ナタリー PowerPush - いきものがかり
国民的ポップグループ絶好調! ついに到達した「ハジマリノウタ」
いきものがかりが待望の4thアルバム「ハジマリノウタ」を12月23日にリリースする。このアルバムには「ふたり」「ホタルノヒカリ」「YELL」「じょいふる」「なくもんか」といったヒットシングルを含む全13曲を収録。持ち味であるポップセンスはそのままに、壮大なスケール感さえ感じさせる粒ぞろいの名曲が並べられている。
このニューアルバム発売を記念して、ナタリーでは吉岡聖恵(Vo)、水野良樹(G,リーダー)、山下穂尊(G,ハーモニカ)の3人にインタビューを敢行。大きな進化を遂げたその音楽性の秘密を深く掘り下げてみた。
取材・文/大山卓也
このアルバムで“いきものがかりのイメージ”から抜け出せた
──今回のアルバムは「ハジマリノウタ」というタイトルですが、この作品がいきものがかりにとっての新たなスタートだという意識はあったんでしょうか?
水野 そうですね。確かにアルバム3枚作り終えて「これからどうしよう?」っていう感じは3人の中にあったんです。今後どういう表現をしていくか、自分たちのカードをどう切っていくかを考えなきゃと思ってて。で、どんなアルバムを作ればいいかって考えて、結局「いい曲を入れよう」ってことになりました。
──それ、すごく普通の結論ですね(笑)。
水野 はい(笑)、でも今まではやっぱりどこかで“いきものがかりのイメージ”を意識してたところがあったんですよね。「いきものがかりというバンドをこういうふうに捉えてほしい」みたいな思いは、1stの頃が多分一番強かったと思う。で、2ndは1stのカウンター的な存在で。それを総決算するのが3rdだったっていう感じなんです。で、4枚目でそこを抜け出した。だから今回は強いコンセプトを持って曲を選んだわけではないです。むしろコンセプトから離れて「ただいい曲を選ぼう」って、それだけを考えてました。
──確かに今までのいきものがかりは、親しみやすさやわかりやすさを意識して打ち出していた面があったように思います。でも、今回はそこから自由になった分、楽曲の本質が強く見える作品になりましたよね。
山下 インディーズ時代、路上でやってたあの頃に戻った感じがちょっとしてるんです。アルバムの1曲目がバラードから始まるのも、路上時代の僕らが基本的にバラードで人を立ち止まらせるグループだったっていうところにつながってて。
水野 1周してきた感じですよね。デビューの頃、聴いてくれる人がどんどん増えていったときに、よりわかりやすくいきものがかりを知ってもらうためにどうすればいいだろうって、そういう考えがやっぱりどこかにあったんですよね。今はそういう経験を経て1周して戻ってきて、以前のアルバムみたいなはっきりとしたわかりやすさだけじゃない、内面の感情や自分の純粋な部分も出せるようになった。しかも経験を積んだ分、ちゃんとポップにバランスよく伝えられるようになった気がしてるんです。
自分の内面にある感情はすごくポップなんじゃないか
──ジャケットなどのビジュアルも象徴的ですが、これまでの親しみやすいイメージに加え、楽曲からはこれまで以上のスケール感や王道感のようなものも出ているように感じます。そのあたりは意図しているところなんでしょうか?
水野 うーん、王道を目指してるって意識はないですけど。やっぱり、聴き手がこういうの聴きたいだろうなって思うものがそこにあると信じてるからそういう曲を書くんだと思うんですよね。「自分はこういう曲が聴きたいし、みんなも絶対こういうの好きだろうな」っていう確信が、インディーズ時代から自分なりにずっとあったんです。いつもその確信に従って曲を書いてた。で、それが今、より純粋に表現できるようになってきたってことなんだと思います。
──その姿勢は今回のアルバムでも変わっていない?
水野 そうですね。ただ「ハジマリノウタ」だったり「なくもんか」だったり、今回のアルバムのいくつかの曲では自分達の素の感情が出てきちゃってるとは思う。今まで自分達は客観的に曲を捉えて、曲との距離を取って作ってたつもりだったんですけど、今回のアルバムでは自分の内面を吐露するような部分が出てきてしまってるんですよね。
──それは自分的には失敗ですか?
