「今、抱えている思いを叫べ」。これがHYDEの最新曲「LET IT OUT」に込められたメッセージだ。
HYDEがこのたびリリースしたシングル「LET IT OUT」の表題曲は、コロナ禍における状況下で生まれた激しく、アグレッシブなナンバーとなっている。9月に感染対策を徹底しながら計5日間にわたるライブ「HYDE LIVE 2020 Jekyll & Hyde」を開催するなど、手探りながらもエンタテイナーとして新たな挑戦を続けるHYDE。長年のキャリアを誇る彼が今、何を思い、どんな未来を思い描いているのかをじっくり聞いた。
取材・文 / 中野明子 撮影 / 岩澤高雄
僕の武器はカメラ目線
──6月にお話をお伺いしたときは「まだ配信ライブをやる自分の姿を想像できない」とおっしゃっていましたが(参照:HYDE「HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL」インタビュー)、7月下旬には無観客ライブ企画「LIVE EX」に出演されて(参照:HYDE×BLUE ENCOUNTの無観客ライブ生配信、HYDEの1曲を「MステSP」で生中継)、さらに9月には計5日間にわたる配信を含む有観客ライブを開催されました(参照:HYDEがアコースティック&ロックの二面性で魅せた、羽田5DAYSライブ)。HYDEさんが配信ライブをやってみようと思ったきっかけはなんだったんでしょうか?
前回取材を受けたときは全然やる気はなかったんですけど、「ミュージックステーション」サイドから配信ライブへの出演とテレビで1曲オンエアする形を提案されて。その当時はまだ配信ライブに興味はなかったんだけど、プロモーションとして受けるのはいいかなと思ったんです。いざ当日になったら、会場にお客さんはいないけど、フロアに実際に配信を見ているファンの姿が映るLEDスクリーンが置かれていて。そんな演出があるなんて聞いてなかったからうれしかったし、「これはかなり面白いことになるかも」と。実際にやってみたら興奮したんです。会場にお客さんはいないわけだからカメラだけに集中してパフォーマンスをすることができるし、そのスタイルって今までのライブではできなかったことで、同時に僕だからこそできる表現だなと。普通のバンドマンってあんまりカメラ目線とかやらないでしょ?
──あまり見ないですね。
まっすぐ前を向いてパフォーマンスをすることが多いし、配信ライブでもあまりカメラ目線を送ることはないと思うんです。でも、僕はもともとカメラ目線が大好きで。
──それは初耳です。
ふふ、大好きなんですよ(笑)。僕の武器ですね。例えば大きなフェスとかでステージの両脇にサービススクリーンがあるでしょ? あのスクリーンにいきなり視線を向けられたら、遠くのお客さんも盛り上がるじゃないですか。でもほとんどのアーティストがその手を使わない。まあそれでも、フェスにしても大規模なライブにしても、目の前にお客さんがいるから視線が分散しちゃうんだけどね。それが、配信ライブだと思いっきり自分の武器を使える!と思って。それが面白かった。
──「HYDE LIVE 2020 Jekyll & Hyde」の開催はいつ決まったんですか?
「LIVE EX」が終わってからかな。もともと9月にライブができるようスケジュールは組んでたんですけど、このコロナ禍でどうしようか悩んでたんです。「LIVE EX」は試し試しな感じだったけど、やってみたら配信ライブの可能性と面白さを実感したし、これはこれで楽しいかもしれないと思えた。
──有観客形式にした理由は?
最初は配信ライブだけをやりましょうという話で、2日間だけ開催する話だったんです。でも会場は籠城予定で1週間くらい押さえてたから、もっとやるにはどうしたらいいかな?と思って。毎日同じライブをしても配信を観てくれるファンはひっぱれないだろうし、だったらテーマを分けようと思って。「Acoustic Day」は自由にしゃべったりしながらアットホームなライブをして、「Rock Day」は普段のツアーのような激しいライブをやろうということになったんです。それなら5日間はなんとかなるかな、と。そして夏の時点で何組か有観客ライブを会場のキャパシティを50%にしてしっかり対策もして開催して、成功してるアーティストがいたから、考えた末にお客さんも入れようと。やってみたらとても意味のあるライブになりました。
──「HYDE LIVE 2020 Jekyll & Hyde」の開催前にはSNSでスタッフ全員がPCR検査で陰性であることを報告されていましたね。
とにかく全員がマスクをしたり、こまめに消毒をしたりと感染しないように徹底して。メンバーはマスクをしたら歌えなくなっちゃうんで、会場ではお客さんと距離を空けてね。そういった対策をすれば、僕は絶対ライブは成功すると思ったんです。僕のファンは、僕のことを思ってくれる人が多いから、帰宅するときにもどこかに寄らずにまっすぐに家に帰ってくれたみたい。
“加工”を使わない手はない
──「Acoustic Day」の初日と「Rock Day」を両日拝見したのですが、特に血糊を浴びながらフロアで絶唱されている姿で終わった最終日は圧巻でした。HYDEさんがおっしゃっているカメラ目線でのパフォーマンスだけでなく、フロアを存分に使った演出など配信ライブとしての醍醐味も味わえましたし、画面を通してすさまじい気迫を感じました。振り返ってみていかがですか?
やっぱり僕は企画や演出を考えるのが好きなんだなと。せっかく配信ライブなんだからいきなりアップから始まるとか……“加工”できるんだったらそれを使わない手はないから。新しいアイデアがどんどん出てくるね。
──表現者として新しい発見をした機会だったと。
そうそう。ファンの子はステージに出てきて去るところまで全部観たいという子もいるんですけど、そんなの通常のライブでいつも観てるし、芸術として考えても美しかったと思います。
──では今後も配信ライブを開催される可能性はある?
うーん、「Rock Day」のようなライブは無理かな。終わったあとの脱力感たるや……もうしばらくやりたくない(笑)。ただ配信ライブは今後も広まっていくでしょうね。「HYDE LIVE 2020 Jekyll & Hyde」を観たほかの事務所のスタッフから「あのライブはどうやってやったのか」と問い合わせがあったみたいで。僕の場合は音楽以外の形でもお金を稼げるけど、業界の中にはライブがなくなってしまったら商売ができない人もいる。だから、意図せず僕が有観客形式で配信ライブをやったことで光が見えたという意見もあったんです。それと今年の夏ぐらいまではコロナにかからないための対策ができてなくて、家にいることが推奨されていたけど、今はどうやったら経済を回しながら安全に過ごせるのかわかり始めている。ライブを安全に開催することが今後のエンタテインメント業界の課題なんじゃないかな。
──有観客と配信の両輪でライブが行われていくようになると。
そうですね。配信ライブはやってることはライブDVDと変わらなくても、画面に「LIVE」という表示が出てるだけで興奮するんですよね。しかし配信に特化した今回の演出やインパクトでは誰も僕を超えられないと思います、スケール感以外では(笑)。
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ファンと弾けたい気持ちを曲に