2024年も止まりません! オーケストラ公演直前のH ZETT M、ギネス達成直後のH ZETTRIO

全国でライブを行いつつ、配信シングルの毎月リリース、テレビ番組「SPEED MUSIC ソクドノオンガク」での名曲カバーなど、怒涛の活動を展開しているH ZETTRIO。そんな中バンマスであるH ZETT M(Piano)はソロ名義での活動も並行して行い、楽曲制作だけでなくショートフィルムへの出演も果たした。そこで音楽ナタリーはH ZETT Mソロ、H ZETTRIOのインタビューを前後編に分けて公開。前編ではH ZETT Mにソロ活動を振り返ってもらいつつ、2024年1月に開催される初のオーケストラ編成のコンサート「新しいチカラ」について語ってもらった。後編ではH ZETTRIOの3人に、配信シングルの毎月連続60作リリース達成とギネス世界記録認定を中心に話を聞いた。

取材・文 / 高橋拓也撮影 / 伊東祐太

[前編]H ZETT M インタビュー

日常の生活音を変換して生まれる音楽

──昨年のH ZETTRIOのインタビューでは、新型コロナウイルス感染拡大後の活動を振り返りました(参照:こんなに活動してました!年表&インタビューでわかるコロナ禍のH ZETTRIO)。リリース、ライブともにものすごい数でしたが、H ZETT Mさん単独での活動も活発でしたね。

バンドとソロ、どちらも並行していたのでとにかく用意が大変でしたし、時間が足りなかったです。「もっと家で考える時間がほしい!」みたいな状態になっていました(笑)。

──東京都以外でのライブ数もすごかったですからね。ライブ以外にも、2021年にはソロアルバム「記憶の至福の中に漂う音楽」を発表したほか、アニメ「幼女社長」の音楽制作、ショートフィルム「silence in TOKYO」への出演もありました。

そうだ、ショートフィルムにも出演していたんだ。いろいろやってますね。

H ZETT M

──H ZETTRIOとしての作品はポップさをメインにしつつ、そこにアバンギャルドで即興的な要素も入れてメリハリを付けていたとのことでしたが、ソロ名義のアルバム「記憶の至福の中に漂う音楽」は現代音楽の要素を強く押し出していた印象を受けました。ご自身の中では作風を切り替えようと、意識されているんでしょうか?

H ZETTRIOはピアノ、ベース、ドラムの3人体制なので、自然とジャズのオーソドックスなスタイルになりますね。そこからいかにオーソドックスじゃないものを取り入れて遊ぶかを考えています。私はまずクラシックピアノを習い始めて、そこからいろんなジャンルに興味を広げていったんですが、クラシックから現代音楽に触れた際は非常に近いものを感じて。だからソロアルバムでは自然と現代音楽の要素が入ってきたのかもしれないです。ピアノ1本で“なんでもあり”を目指している、という感じですかね。

──「記憶の至福の中に漂う音楽」はスタジオではなく、長野の八ヶ岳高原音楽堂でレコーディングされたことも特徴です。

これまでソロアルバムはスタジオで制作してきたので、コンサートホールで収録したのは今回が初めてでした。八ヶ岳高原音楽堂は山に囲まれていて、木造の建築だから軋みが聞こえてきたり、自然ならではの音がすごかったですね。そこは楽しくもあり、難しい部分でもありました。音の広がり方もスタジオとは全然違うし、自然の音とピアノの音が両方鳴り響くので、不思議な空間でした。

──レコーディング会場の変化以外に、コロナ禍を経てH ZETT Mさんの作風や活動のスタイルに影響を及ぼしたことはありますか?

曲作り自体は特に変わらなかったですが、無意識に作用していた部分はあったかもしれません。それこそ普段の生活の中には音楽だけでなく、生活音や自然音、誰かのおしゃべりなど、いろんな音がありますよね。それらを自分の中で音楽に変換しているので、世の中の状況は少なからず影響していると思います。

──作品を比較してみても、アニメ「幼女社長」のサウンドトラックはシンセをメインに使用しており、「記憶の至福の中に漂う音楽」とは真逆の作風に感じられました。

「幼女社長」のサントラはアニメスタッフからは「このシーンでこんなイメージの曲を使いたい」という簡単な説明があった程度でしたね。基本的にはわりと自由に作れました。

H ZETT M

まさかの総尺20分、H ZETT M史上最長の曲

──翌2022年にはショートフィルム「silence in TOKYO」に楽曲を提供するだけでなく、映画本編にも出演されました。この作品のために20分にわたる長尺の楽曲「Silence in Tokyo」を制作したりと、異色の活動でしたね。

