HYDE「HYDE [INSIDE]」インタビュー|激しさを極限まで追求し、“INSIDE”をあらわにしたニューアルバム (2/2)

「SOCIAL VIRUS」で表現した“怒り”

──「HYDE [INSIDE]」は全体像としては攻撃的なアルバムではありますが、オープニングナンバーの「INSIDE HEAD」は何かが始まる予感が漂う、ノスタルジックで少しホラー味のあるインストゥルメンタルです。

これまでもけっこうアルバムの1曲目はSE的なものを入れたりすることが多くて、今回もその流れを踏襲したんです。そもそも「LET IT OUT」を実質の1曲目にしたかったので、それにつながるインストを作ろうと考えて。ピアノのソロがいいなと思ったので、hicoに作曲をお願いしました。

──アルバム収録曲の選曲をするうえでのイメージなどはありましたか?

基本的にはライブで盛り上がる曲ですね。それで、選曲から漏れた曲は2、3曲くらいだったかな。

──ラインナップを確認する限り、9割ほどがすでにライブで育ててきた楽曲ですよね。

音源はできていたけど、リリースせずにライブでやっていた曲もあります。

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──なるほど。アルバム初出の音源だと、「INTERPLAY」のアルバムバージョンでしょうか。シンセをはじめとする音色が増えて、よりきらびやかで高揚感のあるサウンドに仕上がってます。

実はこのバージョン、もともとはリリースした直後くらいにリミックスバージョンを作りたくてNhatoさんにお願いしたんです。Depeche Modeみたいなアレンジだし、僕としてもすごく気に入って。ライブでもこのアレンジでやり始めたんです。アルバムに収録するにあたっては歌詞を全部英語にしてイングリッシュアルバムを作ろうと思ってたんですけど、2枚作るのが途中で面倒くさくなって(笑)。結局海外の人もオリジナルバージョン好きな人多いので、Nhatoさんが作ってくれた音源をアルバムに入れてしまおうということになりました。

──またアルバムの後半には「SOCIAL VIRUS」「LAST SONG」という新曲2曲が収録されています。

「SOCIAL VIRUS」はCRYSTAL LAKEのYDくんから1年半くらい前にデモをもらってたけど、忙しいタイミングだったからすぐには手をつけられなくて。今年に入ってからやっと着手できる状況になったときに、アルバムのリリースもあるし、この曲を入れたいと思ったんです。

──アルバムの中で最もヘビーなオープニングでありながらキャッチーさも兼ね備えた「SOCIAL VIRUS」は、HYDEさんが今一番表現したい音楽性が表れているのかなと感じました。全編英語の歌詞は、炎上事件や誹謗中傷などが絶えない現代社会への警鐘なのかなと読み解いたのですが、いかがでしょう?

僕が怒ることってあまりないんですけど、昔からムカついていることが曲のモチーフにはなってますね。具体的なことは伏せますけど。言葉にするのもはばかられるし、普段は無視しているけど、歌詞を書くときには比喩として表現することで消化してます。具体的になんのことを歌ってるのか、今言うと面倒くさいことになるから。ネットニュースで「HYDEがあんなこと言っていた」とか書かれちゃうし(笑)。僕はネットニュースで自分の写真が出てきた瞬間飛ばすんです。どうせろくなこと書いてないんだろうなと思って。

──「SOCIAL VIRUS」の歌詞を拝見したときに、そういった事象に対するアンチテーゼも含まれているのかなと想像したのですが、詳細は一旦秘密ということで。「SOCIAL VIRUS」のレコーディング現場にはYDさんも立ち会われたんですか?

彼はワールドツアー中だったので遠隔での確認作業でした。「これってどうかな?」って意見を求めたらちゃんと返してくれるし。すごくやりやすかったです。

──猛獣のようなグロウルがつんざくオープニングもデモの段階からあったんですか?

デモではあのイントロパートは違うブロックにあったんですけど、昔のメタルっぽい、いかにもな感じで始まる曲が欲しかったので、Judas Priestの「The Hellion」みたいな感じにしたいという思いから構成をいじって、メタル色を強めにしました。

──サビには「Zwei, Eins, Null」というドイツ語によるカウントが入ってますが、なぜ英語ではなくドイツ語を?

