音楽ナタリー Power Push - いい音で音楽を

report 田島貴男(ORIGINAL LOVE)meets ネットワークプレーヤー

音楽活動30年を超えてもなお貪欲にオリジナリティを追求し、新作リリースとライブ活動を重ねているORIGINAL LOVEの田島貴男。2011年発表のアルバム「白熱」では楽曲制作のみならず、ミックスからマスタリングまで自ら手がけるなど、飽くなき探究心とバイタリティで幅広いファンを魅了し続けている。

さまざまなアーティストが注目のオーディオ機器をチェックするこの企画。田島には、CD、ハイレゾ音源、インターネットラジオ、パソコンやスマートフォンの音楽コンテンツなどを1台に集約して楽しめるPIONEERのネットワークプレーヤーX-HM76(S)の実力を試してもらった。

取材 / 臼杵成晃 文 / 大橋千夏 撮影 / 佐藤類

PIONEER X-HM76(S)

PIONEER X-HM76(S)

MP3でバッチリいい音

──まずは田島さんのiPhoneを使って試聴していただきます。

……おお。へえー、MP3って感じがしない! 定位がよくわかるし、バッチリいい音ですね。

──ビル・エヴァンスやジム・ホールを選曲されていますが、普段聴くジャンルはジャズが多いんですか?

オーディオの音の出を確かめるには昔のジャズが一番いいと思うんです。なぜなら録音の状態がいいからね。今のレコーディングってマイクを何本も立てて各パートを録音して、それをミックスしていくって作業でしょう? でもマイクが多くなればなるほど音の波形の位相が重複してずれていくから、どうしても音像がぼやけた印象になり、ミックスという人の手が加わることによって、生々しさが損なわれてしまうんです。

ジャズの臨場感にテンションが上がる田島貴男。

ジャズの臨場感にテンションが上がる田島貴男。

──なるほど。

1940~50年代のジャズとかって、ビッグバンドの録音も超高性能な真空管マイク1、2本で録ってたりするんですよ。マイクが少ないとミックスも最小限だから、より生に近い音になる。1965年録音のオーネット・コールマンの「At the Golden Circle, Stockholm」、これは最高ですよ。岩手の一ノ関にある「ベイシー」という有名なジャズ喫茶で、このアルバムを大音量で聴いたときはブッ飛んだなあ。まるですぐそこでライブをやってるみたいで。でも、このシステムもすごくいいですね、MP3でこの臨場感だもん。ちなみにピチカート・ファイヴもORIGINAL LOVEも、このオーネットのジャケットを真似してます(笑)。もうちょっとほかの曲も聴いてみていいですか?

──もちろんです。

ディアンジェロの「Voodoo」は録音もミックスもマスタリングまで異常にクオリティが高いんです。(ディアンジェロ「Voodoo」を再生して)……うん、ヤバい! 注目すべきは、多重コーラスの定位です。1つひとつが微妙な位置に振り分けられている。最高ですね。臨場感っていうのかな。音の分離がいいから、どこにサックス奏者がいてどこにドラマーがいて……という各楽器の位置関係や音の奥行き感がはっきりとわかりますね。このシステムで聴いていると、生で聴く音量に近付けたくてどんどんボリュームを上げていっちゃう(笑)。

オーディオに求めるのは「快楽」

──田島さんは普段、車の中で音楽を聴くことが多いんですよね。

うん。普段はここまでいいシステムでは聴いてなくて。自分のCDをチェックするのも車だし、カーオーディオで聴くことが多いですね。以前、いわゆるオーディオマニアの人が作った超高性能のカーオーディオを試したらすごくよくて、思わず「全部交換しようかな」と考えたこともあったんですけどね。でも、音源をチェックするときは普通の人が使うオーディオで聴くほうがいいんじゃないかと思って、結局換えなかったんです。

田島貴男(ORIGINAL LOVE)

田島貴男(ORIGINAL LOVE)

──そうなんですね。では、田島さんがオーディオに求めることとは?

それはもう、快楽ですよ(笑)。クラブでみんなを踊らせるためだけなら、それなりに音圧を重視したパワフルなオーディオで聴けばいいと思うけどね。でも「うわー、生々しい!」みたいな、ある意味オタク的な聴き方ができるのが、こういったフラットな音を追及した高性能なものですよね。最近のミックスやマスタリングは、とにかくコンプレッサーで音圧を上げていくやり方が多いけど、そういう音楽はこのオーディオで聴くにはもったいない気がするなあ。

──オーディオによって聴きたい曲が変わってくるということですか?

変わりますね! いいオーディオを持ったら音楽の趣味だって変わるんじゃないかな。ロックでも録音状態のいいロックを聴きたいと思うし、ジャズならやっぱり1940~60年代くらいのものを聴きたくなるでしょうね。例えば、1979年のPublic Image Limitedの「Metal Box」なんかも、意外とこのシステムで聴いたら最高だと思うな。ジョン・ライドンも実はかなりのオーディオマニアだから。

制作者に問われる「いい音」に対する意識

──ハイレゾ音源のチェックもしてもらいたくて、ORIGINAL LOVEの楽曲を用意してみました。2ndアルバム「結晶」(1992年5月発売)から、1曲目の「心理学」を。

うわ! 恥ずかしいなあ(笑)。なるほど、こう聴こえるのか……ナチュラルでフラットな音を聴かせるオーディオシステムだから、各楽器の原音とそのリバーブの減衰音まで聞こえてきますね。よく聞こえるということは、逆に言うと粗もよく見えてくるし、正直自分の曲はあんまり聴く気になれないな(笑)。

田島貴男(ORIGINAL LOVE)

田島貴男(ORIGINAL LOVE)

──ORIGINAL LOVEは近作のみならず過去の作品も多数ハイレゾ化されていますが、田島さん自身はハイレゾ音源についてどうお考えですか?

ハイレゾが一般化してアウトプットの質がよくなったことで、制作側に「いい音で聴いてもらいたい」という意識があるかないか、音源を聴けば一発でわかる時代になったと思います。ハードがいくら高性能でも、それを生かせる音作りがされていないと意味がないですからね。ハイレゾのよさって音楽の生々しさが伝わってくるところだと思うけど、このオーディオならそういう楽しみ方をしっかり味わえるんじゃないかな。

プロフィール

田島貴男(ORIGINAL LOVE)

ソウルフルな歌声と柔軟に変化するユニークな音楽性で唯一無二の個性を発揮するアーティスト。1980年代、“ネオGS”ムーブメントの渦中に結成されたバンド、レッド・カーテンがのちのORIGINAL LOVEとなる。1988年にはピチカート・ファイヴに2代目ボーカリストとして加入。3枚のアルバムを残してピチカートを脱退したあとはORIGINAL LOVEの活動に専念し、1991年にメジャーデビューを果たす。1993年にはシングル「接吻 kiss」が大ヒットを記録した。その後はさらに音楽性の幅を広げ、現在までに17枚のオリジナルアルバムと26枚のシングルを世に送り出している。音楽に対するストイックな姿勢とは裏腹に、ライブ中のMCやTwitterの発言ではお茶目な一面も。

ORIGINAL LOVE「ゴールデンタイム」
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2016年12月21日更新