この映画はミュージックビデオを数多く制作されているモリカツヒコさんが監督を務めているんですけれど、私とそっくりな人が所属している、PE'ZのMVにもスタッフとして参加していたそうで(笑)。

──そっくりだったからオファーがあった(笑)。

モリさんは2020年に新型コロナが流行して緊急事態宣言が発令された直後、都内のさまざまな場所を撮影していたんですね。それを編集して音楽も付けたいということで、私のところに話が来て。「クラシック曲のフレーズを使ってほしい」というオーダーに加えて、「最初から最後までずっと音楽が流れているような作品にしたい」という希望もあったんです。そうしたら合計で20分以上もあるのでびっくりしました(笑)。

──そのため長尺の楽曲になったんですね。撮影時から3年経ち、改めてこのショートフィルムを観直してみたのですが、誰もいなくなった東京の景色は寂しさだけではなく、街自体がひと休みしているような安心感もあり、さまざまな感情が生まれてきました。H ZETT Mさんはあの映像を観て、どのような思いで楽曲を制作したんでしょうか?

クラシックのフレーズをどう組み込むかはかなり考えましたが、楽曲全体のイメージは湧きやすかったですね。人がいない街中をゆっくり歩いていく映像なので、音数を少なくしてみて。そこからドヴォルザークの「遠き山に日は落ちて」を引用し、どうやってフレーズを展開していくか、踏ん張ってアイデアを練りました。こういう、ミニマムでカロリー消費が少なめな曲もいいですね。

H ZETT M

──制作背景を追ったドキュメンタリー映像も視聴したのですが、H ZETT Mさんの演奏シーンは11月に屋外で撮影され、なかなかに大変そうでした。

あの日はすごく寒かったです。しかもビルの屋上で夜中の撮影だったので、指が全然動かなくなっちゃったり。

──演奏しているときの様子は喜怒哀楽を極端に出すのではなく、すごく集中しているようでいてどこか悲しそうにも見える、複雑な表情をされていましたよね。監督から何か演技の指示はありましたか?

私は自分から喜怒哀楽を表現するのはあんまり得意じゃないし、寒かったからもう必死で(笑)。基本的には監督にお任せしつつ、とにかくがんばって演奏した、という感じでした。

新しい学校のリーダーズ、シュッとして大人になってました

──ほかにはH ZETT Mさんが長年楽曲プロデュースを手がけてきた、新しい学校のリーダーズが海外でも注目されるようになったことも大きな出来事だったかと思います。2017年発表の楽曲「毒花」から制作に携わってきたので、もう6年近い交流で。

そんなに経つんですね。彼女たちの活躍ぶり、我が子のように喜んでいます。この前、東京体育館で行われたワンマン(「HAMIDASHITEIKU」)にもゲストでお邪魔したんですけど、非常にお客さんが多くて圧倒されました。だいぶ前に彼女たちのパフォーマンスを観に代官山のライブハウスに行ったのですが、パフォーマンスが終わったあとに顔を真っ赤にして「おつかれさまでした!」って挨拶してくれたのを覚えています。ひさしぶりに会ったらみんなシュッとしてて、「一緒に写真撮りましょうか?」とか声をかけてくれて。大人になってました(笑)。

──H ZETTRIOの日比谷野音ワンマンにもゲスト出演されたり、ライブでの共演もありましたし。

そうそう。渋谷のWWWでも一緒にやりました。4人のパフォーマンスもそうですけど、演出の規模感もガラッと変わりましたね。豪華で、私も観ていて楽しかったです。

H ZETT M

──そもそもの話になってしまうのですが、H ZETT Mさんがリーダーズの楽曲制作に携わるきっかけはなんだったんでしょう?

最初はテレビドラマの主題歌で、ある昭和歌謡をカバーする予定だったんですけど、事情があってNGになってしまったんですね。それで当時のスタッフから「昭和歌謡風のオリジナル曲を作ってほしい」と相談を受けて、完成したのが「毒花」になります。今リーダーズは88risingに所属していますけど、「Pineapple Kryptonite」という曲でマニー・マークがプロデューサーで参加したと聞いて、もうびっくりしちゃって。

──Beastie Boysのライブのサポートメンバーとしても知られるキーボーディストですね。マニー・マーク、お好きなんですか?

マニーのライブでのぶっ飛び具合が本当に大好きで。キーボードに平気でダイブしたり、もうめちゃくちゃで最高なんです。彼のステージングはすごく影響を受けましたね。

2024年1月9日更新