ナタリー PowerPush - 家入レオ
こだわりを脱ぎ捨て、大人になる
家入レオが2ndアルバム「a boy」をリリースする。1stアルバム「LEO」から1年4カ月。先行シングル「Message」「君に届け」「太陽の女神」「チョコレート(Album ver.)」を含む全14曲入りの本作には、シンガーソングライターとしても、19歳の女性としても、確かな成長を遂げた彼女の姿が映し出されている。「大嫌いだった大人に自分がなろうと思った」というアルバムに込めたその思いを率直に語ってもらった。
取材・文 / 三宅正一(ONBU) 撮影 / 福本和洋
大嫌いだった大人になろう
──サウンド面でも前作以上に多彩なアプローチを見せながら家入レオの歌の可能性を力強く広げる、確かな成長を刻んだアルバムになりましたね。
ありがとうございます。この1枚を作れたことにとても幸せを感じてますし、私が今後、音楽活動をしていくうえでも重要な1枚になったと思います。
──そういうアルバムを作れた一番の要因はなんだと思いますか?
大嫌いだった大人に自分がなろうと思ったことですね。
──大人への一歩を踏み出すようなアルバムにしたかった?
いえ、アルバム自体は「こういうコンセプトで作ろう」というイメージはなくて。私はもともとリリースがあるから曲を作るという流れが好きじゃないんです。枠の中で曲を作りたくないんですよね。だから日頃から曲を作って、その中から今の私が歌うものにふさわしい曲を自分で選んで作品になっていくという感じなんです。ただ、このアルバムに入ってる曲たちは大人になろうと決意して選んだものではありますね。やっと大人になろうと決意した段階なので、100%ではないけど、そう思えたことが成長だと思っていて。別にこれから大人側に立って音楽をやっていこうという気はまったくないんです。どの世代に対しても同じ目線で痛みや喜びと向き合った歌を歌いたいという思いは変わらないから。ただ守りたいものができたら大人になろうと思ったという、すごくシンプルな思いがあって。そこに向かう覚悟がやっとできたなって。
──守りたいものというのは?
ライブ会場でステージの前にいる人の笑顔だったり涙だったり。その時間、空間、光景を守りたいと強く思ったんです。
ステージ前の光景に心が震えた
──前にインタビューしたとき(参照:家入レオ「LEO」インタビュー)にレオさんは「チャートの数字では結果が出るけど、どこまで自分の歌がリスナーに届いているか実感が湧いてない」と言っていて。今は実感が伴ってるということですか?
うん、そうですね。売り上げを気にしないアーティストなんていないと思うし、私も気にならないって言ったら嘘になるし、CDの売り上げ枚数が出たときに、果たしてリスナー1人ひとりの心に届いてるのかな?という疑問は今でもあるにはあるんです。ただそれが2回のワンマンツアーを通して自分の歌がちゃんと届いているんだなということを初めて手応えとして実感できて。不安がグッと減ったんですよね。今にして思えば、1stアルバムは大人への嫌悪感をつづった1枚で。たくさん駆け引きを繰り返していたんですよね。
──それは曲を作る上でも?
音楽以外でもそうですね。大人と向き合うことがすごく怖かったし、ちゃんと信じきれてなかった。自分が「助けて」って言うと、手を差し伸べてくれる人がいるのに、最終的に自分でその手を払いのけちゃうようなことがたくさんあって。
──そうしないと自分を保てなかったのかな?
そうだと思います。その葛藤をぶつけた1stアルバムができてちょっと気持ち的に落ち着いたと思ったら、1stツアーが始まって。人前に立つということは、光と影があって。スポットライトが当たるぶん、影は濃くなっていくんだなと思ったんですよね。自分の弱さをステージ上でさらけ出したときに、お客さんは受け入れてくれるんだろうか?という怖さもあって、最初はどこか目をつむるように歌っていたところがあったんですけど、恐る恐る目を開いたときに、ステージの前で笑顔になっていたり、涙を流してくれたりしてる人たちがいて。そこで生まれて初めてと言ってもいいくらい心が震えたんですよね。おこがましいですけど、この景色を守っていきたいなって。
1人の人間として伝えたい思い
──そこからソングライティングにも変化があったんですか?
ありましたね。ライブを意識した曲が増えました。前は無意識に自分の音楽の幅を決めていたと思うんですよ。ここからここまでを表現しなきゃいけない、とか。そういうところがなくなったのは大きくて。私は、50代の人と30代の人と10代の人の痛みに大中小ってないと思うんですね。
──そう思います。
だから「10代の苦しみなんてたかが知れてるでしょ」とか、そう言われることがすごくヤで。だって、10代の子は10代の世界しか知らない中でもがいていて。だからといって50代の痛みのほうが偉いということはなくて、どちらも痛みを背負ってる人間じゃないですか。私は本質的な痛みを音楽で描こうとしているのに「10代の子にそんなこと言われてもね」という視線をどこかで無言の圧力として受けて、それに屈していた気がしていて。でも1stアルバム以降、高校を卒業して大人になろうという決意をしたときに、そういうことを気にしなくなってすごく自由になれたんですよね。だからこの2ndアルバムには、曲も大人に向けてとか子供に向けてとかじゃなく、1人の人間として伝えたいという部分をより強く表現できたと思います。歌詞の一人称に「僕」が多いのもその表れだと思いますし。
──それはおそらくアルバムタイトルにもなっている「a boy」という曲ともつながってくる話ですよね。
そうですね。大人になろうと決意したときの自分の状態をどう表現したらいいか考えたときに、声変わりとリンクしたんですね。
──男性の変声期と。
そう。それがやってくるのは明日かもしれないし、2カ月後かもしれないし、1年後かもしれない。いつかそのときが来ることはわかっているけど、少年は声変わりのときを選べない中で生きていて。その横顔って覚悟や憂いが詰まっている気がして。そこに自分をリンクさせて書いたのが「a boy」で、アルバムタイトルにもふさわしいなと思ったんです。
- ニューアルバム「a boy」2014年2月19日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3570円 / VIZL-641
- 通常盤 [CD] 3045円 / VICL-64121
iTunes Storeにて配信中!
CD収録曲
- Lay it down
- 太陽の女神
- a boy
- Too many
- Message
- Time after Time
- チョコレート(Album ver.)
- Free
- イジワルな神様
- Kiss Me
- カーニバル
- 希望の地球
- Papa & Mama
- 君に届け
初回限定盤DVD収録内容
- 君に届け(Music Video)
- a boy(Music Video)
- SELECTIONS from 2ndワンマンTour~Kimi ni Todoke~」(Second Dream / 太陽の女神 / サブリナ / ミスター / Message / キミだけ)
特典映像
- 君に届け (Music Video マルチアングル)
家入レオ(いえいりれお)
1994年生まれ、福岡県出身の女性シンガーソングライター。幼少時代にピアノを習い始め、小学校時代は合唱部に所属するなど幼い頃から音楽に親しむ。13歳のときに自ら音楽塾ヴォイス福岡校の門を叩き、同塾の主宰者である西尾芳彦に師事する。圧倒的な存在感を放つ透明感あふれる歌声、強い意志を感じさせる詞世界が魅力。2012年2月にシングル「サブリナ」でメジャーデビューを果たし、同年10月に1stアルバム「LEO」を発表した。「第54回 輝く!日本レコード大賞」で最優秀新人賞を受賞する。2013年11月発売のシングル「太陽の女神」の表題曲はドラマ「海の上の診療所」主題歌に使用された。2014年1月にシングル「チョコレート」を、2月に2ndアルバム「a boy」を発表。