ミュージックビデオを共創していくプロジェクト。2015年4月に第1弾楽曲として「Marine Dreamin'」が制作され、そのミュージックビデオの総再生数は280万回、アイマリンプロジェクト関連動画の総再生回数は1000万回を突破した。2016年3月に第2弾新曲「Marine Bloomin'」のミュージックビデオが公開。「Bitter & Sweet」というテーマが設けられた第2弾には八王子P(楽曲)、鹿乃(ボーカル)、Yumiko a.k.a. MTP(振付)、U35(キャラクターデザイン)、わかむらP(映像監督)、さらにゲストクリエイターとしてマーティ・フリードマンが参加している。
八王子P(ハチオウジピー)
VOCALOIDを使用して音源制作をするボカロPとして活躍する男性アーティスト。クールな4つ打ちトラックにキャッチーなメロディを乗せたダンスチューンを得意とする。2009年12月、ニコニコ動画で公開した「エレクトリック・ラブ」が注目を集め有名ボカロPの仲間入りを果たす。2011年11月に台湾でリリースしたベストアルバム「Sweet Devil feat. 初音ミク」は現地の週間売上チャートで4位に入る健闘ぶりを見せた。2012年2月、アルバム「electric love」でメジャーデビュー。2013年にはTOY'S FACTORYからアルバム「ViViD WAVE」、2014年には「Twinkle World」、2015年9月に「Desktop Cinderella」をリリースした。
マーティ・フリードマン
ギタリスト、作曲家、プロデューサー。1990年にMegadethに加入し、ギタリストとして活躍。同バンド脱退後の2004年に活動の拠点をアメリカから日本へと移す。2005年に放送されたテレビ東京の音楽番組「ヘビメタさん」にレギュラー出演するなど、タレントとしても活動の幅を広げている。2008年には日経BP出版センターより著書「い~じゃん!J-POP -だから僕は日本にやって来た-」を刊行。2008年には「グーグーだって猫である」「デトロイト・メタル・シティ」といった映画にも出演している。また2014年にはアレキシ・ライホやダンコ・ジョーンズといった洋楽アーティストをゲストに招いて制作されたソロアルバム「インフェルノ」をリリースした。