音楽ナタリー Power Push - 家入レオ

10代の葛藤を超えてたどり着いた“2度目の1stアルバム”

「WE」は“2度目の1stアルバム”

──実は2月のライブの感想がもう1つあって。ちょっと意地悪な見方かもしれないけれど、あのライブを観たときに、「今家入レオがやりたいライブの理想形が、既存曲だけではもう表現しきれなくなっているんじゃないか?」とも思ったんですよ。もっと抜けのいい曲や観客とシンガロングできる曲が、お客さんにとってというよりも、何より家入さん自身が必要としているんじゃないか?と思えた。なぜならステージにおけるパフォーマンスがこの上なく頼もしかったので、10代の葛藤を描いた曲だけでは、もはやそのパフォーマンスを十二分に発揮できない時期に差しかかっているのでは?と思えたんです。

家入レオ

ああ、もうねえ、全部その通りです。はい(笑)。

──だから「WE」を聴いたらすごく腑に落ちたんです。で、あのライブがこれに向かっている最中だったのだとしたら、自分の感想は当たっていた反面、早計だったかなあとも思えて。

いえいえ、本当に今言ってくださったことがすべてですね。これまで自分が見たい景色を見るために音楽をやってきた一方で、メジャーだからこそ結果だってちゃんと出さなくちゃいけないという義務感のようなものも少なからず感じていて。だからどうしても理想的な場所に1分でも1秒でも早くたどり着くことこそが大事だと思ってやってきたんですね。

──うんうん。

でも、いろいろ悩んでみて、さっきのパンケーキじゃないけれど、イメージが固定されがちだった時期を越えてみたら、まず何よりも私自身が無理なく自分のいろんな面を表現できて、その上で、いつかスタッフさんやファンの皆さんとみんなでそろってそういう場所にたどり着くことができたほうが気持ちいいなあと思えてきて。それでアルバムのタイトルも「WE」にしたんです。わかりやすく「みんなからエッセンスをもらった1枚です」であり、「みんなと進むための1枚です」と言えるタイトルにしたかったから。つまり自分の中でこのアルバムは、東京に来てからの1stアルバムというか、“2度目の1stアルバム”みたいな意識が強いんです。

──実際、聴いてみてそう思いますよ。だからこれまでの曲があってこのアルバムの曲があると、家入レオはもうこの先どんな方向にでも進める気がする。そうした意味でも、すごく重要な1枚だと思うし、リリースを迎える今以上に、これから家入さんがキャリアを重ねていった3年後、5年後にこそ、このアルバムの意味合いというか重要性がじわっと効いてくるのでは?とも思います。

そう言っていただけると本当にうれしいし、そうなるといいなあと思います。今回は今まで以上にどの楽器を使うかもこだわったし「ああしてほしい」「こうしてほしい」という発注も今まで以上に細かいところまで口を出させてもらいましたから。「私が行く先への舵を切るのは私自身なんだ」と、気合いを入れ直すことができた1枚でもあるので。

The fin.のライブにショックを受けた

──ちなみに多保さんとの共作曲は基本的に作詞が家入さんで、作編曲が多保さんで、曲によっては作詞にも多保さんがクレジットされているようですが、制作はどのようなキャッチボールで?

曲によってまちまちですね。でも最初は多保さんからデモを作ってくれていました。「Brand New Tomorrow」とか、実はデモを聴かせてもらった当初は全然ピンとこなくて(笑)。

──え、これすごくいいですよ。ではここからほかの曲についても聞いていきますが、この「Brand New Tomorrow」は、多保さんとの相性のよさとお二人の持ち味のバランスが光る楽曲だと思うんですよ。

家入レオ

できあがってみたらそうなりましたね(笑)。私、さっきもお話ししたように、東京に来てからインディーズのバンドをよく聴くようになったんですけど、The fin.のライブに行ったとき、すごくショックを受けて。自分と3、4歳しか違わないのに、こんなに完成されているのかと。で、翌日、多保さんにその落ち込んだ姿を見られてしまって。そのとき、多保さんから「スタイリッシュな音楽もカッコいいけれど、エッジの効いた音楽で多くの人に受け入れてもらうほうが実は難しい」と諭されたんです。私、J-POPの土俵で自分が活動することに、どこか照れくささというか、居心地の悪さのようなものを拭えないままここまで来てしまった気がしていたんです。まあ「21の小娘にそんなこと言われてもさあ」と思われちゃうかもしれないですけど。

──そんなことはないですけど(笑)。

でも、最近ようやく、これまでの自分を否定していたら何も始まらないと思えてきて。だから今回のアルバムの曲順も、前半の1曲目から3曲目までは大きいタイアップが付いているものをあえてバンバンバンと並べてみました。この「Brand New Tomorrow」には、そんな自分の吹っ切れた思いがよく表れていると思いますし、もっと言うと、これまでの家入レオを聴いてきてくださった方にも「変わっていない部分もあるんだな」と納得してもらえる曲だと思います。

10代は修行だった

──「恍惚」は最新シングル「僕たちの未来」から表れ始めた、セクシャルで大人っぽい魅力のある曲ですね。

今回、サカナクションのライブを観に行って感動したので、彼らの作品に参加しているエンジニアに参加してもらっているんですが、サカナクションをきっかけにドラムンベースに興味を持ちまして。「恍惚」はそこからできた曲です。すごくこだわった歌詞ですが、これまで以上にラフに書けましたね。中村文則さんとか、普段から読んでいる作家さんの影響もあったのかもしれない。

