ナタリー PowerPush - いきものがかり

ニューアルバム「I」全曲解説

07. なんで(作詞・作曲:水野良樹 / 編曲:亀田誠治)

水野 作っているときに「なんで」っていう言葉がすごくハマって。「なんで」っていう言葉の切なさがストーリーを膨らませたっていうか、書きやすかったですね。失恋で、相手に好きな人がいて、自分が途中でそのことに気付いちゃうんだけどまだ告白していないっていう。そういうストーリーっていいかなって思って。

山下 そういうアイデアが出ると面白くない?

水野 楽しいよね、わかる。最初書いていたときは恋にドギマギするような女性を書こうと思っていたら「1 2 3 ~恋がはじまる~」と近い感じになってきちゃって。

吉岡 もっとマイルドだったよね、失恋感が。

水野 そうだね。それを少しエッジを立たせるというか。

吉岡 今まではまっすぐでピチピチな女の子が出てくる歌が多かったけど、今回はリアルな恋歌が多いよね。でも自分に近いからといって歌いやすいかといったらそうでもなくて、逆に近いから距離の取り方が難しい場合もありますね。近いと向き合ってしまうところがあるので。

山下 自分で書いた曲のほうが苦労してるよね。

吉岡 確かに。2人の曲だと「初めまして」っていう感じで向き合えるけど、自分の曲だと鏡の前に立っている感じ。

08. あしたのそら(作詞・作曲:山下穂尊 / 編曲:本間昭光)

山下 「1 2 3 ~恋がはじまる~」のカップリングだけど、アルバムに入れることになったのは急でしたね。良樹が言ったんだよね、これは入れようって。

水野 そうだね。曲順も13曲決まって「さあこれでいこう」ってなってから「あ、すみません『あしたのそら』入れたほうがいいんじゃないですか」って。

山下 直前で決まったけどアルバムの中でもプレーンな曲だからどこでも差し込めるっていう安心感があったし、濃い曲が多い中で「お口直し」みたいになればって感じでスッと入ったよね。アレンジに関してはカントリーっぽい感じやアイリッシュの音を使いたいってずっと思ってたんですけどようやくそれができて。アルバムの中にあることで風通しがよくなったと思います。

水野 力の入っていない感じがすごくいいよね。ほかの曲の色が強いから、スッと力を抜いてくれる。

吉岡 歌詞の内容もプレーンで、今の私たちの気持ちを表してくれていると思いますね。

09. 風乞うて花揺れる(作詞・作曲:山下穂尊 / 編曲:蔦谷好位置)

山下 これはドキュメントというか。実家の近所に公園があるんですけど、4年くらい前に公園の丘の上から西側……つまり海老名から厚木のほうを向くと大山っていう有名な山があるんですけど、夕暮れに大山に陽が沈んでいくのを見ていて、そのイメージが曲を書くきっかけでした。その丘によく風が吹いていて、飼ってた犬や亡くなった友達とかが見守ってくれてる。タイトルは春になるとタンポポが咲いて風に吹かれてたなっていうイメージです。

吉岡 (そのイメージは)曲を歌う時点では知らないんですよ。知らないけど曲の持つ凛とした感じとか行進する力強さや透明感は感じていて。歌う前にいろいろ聞いちゃうとわからなくなりそうだったので、自分で考えて歌ってみてからわからない部分に関して聞きました。この曲は気になったので。

山下 あとは、アルバムのタイトルが「I」に決まったあとに2番の歌詞を書いたので、「藍に染まる空の下」っていう部分は作為的にそうしました。

吉岡 そうなの? こういうインタビューとかで聞いて、あとで知ることが多いんですよね。

10. MONSTAR(作詞・作曲:水野良樹 / 編曲:鈴木Daichi秀行)

水野 僕にしては珍しく曲の時間と同じ時間で一筆書きでした。勢いで書きました。(「MONSTAR」の綴りが「MONSTER」じゃないのは)これはちょっと変わったことをしようかなと思って。全部を飲み込むイメージというか、宇宙感があったほうがいいかなっていう短絡的な感じで。勢いで書いてます。どうすかねこれ?

