アマダシンスケ(Vo, B / FOMARE)がメロディックパンクシーンの先輩であるKo-hey(G / NAMBA69)とShunichi Asanuma(Dr / COUNTRY YARD)とともに新バンド・IFを結成。メジャー1st EP「In forward」を8月24日にリリースした。
アマダが自身の音楽ルーツであるメロディックパンクを表現するため結成したIF。バンド名には“無限の可能性を持つ”という意味が込められている。IF初のCD作品「In forward」には作詞をアマダ、作曲をKo-heyが担当した、メロコア色の強い5曲が収録されている。
音楽ナタリーでは本作のリリースを記念して、メンバー全員にインタビュー。IF結成の経緯やメンバーそれぞれの音楽ルーツ、メジャー1st EPの制作エピソードなどを聞いた。
取材・文 / 小林千絵
バンドが違えば自然と変わるもの
──IFはアマダさんが、Ko-heyさんとAsanumaさんとともに結成したバンドということですが、アマダさんはいつから新バンドを作ろうと思っていたのでしょうか?
アマダシンスケ(Vo, B / FOMARE) 具体的に考え始めたのは2018年くらい。僕のもともとのルーツにメロディックパンクがあるので、small indies table(FOMAREの所属事務所)の鈴木(健太郎)さんに、「FOMAREで英語詞の曲を書いてみたい」と相談したんです。そしたら「FOMAREは日本語で歌うところによさがあるから、それは守ったまま、別のプロジェクトでメロディックパンクが好きだという面を見せたらいいんじゃないか」と言ってくれて。そこから鈴木さんが、Ko-heyさんとShunちゃん(Shunichi Asanuma)を紹介してくれたのがIFの始まりです。
──お二人はこの話を聞いたときはいかがでした?
Shunichi Asanuma(Dr / COUNTRY YARD) 単純にうれしかったですね。こんな老骨を使ってもらえるなんて、って。
Ko-hey(G / NAMBA69) 老骨! 老いた骨と書いて“老骨”ね(笑)。
Asanuma そう(笑)。若手でも上手に叩ける人はたくさんいるのに、その中から、新しく始めるバンドのメンバーとして選んでもらえたのはすごくうれしかったです。好きな音楽のルーツが似ているからこそだったんでしょうけど。
──アマダさんとルーツが近いというのは知っていましたか?
Asanuma 全然! そもそも、このバンドが始まるまではシンスケと接点が全然なくて。ルーツが一緒と知って、かなり親しくなりましたね。「そんなに好きだったんだ! 俺より詳しいじゃん!」って。
Ko-hey それは俺も意外でした。俺もシンスケとは、すれ違ったときに挨拶するくらいの関係性で。「俺とShunちゃんを誘うなんてKTR(鈴木)いいセンスしてんな~」と思いました(笑)。それこそさっきShunちゃんも言っていたように、シンスケと同世代で勢いのあるバンドやがんばっているバンドを知ってるからこそ、世代をクロスオーバーさせるというところが面白いなと。
──アマダさんはKo-heyさん、Asanumaさんに対してはどのようなイメージでしたか?
Ko-hey それ聞きたい!
アマダ それまではあまり話をしたことはなかったけど、2バンドともJMSの先輩だったので、遠いという感じはなくて、お兄ちゃんみたいな感覚でしたね。このプロジェクトが動き始めた当時は、どんな人か知るところから始めました。
Ko-hey 最初はスタジオに入るんじゃなくて、メシに行ったんですよ。親睦会というか。そこでシンスケが「The Starting Lineがヤバいっす!」とか言うのを聞いて、それぞれの好きなものをインプットしていった感じ。あとはその場でシンスケにどこまで高い声が出るかを聞いて、俺がデモを作って、IFがちゃんと動き始めました。
──作曲はKo-heyさんが担当されていますが、NAMBA69で生まれてくる曲とは違うものが出てくるのでしょうか?
