ナタリー PowerPush - iLL
普遍性のあるポップネスとは何か? iLL流ポップの真髄に迫る
iLLのニューアルバム「Force」が8月26日にリリースされる。iLLにとって4枚目のフルアルバムとなる今作には「R.O.C.K.」「Kiss」「Deadly Lovely」といった既発シングルを含めた計12曲を収録。前作「ROCK ALBUM」に引き続きナスノミツル、沼澤尚、西竜太(PARA)ら実力派とのセッションを経て作り上げられた楽曲には、中村弘二の考える極上のポップネスがちりばめられている。
収録楽曲のうち11曲が歌もので占められ、歪んだギターと浮遊感のあるリズム、さらにクールなナカコーの声が紡ぐメロディをたっぷりと堪能できる今作。前作からほぼ1年振りに放たれるフルアルバムに込めた思いはどんなものなのか、ナカコー本人にその真意を訊いた。
取材・文/小野島大 撮影/中西求
ポップでわかりやすいアルバムを作ろうと思った
──今回のアルバムが完成したのはいつ頃ですか?
だいたい去年の12月ぐらいにはできてて、ちょこっと残ったものを今年の1月にやって終わり。
──前作が完成してすぐ着手していった?
そうですね。前作のインタビューのときにはもう作業を始めてました。
──じゃあここに至るまでの過程は割と予定どおりなんですね。今回のアルバムに向けてどんな青写真を描いてましたか?
普通にポップでわかりやすいものを作ろうとは思ってて。前回もそれをやろうとは思ってたんだけど、割と短期間で作ったアルバムなので……。ポップでわかりやすいという部分においてはもうちょっと練って作ったほうがいいかもねっていうことで、今のアルバムができた。
──前作のとき、「最初にiLLを始めた時点から、どうやって歌ものに着地していくかってことを考えてた」っておっしゃってたじゃないですか。その結論が前作なのかなと思ってたんだけど、まだ自分としてはもう少しやれることがあるって感じはあったのかな。
んー、あれは割とカラーがバンドとかギターに統一されているというか、そういう音楽が好きな人に向けてるアルバムだったので。今回はもうちょっと一歩引いていろんな人が聴けるようなアルバムにしたいなと思ってた。
──具体的にはどういうものを?
音は、割となんでもいいんではないか。ある統一した音をアルバム全体に使うとかでなくて、いろんな音が入っても別にいいんじゃないかなぁと思って。
──ナスノミツルさんや沼澤尚さんと一緒に演奏するようになって、バンドの有効性をすごく痛感されたわけですよね。それが今回のアルバムの土台にあるんですよね?
前作は、スリーピースのスタジオセッションで録ったものをパッケージするっていう、割と装飾もしない、むき出しなものをただ出すっていう作品だったけど、今回のはバンド的なものがあった上で、味つけしていけばいいんじゃないかなぁと思って。そのいろいろ加えていく要素も生でリアルタイムでやりたかったので、ナスノさんと沼澤さん、それにキーボードの西さんを入れて4人で「せーの」って一発録りで録った。
──聴いた印象だと、前よりもバンドっぽい感じがしました。
うーん……まぁみんな慣れてきたっていえば慣れてきたし、誰が何をやって誰がどうやるかってのはなんとなく想像できる。
──阿吽の呼吸?
そうですね、まとまってきたんじゃないですかね。お互いをよく知るようになったんだと思いますけど。
今は曲よりもバンドの関係性を高めていきたい
──バンドがまとまってきたっていうのは、例えばどういうときに実感するんですか?
うーーーん……何も言わないで曲がすぐ形になるというか。例えば僕がもうちょっと激しくいきたいって思った瞬間に、みんなが同じように思ってる感じ。あと、ここで曲を終わりにしたいっていうときにみんなもそう思ってるっていう。1回演奏してみた音源を聴いて、「じゃあ終わり方はこうしましょう」って話して、2回目に演奏したらそのとおりに終われる。あんまり言葉は要らない作業でした。
──今のメンバーとやるようになってから、そういう境地に至るまでどれぐらいかかったんですか?
顔合わせて演奏してみた時点で、「この人こういう人なんだな」っていう大枠はわかったんです。そのときに、あんまり言葉は交わさなくても演奏で通じ合えるって思った。
──前のバンドではそういう実感ってあったんですか?