──この歌詞は、男女が互いに手を取り合うものの、いつかは楽園を去ることが前提に描かれています。得たものをいずれ失うことがわかっているという視点からも、大人っぽさというか、精神的な成長を感じます。

そこは20歳になって楽になったというのが大きいですね。17歳でデビューして、音楽活動だけで駆け抜けた10代について、後悔している部分もそれなりにあって。それも全部自分で望んだ道だったんですけど、当たり前のことをたくさん経験し損ねてきたというか、もっといろんな場所に行って、いろんな人の話を聞いて、いろんなことを経験すればよかったなあと思うんです。でも20代に入って、自分で自分のことに責任を取れるんだという自覚も生まれたので、そこから視野も世界も開けてきて、歌詞も自然と変わってきましたね。なんていうか……10代はホントに修行だったもん。

家入レオ

──10代は修行!

いやもう本当に(笑)。

──そうそう、そこも気になっていたんです。これまでのインタビューを読むと、家入さんは毎回もがき苦しみ、闘いながらアルバムを作ってきた。それは確かに伝わってくるんですが、家入さんにとっての最大の敵というか、フラストレーションの源になっている存在が、どうも僕にはイマイチつかめていなくて。それは強いて言えばなんだったんですか?

うーん……たぶんその正体が1つじゃなかったからこそ、今までうまく言葉で伝えてこられなかったんだと思います。「サブリナ」のイメージが崩れないようにと、服装とか門限とか、マネジメントが過保護になった時期も正直ありましたし、私もまだ10代だったから、そこで自分の言葉で抵抗できない拙さもあったし。デビューできただけでも恵まれていると自分で言い聞かせても、やっぱり生活の中で犠牲にしてしまってきたことが多すぎたんですよ。だから言いたいもん。このインタビューを読んでいる方の中にも、10代とか、今何かつらい環境で闘っている人たちがいっぱいいると思うんだけど「がんばろう? そこさえ切り抜けられたら、あとはマジ楽しいよ!?」って(笑)。

──そうかあ。でもデビューが早かった分、きっと人より多くのことを早めに経験してこられたんだから、それもきっとこれからの活動で役立つときが来るはずですよ。

そう思いますし、ここからはもうやりたいようにやっていきたいなと。「ほかの同世代の子たちが遊んでいた時期に、私、むっちゃ働いたもん!」って(笑)。

ニューアルバム「WE」2016年7月6日発売 / Victor Entertainment
初回限定盤 [CD+DVD] 3672円 / VIZL-986
通常盤 [CD] 3132円 / VICL-64588
CD収録曲
  1. 僕たちの未来
  2. Brand New Tomorrow
  3. 君がくれた夏
  4. 恍惚
  5. Party Girl
  6. I Wish
  7. we
  8. Hello To The World
  9. シティボーイなアイツ
  10. さよなら Summer Breeze
  11. そばにいて、ラジオ
  12. Every Single Day

-Bonus Track-

  1. オバケのなみだ
初回限定盤DVD収録内容
Live at Zepp DiverCity 2016.2.2 ~two colours~
  • サブリナ(Acoustic)
  • miss you
  • Still
  • Lady Mary
  • Last Stage
  • Silly
  • 君がくれた夏
  • 希望の地球
  • サブリナ
  • Hello To The World
Music Video
  • 「僕たちの未来」 Music Video -Another version-
  • 「Hello To The World」 Music Video -Another version-
ツアー情報
家入レオ 5th LIVE Tour 2016 ~WE|ME~
  • 2016年9月17日(土)埼玉県 三郷市文化会館 大ホール
  • 2016年9月21日(水)新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
  • 2016年9月24日(土)兵庫県 たつの市総合文化会館赤とんぼ文化ホール 大ホール
  • 2016年9月25日(日)広島県 JMSアステールプラザ
  • 2016年9月30日(金)北海道 幕別町百年記念ホール
  • 2016年10月1日(土)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
  • 2016年10月8日(土)宮城県 イズミティ21 大ホール
  • 2016年10月10日(月・祝)神奈川県 秦野市文化会館 大ホール
  • 2016年10月16日(日)千葉県 君津市民文化ホール
  • 2016年10月18日(火)長野県 駒ヶ根市文化会館
  • 2016年10月22日(土)島根県 出雲市民会館
  • 2016年10月29日(土)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2016年10月30日(日)静岡県 焼津文化会館 大ホール
  • 2016年11月3日(木・祝)和歌山県 紀南文化会館
  • 2016年11月4日(金)滋賀県 守山市民ホール
  • 2016年11月6日(日)大阪府 大阪国際会議場 メインホール
  • 2016年11月12日(土)岡山県 倉敷市芸文館
  • 2016年11月13日(日)山口県 周南市文化会館
  • 2016年11月19日(土)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
  • 2016年12月10日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
家入レオ(イエイリレオ)
家入レオ

1994年生まれ、福岡県出身の女性シンガーソングライター。幼い頃から音楽に親しみ、13歳のときに自ら音楽塾ヴォイス福岡校の門を叩き、同塾の主宰者である西尾芳彦に師事する。2012年2月にシングル「サブリナ」でメジャーデビューを果たし、同年「第54回 輝く!日本レコード大賞」で最優秀新人賞を受賞する。以降もコンスタントにリリースを重ね、2016年7月に4thアルバム「WE」を発表した。