KREVAインタビュー
「ヒプマイ」の世界を絶対に壊しちゃいけない
──まずKREVAさんが「ヒプノシスマイク」を知ったきっかけを教えていただけますか?
おそらくRHYMESTER主催のフェス「人間交差点」にKICK THE CAN CREWで出たときに、ROMANCREWのALI-KICKから「クレさん、『ヒプノシスマイク』ってプロジェクト知ってますか?」って話を聞いたのが最初の接点だと思います。「ライブはめちゃくちゃ盛り上がってるし、トラップでもオーソドックスなビートでもみんな楽しんでて、すごく理想的でした」って熱っぽく伝えられて、「知ってはいたけど、そんなすごいことになってるんだね」って話したのを覚えてます。2018年ですね。
──ALI-KICKさんは、最初期から「ヒプマイ」に携わっていて、直近で言えばシブヤ・ディビジョン“Fling Posse”とヨコハマ・ディビジョン“MAD TRIGGER CREW”のバトル曲「Reason to FIGHT」の作詞を手がけられていますね。
「ヒプマイ」とのファーストコンタクトはそのタイミングで、「しっかり体に入れた」のは今回のお話をいただいてから。リサーチした結果、コミックから入ると全体像や流れがつかみやすいっていう声が多かったので、自分もコミックを入り口にして、そこから楽曲やドラマトラックを聴いて、さらに「ヒプマイ」への理解を高めていきました。そして物語の全体像をつかんでから、シブヤの3人のバックグラウンドを深堀りしていって……という感じです。そうやって「ヒプマイ」を知る中で、ファンやリスナーの人たちがすごく熱気を持って「ヒプマイ」に接して、本当にこのカルチャーを大事にしていることがわかったので、自分が手がけるからには、その「思い」みたいなものを一番大事にしないといけないなと思いました。「俺を出す」というよりは、スタッフさんも含めて、「ヒプマイ」を愛している人、関わっている人たちの作り上げてきた世界は絶対に壊しちゃいけないと思ったし、そういうことを一番に心がけたつもりではあります。
優勝を納得させる「ラップの曲」
──ではシブヤ・ディビジョンに対するKREVAさんの印象は?
ほかのディビジョンよりも儚い印象がありましたね。そもそもの成り立ち自体が、ある意味では寄せ集め感というか、3人で組む必然性みたいなものが、ほかのディビジョンよりも希薄だなと感じました。ときにそれが理由になって傷ついたり、やられてきた部分があると思うんだけど、だからこそ「その傷によって一緒になれる」みたいな世界を作りたかったんですよね。そして、そこに説得力を持たせるためには「歌」ではなくて、「ラップ」を中心軸に据えることを意識しました。
──そう思われた理由は?
やはり優勝曲っていう部分は大きいですね。俺はシブヤを中心にして「ヒプマイ」の世界を理解して、シブヤのキャラに愛着が湧くようになったけど、同じようにほかのディビジョンの応援をしている人もたくさんいて。今回は6ディビジョンが戦った先にある、シブヤの優勝を記念する曲を作るわけだから、「このラップなら勝つのも納得だな」と思ってもらえるような「ラップの曲」を作らないとダメだなと思いました。
──ほかのディビジョンにも愛情を持っている人も多いからこそ、リスペクトを獲得できるような、強度のある曲が必要だったと。
そうですね。だからこそリリックの内容としても、シブヤのキャラクター性に単純に寄せたものじゃなくて、もう一歩踏み込んだ内容にしなくてはと思いました。
「キャラクター」とは意識していなかった
──「キズアトがキズナとなる」は、本当にキャラクターへの理解が深い内容になっていますね。
これまでの作品の内容に加えて、レーベルからいただいた「ヒプマイ」やシブヤの資料をしっかり頭に叩き込みました。そのうえで、それをそのまま歌詞にするんじゃなくて、それぞれどういう部分をストロングポイントにしたらいいかを精査して、作品を作り上げていった感じですね。
──KREVAさんはこれまで宮野真守さんや鈴木雅之さん、布袋寅泰さんなどにもトラックとリリックを提供してこられましたが、キャラクターに作品を提供されるのは初めてですね。
そうか。今「キャラクター」って言われて、「ああ、そういえばキャラクターに歌詞を書いたんだ」って思った感じでしたね。本当に乱数、幻太郎、帝統という存在に対して書いたつもりでいたから。
──ことさらに二次元的な意味での「キャラクター」は意識していなかったと。
「キャラクター」って言われて、一瞬「性格」っていう意味で言ってるのかなって思ったぐらいです。それぐらい「この人だったらこうは言わないよな」っていうディテールだったりは、普段アーティストに作品を提供するのと変わらない気持ちで取り組みましたね。例えば乱数は「相手を倒す」っていうニュアンスのことを言うとしても、「なぎ倒してやる!」みたいには言わないと思うんです。それよりももっと軽やかな言葉だったり、別の言い回しをすると思うし、そういうニュアンスやディテールは絶対に間違っちゃいけないなって。今回のリリックもあえて渋谷のホテルに泊まって作りましたからね。自分の事務所もほぼ渋谷にあるのに(笑)。集中したかったっていうのもあるし、キャラクターと一体化して作るにはそれが必要かなって。結果できあがった歌詞は、実はまったく「ヒプマイ」側に手直しされてないんです。それはいかに俺が作品の世界に入り込んで、その存在を理解して取り組めたかということの証明になったと思いますね。
──強烈な楽曲の多い「ヒプマイ」の中で、「キズアトがキズナとなる」のトラックはミドルテンポの柔らかな雰囲気ですね。展開もループを基本にした、シンプルかつラップが映える構成が印象的でした。
トラックに関しては「夜の渋谷」より、「昼下がりの渋谷」をイメージしました。シブヤは乱数の存在感が強くてカラフルな印象があったんですけど、今回はその部分をそこまで押し出すよりも、中心軸であるラップがストレートに伝わるような温度感がふさわしいのかなって。「ヒプマイ」に提供するためにゼロから作ったトラックではあるんだけど、自分の曲はどこまでいっても自分の曲なんで、KREVAらしさがトラックに入ったと思います。
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KREVAの想像を超えてきたシブヤの3人