ナタリー PowerPush - iLL

普遍性のあるポップネスとは何か? iLL流ポップの真髄に迫る

曲作りは陶芸みたいなもの、気に入らなかったら捨てればいい

──今回まりん(砂原良徳)と久々にタッグを組んでますが、彼が「前にスーパーカーで一緒にやったときに比べてナカコーのトラック作りのスキルがすごい上がってて、僕は何もやることがなかった」と言ってますね。

まぁ前よりは無駄な部分を省けるようになったので。前は少しごちゃっとする構成のものを作ったりしてたんですけど、最近は「ここはいらない」って思ったらバッサリ切れるようになった。

──以前はあれこれ入れたがるほうだった?

昔はそういうタイプでしたけど、今はあんまりあれこれ入れないですね。前は、出来上がった曲に対して後であーでもないこーでもないって入れ替えたりしてたんですけど、最近はそういう作業自体を好きになれないというか、一発で出来上がったものが一番良いんじゃないかと思う。あんまり作為的になんなくていいなと。陶芸みたいなもんで、こういう瓶が出来上がって気に入らなかったら捨てればいいし、気に入るのが出来上がったらそれでいい。気に入んないやつを無理やりこねくり回して気に入るものにする作業は好きじゃないって感じにはなってますね。

──なるほど。さっき「よりバンドっぽくなってきた」って言いましたけど、それは「よりシンプルになってきた」というのと同義なので、それは納得できる話ですね。

うん。例えばレコード会社との話し合いで「シングル候補を作ってください」って言われて、「こういうのはどう?」って渡したら「この曲にもう1個サビがあれば」って言われるのが嫌で。嫌っていうか、今ある曲に無理矢理サビをくっつけるよりは、その曲は捨ててサビがある曲を作ったほうが自然じゃないかと。後から人の意思でくっつけると、くっついたって感じがずっと残っちゃうから。それよりは、生まれたときから完璧な曲があればいいんでしょ、って思いが強くなってます。実際問題、もう一度練り直してより良くなる場合もあるとは思うんですけどね。なんか今はそれが好きになれない。「あー、ここ誰かに言われて後から足したんだよなー」って思うのが嫌。

──過去にそういうことがあったんですか?

うん、まぁ、要望があったときには足してましたけどね。でも、「この曲は、やっぱり前の何も付けてないほうが素っ気なくて良かったのに」とか思うことは結構あったなぁ。

──今回のシングルになった3曲は、どれもポップでキャッチーで全然OKじゃないですか。

うん。今回のはアルバムを作って、どれがシングル向きかなぁみたいな話があって、じゃあこれとこれとこれなんじゃないかって提案して、それがそのまま通った形でしたね。

カップラーメンはすごくポップだ

インタビュー写真

──“ポップ”って自分にとってどういうものなんですか?

ポップは……そうですね……作品的な偏りのないもの。一般的な、どの方向からもアプローチできるものっていうか、不特定多数って感じ。

──多分アーティストってみんな自分の中に、コントロールできないいびつな部分とか、歪みとか傷とかを持ってると思うんですけど、そういうものを削っていくっていうことですか?

うーん……とも言えるんだと思うんですけど……例えばラーメン屋のラーメンとカップラーメンがあって、どっちがポップだって言ったらカップラーメンのほうがポップだと思うんですよ、いろんな目で見て。平均した味・手軽さ・値段、そういうものを含めた上でバランスのいいものだと思うんですよね。

──じゃあ今回のアルバムはカップラーメン?

あははははは(笑)。

──こだわりのラーメン屋だと個性が強いから、通には受けるかもしれないけどあんまり一般的じゃないと。

そのラーメン屋に行って好きになる人もいればそうじゃない人もいるけど、カップラーメンの流通性や一般浸透性には届かないよね。カップラーメンじゃなくて例えばコーラでもいいんだけど、「誰もが知っているようなものって個性がない」みたいな印象をみんな持つけど、僕は逆で。すごい個性的だと思うし、よくこういうの作れたなぁと思う。

──マスプロダクトとして一番洗練された形だよね。

うん。いろんなものをそぎ落として、シンプルに。うん、シンプルなんですよね。

──でもその、いわゆる一般性っていうのが曖昧模糊として、みんなバラバラの方向を向いてるのが今という時代だと思うんだけど、ナカコーには“一般”っていうものが見える?

うーん、バラバラのようには見えますけどね。でも感性的なものは全然バラバラには感じないんですよね。

──じゃあいろんなフィールドがあるけど、その全てに共通するポップ性はあると?

うーん………………難しいですけどね。作品の起承転結っていうルールは普遍性があると思います。一般性があると思いますし、曲単位でも起承転結っていうことは意識しますけどね。

──それはある種の黄金率として?

うん。それさえ守ってればどんな曲でもいいんじゃないかって思うし。それをハズすと、アヴァンギャルドになる。ハズしたい曲は先にハズす構成で作るんですけど、ポップでわかりやすいものを作るときは起承転結をハズさないように作る。

──じゃあシングル以外のちょっとアバンギャルドな曲は、そこからあえてハズして作って、という使い分けはかなり意識的にやってる?

うん、そうですね。

ニューアルバム『Force』 / 2009年8月26日発売 / Ki/oon Records

  • 初回限定盤[CD+DVD] / 3360円 / KSCL-1453~1454 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] / 3059円 / KSCL-1455 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. Tight
  2. Hello
  3. The Way We Think
  4. R.O.C.K.
  5. B-Song
  6. Kiss
  7. Radio Radio
  8. Deadly Lovely
  9. Vicious
  10. Come With U
  11. Naki
  12. Birds
  13. ~ 31. 無音
  1. Piano
初回限定DVD収録内容
  • 「Call my name」以降のMusic Clipを7曲と「Flying Saucer」のライブ映像を含む豪華仕様
Live Schedule
iLL「Force」 Live

2009年10月30日(金)東京都 代官山UNIT

  • OPEN 18:00 / START 19:00
    adv ¥3500 / door ¥4000(1ドリンク別)
    ALL STANDING
  • 【主催】 HOT STUFF PROMOTION
  • 【企画・制作】 HEARTFAST / DOOBIE
  • 【INFO】 HOT STUFF (www.red-hot.ne.jp / 03-5720-9999)
iLL(いる)

アーティスト写真

2005年に解散したロックバンド・SUPERCARのフロントマン、中村弘二による音楽プロジェクト。2006年5月に全曲インストゥルメンタルによるアルバム「Sound by iLL」をリリースし、「FUJI ROCK FESTIVAL 06」ではレーザーを駆使した演出と自然との共演で高い評価を得る。2007年1月には文化庁メディア芸術祭10周年記念展にて演奏。2007年5月に1stシングル「Call my name」、2008年3月には2ndアルバム「Dead Wonderland」、8月に3rd「ROCK ALBUM」をリリースしている。