フィクションをヒップホップとして成立させる声優の力
葉山 僕はこの曲の冒頭で、寂雷先生とナゴヤの天国獄が繰り広げるかけ合いが特に好きで。2人の因縁を描いたドラマトラックの場面が浮かんできて感動しますね。
KEN THE 390 僕が前に書いたときよりもストーリーが進んでいる分、よりキャラクターに深みが出ているんですよね。寂雷先生と獄の因縁もそうだし、すごく書き応えがありました。「BATTLE BATTLE BATTLE」以降の作品も追っていたし、僕は舞台版「『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage」の音楽監督もやっていたから、作品に対する解釈をしっかり出せた気がします。
──少し話は逸れますが、舞台版にも関わっているKEN THE 390さんから見て「ヒプマイ」にはどういう面白さがあると思いますか?
KEN THE 390 ヒップホップって、誰が歌っているかがすごく重要で、同じ歌詞でも歌う人によって説得力が変わるのが面白い部分なんですよね。例えば「お母さんありがとう」って言葉でも、めちゃめちゃ不良の人が歌っているからよかったり。歌っている人の人生を知ったうえで聴くから胸を打たれる。それが実在しないフィクションだと本当は難しいと思うんです。でも、「ヒプマイ」は声優さんが気持ちを込めて演じることでリアリティを持って成立しているし、ヒップホップとしてちゃんと面白くなっているんですよね。フィクションでもみんながリアルだと信じることができればヒップホップになる。逆にこれは声優さんじゃないとできないことで、たとえば僕が医者を演じてラップしてもリアリティの部分が欠けちゃうんですよ。「ヒプマイ」の面白さはそういうところにあると思います。
──なるほど。今回の曲でラップのテクニカルな部分について気を付けて書いたところはありますか?
KEN THE 390 基本的にずっと倍でリズムを取っているから速いし、相当難しかったんじゃないかと思ったんですけど、さっきも言った通り、皆さんがうまいのを知ってるから、もう気にせずに書きました(笑)。あとは気持ちをしっかり乗せられるようにヴァースの最後はセリフっぽく締めていて。完成版を聴いたら驚くくらいエモーショナルになっていてビビりました。徐々にテンションが上がっていって、最後が一番熱くなるように作ったんですけど、最初の部分もただ弱いって感じじゃないんですよね。すごくバランスよく仕上がっていて、本職のラッパーでもこんなキレイにグラデーションを付けられないなと思いました。
葉山 うれしいです!
速水 でも本当に難しかったですよ……ディレクターに全然許してもらえなかった。
一同 (笑)。
速水 とにかくブレスポイントが難しかったな。
葉山 確かに。キャラクターが会話しているイメージでアクションを入れようとするとブレスポイントがズレちゃうことがあって。ブレスポイントに気を付けつつ、バトルなので生モノ感というか、実際に対面でやり合ってる感じが出るように意識しましたね。
普通のラップはここまで感情を100%出さない
──特に聴いてほしいポイントはありますか?
KEN THE 390 お気に入りのラインはたくさんあるんですけど、空却の「てっぺんは超えるためにありにけり」は特に好きですね。
葉山 あそこはライブ感がありますよね。僕のオススメは「そこの道を空けな ナゴヤのおでましだ」ですね。めちゃめちゃ気合いが入る。
KEN THE 390 寂雷先生については「スーパーマン」という言葉がお題としてあったんですけど、「スーパーマン」で韻を踏むのが難しくて。「途方もなく壁は厚く高いだろう難易度 しかしなってみせるどんなスーパーマンにも」という形で「マンにも」と「難易度」で踏んでみました。
葉山 この「スーパーマン」の部分、すごく引っかかりがありますよね。
速水 まさにディレクターもこの部分を一番こだわっていたんだよね。
KEN THE 390 その前の「私は全て救う 彼も救う 仲間たちと進む」の部分もすごくよかったです。
葉山 この一連の寂雷先生のヴァースから「救うなんておこがましい ただ補うだけ」という空却のヴァースに入るんですけど、アンサーとして自然に気持ちを込められましたね。
KEN THE 390 シンジュクに関しては「我ら麻天狼こそがディフェンディングチャンピオン」って言い切るところも好きで、そのあとナゴヤの獄が「さすがチャンプおもしれぇ」って認める感じも完成版を聴いていいなと思いました。
速水 「掛け替えない仲間とこそ出せる力感じよう」の部分もそうだけど、今回は(伊弉冉)一二三と(観音坂)独歩が完全に共闘というか一緒に出てくるんだよね。
葉山 一二三の「挑むなんて五年早い」に続く、独歩の「お前が言えごめんなさい」の声の震えた感じを聴いて美味しい音だな思いました(笑)。
──ナゴヤは空却と(四十物)十四のコンビネーションがいいですよね。
葉山 ディビジョン曲の「開眼」もそうですけど、今回リーダーの空却がバックアップの立場に回っているんですよね。2番手、3番手である獄と十四の秘めたる思いや抱える闇を押し出していて。俯瞰して自分の立場を見られるというか、落ち着いてバトルに臨めるんじゃないかと思います。
KEN THE 390 十四の背中を押している感じがありますよね。
葉山 「お前ならできるだろ!」って感じで。
──シンジュクの3人の関係性に変化はありますか?
速水 シンジュクは変わらない感じですね。寂雷は一二三と独歩からいつも大事にしてもらっているんですが、2人がいるから寂雷もそこにいられるという絆の強さをバトル曲やディビジョン曲から感じられると思います。
──このバトル曲は2月14日の配信ライブで初披露されるんですよね(取材はライブ直前に実施)。
速水 サビの「Light, Shadow Light, Shadow」の部分、手を上下に振るシャドーピッチングみたいな振り付けなんですよ。
葉山 ハハハ(笑)。
速水 この曲も歌詞がバーッと画面に表示されるんですかね?
葉山 収まりますかね(笑)。
速水 スマホで観る人は追い切れるかな。
KEN THE 390 いきなりこれを生で歌うのはすごいなと思いますけど、目の前に相手がいることで、より気持ちが乗って言葉にリアリティが出たらいいですね。普通のラップだとここまで感情を100%出すことってあんまりなくて、どちらかというと抑えることのほうが多いんですけど、この曲では感情を思いっきり出してもらうことで、観客の胸を打つような瞬間があるといいなと思います。
葉山 ライブが楽しみで仕方がないです! 気合いを入れるために髪も赤く染めてきたんですよ。衣装もそろえて、メイクもしていただいて、波羅夷空却として、麻天狼と対峙できると考えたらアドレナリンが出てくる。どうカマしてやろうかなって考えてます。
速水 バトルに向いてますよ、あなた。
葉山 フフフ(笑)。
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2021年3月24日更新