「Black Out Tuesday」参加の理由
──差別問題と言えば、HYDEさんも多くのミュージシャンと同様、6月2日に音楽業界を中心に広がったストライキ「Black Out Tuesday」にInstagramで反応されていました。これまでHYDEさんはあまり社会的なことに対してSNSでは発信されていませんでしたよね。
あれは表明するかどうか悩んだんです。ただ、これは受け流してしまってもいいのか?と考えてしまって。これまで社会的な運動や動きにSNSで反応しなかったのも、みんながやってるから自分もやるという、右に倣えのような状況が苦手だったから。でも、「Black Out Tuesday」に参加するのは決して悪い行為じゃないし、人種差別がこの世界からなくなるに越したことはないから。そこで片意地を張るのはよくないと思って、自分のスタンスを表明はしておこうと思って投稿しました。
──「Black Out Tuesday」に参加して感じたことはありましたか?
「Black Out Tuesday」の大元にある「Black Lives Matter」は黒人に対する差別反対だから別のことだけど、僕は僕でアメリカの映画や音楽シーンで黄色人種への差別も根強くあると思っていて。「Black Lives Matter」が広がっていったことをみて、自分の体験を踏まえながら僕は人種差別に反対であることを表明したいと思ったんです。
──そうでしたか。ただ昨今の世界の状況を鑑みると、差別のない社会を作っていくには時間がかかりそうですね。
そうですね。でも「Black Out Tuesday」は歴史的に1つのきっかけにはなったと思う。何をすればいいのかというのは僕もわからないけど、根底には教育の問題があると思うんですよね。生まれながらに肌の色の好き嫌いがあるわけじゃない。親や世間に教育されて嫌っていくんだと思う。肌の色で人のよし悪しも価値も変わらないし、それぞれのいい点を認めないといけない。
これは意味がある光なんだ
──さて、ライブへの渇望感が高まる中で「HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL」の映像作品がリリースされるわけですが、改めて映像を観る中で感じたことはありましたか?
バンドメンバーもお客さんも、なかなかいいカオスを生み出してるなと。自分としてもいいライブをしたと思います。この作品には、ソロに返り咲いてからの集大成を収録したかったんです。去年リリースした「ANTI」というアルバムはライブへの招待状でしかなくて、ライブで初めて作品が完結するものだと考えていたし。「HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL」をやり遂げて、「このライブが終わったら次に目を向ける」と決めて臨みました。
──映像を通しても当日のライブのすさまじい熱量が感じられましたし、圧倒されるものがありました。
よかったです。僕、「新世紀エヴァンゲリオン」の映像を観ると興奮するんです。この「HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL」も、それと同じように観ていて熱くなる、引き込まれるような映像になっていると思います。
──HYDEさんは「エヴァンゲリオン」のどんなシーンに興奮するんでしょうか?
やっぱり戦うシーンですね。エヴァに乗ったチルドレンが追い詰められている感じというか……なんとかして使徒に勝ってやろうという感じとか。僕のライブにおいて、そういうポイントがあるのかはわからないけど(笑)。
──「戦う姿に興奮する」という点では通じるものはあると思います。HYDEさんはステージ上で戦っている姿を見せている部分がありますし、その姿にファンは興奮しているわけですから。あと今年の1月に発表された「黑ミサ」の映像作品が静の部分のHYDEさんだとすると、「ANTI FINAL」は動の部分を表現した作品だと感じました。
まあ、これは親戚には観せられないよね(笑)。「黑ミサ」のほうは観せられるけど、こっちは観ないでって言うもん。これは僕じゃないから。
──僕じゃないとは?
イタコみたいなもので、悪魔が乗り移ってるような状態(笑)。アナーキーな感じだし。
──パフォーマンスだけでなく美術セットには破壊されたパトカーや壊れた建築物などがあって、全体的に退廃的で攻撃的なムードが漂ってますしね。
うん。
──1曲1曲がハイライトだとは思いますが、HYDEさんが印象に残っている曲はなんですか?
中盤の「MAD QUALIA」はいい起爆剤になって、ライブの後半戦に向けていいスタートになったと思います。これが引き金になって、ライブのクライマックスが盛り上がったから。お客さんのシンガロングもすごかったし、ファンの中で一番琴線に触れる曲なんじゃないかな。あとはラストの「ORDINARY WORLD」。もう二度とこんなにしっとりして終わることはないと思いますけどね。
──お客さんが一斉にスマホのライトを灯して、会場に壮観な景色が広がっていましたね。余韻も含めてとてもいい終わり方だと思いました。
うーん、僕が今やりたいライブの形は、あんな美しい終わり方じゃないんですけどね。本当はもっとクレイジーに終わりたかった。でも今回はいいかなと。
──自分の意思と反して、「ORDINARY WORLD」を最後に据えた理由は?
ツアーで最後に歌うことが多かったからね。ファイナルでもこの曲で終わっておくべきだろうという判断です。ただ歌う前からスマホのライトをお客さんが点けているのを見て、「これはただの光じゃない。意味がある光なんだな」と気付いて。
──それで最後のMCで「全部意味のある光なんだよ。この光は僕の大事な人の光なんです。よき理解者のね」という言葉が出たと(参照:HYDE、“理解者”たちと「ANTI」を完成させた壮絶ツアーファイナル)。
「ORDINARY WORLD」でスマホのライトを灯すのは、アメリカツアーを回っていたときに僕のファンでもない人たちもしてくれてすごくうれしかったんですよ。その景色を日本でも観られたときに、僕に対してのリスペクトを感じる光だと思ったし、この景色によってツアーが締まったと感じました。日本は災害続きだからタイトルの「普通の世界」も相まってツアー中も祈るように歌ってたけど、今は映像観てても感慨深いものがありますね。
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