前は、僕が設計図みたいなものを作って、何小節何小節っていうのをピシッと決めて、それをスタジオに持っていって演奏するって感じだった。あんまりセッションで作ってはいなかったし、そういう意味でのバンド……的なものは薄かったですね。
──じゃあ、いわゆるバンドをやってる手ごたえというのは今のバンドになってから得られた?
うーん、まぁ、そうですね……でも時期も違うし。僕が10代のときにやってたのと今の年齢でやってるのはちょっと気持ちが違うので。まぁでも、どっちも良い経験になってるなと思います。
──バンドをやるにあたっての気持ちって、その頃と何が違います?
前は……曲を良くするため、面白くするためにやってたんです。でも今は、曲よりも自分たちの関係性を高めていきたい。自分の曲はどうでもよくて……どうでもよくはないんですけど(笑)。前よりは、曲っていうベクトルに向かうより演奏してる人間が作る楽しい空気、いい空気をパッケージしたい。そういう差が出てきましたけどね。
──それって普通とは逆じゃないですか? 普通は、バンドを始めた当初は友達同士で楽しむのが優先だけど、だんだんキャリアを積むに従って音楽・曲中心になっていくような気がするんだけど。
いや、それが普通だと思うんですけどね(笑)。僕は僕で、1人で制作したければしてたと思う。たまたまそこに、バンドに入らないかって話があって、それでバンドやってるってだけだったから。
──身も蓋もない話だ(笑)。
(笑)。演奏する楽しさより、曲を書く楽しさだったりそういうのを発表できる楽しさがあった。今は、それよりも一緒に演奏する人たちの空気とか関係性をパッケージしたい。
──平たく言うとバンドやってることが楽しいってことですかね?
うん。バンドをやることで得られるアイデアがある。こういうプレイは沼澤さんだったらもっとこうなるんじゃないかとか、ナスノさんの得意のプレイを生かして曲を作りたいとか、西さんの音楽観に合うような曲を作りたいとか。それが全部合わさったもので面白い構成のものを作りたいとか。そう思える。
──まぁでもそれって、バンドとして当たり前っちゃ当たり前ですよね。メンバーの個性を生かす形で、どんどんバンドの曲作りの幅も広くなっていく。1人の独裁者的なリーダーがいて、そいつの言うとおりに全部やってるっていうよりは、遥かにオーガニックな感じがしますけどね。
そうですね。うん、オーガニックなバンドっていうのはそうだと思います。
CD収録曲
- Tight
- Hello
- The Way We Think
- R.O.C.K.
- B-Song
- Kiss
- Radio Radio
- Deadly Lovely
- Vicious
- Come With U
- Naki
- Birds
- ~ 31. 無音
- Piano
初回限定DVD収録内容
- 「Call my name」以降のMusic Clipを7曲と「Flying Saucer」のライブ映像を含む豪華仕様
Live Schedule
iLL「Force」 Live
2009年10月30日(金)東京都 代官山UNIT
- OPEN 18:00 / START 19:00
adv ¥3500 / door ¥4000(1ドリンク別)
ALL STANDING
- チケットぴあ 0570-02-9999(P-code:331-521)
- ローソンチケット 0570-084-003(L-code:75183)
- イープラス http://www.eplus.co.jp/
- GANBAN http://www.ganban.net/
- 【主催】 HOT STUFF PROMOTION
- 【企画・制作】 HEARTFAST / DOOBIE
- 【INFO】 HOT STUFF (www.red-hot.ne.jp / 03-5720-9999)
iLL(いる)
2005年に解散したロックバンド・SUPERCARのフロントマン、中村弘二による音楽プロジェクト。2006年5月に全曲インストゥルメンタルによるアルバム「Sound by iLL」をリリースし、「FUJI ROCK FESTIVAL 06」ではレーザーを駆使した演出と自然との共演で高い評価を得る。2007年1月には文化庁メディア芸術祭10周年記念展にて演奏。2007年5月に1stシングル「Call my name」、2008年3月には2ndアルバム「Dead Wonderland」、8月に3rd「ROCK ALBUM」をリリースしている。