本当は「Three, Two, One」にしたかったんだけど、サウンド的に合わなかったんですよ。「Two, One, Zero」も考えたんだけど、歌ってていまいちしっくりこなくて。それでいろいろ試してみたところ、ドイツ語が合った。

──ドイツ語という発想が生まれたのは、オーストリア観光大使をやってらっしゃるからという背景も?

そうですね。最近ドイツ語を耳にする機会が増えているんでね(笑)。

──あとメタルといえばドイツ語圏がメジャーですし、不思議と違和感はそれほどありませんでした。

ジャーマンメタルね。その影響もありますよ。

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hicoとレフティがいなかったら完成してない

──アルバムのラストを飾るのが、ラウド系の楽曲群の中で異彩を放つバラード「LAST SONG」です。メッセージ性の強い「SOCIAL VIRUS」でズバッと締めることでインパクトを残すという手法もあると思いますが、あえて喪失を歌ったバラードを最後に据えた理由は?

そもそも、このアルバムの中にバラードが入ってたらいいなとは考えていたんです。例えばLinkin Parkのアルバムにもユルい感じの曲があったり、Bring Me the Horizonもかわいい曲があったりするんで。一番は僕がやりたいライブを想像したとき、「LAST SONG」のようなバラードを最後に歌えたらいいなと思ってて。それで仮タイトルで「LAST SONG」って付けてたんですけど、結局そのまま正式タイトルになりました。ただ、以前からこの曲に対する理想のイメージはあったものの、なかなか完成させることができなくて。

──制作期間はどれくらいかかったんですか?

3、4年くらいだったと思う。何人かと一緒にとりかかっていたんだけど、ずっと自分のイメージする形にはならなかったんです。で、最後にレフティ(宮田“レフティ”リョウ)と一緒にやってみるかとなって。レフティは、後輩のASH DA HEROの制作もやってるから以前から面識はあったんです。その流れで「いつか一緒にやりましょう」みたいな話はあったので、一緒にスタジオに入って作業を始めたらいい感じで。そこでほぼほぼOKになりましたね。レコーディング自体も比較的スムーズで、仕上げはhicoが担当してくれたんですけど、hicoとレフティがいなかったら「LAST SONG」は完成しなかったですね。

──これこそコライトならではの功績ですよね。穏やかなサウンドではありますが、歌詞につづられている感情は、ほかの楽曲同様にどこか激しさをはらんでいます。ちなみに「LAST SONG」というタイトルとその曲調ゆえに、HYDEさんが今のアグレッシブな“動”のモードにひと区切りをつけられるんじゃないかと想像してしまったのですが……。

それはまったくないですね! むしろこのあと、もっと激しいサウンドのミニアルバムを出したいなって思ってるくらい(笑)。

──そうですか(笑)。5年間にリリースした楽曲をまとめるとなると、曲順を考えるのは至難の業だったと思いますが、実際のところは?

自分としてはちょっと悩んだかな。トータル1週間くらいかかりました。何日か考えてから1日寝かせて、冷静な視点で全体を聴き直して固めました。「LAST SONG」はタイトルとサウンド的に最後に持っていきたかったので、それが決まった時点で真逆のタイプの「SOCIAL VIRUS」を直前に置く形にして。「LET IT OUT」も冒頭に持ってくることも決めていたので、その間を組み立てていった感じです。

次作は「JEKYLL」or「HYDE [INSIDE] II」?

