豊富だけどだいたい即興、H ZETT Mのライブパフォーマンス
──来年1月にはH ZETT Mさんにとって初となるオーケストラ編成のコンサート「新しいチカラ」が行われますが、ソロでのライブについてもぜひ触れさせてください。先日のコンサートにも伺ったのですが、H ZETT Mさんはピアノだけでなくシンセ、PCの打ち込み、ジュークボックス型のマシンなどを使って演奏しています。
あのジュークボックスはラジオですね。CDの再生機能も付いていますが、ライブではラジオだけ使っています。ソロだとその都度使用する機材を変えて演奏しているんですが、いつもジュークボックスは持ち込んでます。手動でチューニングして、受信した番組の音声をそのままライブで使っているんです。
──番組MCがこれからオンエアする曲を紹介した直後に止めたり、ほかの放送局の番組にどんどんつなげたりしていたので、あらかじめ編集しておいた音源を使っているのだと思っていました。
完全リアルタイムですね(笑)。サンプラーのビートも事前に用意していますが、どうやってライブ中に盛り込むかは即興で決めています。
──ほかには突然靴を脱いだり、演奏そっちのけで踊り出したり、ステージングの豊富さにも驚きます。H ZETTRIOでのライブ以上に動きますよね。
ソロもH ZETTRIOもパフォーマンスに対する意識は一緒ですが、1人のほうが遊んじゃうことが多いですね。演奏もパフォーマンスもその場のひらめきや偶然性、即興性みたいなものを大事にしています。
──どこまで用意していて、どこからが即興なのか境目がわからないライブでありつつ、あそこまでポップなものに仕上げられるのはすごいですね。
淡々と演奏しているだけで退屈な時間になってしまうのは避けたいので、刺激を入れたくなってしまいます。かと言ってメチャクチャな演奏ばかりでもお客さんが置いてけぼりになっちゃうので、演奏者側と観客側、どちらにとってもいいものを目指しています。
オーケストラが真面目に演奏している中、私だけ暴れる
──オーケストラ編成のコンサートは開催まで2カ月近くありますが(※取材は11月下旬に実施)、リハーサルはどのくらい進んでいますか?
この間、弦楽隊5人と指揮者の小編成で軽くリハーサルをしたのですが、なんだか懐かしい気持ちになりました。私は音楽系の高校に入ったのですが、ある授業でコントラバスの演奏者としてオーケストラに参加したんです。それがすごく楽しくて、指揮者に合わせて弾く感覚をひさしぶりに思い出しました。
──このコンサートでは、高校生の頃に制作した管弦楽曲のフレーズも使用するそうですね。
当時作った譜面と、音源を録音したカセットテープが残っていたので聴き直したんです。本当はまるごと1曲やってみることも考えたんですが、技術的にまだ拙い時期の作品なので「これは難しいな」と思っちゃって。代わりにちょっとフレーズを引用して演奏する予定です。
──ステージングがどのようになるかも気になるところですが、「こういうことをやってみたい」というアイデアはありますか?
ショーはいつもやっている「独演会」と同様に1部と2部に分ける予定でして。まず冒頭で挨拶をしまして、1部はオーケストラのみで楽曲を披露し、2部から私もプレイヤーとして参加するつもりです。ソロと比べるとあまり動けなくなりそうですが、即興の部分で何かできたらいいですね。オーケストラの人たちが真面目に演奏している途中に、ピアノソロの時間を作って暴れ回ったり(笑)。
あの曲もやるかも? 貴重曲満載のメドレー
──今回の取材に合わせて、スタッフの方から当日のセットリストもいただきました。
「H ZETT M × 神奈川フィルハーモニー管弦楽団『新しいチカラ』」セットリスト
第1部 H ZETT M 名曲アラカルト ~オーケストラVer.~
- 新しいチカラ(混合Mix Ver.)
- ショーがはじまる
- いくつかのワルツ
- Recollection
- 近代
第2部 ~H ZETT M × 神奈川フィル コラボステージ~
- Fantasia(Solo)
- AKATSUKI(弦楽 Ver.)
- Ballade
- 青の図鑑(新曲)
- ARIGATO
──途中「Recollection」というタイトルのメドレーがありますが、ここではどんな曲を演奏するんでしょうか?
香取慎吾さんに提供した「こんがらがって」といった最近の曲に加えて、懐かしい曲も入れようと考えていて。それこそ「群青日和」とか……。
──おお。でもH ZETT Mさんの曲ではないですよね……?
私とそっくりな人が作った曲ですね(笑)。そのあたりも一瞬だけ混ぜて、珍しい感じでお送りしようと思ってます。
──メドレー以外にも、単独曲としてPE'Zの「AKATSUKI」もレパートリーに含まれていますね。
「AKATSUKI」は2002年に発表された曲なので、懐かしいですね。メロディを弦楽器の方に演奏してもらったりもする予定なので、また違った雰囲気になるんじゃないかと。ソロでもカバーしてますし弦楽器映えしそうな曲なので。要望も多かったですし。馴染みのあるメロディを聴いて、喜んでもらえたらいいですね。
──アルバム「記憶の至福の中に漂う音楽」の発表から2年以上経過しますが、オーケストラ編成のコンサートを経て、新たなソロアルバムをリリースする予定はありますか?
まだ制作の予定はないんですが、突然作り始めるかもしれません(笑)。「独演会」実施のタイミングで新曲を作っているので、ある程度ストックが貯まってきたら、流れでレコーディングする可能性もあります。あとはサウンドトラック周りの仕事は増やしてみたいと思っています。それこそオーケストラ編成での作曲も挑戦してみたいので、映画音楽などもオファーがあればぜひ作ってみたいです。もう「なんでもこい!」って感じですね。
プロフィール
H ZETT M(エイチゼットエム)
青鼻が特徴のピアニスト・音楽家。2007年にアルバム「5+2=11」(ゴッタニ)でソロデビューを果たし、以降「未来の音楽」「魔法使いのおんがく」といったピアノソロアルバムを発表。2013年にはドラムにH ZETT KOU、ウッドベースにH ZETT NIREを迎えたH ZETTRIO名義での活動も開始した。2021年9月には6枚目のオリジナルアルバム「記憶の至福の中に漂う音楽」をリリース。2024年1月には自身初となるオーケストラ編成でのコンサート「H ZETT M × 神奈川フィルハーモニー管弦楽団『新しいチカラ』」の開催を控えている。
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