水野 いや、それも「実はこういうの多分みんなも思ってんじゃないかな」って確信があるから出せてるんですよね。今自分の中にあるこの感情って実はすごくポップなんじゃないか、みんなに共有してもらえるんじゃないかって思えるから。
私が歌う理由はそれだけなんです
──吉岡さんは、今回のアルバムは歌い手としてどうでした?
吉岡 面白かったですよ。さっきリーダー(水野)が「自分の感情を吐露する曲が出てきた」って言ってましたけど、確かに「なくもんか」にしても「YELL」にしても、すごく作ってる人の気持ちが出てきてるって、私は特にこのアルバムではそう感じてて。多分曲を作る2人は「自分達が作って女の子が歌う」っていうことをずっと意識してきたと思うし、で、やっぱりどこか自分を他に置かなきゃいけないっていうことはずっと考えてきたと思うんです。だから今回、自分の気持ちをモロに曲に出してきて、それがいきものがかりとして成立するのかっていうのはちょっと不安だったんですよね。でも実際に歌ってみたら、意外とそういう曲が歌いやすくて。そういう作り手の感情を出した曲に、もしかしたら新しいいきものがかりのヒントがあるのかもしれないって感じがしてます。
──これまでのいきものがかりの曲というのは、作り手の個人的な思いを歌うのではなく、ある種の普遍性を持った物語を提示して、それを吉岡さんが歌うことによって聴く人みんなが主人公になれるという、その構造が大きな特徴だったと思うんです。でも今回例えば「なくもんか」という曲には水野良樹という1人の男の感情が詰まっていたりするわけで。吉岡さんはそういう曲を歌うことに違和感はないですか?
吉岡 確かによっちゃん(水野)が初めて「なくもんか」を持ってきたときは、やっぱりすごく「よっちゃんだな」って思ったし、本人も周りもそれは感じてたと思うんですけど。ただ曲を聴いたとき、周りにいたスタッフが「あ、いい曲じゃん」って言って。もう私にとってそれが歌う理由になるんですよね。私はやっぱりいい曲を生かせる人でありたいから。ほんと、私が歌う理由はそれだけなんです。
──歌の世界にはすぐに入り込めました?
吉岡 歌ってみたら決して自分と離れてなかったんですよね。もちろん自分の気持ちに近いから歌えるとか遠いから歌えないとか、そういうことでもないんですけど。
──じゃあ歌っているときに水野さんの思いを自分が代弁しているとは思わない?
吉岡 思わないですね。そう言われると確かに不思議なんですけど。歌詞を読んだときと自分が歌ったときではやっぱり違うんです。歌うことによって自分の中で変換されていくっていうか、自分のものになるっていうか。で、その上で自分としては、どの曲を歌うときでも3人の曲、いきものがかりの曲だって感じてもらいたいんです。
──“吉岡聖恵の歌”ではなく“いきものがかりの歌”として?
吉岡 そうですね、うん。
CD収録曲
- ハジマリノウタ ~遠い空澄んで~
- 夢見台
- じょいふる
- YELL
- なくもんか
- 真昼の月
- ホタルノヒカリ
- 秋桜(コスモス)
- ふたり -Album version-
- てのひらの音
- How to make it
- 未来惑星
- 明日へ向かう帰り道
初回盤DVD収録内容
- 気まぐれロマンティック
- うるわしきひと
- ブルーバード
- 心の花を咲かせよう
- 帰りたくなったよ
「いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2009~My song Your song」ファイナル公演から5曲収録
いきものがかり
1999年結成。当初は地元・神奈川での路上ライブを中心に活動し、2003年にインディーズで初CDをリリース。2006年に発売したメジャー1stシングル「SAKURA」がスマッシュヒットを記録し全国区の人気を獲得する。2007年3月には1stフルアルバム「桜咲く街物語」を発表。切なくて温かい等身大のポップチューンが老若男女問わず幅広い層から強い支持を集めている。2008、2009年の大晦日には「NHK紅白歌合戦」に連続出場。バンド名は、メンバーの水野と山下が小学1年生のときに「生き物係」だったことから。