──タイトルはご自身の名前に、内面や内幕を意味する「INSIDE」を組み合わせたものですね。HYDEさんがセルフタイトル作を発表するのは2009年リリースのベストアルバム「HYDE」以来となります。

本当はシンプルに「HYDE」にしたかったんですけどベスト盤にすでに付けちゃってたんで、仕方なくサブタイトルを考えました(笑)。いくつかパターンがあったけど、「INSIDE」が一番スムーズに読めました。「内なるHYDE」という意味合いも出るし、ちょっと韻も踏んでるし。いつか「JEKYLL」という今回のアルバムとは対極の作品を出したいので、それとセットにすることを考えているんです。

──「INSIDE」というサブタイトルが付いていながら、ジャケットにはタトゥーが刻まれた上半身をあらわにしたHYDEさんの写真が使用されているのも意味深です。

もともと、「ANTI」以降にリリースしたシングルのジャケットは全部タトゥーが体のどこかに入っているデザインにしていたんです。それで、最後は僕のタトゥーで締めるという流れを5年前に考えて作ってきたんですけど、いざできあがって冷静に見たら恥ずかしいし、なんで裸なんだろう?となっちゃって。恥ずかしさのあまり目を隠しました(笑)。最初はジャスティン・ビーバーみたいなジャケットをイメージしてたんですけどね。

HYDEが2020年3月以降にリリースした作品ジャケット。

HYDEが2020年3月以降にリリースした作品ジャケット。

──そうおっしゃいますが、目を隠したビジュアルと「INSIDE」というサブタイトルのアンビバレンスが、HYDEさんの二面性を浮き彫りにしているようにも感じました。アルバムリリース後には神戸と幕張でのアリーナライブ、ワールドツアーを控えていますが、そのあとの具体的なビジョンはあるんでしょうか?

「HYDE [INSIDE]」と対になる「JEKYLL」というアルバムを出す構想はあります。「JEKYLL」はアコースティックサウンドを用いた、僕の活動の中の“静”を表現した作品にするつもりで、それを来年以降、曲ができればリリースしたいですね。でも、その前にまた激しい“動”の作品を出すかもしれない。

──「HYDE [INSIDE] II」とか?

そうそう。今の僕は、人のことを気にせず、自分の好きな音楽を作っていくモードなんですよね。と、言いながらワールドツアーで、再びアメリカやアジアに行きますけど。もともと2020年に海外ツアーをやるつもりだったので、ニューアルバムを引っさげて5年ぶりに回れるので楽しみです。

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公演情報

HYDE [INSIDE] LIVE 2024 -EXTRA-

  • 2024年10月12日(土)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2024年10月13日(日)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2024年10月26日(土)千葉県 幕張メッセ国際展示場9~11ホール
  • 2024年10月27日(日)千葉県 幕張メッセ国際展示場9~11ホール

HYDE [INSIDE] LIVE 2024 WORLD TOUR

  • 2024年10月4日(金)中国 広東省(※「2024 Dongguan Strawberry Music Festival」への出演)
  • 2024年10月6日(日)韓国 釜山(※「2024 BUSAN INTERNATIONAL ROCK FESTIVAL」への出演)
  • 2024年11月5日(火)台湾 台北 Zepp New Taipei
  • 2024年11月7日(木)香港 MacPherson Stadium
  • 2024年11月24日(日)韓国 ソウルYES24 LIVE HALL
  • 2024年11月27日(水)アメリカ ニューヨーク Brooklyn Steel
  • 2024年11月30日(土)アメリカ ロサンゼルス THE NOVO

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プロフィール

HYDE(ハイド)

L'Arc-en-Ciel、VAMPS、THE LAST ROCKSTARSのボーカリスト。2001年にソロ活動をスタートさせ、日本のみならずワールドワイドに活動している。ツアーの一環でアメリカ・Madison Square Gardenや東京・国立競技場などで単独ライブを行い成功を収めている。2022年6月より対バン形式のライブハウスツアー「HYDE LIVE 2022 RUMBLE FISH」を開催。ソロ活動20周年の2021年に開催した「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」「20th Orchestra Concert 2021 HYDE HEIANJINGU」の模様を収めた映像作品を、2022年7月にリリースした。2022年11月、YOSHIKI、SUGIZO、MIYAVIとTHE LAST ROCKSTARSを結成。同年12月、1stシングル「THE LAST ROCKSTARS(PARIS MIX)」を世界同時配信リリース後、2023年1月よりデビューツアーを日米で敢行する。2024年秋に約5年ぶりとなるアルバム「HYDE [INSIDE]」をリリース。同年10月に兵庫・ワールド記念ホール、千葉・幕張メッセ公演を行い、同月よりワールドツアーを行う。