吉岡 (笑)。かなり遊んでるというか。「じょいふる」も遊んでるんですけど、そっちはふざけてますっていうのが全面に出てるというか。「MONSTAR」は腹にイチモツ抱えてるじゃないですか? 裏腹な感じというか、含みを持っている感じがあって。だからどういう歌い方にしようかなっていうのは考えましたね。最初やりすぎちゃったんですけど。

水野 ギリギリの感じが出たらいいなって思っていました。普通の人と狂気の人の狭間で、自分っていう存在と他社の存在が曖昧になってしまう感じが出ればいいなっていうことを考えてましたね。

11. 恋愛小説(作詞・作曲:水野良樹 / 編曲:亀田誠治)

水野 「MONSTAR」のあとに聴くと全然違いますね。これは歌謡曲だったり昭和っぽいものに対してすごく強く憧れが出た曲で、その憧れだけで書いた曲かな。

山下 そうだね。歌謡曲っぽい曲をアルバムでやりたいっていうのはずっとあるんですけど、それを突き詰めたっていうか。この曲も前からあったんですけど、4、5年前にディレクターに「まだ若すぎる」って言われたんですね。それが今回のアルバムでようやく出てきました。

水野 吉岡の声が全然違う感じになってるよね。

吉岡 これはこだわって録ってた覚えがあります。語尾の短さや揺れ具合で全然印象が違うものになるので。ディレクターさんが一番熱くなっていたので、歌入れが短く感じました。

12. 東京(作詞・作曲:吉岡聖恵 / 編曲:蔦谷好位置)

吉岡 これは2005年くらいに元歌ができたんですけど、神奈川から東京に通いながらデビューに向けて歌の千本ノックを受けていた頃で。その頃にボソッと浮かんできたのが「Journey」っていう言葉で。なんかこう東京に対する憧れと冷たいイメージがあって。新しいところに入ってどうなるかわからない状況に切なさや孤独感を感じて、そこから広がっていった曲ですね。(歌詞の一人称に「僕」を使うことは)多いかもしれないです。すごく考えているわけじゃないんですけど、無心になっているときのほうが「僕」って出てきやすいですね。「僕」のほうがある意味客観性が出る気がします。「私」だと感情移入しすぎて泣いちゃうかもしれないです。

水野 この曲、7、8年前にできた曲ですけど、当時はあまりに吉岡自身に近すぎちゃって。かといって距離をとりすぎると空々しくなっちゃうし難しいんですけどね。

吉岡 歌詞も大変だった。リーダー(水野)にアドバイスもらって。

水野 普段はお互いの歌詞に干渉しないでやってたんですけど、たまたま現場に居合わせて。口を出し始めたら自分の曲みたいに思えてきちゃったんですよね。緊張感ある感じでやったよね。

吉岡 うん。

水野 すごくいい曲だなって思ってたんですよ。スタッフ含めた選曲会でもこの曲は必ず入れるべきだってみんなが思っていて。それで普段は踏み込まないんですけど、踏み込んで意見を言ったんですね。でも吉岡は初めてそれを拒絶したんですよ。僕が言った案に対して「私はこうしたい」って言って。それがすごく大きくて。これまでは僕らが言ったことに対して一緒にやろうっていう感じだったんですけど、吉岡が意見を言ったっていうのが僕的にも事件だったし、僕もいい刺激になったし、この曲のレコーディングは大きかったと思いますね。

吉岡 (自分の意見を通したのは)「街のあかりがまた灯る」っていうところかな。いろいろな人が意見をくれる中で、当たり前なんですけど(自分で)選んで作らなきゃいけなくて。だから改めて何曲も作っている2人はすごいって思いますし、この曲に対しては「できてよかったな、ありがとうございます」っていう感じですね。

13. 風が吹いている(作詞・作曲:水野良樹 / 編曲:亀田誠治)