Ko-hey 曲を作っている人はみんなそうだと思うんですが、そのメンバーでステージに立って演奏している姿を想像しながら作るので、バンドが違えば自然と出てくるものは変わってきます。例えば、同じサビの展開があったとしても、「難波(章浩 / Hi-STANDARD、NAMBA69)さんはこういう流れでサビに行きたいだろうな」と考えるし、IFの場合は、シンスケのルーツが難波さんのルーツとはちょっと違って2000年のポップパンクなので、「もうちょっとストレートなほうがいいかな」と考える。結局、俺の気質がバンドマンなんでしょうね。一緒にやる人をイメージしながら作っています。
英語詞の壁を乗り越えられた
──今、ルーツのお話が出ましたが、改めて皆さんの音楽的なルーツを教えてもらえますか?
アマダ もともとバンドを好きになったきっかけはMONGOL800ですが、そのあと、高校生くらいのときに洋楽に出会いました。それが2000年代初期のポップパンク。New Found Gloryだったり、Blink-182だったり。FOMAREでもサウンド面ではそのルーツをなるべく残しています。でも、鈴木さんにも言われたように、FOMAREでは日本語ロックの形ができあがってるし、そのよさがあるのもわかっていたので、そこも大切にしつつ。あとFOMAREで日本語詞を歌っているのには、自分の中で、英語詞に対して壁を感じていたということも大きくて。
──IFではその壁が取っ払えた?
アマダ はい。Ken(2014年に解散したAfter Tonightのボーカリスト・Ken Yamamoto)さんに音楽に乗せやすい英語詞の書き方や、発音の仕方を教えてもらえたことで、乗り越えられました。自分だけで英語詞を書いてみても、歌詞に適した英語にはならなかったんですよね。
──AsanumaさんとKo-heyさんの音楽的なルーツはどのようなものなのでしょうか?
Asanuma 最初に衝撃を受けた音楽は、THE ALFEEです。「夜のヒットスタジオ」(1968年11月から1990年10月までフジテレビ系列で放送された音楽番組)で……って、世代出ちゃってすみません!(笑) 小学生のときに番組を観ていたらTHE ALFEEが出てきて、桜井(賢)さんのベースの音がすげーカッコよかったんです。母親に「このブンブン言ってるの何?」と聞いてベースの存在を知って。そこから音楽に興味を持ち始めました。で、高校生くらいのときに、住んでいる町の市民会館にTHE BLUE HEARTSがライブをしに来たんですよ。そのライブで、今度はドラムの音に感動して。そこからCOBRA、LAUGHIN' NOSEなどの日本のパンクを聴くようになって。そのあとに、幼馴染のお兄ちゃんにNOFXを教えてもらいました。初めて聴いたときに「この速いやつ、何!?」「1人で叩けるの!?」と感動して、そこからはずっとNOFXだけを聴いていました。
Ko-hey 俺の小中学生時代はL'Arc-en-Ciel、GLAY、LUNA SEAが周りで流行っていて、僕も聴いていました。同時に、ボスである難波さんがいるHi-STANDARDをはじめとするストリートカルチャー、パンクカルチャーも出てきていたんですけど、当時はまったく知らなくて。俺は俺なりにラルクやGLAYを聴いて激しい音楽を好きになっていって、高校に上がる頃にメタルとジャパコアにハマるんです。高校で最初に仲よくなったやつが、COCOBAT信者だったんですよ。そいつとの出会いがわりとデカくて。そいつに誘われて、2000年には「AIR JAM 2000」も行ったんですけど、当時はHi-STANDARDを知らなくて。鉄アレイとCOCOBAT目当てで行ったので、「混むから帰ろう」と言ってHi-STANDARDの途中で帰ってしまったんです(笑)。だからポップパンクというものにちゃんと触れたのは最近で。難波さんとパンクの話もするんですけど、最初に盛り上がったのはThe Damnedだったし。ニューファンもブリンクも、ノーエフもBad ReligionもDescendentsも全部後追い。ボーカルが叫んでいる曲が好きだったので、スクリーモというジャンルが生まれたときは、めちゃくちゃハマりましたね。
