ナタリー PowerPush - iLL
普遍性のあるポップネスとは何か? iLL流ポップの真髄に迫る
ポップネスを感じる肝は楽曲の構成
──そういう、曲作りの黄金率みたいなものを意識しだしたのはいつ頃からですか?
……自然と意識してたのかもしんないですけどね。例えばシングル曲を選ぶときに、自分がこれじゃないかって思ったのを「これシングルにしようよ」って言ってもらえたら、自分としてはうれしい。自分がポップだと思うものを相手もポップだと思ってくれるのは。でも相手が違う曲を選ぶときもあって「なんでこれがポップなのか?」と思う経験が何度かあった。人によってはAという曲がポップだと思うし、Bという曲がポップだとも思う。でもそれを作ってるのは自分だから、コントロールできるはずだって思いながらずっと作ってきたから。
──要するに、人がポップだって思う曲の共通点を探ってみると、そういう黄金率みたいなものに忠実である、ということ?
そうですね。それも、メロディとか音とかじゃないところに肝があるんじゃないかって思った。
──その結論が起承転結のある構成だと?
僕は構成だって思った。そこではメロディ、音、あるいは演奏テクニックとかあんまり関係ないんですよね。ほんとに構成しか見てない。どんな曲も構成しか見てないですね。
──ハリウッド映画の脚本って、みんな同じだって言いますよね。始まって何分後に何かが起きて、その何分後にそれを受けて何かが起きて、みたいな構成が全部同じ。どんなストーリーでもあっても展開の仕方がみんな同じだっていうんですよ。それはお客さんを惹きつけるための一種の黄金率であると。
そうですよ、そういうもんだと思います僕も。
──音楽にもそれはあると。
前は、例えばイントロが始まって15秒とか30秒以内に歌がなきゃダメっていう理由がよくわかんなくて。「そうじゃなくてもいい曲あるじゃん」って思ってたんだけど、今はすっかり逆になっちゃって。「シングルになるのはだいたい15秒から30秒くらいに歌メロが来て」みたいに自分で言ってたりするから(笑)。結局構成しか見てないやと思って。
──それは面白いですね。自分が普通だと思ってることが他の人にとっては普通ではない、その逆もある。自分は世間のトーンから1音か半音かズレてるみたいな。そういうとこからアーティストの表現って始まるんじゃないかと思うんですけど。
僕はそれは面白いって思う。ズレててもおもしろいし、合っててもおもしろいし。ズレを認識することがもう表現なんじゃないかな。ズレてるズレてないの基準が必ずあるわけで、それは自分でしかわからない基準。それを表現できてればいいんじゃないのかな。
──じゃあ、世間のトーンからズレていても、ある種の構成を意識すればそのズレは埋まる?
うーん、そういう場合もあるでしょうね。ただ……どこを一番気にするかは人によって違うと思う。僕がとりあえず一番気にするのは構成。そこだけ気にする。
──コツを掴んだって感じがする?
そのほうが作りやすいってのがありますけどね。具体的になればなるほど作りやすいっていうか、「15秒以内にあれをしてこれをして」って注文してくれたほうが、その制限の中で表現できるからすごく作りやすい。
──「なんでもいいからポップな曲書いてください」って言われるよりは、そういう法則、自分なりの決まり事がはっきりすれば曲も作りやすくなるし、そこからハズれたものも意識してちゃんと作れるようになると。
そうですね。基準があればどっちに転んでも作りやすいです。
──じゃあ当分はそれでいけそうですか?
うん、ずっといけると思いますけど。たぶんずっといける。
──へえ。すごいね、それは。
うん。ずっといけるけど、それで作った曲を出せるレコード会社があるかは別(笑)。
音楽を仕事にしなくても普通に働けるかもしれない
──もともと多作なところに加えて、ある種の黄金率を発見したことで、これからもどんどんポップな作品を期待できそうですね。
うん。どんな曲にも自分なりの基準を生かした楽曲ができるはずなので……それプラス、挑戦できること、新しい刺激とかそういうのは得られればいいなと思いますけどね。
──なるほど。それは心強いですね。ちなみに、アルバムタイトルの「Force」ってどういうところから?
ずっと考えてるんですよ。「なんで作品作ってるんだろう」とか「なんでこんなに作品作んなきゃいけないんだろう」とか思ったりすることがよくあって。それに理由を付けてくと、理由を付けた途端にどれも違うんじゃないかって思うようになっちゃって。作る意味、作る動機、作るモチベーションが何かっていうのは目に見えないし、考えもつかない。何かそれはよくわからない力っていうか、目に見えない力みたいなものが作用してるんじゃないかって今は思ってる。それで付けたタイトルですね。
──曲を作るっていうのはイコール生きること?
そう軽くは思うんですけどね。でもそんなこと絶対にないわけで、曲作りを止めて普通に働いても生きていける、とも思うし。
──何かを作るべくして生まれてきたとは思わない?
わかんないですよ。最近は、何も音楽を仕事にしなくても普通に働けるかもしれないなと思って。今までは、普通に働けないと勝手に思い込んでたのかもしれないって最近思うようになりましたね。
──そういう風に思えるようになってきたのは、自分と社会との接点みたいなのを意識するようになったってことですよね。
うん、まぁそうですね。
──その結果、良い作品が出来上がったからよかったんじゃないですか?
うん、作品ができたことは全然いいですね。あとはこれがどういう風に広がっていくのか。そこは興味がありますね。広がらなくても、まぁそれはそれでしょうがないって思うけど、広がっていくほうが面白いなって思います。
ロケ地:Turntable Lab Tokyo
〒150-0011
東京都渋谷区東1-13-14 渋谷松永ビル1F
Tel: 03-5778-2870
Email: tokyo@turntablelab.com
営業時間:
月曜~木曜 13時-21時
金曜・土曜 15時-23時
日曜 定休
CD収録曲
- Tight
- Hello
- The Way We Think
- R.O.C.K.
- B-Song
- Kiss
- Radio Radio
- Deadly Lovely
- Vicious
- Come With U
- Naki
- Birds
- ~ 31. 無音
- Piano
初回限定DVD収録内容
- 「Call my name」以降のMusic Clipを7曲と「Flying Saucer」のライブ映像を含む豪華仕様
Live Schedule
iLL「Force」 Live
2009年10月30日(金)東京都 代官山UNIT
- OPEN 18:00 / START 19:00
adv ¥3500 / door ¥4000(1ドリンク別)
ALL STANDING
- チケットぴあ 0570-02-9999(P-code:331-521)
- ローソンチケット 0570-084-003(L-code:75183)
- イープラス http://www.eplus.co.jp/
- GANBAN http://www.ganban.net/
- 【主催】 HOT STUFF PROMOTION
- 【企画・制作】 HEARTFAST / DOOBIE
- 【INFO】 HOT STUFF (www.red-hot.ne.jp / 03-5720-9999)
iLL(いる)
2005年に解散したロックバンド・SUPERCARのフロントマン、中村弘二による音楽プロジェクト。2006年5月に全曲インストゥルメンタルによるアルバム「Sound by iLL」をリリースし、「FUJI ROCK FESTIVAL 06」ではレーザーを駆使した演出と自然との共演で高い評価を得る。2007年1月には文化庁メディア芸術祭10周年記念展にて演奏。2007年5月に1stシングル「Call my name」、2008年3月には2ndアルバム「Dead Wonderland」、8月に3rd「ROCK ALBUM」をリリースしている。