「風が吹いている」ジャケット

水野 (この曲については)まだ整理できてないですね。「フルスイングで書きました」って大げさに言っちゃったし、実際そうなんですけど、それでも越えられなかったなっていう部分を感じていたりもするんですよね。NHKのオリンピックの放送テーマソングとして書かせていただいて、オリンピックに寄り添う感じで届けられたって思っているんですけど、それ以上はいかなかったというか。作り手としていろいろなことを教えてくれた曲ですね。作ってたときは絶叫しながら歌ってましたから。そのとき作業部屋にしていたところが代々木公園の近くにあったんですけど、放心状態で代々木公園に行ってボーッと歩きながら曲を反芻してたらNHKが見えてきて、「ここで曲が流れるのかな」って思ったり。

山下 レコーディングして発表しちゃったら僕らができることって見守ることしかできないんですよ。でもこの曲はオリンピックっていう部分で自分たちの手の離れたところで広がって社会現象に結びついていったなって客観的に見て思いましたね。ありがたい育ち方をしてくれたなって。

吉岡 これからも大きな曲として大事に歌っていきたいですね。

水野 あの瞬間だから作れたっていうのはあって、もう作れないですね(笑)。そのときしかつくれないものってあるじゃないですか。当時は29歳かな。30歳になる直前で、20代のチャンスだって思いながら作ってました。

14. ぬくもり(作詞・作曲:山下穂尊 / 編曲:島田昌典)

山下 2009年にワンコーラスはあったんですね。いい曲だしどこかで出せたらと思っていたんですけど、2コーラス目を書いていったときに上京の物語を書いてみようかなと思って。地方から都会に出てきてがんばってる人のストーリーを組み立ててみようと思って書きました。アルバムを締めてくれる曲になったかなと思いますね。

水野 「風が吹いている」がラストっていう案もあったんですけど、大げさな曲なので背負うものが大きすぎちゃうんですよね。それが「ぬくもり」が最後にあることでアルバムが締まるというか、「風が吹いている」がスッと曲としてアルバムに入るなって感じられるのでよかったなと思いますね。

山下 ホッとしてくれるかなと思います。

水野 (楽曲が)個人の物語とリンクできるっていうのが本当に自分たちが望んでいることなので。アルバムの歌詞カードの中に小さく「LOG IN」って書いてあるんですけど、いきものがかりの曲が皆さんの中にログインできれば、それが僕らにとって本当にうれしいことですね。

ニューアルバム「I」 / 2013年7月24日発売 / EPICレコードジャパン
「I」ジャケット
初回限定盤[CD+DVD] / 3500円 / ESCL-4089~90
通常盤[CD] / 3059円 / ESCL-4091
CD収録曲
  1. 笑顔
  2. 1 2 3 ~恋がはじまる~
  3. ぱぱぱ~や
  4. 恋跡(コイアト)
  5. ハルウタ
  6. マイサンシャインストーリー
  7. なんで
  8. あしたのそら
  9. 風乞うて花揺れる
  10. MONSTAR
  11. 恋愛小説
  12. 東京
  13. 風が吹いている
  14. ぬくもり
初回限定盤DVD収録内容
  • イッキーモンキーのiラジオ
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いきものがかり

吉岡聖恵(Vo)、水野良樹(G)、山下穂尊(G, Harmonica)の3人組ユニット。1999年結成。当初は地元・神奈川での路上ライブを中心に活動し、2003年にインディーズで初CDをリリース。2006年に発売したメジャー1stシングル「SAKURA」がスマッシュヒットを記録し全国区の人気を獲得する。2007年3月には1stフルアルバム「桜咲く街物語」を発表。切なくて温かい等身大のポップチューンが老若男女問わず幅広い層から強い支持を集めている。2010年には初のベストアルバム「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」をリリースし、ミリオンセラーを記録した。同年秋からは初の全国アリーナツアーを敢行。こちらも大成功に収め、ライブバンドとしても大きな成長を遂げる。2012年にはNHKロンドンオリンピック放送のテーマソング「風が吹いている」でグループ史上最長となる7分40秒の大作に挑戦。同年12月にはバラードベストアルバム「バラー丼」をリリースした。2013年7月に6thアルバム「I」を発表。