Asanuma 俺は逆にそのあたり苦手だったんだよなあ。ツービートじゃないと音楽じゃないと思ってたから(笑)。でもそういうの、あるでしょ? 叫んでないと音楽じゃないみたいな。
Ko-hey あるある。だからこそ、難波さんとの出会いは大きくて。難波さんに当時の話を聞いたり、「パンクは凶暴性もあるけど、すべてを包み込む優しさも持っていないといけない」という話を聞いたりして、パンクに対しての見方が変わりました。それを聞いてから観るNOFXはめちゃくちゃカッコよかった。
──「ボーカルは叫んでいてほしい」と思っていた方が、FOMAREのような歌をしっかり聞かせるバンドのボーカリストと一緒にバンドを組むことになるとは。
Ko-hey 不思議ですよね。でもメロディックハードコアやポップパンクをあんまり通ってこなかったのに、なぜかそういう曲を作るのが得意なんですよね。そういう意味では、面白いケミストリーが自分の中でも起こっているし、IFというバンドの中でも起こっているなと思います。
僕自身がIFのファンです
──先ほど、NAMBA69とIFはメンバーが違うからこそソングライターとして全然違うものになるということをKo-heyさんが話してくださいましたが、アマダさんとAsanumaさんはそれぞれFOMARE、COUNTRY YARDとIFにどのような違いを感じますか?
アマダ FOMAREとIFはサウンドも歌詞の言語も違うし、メロディのニュアンスも違う。3人の中で一番、普段やっているバンドとの違いを感じているんじゃないかなと思います。FOMAREは自分で作詞作曲していることもあって、聴きながらいろいろなことを考えてしまうのですが、IFは客観視できるというか。何も考えずに「カッコいい曲ができた」と思いながら聴ける。僕自身がIFのファンです。歌い方も今までになかったことに挑戦したので、今後FOMAREの曲にも落とし込んでいきたいなとも思っています。
Asanuma COUNTRY YARDとは、曲作りの方法が違いますね。COUNTRY YARDはSit(Keisaku “Sit” Matsu-ura[B, Vo])がアコースティックで作ったものをもとに、みんなでスタジオに入って詰めていくというやり方ですが、IFはKo-heyが打ち込みでデモを作るので、その時点でもうドラムも入っているんですよ。しかもカッコいいのが。そこには自分の中にはないフレーズもちりばめられているので、そのまま生かすか、変えるならどんなふうに変えるかを考える。その作業がドラマーとしてすごく面白いですね。こんな老骨が、いまだに刺激をもらえるのがありがたいし楽しいです。しかもKo-heyはドラムが好きだから、ドラムのフレーズもたくさん知っていて。
Ko-hey そうだね。俺、ドラムにうるさいよね(笑)。
Asanuma 自分にはなかった発想も多いので新鮮です。
Ko-hey DTMが発達していて申し訳ないですよ、打ち込んだらそれ通りに作れちゃうから。シンスケには「キー高いです」って、Shunちゃんには「これ手足が足りないよ」って言われます(笑)。でもそれはあくまでも俺のアイデアだから、あとは好きによろしくという気持ちです。バンドメンバーでスタジオに入って曲を作っているときって、「ここはどうしよう」と言いながら謎の時間が過ぎ去るだけみたいなことがわりとあるんですよね。あの何も生み出せない時間がつらいのを知っているので、IFでは「これ通りにやればとりあえず100にはなりますよ」というものを提示して、好きに変えてもらうほうがいいかなと思った。とにかく各々楽しくやれることが最優先だなと思って。
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ギリギリのキーを攻めた「still in me」